映画ナタリー Power Push - 「ブラック・スキャンダル」

3悪童の密約が描く、悪と破滅の美学

何をやりたくて、どう生きたのかってことを理解して演じる(小沢)

──ワルや悪役が人々を惹き付ける魅力ってなんでしょう?

小沢 いろんなワルの形があるからな。コノリーはギャングと組んでマフィアを潰そうとする。現代社会でも十分あり得ることだと思うよ。警察は善であって悪を裁く!と言うけど、ワルの力を借りないとどうしてもダメなときってあったりするんだよ。蛇の道は蛇ってね。そういう協力関係は悪なのか? 線引きがあいまいなんだよ。悪の定義ってのはすごく難しい。俺の映画「裏社会の男たち」にも刑事が出てくるけど、犯人を追うことに執着しすぎて、善と悪の境界が見えなくなっていく。コノリーと同じだよな。ワルと悪役って俺らの中では微妙に違うんだよ。悪役はヒーローっぽい一面があるからな。

本宮泰風

本宮 アル・パチーノとジョニー・デップ共演の「フェイク」。あれこそエンタメ性があって、悪役がわかりやすく魅力的に映ってるね。

小沢 変装(特殊メイク)してるのに、人間味があるジョニー・デップも久々でいいんじゃねえの?

──皆さんは実録作品で悪役を演じることも多いと思いますが、演じるうえで意識していることは?

山口 僕は2度ほどしかないからなあ。

本宮 俺は気にしないかな。台本があってのことだからね。

──ジョニー・デップは歩き方1つにしても、相当こだわったようです。

小沢 よくわかる。俺も「実録・竹中正久の生涯 荒らぶる獅子」をやったときそうだった。

山口 20~30kgは太ってましたよね。

小沢仁志

小沢 そう。背が大きくない人を演じるために、ズボンの丈を短く腰ばきにして、股下を短く見せて、太ったヤツの歩き方を真似した。俺の場合、実在する名だたる親分の実録ものが多いから、知ってる人も多くてクレームが来たりするんだよ。でも見た目はもちろんだけど、その人が何をやりたくて、どう生きたのかってことをちゃんと理解しようとしてる。

──では悪役らしく見せる方法はあるんですか?

本宮 僕らは大変ですよ。

山口 兄ぃと比べて顔の作りが違いすぎるから。

本宮 何もしないで(そう見える)いい人と、そうじゃない人の苦労ってね。

小沢 おいおい、何言ってんだよ。今日だって俺は特殊メイクしてんだぞ!

一同 (爆笑)

「ブラック・スキャンダル」より、バルジャーがコノリーの妻を脅す場面。

小沢 悪役らしく見せるなんて考えたことないね。例えばアクション映画の悪役は意図的にデフォルメするじゃない。「ブラック・レイン」の(松田)優作さんもそうだよ。ああいう形での見せ方はあるけど、観てる人がヤクザを悪いヤツらだと思えば悪く映るし、そうじゃなければ違って映るわけよ。「ブラック・スキャンダル」だと、例えばコノリーの奥さんのもとにジョニー・デップが行って脅すシーン。奥さんの頸動脈を押さえながら平然とした顔で脅す。あの表現方法なんて怖いじゃない。あれが悪役としての見せ方だよ。作品の流れを壊さずに、観てる人に恐怖を伝えるにはどうすればいいかっていうな。

本宮 でも「ブラック・スキャンダル」は、全体的にエンタメ色というよりドキュメンタリー色が強かった。兄ぃが言ったみたいに、コノリーの妻のところに行く直線的な動き、例えば恫喝や暴行するとかではなく、遠回しに言葉を並べて脅すという抑えた脚色ぐらいで。

小沢 「ブラック・スキャンダル」の原題ってなんだっけ? 「ブラック・マス(黒ミサの意)」か。これ、「ブラックコーヒー」にしたほうがよかったんじゃないの?

──えっ、その意図はなんですか?

山口 苦いブラックコーヒーを飲んだ後味がある!みたいな?

小沢 そう、それだよ!

本宮 登場キャラの誰もコーヒーは飲んでないですけどね(笑)。

「そういうヤツに付いて行かないほうがいい!」って教訓になる(山口)

──残虐非道なバルジャーですが、家族を愛する優しい一面もありました。山口さん、本宮さんが知る、小沢さんのギャップはありますか?

小沢 なんで映画の話からそっちにいくんだよ!(笑)

山口本宮 いや、いいじゃないですかあ。

小沢 こいつらロクなこと言わないんだからよ。

本宮 じゃあ、小沢さんにはこのあたりで退席してもらって……。

小沢 おいおい! 以前、俺が手相を見てもらってるときに、こいつらが「この人、いつ死にますか?」って聞きやがってさ。占い師が「長生きしそうですねえ」って言ったら、「チッ、出ようぜ!」って店の外でたばこを吸ってんだぜ。

一同 (爆笑)

本宮 兄ぃの場合は見た目がこうだからね。ちょっとしたことでもギャップになる。動物を飼ってるってだけでもね。

山口祥行

山口 俺の犬の散歩もしてくれますよ。

小沢 俺の足にションベンかけやがったけどな。俺は電柱か!って。

本宮 あと虫が嫌い、ちっちゃい虫。現場でもよくビビってるんで。

小沢 残虐なシーンを撮影してるときにさ。人を殺して血まみれ状態の男が、虫を見てめちゃくちゃビビったもんな(笑)。

山口 蚊やブヨに噛まれただけで、ずっと言ってますよ。「見てくれよ~、ほら噛まれたよ~」って。

小沢 ブヨは痛てえじゃねえかよ!

本宮 あと巨乳にも弱い!

小沢 あっ、それが一番弱い。

山口 この顔で言うんですよ、こんなことを(笑)。

──映画にちなんで、これまで経験した“ブラックなスキャンダル”はありますか?

本宮泰風

本宮 この前のでいいじゃないですか!

小沢 んっ、あの週刊誌のか?

本宮 あれこそ“ブラック・スキャンダル”じゃないですか。

山口 いや、“ピンク・スキャンダル”でしょ!

小沢 “小沢仁志、◯×△□と熱愛、拒否される!”なんて書かれてさ。ただ一緒に飯を食ってただけなのによ。踏んだり蹴ったりだぜ。

──今回のように3人で映画話をすることもあるんですか?

本宮 一緒に映画を観に行ったりするからね。

小沢 最近だと「クリード チャンプを継ぐ男」、あれはやばかったよな! ハンカチを忘れたから無印良品で買って観たよ。

山口 俺なんてマスクで涙を拭いてたからね。

──では最後にこれから「ブラック・スキャンダル」を鑑賞する女性と男性に、それぞれメッセージをお願いします。

一同 女性にかあ。

小沢 女性はこれを観て「ひどい男を勉強しろ!」って感じかなあ。

山口 ギャングのボスのバルジャーが突っ走って、行き過ぎちゃうじゃないですか。だから男性には「そういうヤツには付いて行かないほうがいい!」って教訓になるんじゃないかなあ。

手前から本宮泰風、小沢仁志、山口祥行。

小沢 男って「ゴッドファーザー」やマフィア映画が大好きってヤツいるじゃない。彼女を誘ってこういう映画に行くと、大概は彼女が引いてんだよな。「こんな血がいっぱい、私ダメ!」とか言ってな。

本宮 やっぱり女性は「こういう男に気を付けろ!」ってとこですね。

小沢 じゃあ男は「無期懲役になりたかったら『ブラック・スキャンダル』を観ろ!」ってことで。

「ブラック・スキャンダル」

「ブラック・スキャンダル」

1975年、米国サウスボストン。通称“サウシー”。マフィア排除に取り組むFBI捜査官のジョン・コノリーは、イタリア系マフィア“アンジュロ・ファミリー”と抗争を繰り広げる“ウィンターヒル”ギャングのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーに敵対組織の情報を売るよう持ちかける。一度は断るバルジャーだが、敵をたたき潰すチャンスと捉え承諾。名声を望む州上院議員ビリー・バルジャーの利害も一致し、3者間の密約が成立する。彼らはこの街で生まれ育った幼なじみだった。絶大な権力を手に入れた彼らだが、永遠に続くと思われていたその禁断の関係は、バルジャーの暴走を皮切りに音を立てて崩れていく。

スタッフ

監督・製作:スコット・クーパー

原作:ディック・レイア、ジェラード・オニール

脚本:マーク・マルーク、ジェズ・バターワース

キャスト

ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー:ジョニー・デップ

ジョン・コノリー:ジョエル・エドガートン

ビリー・バルジャー:ベネディクト・カンバーバッチ

スティーヴン・フレミ:ロリー・コクレイン

ケヴィン・ウィークス:ジェシー・プレモンス

ジョン・モリス:デヴィッド・ハーパー

リンジー・シル:ダコタ・ジョンソン

マリアン・コノリー:ジュリアンヌ・ニコルソン

チャールズ・マグワイア:ケヴィン・ベーコン

フレッド・ワイシャック:コリー・ストール

ブライアン・ハロラン:ピーター・サースガード

ロバート・フィッツパトリック:アダム・スコット

デボラ・ハッセー:ジュノー・テンプル

小沢仁志(オザワヒトシ)

1962年6月19日、東京都生まれ。1984年に「ひと夏の出来ごころ」でスクリーンデビュー。同年にテレビドラマ「スクール☆ウォーズ」の水原亮役、人気シリーズ「ビー・バップ・ハイスクール」の不良役で鮮烈な印象を残す。その後も「日本統一」シリーズなど多くの映画やドラマ、バラエティなどで活躍。映画監督やプロデューサーとしての顔を持ち、OZAWA名義で「喧嘩の極意」シリーズや「実録 新撰組」シリーズを手がけた。主演作「裏社会の男たち 第三章」「九州極道戦争2」のDVDが3月4日に発売。また初夏には「CONFLICT(コンフリクト)~最大の抗争~」の公開を控える。

山口祥行(ヤマグチヨシユキ)

1971年8月6日、東京都生まれ。1988年に「クレイジーボーイズ」でスクリーンデビュー。その後「新 影の軍団」シリーズやテレビアニメの声優を務めるなど幅広く活動している。スタントマン経験があり、吹替なしのアクションや殺陣を行うことも多い。2月6日には「表と裏 最終章」、初夏には小沢仁志や本宮泰風との共演作「CONFLICT(コンフリクト)~最大の抗争~」の公開を控える。

本宮泰風(モトミヤヤスカゼ)

1972年2月7日、東京都生まれ。1994年にテレビドラマ「シュプールは行方不明」で俳優デビュー。主な出演作に、ドラマ「S -最後の警官-」や「龍三と七人の子分たち」などがある。「再会 禁じられた大人の恋」が現在公開中。山口祥行とのW主演「日本統一15」のDVDが2月5日に発売されるほか、「表と裏 最終章」が2月6日、「CONFLICT(コンフリクト)~最大の抗争~」が初夏に公開を控える。


2016年1月29日更新