映画ナタリー Power Push - 「秘密 THE TOP SECRET」

神山健治が語る「秘密 THE TOP SECRET」心惹かれる“秘密”という名のジレンマ

「秘密 THE TOP SECRET」特集の幕開けとして、映画ナタリーではテレビアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」など“脳”や“記憶”がキーワードとなる作品を手がけてきたアニメーション監督・神山健治にインタビューを実施。原作ファンでもある神山に本作の魅力を語ってもらった。

取材・文 / 金須晶子 撮影 / 佐藤友昭

神山健治インタビュー

映画は男性的な印象

──原作は以前からご存知だったと伺いました。

読んでましたね。もうずいぶん前ですが、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」を作っていた頃だから10年以上前かな? 僕、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」っていう作品の脚本を書いていた頃からジャンルとして猟奇殺人ものに興味があって。なかなかそういうマンガってなかったんですけど、この「秘密」は知人に薦めてもらって知りました。

神山健治

──どのような点に興味を持たれましたか?

自分にとって秘密にしておきたい記憶って、絶対誰にも見られたくない。でも他人からしたら一番のぞきたい部分でもある。そういったテーマが、エンタテインメントの題材としてすごくいいと思ったのが最初の感想です。しかも「どういう秘密を持った人が出てくるんだろう?」という興味も湧いてくる。映画では中でも一番おいしいエピソードが使われていたので、「やっぱりここにいくよなあ」と。

──映画はいくつかのエピソードを組み合わせた構成になっていましたね。鑑賞されてみていかがでしたか?

原作者の清水玲子先生は女性じゃないですか。映画でも原作と同じ事件を描いているんですけど、すごく男性的な印象を受けました。セットにもこだわられたんでしょうね。この作品では脳にアクセスするための装置がある意味“主人公”だと思いますし、おそらく相当な予算をかけて作られたのでは。もしかしたら、そこが男性的な視点だと感じた理由の1つなのかもしれない。

「秘密 THE TOP SECRET」より。

──大友監督は「るろうに剣心」のときには「アクションを見せたい」とおっしゃっていて、この「秘密」では「ガジェットを見せたい」とコメントされていました。

なるほど、観ていて「ちゃんとそういう装置も出てくるんだ!」って思いましたもん。あとは第九本部の描き方。巨大モニターがあって、それを囲んでいる仲間たちがいて。「あ、こういう秘密基地っぽい感じなのか」とかね。そういった部分は原作以上に描写されていると感じました。

第九・薪剛と公安9課・草薙素子

──キャラクターについてもお聞かせください。第九には薪剛という絶対的存在のリーダーがいますが、映画における彼の描き方はどのように捉えましたか?

「秘密 THE TOP SECRET」より。

映画全体のテイストもそうですが、映画の薪はリーダーとしての男っぽさが際立っているように見えました。だからって原作と違うからよくないとか、そういうわけでは決してなく。例えば薪の場合、もともと繊細な部分を抱えているキャラクターですが、その繊細さだけを強調してしまうと映画の世界観を支えきれないのではないか? 薪が男らしく骨太に描かれているところにはそのような意味があるのでは、とか考えながら観ていました。

──なるほど、そういう分析もあるんですね。

僕の場合、マンガの実写化作品では、別に原作そっくりにしなくてもいいと思う派なので。これは人によって分かれるんでしょうけど。最近は邦画のテクニックも進化していて、マンガの雰囲気をそのまま作り出そうとしていますよね。大友監督の「るろうに剣心」なんかは、それがうまくハマった例だと思うんです。マンガの雰囲気が違和感なく実写になっていた。「秘密」に関しても違和感はないんですけど、「るろうに剣心」とは少し違うアプローチをされたのかな?と。必ずしもそっくりに描かないと言いますか。映画ではどちらかと言えば(岡田将生演じる)青木のほうが、薪の抱える繊細さを託されている感じがしました。だから映画の世界観で薪までもろく繊細だったら、いったい誰が第九を支えるんだ?って(笑)。そういう見方もできて面白かったです。

「秘密 THE TOP SECRET」より。

──神山監督が手がけた「攻殻機動隊」にも、公安9課を率いる草薙素子というカリスマ的存在が登場します。薪と素子、似た立場にいる2人のそれぞれの魅力とは?

薪も素子も組織を率いるリーダーという点では一緒ですね。ただ、描き方は違っています。僕は草薙素子を自分の中に揺るぎない哲学があるキャラクターとして描いたので、人の記憶を見ても揺さぶられない、スーパーマンみたいな精神の持ち主だと思うんです。彼女のそういう超越した強さは自分にはない憧れとして描いていました。一方、薪は人の記憶や秘密に魅入られてしまう危うさがあり、その中でもがいている。彼の魅力はその危うさから来ているんじゃないでしょうか。

──立ち位置は似ていてもそれぞれの内面は違うと。脳にアクセスするという設定においても「攻殻機動隊」を連想するファンは少なくないかもしれません。

そうですね。確かにどちらも“脳”や“記憶”がキーワードになっていますが、「攻殻」の“記憶”と「秘密」の“記憶”は捉え方が違うのではないでしょうか。そこが面白いんだと思いますが。「攻殻」で描かれる“記憶”は個人のアイデンティティというか、自分自身を規定するためのもの。そして「秘密」における“記憶”は、人に知られたくないものなんです。人の秘密はのぞいてみたいけど、自分の秘密はのぞかれたくない。そのジレンマこそが「秘密」の妖しい魅力だと思うんです。

──知りたいけど知られたくないというのは、誰もが理解できる感覚ですね。

それに記憶や秘密ってその人の欲求の表れでもあるわけで。それをのぞき見てしまうと「この人こんな欲求を持っていたのか」ってわかって、そこに魅入られてしまうこともある。例えば猟奇殺人犯について書かれた本を読んだことで、自分も猟奇殺人犯になってしまう人は普通はいないですよね。でもそれに近い欲求みたいなものは、みんな自分の中にちょっとずつ持っている。だからこそ魅入られてしまう怖さがあるのでしょう。その感覚は言葉で説明するより映画を観てもらったほうがダイレクトに伝わると思います。

「秘密 THE TOP SECRET」2016年7月6日全国ロードショー

「秘密 THE TOP SECRET」

ストーリー

被害者の脳に残った記憶を映像化し、迷宮入り事件を解決するMRI捜査。その特殊な捜査方法が導入された警察庁の特別機関・通称「第九」で若くして室長を務める天才・薪剛や新人捜査官の青木一行らは、行方不明の少女の捜索に取り掛かる。単純な捜査かと思われたが、事件は次々と連鎖し、やがて決して触れてはならないとされる日本を震撼させた貝沼事件へとつながっていく。そこには、第九捜査官であり、今は亡き薪の親友・鈴木が命を懸けて守ろうとした“第九最大の秘密”が隠されていた……。

スタッフ

監督:大友啓史
脚本:髙橋泉、大友啓史、イ・ソクジュン、キム・ソンミ
原作:清水玲子
主題歌:SIA「ALIVE」

キャスト

薪剛:生田斗真
青木一行:岡田将生
貝沼清孝:吉川晃司
鈴木克洋:松坂桃李
三好雪子:栗山千明
露口絹子:織田梨沙
斎藤純一郎:リリー・フランキー
露口浩一:椎名桔平
眞鍋駿介:大森南朋
今井孝史:大倉孝二
天地奈々子:木南晴夏
岡部靖文:平山祐介

神山健治(カミヤマケンジ)

1966年3月20日生まれ、埼玉県出身。アニメーション監督。高校卒業後、背景・美術スタッフとしてキャリアをスタート。2002年にテレビシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、2004年に「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」、2007年に「精霊の守り人」を監督。2009年に原作・監督・脚本を兼任したオリジナル作品「東のエデン」は、テレビシリーズ、劇場版2作へと展開した。2012年、フル3DCGアニメーション「009 RE:CYBORG」を発表。現在、2017年公開予定の劇場アニメ「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」を制作中。