映画ナタリー Power Push - 「ブラック・スキャンダル」

3悪童の密約が描く、悪と破滅の美学

「俺を知らねえとは許さねぇ!」ジェームズ・バルジャー神話と真実

実在のボストン一の犯罪王、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー。謎に包まれた存在だったが、2人の記者による命がけの取材ですべてが白日の下にさらされた。ここでは、「ブラック・スキャンダル」の原作本をもとに、犯罪王の素顔、彼が暗躍した舞台と時代背景を紹介していく。

舞台 / 時代背景

人種差別の名残、組織犯罪と貧困の増加──混沌の時代

舞台は米国サウスボストン。アイルランド系移民が多く暮らす界隈で“サウシー”とも呼ばれる。映画でギャング街、貧困街として描かれることが多い。バルジャーが頭角を現し始めた1970年代は、人種隔離政策、人種統合への反発の動きが活発化した混沌の時代。コノリーがFBIに入局したのも同時期で、FBIはJ・エドガー・フーバー長官のもと権勢を振るった。電子機器を使った監視、密告者からの情報確保はごく自然に行われていたという。

  • FBIボストン支局
  • バー“トリプル・オー”
  • ジョン・コノリーの家
  • オールド・ハーバー団地(バルジャーの両親の家)
人物像

今なお世界のどこかで服役中、極悪非道な犯罪王の素顔

実際のジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー。

1929年、米国ボストン出身。アイルランド系の両親のもとで育つ。酒はめったに飲まず、タバコも吸わなかった。1950年代に銀行強盗罪で服役、アルカトラズ連邦刑務所にも収監された。出所後はゆすりや恐喝で日銭を稼いでいたが、FBIとの協定後はサウシーでの賭博、高利貸し業を掌握し犯罪帝国を拡大。1995年に1度逮捕されるが逃走し、当時のFBI史上最高額200万ドル(当時換算で約2億4000万円)の懸賞金で国際指名手配される。2011年、16年間の逃亡の末、グレイグの偽名で潜んでいたカリフォルニア州サンタモニカで逮捕された。逮捕の決め手は猫にエサをやる姿を目撃した近隣住民からの通報。81歳だった。組織犯罪をはじめ、恐喝、高利貸し、麻薬密売、贈収賄、賭博、そして21件の殺人容疑で起訴された後、終身刑2回ほかの判決を受けて現在服役中。「ディパーテッド」でジャック・ニコルソンが演じたフランク・コステロのモデルにもなった。

原作本

伝説のギャングとFBIの闇の絆が明かされる

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ピュリッツァー賞受賞記者のディック・レイアとジェラード・オニールが手がけた原作「ブラック・スキャンダル」。“バルジャーはFBIの情報提供者だった”。1988年、ボストン・グローブ紙のスクープに端を発し、癒着の実態が明らかになっていく。「コノリーはバルジャーを情報提供者に抱き込んだが、抱き込まれたのはコノリーだった」とオニール。取材には2年を費やし、この最大のスキャンダルをつまびらかにした。

「ブラック・スキャンダル」
著:ディック・レイア&ジェラード・オニール / 訳:古賀弥生
価格:1210円 / 角川文庫刊 / 発売中

「ブラック・スキャンダル」

「ブラック・スキャンダル」

1975年、米国サウスボストン。通称“サウシー”。マフィア排除に取り組むFBI捜査官のジョン・コノリーは、イタリア系マフィア“アンジュロ・ファミリー”と抗争を繰り広げる“ウィンターヒル”ギャングのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーに敵対組織の情報を売るよう持ちかける。一度は断るバルジャーだが、敵をたたき潰すチャンスと捉え承諾。名声を望む州上院議員ビリー・バルジャーの利害も一致し、3者間の密約が成立する。彼らはこの街で生まれ育った幼なじみだった。絶大な権力を手に入れた彼らだが、永遠に続くと思われていたその禁断の関係は、バルジャーの暴走を皮切りに音を立てて崩れていく。

スタッフ

監督・製作:スコット・クーパー

原作:ディック・レイア、ジェラード・オニール

脚本:マーク・マルーク、ジェズ・バターワース

キャスト

ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー:ジョニー・デップ

ジョン・コノリー:ジョエル・エドガートン

ビリー・バルジャー:ベネディクト・カンバーバッチ

スティーヴン・フレミ:ロリー・コクレイン

ケヴィン・ウィークス:ジェシー・プレモンス

ジョン・モリス:デヴィッド・ハーパー

リンジー・シル:ダコタ・ジョンソン

マリアン・コノリー:ジュリアンヌ・ニコルソン

チャールズ・マグワイア:ケヴィン・ベーコン

フレッド・ワイシャック:コリー・ストール

ブライアン・ハロラン:ピーター・サースガード

ロバート・フィッツパトリック:アダム・スコット

デボラ・ハッセー:ジュノー・テンプル


2016年1月29日更新