映画ナタリー Power Push - 鈴木敏夫が語る「モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ」
ジブリを飛び立った「モンスト」脚本家に鈴木敏夫が愛の激励
「君の名は。」や「モンスト」に見る宮崎駿の影響
「君の名は。」も「シン・ゴジラ」も観ましたよ。自分の感覚だけじゃ駄目だから、いろんな人に感想を聞くんですけど、結果、両方とも「3.11」が根っこにあると思いました。もし「3.11」が東京を襲ったら……というのが「シン・ゴジラ」でしょ? 瓦礫の前で主人公の(矢口)蘭堂くんが祈るじゃないですか。彼に代表されるように、地獄絵図と化した日本をなんとかしようと若者たちが立ち上がる。でもね、「君の名は。」ではそうならない。これは面白かったですよね。
──と言いますと?
「君の名は。」には、「あの世」っていう言葉がセリフの中に何回出てきたんでしょうか。20回ぐらいは言ってると思いますよ。で、「此岸」という言葉が1回登場する。「この世はいいところじゃないけれど、あの世へ行けば幸せになれる」。それをやった映画でしょ。そうすると、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」は対極の映画なんだなって。そして、「君の名は。」にしても「モンスト」にしても、宮崎駿の影響が大きいなと思うんです。
──「君の名は。」ではどんなところに宮崎さんの影響を感じられたんですか?
宮崎駿の映画って、あの世へ行って、そこで体験したことをもとに現世へ戻ってくるんですよ。“あの世感”を描くのが宮崎駿はうまい。それを肥大させたのが「君の名は。」だと、僕は思いました。
日本のアニメーション界の転換期において、「モンスト」はうまくハマってる
──技術的な観点では「モンスト」や「君の名は。」をどのようにご覧になりましたか?
技術というわけではないけど、最近の作品は空の描き方が特徴的ですよね。青空に雲があって、その雲が必ず秋の雲。新海(誠)さんの影響を受けて、そういう描写が増えるでしょうね。それと、セル画とCGの部分をどうやってドッキングするかっていうのが、今のアニメーション界の大きな流れだと思うんです。「モンスト」ではそれが非常にうまくいっているなと思いました。日本のアニメーションって、ご承知のようにみんな手描きでやってきて、21世紀になる頃にCGが使えるようになり、作品の中に一部入れるなんてことをやってきて。そのうちCGの部分がちょっと増えてきた。今回の「モンスト」を観てると、一部完全CGで作ったのに、そのCGの質感を出してるところと、セル画風に見せるところと両方あるんですよね。どういうときに使い分けてるんだろう?なんて考えながら観ました。
──そこが興味深かったと。
手描きでやってきた人にとって、3D、CGってものすごい扱いにくいんです。手描きだと平面の絵だから、動きが自由自在。ところが3Dって、あまり自由な動きができないんですよ。それで日本の絵描きたちは、その3Dの限界をなんとかしたいと思い始めた。そうしてある時期から、3D作品に手描きのアニメーターたちが来て、原画のラフを描くようになった。それに合わせて3Dを作ってくれっていう無茶な注文をする。でもそれじゃなんのために3Dを使うかわからない。日本のいろんな作品がそうなってるでしょ。みんな手描きに戻そうとしてるんですよ。
──なるほど。
どうなっていくんだろう?っていうのが僕の楽しみなんですけどね。みんな困ってますよ、3D。どうなるんでしょうか。大きな転換期。それで言うと、この「モンスト」はちょうどいいところにハマってるなと。面白かったですね、そういう意味では。
時代は変わっても基本は変わらない
──もともとスマホアプリだったものが、アニメーションになってYouTubeで配信され、そこから劇場版になるってけっこう特殊な例だと思うのですが。プロデューサー目線でご覧になって感じるものはありますか?
これからどんどん増えるんでしょうね。テレビシリーズから映画になったり、OVAから映画になったり、これまでもいろいろあったけど、ついにネットまで来た。この先いったいどうなっていくんだろうと、見ているぶんには面白いですよね。だけど自分たちが作れと言われたら嫌です。大変だもん(笑)。ただ、いわゆる夕方6時から8時ぐらいに放送されるアニメーションは、制作費がうん十年変わらなくて、もう本当に大変なんです。ネットのほうが制作費があると聞きます。やっぱり使えるお金が多いのは、作る側としてはうれしい。それに、作品を出す場所があるというのはそれだけでいいことですよ。
──「モンスト」のようにSNSを介しての宣伝もどんどん増えていますが、鈴木さんも変化を感じていますか?
メディアは変わったかもしれないけど基本は変わってないと思うんです。宣伝というのは、「この作品はここが面白い」というのを短い言葉でポンと言えたら、それが最高なわけで。でもなかなか言えないわけでしょ。それをテレビでやるか、ラジオでやるか、新聞でやるか、雑誌でやるか、それともネットでやるか。川上(量生)さんから「ネットで発信っていうのは無駄だからやめたほうがいいですよ」と言われたことがあるんです。ほかのところで騒いでるやつをネットで取り上げればいいと。「なるほど」と思いましたけど、でもそれって手法の問題でしょ。だから強い煽り文句はあったほうがいいと思うんです。子供の頃に衝撃を受けていまだに覚えているのが、「座頭市」シリーズの1作で新聞広告にこんなことが書いてあったの。「市が、斬られた」って。これだけなんですけど観たいでしょ? 一言でぱっと引き付けられるような、そういう言葉を宣伝のときには心がけています。それをいろんなメディアで発信していく。だから変わらないと思いますね、基本は。
──最後に質問させてください。先日の「Nスペ」(2016年11月13日放送「NHKスペシャル『終わらない人 宮崎駿』」)で、宮崎さんが長編作品の企画書を鈴木さんに提出されるところまでオンエアされていましたが、ジブリで新しい企画が動いているんでしょうか? 「モンスト」や「君の名は。」をご覧になって鈴木さんも刺激を受けたりするのかなと。
感受性が鈍くなってきているんでしょうね。全然刺激受けないんですよ(笑)。「Nスペ」のこともねえ、夢を壊しちゃいけないですかね? 宮さん、しょっちゅうやるんですよあれ(笑)。引退以来初めてだってみんな思ったでしょう。これまでにもいっぱいあるんですよ。懲りない人ですよね、なんて(笑)。
- CONTENTS INDEX
- 特集トップ・作品紹介
- ジャングルポケット 斉藤慎二
- ヨーロッパ企画 上田誠&角田貴志
- スタジオジブリ 鈴木敏夫
- 超特急 リョウガ&ユーキ
- 大久保篤
小学4年生の焔レンは、3人のチームメイトとともにゲーム「モンスト」の開発に協力していた。ある日レンたちは研究所の地下で、現実世界にいるはずのないドラゴンを目撃する。弱っているドラゴンをもとの世界に戻すため、“ゲート”を目指し旅に出ることになった4人。その目的地は、かつてレンの父が失踪した場所でもあった。身勝手なレンはチームの輪を乱し仲間と衝突するが、徐々に自分が1人で生きているわけではないことに気付いていく。
スタッフ
監督:江崎慎平
脚本:岸本卓
ストーリー構成:イシイジロウ、加藤陽一
キャラクターデザイン原案:岩元辰郎
モンスターデザイン原案:近藤雅之
キャラクターデザイン・総作画監督:金子志津枝
美術監督:加藤浩、坂上裕文
色彩設計:大西峰代
チーフCGIディレクター:福島涼太
CG演出:川原智弘
音響監督:明田川仁
音楽:MONACA
撮影監督:野村竜矢
編集:長谷川舞
制作:ライデンフィルム、ウルトラスーパーピクチャーズ、XFLAG PICTURES
製作:XFLAG
配給:ワーナー・ブラザース映画
キャスト
焔レン:坂本真綾(小学生時代)/ 小林裕介(中学生時代)
水澤葵:Lynn
神倶土春馬:村中知
若葉皆実:木村珠莉
影月明:河西健吾
石橋健太郎:北大路欣也
オルタナティブドラゴン:福島潤
アーサー:水樹奈々
ゲノム:山寺宏一
エポカ:水瀬いのり
主題歌
ナオト・インティライミ「夢のありか」
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鈴木敏夫(スズキトシオ)
1948年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。週刊アサヒ芸能などを経て、1978年、アニメ雑誌・月刊アニメージュの創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、高畑勲らとともに1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作する。1989年からはスタジオジブリ専従となり、「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などをプロデュース。アニメ作品のほかに庵野秀明の監督作「式日」、樋口真嗣の監督作「巨神兵東京に現わる」といった実写作品も手がけている。2016年9月、プロデューサーを務めたスタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」が劇場公開された。
2016年12月15日更新