映画ナタリー Power Push - 「怒り」李相日×渡辺謙×吉田修一 / 李相日×妻夫木聡×綾野剛
役の人生を忠実に体現するために
僕たちが恋をして、それが画面の中で生きればいい(妻夫木)
──李監督の作品にご出演されるのは、妻夫木さんは3回目、綾野さんは初めてですよね。この作品に参加してみていかがでしたか? 完成報告会見では(参照:「怒り」妻夫木聡が綾野剛との親密ぶりアピール「剛との日々は僕の中では真実」)、皆さんが「李組は厳しいという噂を聞いていた」とお話されていましたが。
妻夫木聡 甲子園みたいになってきた(笑)。実は今回「厳しい」はNGワードにしようとしていたんですけど……。
綾野剛 初出場の僕は、李組はすごくいい環境だなと思っていました。妻夫木さんが3回参戦しているというのもあって、安心して臨めたのは大きかったです。実は妻夫木さんのことは、歳の近い役者の中でもダントツに好きだったんです。だからご一緒できることに喜びを感じましたし、若い頃からずっと妻夫木さんの出演作を観ていたので、ちゃんと実在しているんだなってことに驚きました。
妻夫木 あははは(笑)。今回は役作りのために自分を追い込むということよりも、向き合うべき相手がいたので、まずは剛との関係性がしっかりしていないといけないなという思いがありました。僕たちがちゃんと恋をして、それが画面の中で生きればいいので、そういう意味ではいつもとモチベーションが違ったのかもしれないですね。それにスタッフ、キャスト全員が一緒の土俵に立って戦ってくれている印象があって、すごく心強かった。李組が厳しいという感じは、今回はそれほどありませんでしたね。
妻夫木聡、綾野剛は熱量が強い俳優(李)
──李監督から見た妻夫木さん、綾野さんはそれぞれどのような俳優でしょうか? 本作に起用した経緯などがあれば聞かせていただけますか。
李相日 1つ言うだけで5個も10個も返ってくる頭の回転の速さがあって、こちらの提案に乗ってきっちり突き進んでくれる俳優ですね。優馬と直人の関係性が一番大切なこの物語を成立させるために、何をすべきかというのをそれぞれで考えてくれる。2人はそういう熱量が強いんですよ。あと千葉編と沖縄編に負けたくないっていう思いが強かったんじゃないかな?(笑)
──妻夫木さん、綾野さんはほかのエピソードに負けたくないと感じていました?
妻夫木 やっぱり最初が肝心だし、東京編でつまずいたらその後にも影響しちゃうじゃないですか。どの作品にも本気で挑みますけど、僕は李組が3回目っていうのもあるし、特にしっかりしなきゃなという思いがどこかにあったかもしれないですね。李さんが「東京編は妻夫木に任せる」って言ってくれたのもすごくうれしかったし。それも含めて、絶対いいものにするぞという思いはどこかにあったかもしれないです。
完成した作品を観たときは心が揺さぶられた(綾野)
──では、演じるにあたってプレッシャーはそれほど感じなかったんでしょうか。
妻夫木 なかったですね。撮影が始まるとプレッシャーを感じるといった次元の話ではなくなって、そういう感覚はどこかに消えてしまうんですよね。
李 僕が厳しいという噂があまりにも蔓延しているので、綾野くんと2人で食事に行ったときに「そんなことないからね!」って話をしましたね。僕は何をどうしてほしいかというシンプルで大事なことを共有したいだけだし、現場に入るのにそんなに構える必要はないよって。
綾野 李さんとは焼肉屋から始まったんですけど、お肉を全部焼いてくれるんですよ。
──優しいですね(笑)。
妻夫木 自分で焼かないと気が済まないんですよね(笑)。
綾野 そのあと飲みに行っても「作品の中で役者の存在を生かしたいだけだから、萎縮しないでほしい」とは言われましたけど、「役者ってこうあるべきだよね」という話はまったく出ませんでした。完成した作品を観たときに心がすごく揺さぶられたので、作品の質の高さに対する信頼は強いです。また必ず李組に入りたいな。次こそ千本ノックだろうとは思いますが、そういうことを考えられるほうが豊かでいいと感じます。
李 (うなずきながら)そうそう。
相手を知ろうとする引力が強かった(綾野)
──ご自身の役や相手との関係性を築くにあたって、どのようなアプローチをしていきましたか?
妻夫木 特にはなかったな……。みんなで「ブエノスアイレス」を観てみたり、僕が「悪人」に出るときに李さんと一緒に観た「ブロークバック・マウンテン」がすごく好きだったりということはあったんですけど、それらを参考にしたわけではなくて。どういうふうに役作りしていったんだろうね?
綾野 共有する時間を圧倒的に増やしていった気はします。
──そうなんですね。撮影中はホテルで共同生活をされていたと伺いました。
綾野 一緒に料理をして同じものを食べたりとか、相手の寝息を聞くとか……。まあだいたい僕のほうが先に寝ていたんですけど。
妻夫木 (綾野が)先に寝てあとに起きていたよね(笑)。
李 「剛はギリギリまで寝てるんだよー」という話を現場で聞いていて、きっと直人と優馬の関係性もこういうふうだろうなと思っていましたね。お互いに、役に反映させられるような何かをちゃんと探している感じがほほえましかったし頼もしかったです。
綾野 相手を知ろうとする引力がお互いに強かった?
妻夫木 うん。これまで共演したりとか深く話したことがなかったのがよかったのかな。「今回はこういう役だからこうしようね」って話す時点で、それはもう優馬と直人ではないから。そういうことが一切なく、この作品で初めて共演できたっていうのは奇跡的だなと思いますね。
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「怒り」/ 9月17日より全国ロードショー
ある夏の日、東京・八王子で夫婦殺害事件が発生した。現場に残されていたのは被害者の血液で書かれた「怒」の文字。犯人は顔を整形して逃亡を続け、行方不明のまま1年が経過した。時を同じくして千葉、東京、沖縄に、素性の知れない3人の男が現れ、周囲の人たちと次第に関係を深めていく。そんな中、警察によって殺人犯の新たな指名手配写真が公開された。その顔が出会った男に似ていたことから、「殺人犯なのではないか」という思いが彼らを取り巻く人々の心に芽生え始め……。
スタッフ
- 監督・脚本:李相日
- 音楽:坂本龍一
- 主題曲:坂本龍一 feat. 2CELLOS「M21 - 許し forgiveness」
キャスト
- 槙洋平:渡辺謙
- 田中信吾:森山未來
- 田代哲也:松山ケンイチ
- 大西直人:綾野剛
- 小宮山泉:広瀬すず
- 知念辰哉:佐久本宝
- 南条邦久:ピエール瀧
- 北見壮介:三浦貴大
- 薫:高畑充希
- 藤田貴子:原日出子
- 明日香:池脇千鶴
- 槙愛子:宮﨑あおい
- 藤田優馬:妻夫木聡
©2016 映画「怒り」製作委員会
李相日(リサンイル)
1974年1月6日生まれ、新潟県出身。「BORDER LINE」で劇場映画デビュー。2006年公開の「フラガール」で第80回キネマ旬報ベストテン・邦画第1位や第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを獲得。2010年公開の「悪人」では第65回毎日映画コンクールの日本映画大賞をはじめとする数多くの映画賞に輝いた。
妻夫木聡(ツマブキサトシ)
1980年12月13日生まれ、福岡県出身。2001年公開の主演作「ウォーターボーイズ」で注目を集め、以降「ジョゼと虎と魚たち」「春の雪」「ザ・マジックアワー」など数々の話題作に出演してきた。2013年には「悪人」で第34回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得。2017年には主演作「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」が公開される。
綾野剛(アヤノゴウ)
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビューし数々の映画やテレビドラマに出演する。2014年公開の「白ゆき姫殺人事件」「そこのみにて光輝く」で第88回キネマ旬報ベスト・テンなど数々の映画賞にて主演男優賞を受賞。9月22日に「闇金ウシジマくん Part3」、10月22日には「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」の公開を控えている。