社員食堂のカレーの香りに乗せて 岩井秀人×ムロツヨシ×猪股俊明×川上友里×山内圭哉の「WOW!いきなり本読み」#3 収録現場レポート

「WOW!いきなり本読み!#3」収録レポート

WOWOWのスタジオ内にある社員食堂で「WOW!いきなり本読み」第3回の収録が行われた。食堂の窓の外には青空にくっきりとスカイツリーが輪郭を現している。岩井はディレクター風の衣装で登場。続けて猪股、ムロ、川上、山内が現場に姿を現した。

左から岩井秀人、猪股俊明、ムロツヨシ、川上友里、山内圭哉。

ムロは岩井演出に初参加。猪股、川上、山内は岩井作品に出演経験がある。岩井が「ムロくんだけ『いきなり本読み!』初参加ですが、どんな心境ですか?」と声をかけると、ムロは「僕がやっているmuro式.も、稽古初日まで台本を配らないんです。初めて読んだときの面白さを俳優たちと共有したいので」と、本読みへのこだわりを明かす。そんなムロの隣で、「毎回落ち着かないですね」と話すのは「いきなり本読み!」4回目の出演となる猪股。山内は「通常の演劇でも、台本の上がりが遅かったりで『いきなり本読み」になることもあるけど、チェーホフとかで“いきなり本読み”は無理ですね(笑)」と苦笑し、川上はそんな先輩たちの会話をニコニコと聞いていた。

プレトークがいつになく盛り上がり、本読みに入るまでに20分が経過。岩井が「このままこういう話をずっとしていたいんですけど……そろそろやりましょうか(笑)」と声をかけて、ようやく本読みが始まった。

岩井が配役を告げ、「では、14場から読み合わせを始めます」と言うと「14場?」「え? 最初からじゃないの?」と俳優たちは戸惑いを見せる。しかし岩井は本読みを開始。俳優たちは戸惑っていたが、一瞬でシーンを成立させた。

1回目の本読みを終えて、「え、全然わからない! なんの話ですか!」と叫ぶムロに、岩井は物語の設定や役のバックボーンを説明。俳優たちは「なるほど」とうなずいたり、岩井の言葉を台本に書き込む。

そこから再び本読みが始まると、1回目の戸惑いから一転、役に合わせて声のトーンやスピードをガラリと変え、瞬発力と引き出しの多さを見せるムロ。セリフを読んでいるとは思えない自然な語り口で役人物を膨らませていく山内。どんな役であっても、岩井の演出に120%のパワーで応える川上。今回は岩井自身も音響担当として作品に参加し、台本に演出メモをしながら忙しく本読みに参加した。

前半の収録を終え、休憩時間には食堂自慢のカレーが振る舞われた。ゆったりしたソファが置かれた広いテラスでカレーを食べながら、お互いの印象やそれぞれのバックボーンが語られる。「岩井さんの作品で演じた役の印象で、“岩”のような人だとよく思われるんです」と猪股が話すと、「よく破天荒な人だと思われます」(川上)、「僕もよく怖がられますよ」(山内)と口々に語り、岩井が「僕も怖がられます」(岩井)と話すとムロが「僕も岩井さん、怖い人だと思ってました!(笑)」と明かした。

後半の収録では、それまでの次々と事態が急変する展開とは異なり、何気ない他人の言葉に傷つき、その積み重ねで追い込まれていくある人物の姿が描かれる。“追い込む”側の山内とムロ。傷つく様子に哀愁と愛らしさが共存する、“追い込まれる”側の川上。息の合った掛け合いで一瞬にして緊張感のあるシーンが立ち上がる。岩井は「うん、良いですね。それで、このシーンなんですけど……」と話を続ける。

実はこのシーン、岩井の娘の身に起きた“あるエピソード”が元になっている。岩井の話を聞き、ムロ、山内ら俳優たちも幼少期のエピソードや思い出を話す。そのやり取りは本読みにも吸収され、さらにヒリヒリとした空気感でシーンが立ち上がっていく。台本序盤の激しい展開から、終盤のシリアスなシーンへの移り変わりにも、俳優たちはそれぞれの個性を発揮しながら対応していった。

気付くと窓の外はすっかり日が暮れ、近くの高速を行き交うライトの数が、車の多さを表していた。第3回は、俳優たちの技術の高さや、その場で瞬間的に生み出される面白さはもちろん、俳優として、人間としてさまざまな体験を重ねてきた俳優たちならではの人生観が、作品やトークを通じて垣間見える盛りだくさんな回となった。

岩井秀人

収録を終えた岩井に、第3回の手応えを聞いた。岩井は「収録の最初に“稽古場観察ドキュメンタリー”って言ってるときに、『確かに稽古場って、台本を読んでるばかりじゃないもんな……』と思ったんですよね。だから、台本に直接関係がない話でも、ムロくんや圭哉さんなら(台本に)つなげてくれるという感じがしたし、実際そうなりましたね」と振り返る。

初の顔合わせとなったムロについては、「普段はとても理性的な人なんだけど、俳優として役人物を演じたときに、“生き物としての可愛さ”みたいなものが常ににじみ出るところが良いですね(笑)」と印象を述べる。さらに「ムロくんは、演劇の中の同じような界隈から出てきたという印象があり、勝手に近いものを感じていて。自分で全部責任を取るって形でmuro式.を始めたり、どんな現場でもちゃんと闘い続けてきたり……。すごくカッコいいなと思っていて。今日はその一面を見せてもらったような気がします。いつか一緒に何かやれたらと思ってたけど、まず今回それが叶って良かったです。でも今度はもっとめちゃくちゃなことをやってもらおうと思ってます!」と笑った。

左から猪股俊明、ムロツヨシ、川上友里、山内圭哉、岩井秀人。