「攻殻機動隊 SAC_2045」の完結作である「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」が、11月23日より3週間限定で公開される。同作は2022年5月に配信開始となった「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン2に、新たなシーンを追加して再構成したもの。シーズン1の劇場版「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」と同じく、「新聞記者」「余命10年」の藤井道人が監督を務めた。さらに11月22日には「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン2の12話をまとめたBlu-ray BOXも発売される。
映画ナタリーでは、「攻殻機動隊」ファンであるチョコレートプラネットの長田庄平にインタビューを実施。「攻殻機動隊 SAC_2045」の魅力を語ってもらった。また“芸人版の公安9課”を組織するとして、長田が主要メンバーに選んだ人物とは?
取材・文 / 小澤康平撮影 / 梁瀬玉実
映画「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」予告編公開中
士郎正宗が1989年に発表したマンガ「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」を起源とするSF作品群のこと。全身義体のサイボーグ・草薙素子や彼女が率いる公安9課のメンバーが、電脳社会で発生するさまざまな犯罪に立ち向かうさまが描かれる。
1995年、押井守により劇場アニメとして初めて映像化。2017年にはスカーレット・ヨハンソン主演のハリウッド実写映画が公開された。そして「攻殻機動隊 SAC_2045」は2020年4月にNetflixで配信がスタートした、シリーズ初のフル3DCGアニメーション。神山健治と荒牧伸志が“ダブル監督”を務め、イラストレーターであるイリヤ・クブシノブがキャラクターデザインを担当している。
「んなわけあるかい!」ではなく、妙にリアリティがある
──お笑いナタリー常連の長田さんですが、今回は映画ナタリーの取材です。
僕でいいんですか?(笑) よろしくお願いします。
──今年は窪塚洋介さん主演の「Sin Clock」、「仮面ライダーギーツ」の劇場版である「仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐」に出演し、12月に公開を控える「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」では吹替キャストを務めていて、3本の映画に参加されています。
本業は芸人なので映画に出たいというのはおこがましいというか、演技ができるとは思っていないんですけど、いただいた話はありがたく受けさせてもらってます。映画は本当に好きで、何かしら携われたらとは常々思ってるのでうれしいですね。「仮面ライダー」に関しては、出演したら5歳の息子にちょっと尊敬されるかなという気持ちもありましたけど(笑)。
──なるほど(笑)。Instagramでは過去に、1973年製作のSFアニメ映画「ファンタスティック・プラネット」がコンビ名であるチョコレートプラネットの由来の1つだと明かしていました。きっとすごく映画が好きなんだろうなと思っていたんですが、やっぱりそうなんですね。
「ファンタスティック・プラネット」は中学生のときに自分の部屋のめちゃめちゃ小さいテレビで深夜に観たんですよね。「なんだこの世界観は!」と衝撃を受けて、もう少し成長してから観たときもキャラクターデザインの素晴らしさや、現代社会に通ずる風刺的なストーリーに引き込まれました。SFが大好きで、生涯ナンバーワンの映画は「エイリアン2」。近未来の細かいデザインを見るのが好きなんです。エイリアンやマシンの造形が完璧で、いまだにあれを超えるエイリアンのデザインはないんじゃないかと思ってます。
──現代社会に通ずるSFと言うと、まさに「攻殻機動隊」がそうです。
はい。なので「攻殻機動隊」を好きになったのは必然ですね。最初に観たのは押井守監督が手がけた1995年の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」で、遠い未来の話ではなく2029年というちょっと先の未来の話であることにグッと心をつかまれました。「んなわけあるかい!」という世界観ではなく、妙にリアリティがあるんですよ。電脳化が進んだ社会だけどゴミ収集は残ってるみたいな。そのときから「攻殻機動隊」はずっと好きです。
まさかTシャツから仕事につながるとは
──このオファーをしたきっかけは、長田さんが約3年前にテレビ番組で「攻殻機動隊 SAC_2045」のTシャツを着ていたことです。長田さんが「攻殻機動隊」ファンという明確な情報はなかったんですが、いざお声掛けしたらシーズン1や「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」(シーズン1に新たなシーンを加えて再構成した劇場版)はすでに観ていたとのことで、ありがたかったです。
まさかTシャツからこの仕事につながるとは思ってなかったですけどね(笑)。あれはGUとのコラボTシャツで、「攻殻機動隊」が好きなのでいいなと思って買いました。
──そのあと「攻殻機動隊 SAC_2045」シリーズの完結となるシーズン2の最終話まで観ていただきましたが、「攻殻機動隊」ファンの長田さんから見て今回のシリーズはいかがでしたか?
2002年に始まったテレビシリーズの「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や2013年からの「攻殻機動隊ARISE」もすごかったですが、グラフィックが格段に進化していると思いました。3DCGなのでキャラクターの動きがなめらかで、背景の細かいところもめちゃめちゃリアル。戦闘シーンも今まで以上にかっこよく仕上がってると思いました。あとは「攻殻機動隊 SAC_2045」からの新キャラクターである江崎プリンがかわいくて、今までにはいないポップなキャラクターですよね。タチコマ(AIを搭載した多脚思考戦車)ももちろんかわいいですが、ちょっとドジっ子っぽくて感情移入しちゃうようなプリンの存在は、「攻殻機動隊 SAC_2045」が今までのシリーズよりも見やすい理由の1つだと感じます。そしてシーズン2ではプリンがまさかの……これは言えないですね(笑)。
──舞台設定は経済災害「全世界同時デフォルト」の発生とAIの爆発的な進化により、世界が計画的かつ持続可能な戦争“サスティナブル・ウォー”へと突入した2045年……と一見難解ではありますが、プリンのようにキャッチーな部分も多々ありますよね。
そう。だから「なんか難しい作品でしょ?」と忌避せずに観てほしいです。確かにストーリーは難しいですけど、現代の世界情勢や戦争とつながっている描写もあるので、意外と取っ付きにくくもないと思います。テレビシリーズの「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」では“笑い男”というハッカーを軸に、近い将来起こるかもしれないと感じるネットの怖い事件が描かれていましたが、「攻殻機動隊 SAC_2045」も「近未来にはこういうことが起こるのかも?」という説得力があって。例えば劇中でのアメリカに対する日本の立ち回りを考えてみても、現実社会と完全に切り離すことはできないと思いました。
──100%フィクションとは言い切れないと。
現代社会と結び付いているのが「攻殻機動隊」の一番好きなところです。「攻殻機動隊 SAC_2045」のシーズン2にはトグサが公衆電話を使うシーンが出てきますが、電脳化社会になってもどこかの街には公衆電話が残っていて、それを使う状況があるということにもリアリティを感じます。テクノロジーの発展がすべてを変えるわけではないと言いますか。まあ僕も理解できていない部分はたくさんありますし、ちょっと頭がよくなった気がして、時代を読み解けてる感じになれるだけでも楽しいですね(笑)。全世界同時デフォルト、サスティナブル・ウォー、ポスト・ヒューマン(電脳社会に出現した新人類)とか口に出したい単語がたくさん出てくるのも魅力で、気になるワードが出てきたら検索して理解を深めていく楽しさもあるかもしれない。ちなみにYouTubeでは架空のビジネス用語を相方(松尾駿)と言い合う「財津チャンネル」というのをやってるんですが、その用語は「攻殻機動隊」などにインスパイアされて作ってます。
──「財津チャンネル」のある回では、長田さん扮する“ビジネスコンディショナー”の財津啓司が「ユージュアル・サスペクツ」(1995年製作のアメリカ映画)を架空の専門用語として使っていました。
はははは、そうそう(笑)。今年やった単独ライブツアー「CHOCOLATE PLANET LIVE TOUR 2023 『PLANET TRAIN』」には爆弾処理のコントがあるんですが、あと30秒で爆発するってところからスタートして、そのあと15分くらいわちゃわちゃやるんです。映画もいろんなカットをつないで30秒を表現するから、観ている時間が30秒なわけではないじゃないですか。そこの時間差を大きくしたら面白いんじゃないかというのが最初の発想で。忙しさにかまけてインプットをおろそかにするとアウトプットするものがなくなっちゃうので、多いときは月に10回くらい映画館に行くようにしています。
荒巻はシソンヌの長谷川、何かあったら責任を取らせる(笑)
──先ほど江崎プリンの話が出ましたが、「攻殻機動隊 SAC_2045」でほかに好きなキャラクターはいますか?
僕はトグサが好きで。電脳化はしてますが体はほぼ生身で、リボルバーを持っていたりと、周りがサイボーグ化してる中でアナクロなものにこだわってるのが渋いですよね。そんなトグサがポスト・ヒューマンに覚醒したとされるシマムラタカシの捜索中に失踪することから物語が動き出していって、今回もキーキャラクターになっていたのでうれしかったです。
──もし長田さんが公安9課に入るとしたらトグサのポジションを担いたいですか?
最前線のプレイヤーではありたいので、そこは草薙素子ですかね。それで相方がバトーになるのかな。課長の荒巻のポジションには、回しが得意なパンサーの向井(慧)を置いて。あとはセンスがありそうなスナイパーのサイトーは、センスのある台本を書いてくるシソンヌのじろうくんに任せたいです。
──トグサは誰にしますか?
トグサかあ……やっぱり向井がトグサかな。それでシソンヌの長谷川(忍)を荒巻にするっていう手はありますね。
──長谷川さんを荒巻に選んだ理由は?
まあドシッと構えてるというか。何かあったら責任を取らせるっていう、都合のいい存在として一番いいんじゃないかと思います(笑)。
──(笑)。ではサイボーグ化するとしたらどんな義体を選びますか?
台本を書くので手を義体化してパシャパシャと文字を打ちたいです。電脳化したら頭に浮かべた言葉を文字にして表示することも可能だと思うんですが、わざわざ指の本数を増やしてキーボードを打つというのがいい。でも手続きとかは本当に面倒なので、ローンの振り込みみたいなことは電脳とつないで一瞬で終わらせる(笑)。
トグサのように生きていく
──シーズン1が「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」として劇場公開されたように、シーズン2を再編集して新規シーンを追加した「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」が11月23日より3週間限定で公開されます。今回も映画版の監督は「新聞記者」「余命10年」などで知られる藤井道人さんです。
全12話のシーズン1を観たあとに「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」を観ましたが、要約の仕方がうまいんです。迫力ある戦闘シーンをしっかり盛り込みつつ、難解なストーリーも1つひとつ追うことができる作りになっている。シーズン2も12話あるので、もし話数をたくさん観るのがしんどいなと感じる人はNetflixで「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」だけ観て、「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」に臨んでも十分楽しめると思います。シーズンのほうがキャラクターの背景は掘り下げられているので、映画を観て気になった部分があったら1話1話楽しむのがいいかなと。
──映画が公開される一方、11月22日にはシーズン2をまとめたBlu-ray BOXが発売されます。今は配信が主流ですが、ソフトとして所持することにはどんな魅力があると感じますか?
デジタルだといつ観られなくなるかがわからないですし、コレクションとして自分の手元にあるっていうのはいいですよね。「ファンタスティック・プラネット」も配信で観られますが、Blu-rayを持ってますし。やっぱり生活のすべてをデジタルに落とし込むのではなくて、少しアナクロな部分を残しておくほうが好きなんです。これからどんどんテクノロジーが発展していくと思いますが、僕はトグサのように生きていきます(笑)。
プロフィール
長田庄平(オサダショウヘイ)
1980年1月28日生まれ、京都府出身。NSC(吉本総合芸能学院)東京校で松尾駿と出会い、2006年1月にお笑いコンビ・チョコレートプラネットを結成。2015年にNHK新人お笑い大賞を受賞し、2008年、2014年、2018年には「キングオブコント」で決勝に進出した。TT兄弟やMr.パーカーJr.、悪い顔選手権、財津チャンネルなど、新しいコンテンツを次々に生み出している。レギュラー番組は「ヒルナンデス!」「有吉の壁」「新しいカギ」「チョコプランナー」「再現できたら100万円!THE神業チャレンジ」など多数。2023年は映画「Sin Clock」「仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐」にも出演し、12月8日公開の「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」では吹替を担当するなど、活躍の場を広げている。YouTubeのチョコレートプラネット チャンネルの登録者数は203万人(2023年11月9日時点)。
チョコレートプラネット長田(オサダ) (@ChocoplaOsada) | X
チョコレートプラネット 長田庄平 (@osadashouhei) | Instagram