映画ナタリー Power Push - 「ブラック・スキャンダル」

3悪童の密約が描く、悪と破滅の美学

このトリオ、最強にして最凶のワル! 極悪度数で見る、3悪童の頂点と崩壊までの歩み
ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー

「ブラック・スキャンダル」は人生の悲劇と人間の性を深く描いたクライムサスペンスだ。サウシーで育った3悪童バルジャーとビリー、そしてコノリーは欲に駆られ、悪事に手を染め、我が世の春をうたい、やがて破滅へと向かう。事実は小説よりも奇なり! ここでは物語を4つの転換期に分け、3悪童の極悪度とともに見どころを探っていく。

極悪度40% 3人の密約
  • ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー(左)とジョン・コノリー(右)。
  • ジョン・コノリー
  • ビリー・バルジャー

「敵を潰すために、
FBIの保護があればやりたい放題だ」

北ボストンのイタリア系マフィア一掃を目論むFBI。コノリーはFBIでのし上がるべく、地元でなじみのあるビリーを通じて、バルジャーにマフィア情報を売るよう持ちかける。この密約と引き換えにバルジャーが得たものが“好き勝手に暴れ回れる”免罪符だ。強力な後ろ盾を得たバルジャーは、敵を潰すという“野望”の具現化に向けて動き出す。一方、幼い頃からバルジャー兄弟が憧れの存在だったコノリーにとって、野望達成が目的とはいえ、バルジャーと持ちつ持たれつの関係を構築できたことは喜びに違いない。コノリーが内に秘める、虚勢や見栄、不安、気弱さは全編ににじみ出ている。

極悪度60% 息子と母親の死
  • カードゲームに興じるバルジャー(左)と母親(右)。
  • ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー(左)とリンジー・シル(右)。
  • 母親の葬儀に参列するジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー。

「ジミー、ビリー、そして俺──。
大人になっても絆は変わらない」

血縁、地縁による“家族”の形が対照的に描かれている本作。普段は残忍冷酷なバルジャーだが、家族と過ごすときは違った。母親と弟ビリー、そして恋人リンジーや自身の息子と接するときは優しく、深い愛情を注ぐ。ビリーの言動からもまた兄弟愛、忠誠心が透けて見える。そんな人間的な一面を垣間見せるバルジャーは、母親と息子の死を境に豹変。狂気に歯止めが利かなくなる。愛する家族を失ったバルジャーは、地縁の家族との関係を深めながらも、常に疑いの目を向ける。部下の“背信”行為に対しての過剰な制裁、晩餐会に姿を見せないコノリーの妻と軽率な発言をした捜査官モリスへの脅迫、そしてコノリーへの欺まん──。良好に思えた関係に亀裂が生じていく。

極悪度80% 栄華を極めた時代
  • 聖パトリック・デー・パレードでのビリー・バルジャー。
  • 仲間を集めて夕食会を開くバルジャーたち。
  • ビリー・バルジャー(左)とジョン・コノリー(右)。

「これはタレ込みでも密告でもない、
ビジネスだ!」

FBIの保護を得たバルジャーは、サウシーの裏社会に君臨。ビリーもマサチューセッツ州議会上院議長へと上り詰め絶大な力を得る。コノリーもまた、バルジャーがもたらした情報をもとに内偵捜査を進めて手柄を上げ、英雄気取り。3人は我が世の春を謳歌していた。その様子はコノリーらの身なりの変化にも現れている。コノリーの心は成功が運んでくるうまみにさらに傾き、バルジャーと協定関係の枠を越えて頻繁につるむようになった。バルジャーは一線を越えたコノリーを意のままにできると考え、FBIにはほとんど協力せず、見返りだけはたっぷりせしめるように。バルジャーを手なずけられるとのコノリーの“慢心”が引き起こす物語の結末は、想像以上に恐ろしいものとなる。

極悪度MAX バルジャーの暴走
  • ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー(左)とスティーヴン・フレミの恋人の娘、デボラ・ハッセー(右)。
  • 敵対するマフィアに手を下すバルジャー(左)。
  • ジョン・コノリー(左)とジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー(右)。

「バルジャーを挙げたい。
必要なら街中の犯罪者をしょっ引く!」

コノリーは正しいことをしているつもりだった。マフィアをこの街から浄化するという目的が手段を正当化すると信じていた。だが、連邦検察官フレッド・ワイシャックの登場で事態は大きく転換する。「バルジャーは有力な情報提供者のはずが、何1つ有力な情報をもたらさない。むしろ情報はFBIからバルジャーに流れている」。疑いの目を向けられながらもコノリーはバルジャーの歓心を買うべく、犯罪を見て見ぬフリを続ける。やがてコノリーが己の過ち、バルジャーへのいびつな忠義に気付いたときにはすでに引き返せないところまで来ていた。FBI史上最大のスキャンダルがボストン・グローブ紙で明るみになったとき、サウシー最凶の3悪童に衝撃のラストが訪れる!

「ブラック・スキャンダル」

「ブラック・スキャンダル」

1975年、米国サウスボストン。通称“サウシー”。マフィア排除に取り組むFBI捜査官のジョン・コノリーは、イタリア系マフィア“アンジュロ・ファミリー”と抗争を繰り広げる“ウィンターヒル”ギャングのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーに敵対組織の情報を売るよう持ちかける。一度は断るバルジャーだが、敵をたたき潰すチャンスと捉え承諾。名声を望む州上院議員ビリー・バルジャーの利害も一致し、3者間の密約が成立する。彼らはこの街で生まれ育った幼なじみだった。絶大な権力を手に入れた彼らだが、永遠に続くと思われていたその禁断の関係は、バルジャーの暴走を皮切りに音を立てて崩れていく。

スタッフ

監督・製作:スコット・クーパー

原作:ディック・レイア、ジェラード・オニール

脚本:マーク・マルーク、ジェズ・バターワース

キャスト

ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー:ジョニー・デップ

ジョン・コノリー:ジョエル・エドガートン

ビリー・バルジャー:ベネディクト・カンバーバッチ

スティーヴン・フレミ:ロリー・コクレイン

ケヴィン・ウィークス:ジェシー・プレモンス

ジョン・モリス:デヴィッド・ハーパー

リンジー・シル:ダコタ・ジョンソン

マリアン・コノリー:ジュリアンヌ・ニコルソン

チャールズ・マグワイア:ケヴィン・ベーコン

フレッド・ワイシャック:コリー・ストール

ブライアン・ハロラン:ピーター・サースガード

ロバート・フィッツパトリック:アダム・スコット

デボラ・ハッセー:ジュノー・テンプル


2016年1月29日更新