コミックナタリー PowerPush - ナタリー×「龍三と七人の子分たち」

ジジいいね! 龍三と七人の応援団

清野とおる編

元ヤクザの龍三ら8人のジジイがオレオレ詐欺集団のアジトにカチコミ! 北野武監督最新作「龍三と七人の子分たち」は、これまでのどの北野映画よりもエンタテインメント性が高く、老若男女が楽しめそうだ。

ナタリーでは、映画、音楽、コミック、お笑いという多方面から“龍三応援団”を募集し、映画の公式サイトと連動したインタビューを実施。コミックナタリーでは狂人観察のスペシャリストである清野とおるに声をかけ、龍三と子分らが発するジジイ独特のバイブスを語ってもらった。

取材・文/大谷隆之 ヘッダーイラスト/清野とおる

「こういうジジイに関わるとやばいぞ!」って何度も思った

──「ウヒョッ!東京都北区赤羽」をはじめ、清野さんのマンガにはパワフルな高齢者がたくさん登場します。そんな“観察者”の目に、この映画はどう映りましたか?

老人から脅迫を受けている、と衝撃的な告白をする清野とおる。

いやあ、ひたすら恐ろしかったですねえ。もちろん「龍三と七人の子分たち」はギャグ満載のフィクションですけど、普段から赤羽で強烈な爺さん方と接している僕には、むしろリアルに思えちゃうところが多くて。「あ、こういうジジイに関わるとやばいぞ!」って。心の中で何度も叫びました。実際、龍三たちほど破天荒ではなくても、ああいうディープな老人っているんですよ。金はないけど暇はあり余っていて。関わりあうと、若者以上にタチが悪かったりする。なので、けっこうビビリながら観ていましたね。

──必ずしも「老人=社会的弱者」だとは限らないと。

ええ。それってたぶん、若者側の思い込みなんじゃないですかね。僕なんて今、75歳の爺さんに現在進行形で追い込みかけられてますもん。あ、元ヤクザとかじゃないですよ(笑)。たまたま街で知り合って仲良くなった人なんですけど、最近どうも様子がおかしくて……。

──え、どんな風におかしいんですか?

もう6~7年の付き合いになるんですが、その人、知り会った頃はわりとヨボヨボのお爺さんだったんですよ。でも、僕とお喋りするようになってから、だんだん生気を取り戻してきたらしく。最近では話せば話すほど、逆にこっちの元気が吸い取られるようになっちゃった。で、少し距離を置くようにしたら、今度は意味不明の留守電がガンガン入るようになって……まあ、その話はともかく(笑)。「龍三と七人の子分たち」を観ながら、そのお爺さんのことが何度も脳裏に浮かびました。僕の経験から言うと、ジジイが弱い存在だなんて絶対に言い切れません。もしかしたら北野監督も、この映画でそんな既成概念をぶち壊したかったんじゃないかなぁ……。

──たしかに「お年寄り、もっとがんばれ!」みたいなわかりやすいメッセージとは、明らかに違うテイストは感じますね。

それぞれ得意の武器を手にポーズを決めるジジイたち。「ジジイが弱い存在だなんて絶対に言い切れません」という清野の言葉がリアリティを帯びる。

はい。最初は僕もそんなポジティブ系の映画なのかなと思ってましたが、観たあとの印象はむしろ逆でした。笑いで偽装されてはいるけれど、個人的にはもっとヤケッパチで、アナーキーな“狂気”を感じる。「金無し、先無し、怖いモノ無し!」という宣伝コピーが付いてますけど、この3つを失った人って、結局「何でもアリ」になっちゃうわけで。

──「何でもアリ」と聞くと自由で楽しげな気もしますが。

想像してみてくださいよ。日本中の高齢者がみんな一龍会のメンバーみたいに暴走しだしたら、ハッキリ言って悪夢ですよ(笑)。僕なんか気弱なんで、「もっと大人しくしててほしいなあ……」なんて思っちゃいますけど。たしかにこの映画には、老人の眠れるパワーをも呼び覚ます、危険な“何か”が潜んでる気はしますね。

「どいつもこいつもキチガイだ」に衝撃を受けて

──北野武監督の映画は、昔からお好きでした?

ビートたけしは、マル暴の刑事・村上役で「龍三と七人の子分たち」にも出演している。

はい。中学1年か2年の頃、たまたま「その男、凶暴につき」を観て衝撃を受けました。テレビ放映だったのかビデオだったのかは忘れちゃいましたけど、ものすごく恐ろしい雰囲気を感じたんですね。それまで僕が知っていたビートたけしは、テレビの中でバカなことばかり言ってるオジサンでした。でも、その映画でたけしさんが演じてた刑事は、ひたすら暴力的で、何ひとつ信じていないような表情をしていて……。ほら、クライマックスの決闘シーンで、主人公が言う有名なセリフがあるじゃないですか。「どいつもこいつもキチガイだ」っていう。あれを聞いたときは心底びっくりしました。子供心に、このギャップは一体どこから来るんだろうって。以来、発表順ではないですが、監督作はだいたい観てると思います。

──中でも思い出に残っている作品というと?

「その男、凶暴につき」や「ソナチネ」など初期のひんやりした感覚も好きだけど、バイク事故から復帰された後の作品、たとえば叙情的な「HANA-BI」には強く惹かれましたね。僕、あの映画の中で初めて、たけしさんご自身が描かれた絵を見たんです。それまで絵画に興味を抱いたことはなかったんですけど、素直に「きれいだなあ」と感動して……。ビデオを巻き戻して、絵のところだけ何度も観返したのを憶えています。

──最近の作品だと「アウトレイジ」がありますが。

「アウトレイジ」シリーズも大好き。こっちは一転して娯楽テイストで、登場人物がみんなとてつもなくイタい殺され方をしていくのに、なぜかエンターテインメントとしてずっと観ていられるという……ああいう映画も珍しいんじゃないでしょうか。

──同じヤクザを描いていても、「龍三と七人の子分たち」とはまるでトーンが違いますよね。

清野は取材中、何度も「どいつもこいつもキチガイだ」と呟いていた。

はい、たしかに。「アウトレイジ」は暴力団をかなり突き放して描いてる気配があったけど、今回はどこか視線が優しい。年寄りヤクザへの愛情がスクリーンから滲み出ているというか、北野監督自身が完全に、龍三とその仲間たち側に立ってる感じがします。しかも、前作の「アウトレイジ ビヨンド」からたった3年しか経ってないわけで……。1人の作り手の中にこれだけ大きな振れ幅が存在していること自体、考えてみればすごいことですよねえ。

「龍三と七人の子分たち」 2015年4月25日 全国公開

「龍三と七人の子分たち」

70歳の高橋龍三(藤竜也)は、「鬼の龍三」と呼ばれおそれられていた元ヤクザの組長。ある日、オレオレ詐欺に引っかかったことをきっかけに、元暴走族で構成される「京浜連合」と因縁めいた関係になる。詐欺や悪徳商法を繰り返す「京浜連合」にお灸を据えるため、博打好きの兄弟分「若頭のマサ」(近藤正臣)や寸借詐欺で生活する「はばかりのモキチ」(中尾彬)、戦争に行ったこともないのに今でも軍服に身を包む「神風のヤス」(小野寺昭)、ほかにも「早撃ちのマック」「ステッキのイチゾウ」「五寸釘のヒデ」「カミソリのタカ」という異名を持つ仲間たちと「一龍会」を結成。次々に「京浜連合」の活動を妨害していくが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

龍三親分:藤竜也
若頭のマサ:近藤正臣
はばかりのモキチ:中尾彬
神風のヤス:小野寺昭
早撃ちのマック:品川徹
ステッキのイチゾウ:樋浦勉
五寸釘のヒデ:伊藤幸純
カミソリのタカ:吉澤健
京浜連合ボス・西:安田顕
京浜連合・北条:矢島健一
京浜連合・徳永:下條アトム
龍三の息子・龍平:勝村政信
キャバクラのママ:萬田久子
マル暴の刑事・村上:ビートたけし

毎週更新!カウントダウン・インタビュー

「龍三と七人の子分たち」オフィシャルサイトにて掲載中
芸人 松村邦洋
モデル 今井華
タレント 武井壮
ナタリー×「龍三と七人の子分たち」
EXILE / 三代目 J Soul Brothers NAOTO
芸人 大久保佳代子
マンガ家 清野とおる
Dream / E-girls Aya
監督 北野武
清野とおる(セイノトオル)
清野とおる

ギャグマンガ家。1998年、週刊ヤングマガジン増刊赤BUTA(講談社)掲載の「アニキの季節」でデビュー。代表作は、奇怪な地元住民および珍スポットを描いた異色エッセイマンガ「東京都北区赤羽」シリーズ。同作を題材にしたドキュメンタリードラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」には、清野本人も出演している。


2015年4月21日更新