城山羊の会・山内ケンジ×松本まりかが小空間演劇の魅力を語る、WOWOWで劇作家特集 (2/2)

笑いを封印して役に徹したじろうの魅力

──本作では城山羊の会おなじみの岡部たかしさん、岩谷健司さん、KAATで前回上演された「温暖化の秋 -hot autumn-」にも出演したシソンヌのじろうさんが絶妙な味を出していました。俳優としてのじろうさんの魅力はどんなところにお感じになりましたか?

山内 じろうさんは前回のKAAT公演で初めて出演してもらい、今回2回目だったのですが、今回は前回よりもっと普段のシソンヌのじろうさんじゃないもの、とにかくリアルな、嫌な感じにしたいなと思っていました。冒頭、じろうさんが歌を歌い、お芝居自体は超リアルに、ギャグとかコントっぽいところは皆無で最後まで……というのは、台本を書いていくうちにそうなっていったのですが、じろうさんも「そうだろうな」と察してくださって、稽古の最中もあえて笑わせるようなセリフの言い方をしたりせず、いくらでもギャグっぽいことはできるんだろうけど全部それを封印して演じていたのがとても良かったし、結果的に面白かったです。

KAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」より。(撮影:益永葉)

KAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」より。(撮影:益永葉)

松本 私はじろうさんとの掛け合いが多かったので、本当に痺れましたね(笑)。怖いくらい冷酷な目で、淡々とどんどんヒートアップしていくんです。でもそうやって探り合いながらセリフを紡いでいく時間はたまらなく幸せでした。劇中、ミツコが次々と嘘をつき続ける中で、ちょっとだけじろうさん演じる高山ハルオが、グワグワってくる瞬間があるんです。緻密な刺し合いの中で、じろうさんの感情がふわっと垣間見えるのが面白かったし、掛け合いがハマる瞬間をもう一度味わいたくて、その中毒になりました。本当に緻密な戯曲なので、何か1個でも間違えたらすべてが崩れ去ってしまうような怖さがあるんですけど、このメンバーと山内さんのセリフを発していると「本当に私、お芝居を続けていて良かった!」と感じて、その思いですべてが払拭されました。

ちなみにじろうさん、普段あまりしゃべらないんですけど、「じろうさんにとって山内さんの作品ってどういう感じなんですか?」と聞いたら「別格だ」と。「自分の中では山内さんのこの作品や城山羊の会は別格ですごく面白いと思っているし、それをやれていることはすごい幸せだ」と千秋楽の打ち上げでお話しされていました。じろうさんもそんなふうに思っていたんだというのはすごくうれしかったし、共演者の方たちも同じ思いで舞台に立っていたんだと感じました。

松本まりか

松本まりか

──観客にとっても、城山羊の会を観に行くときはただの傍観者ではいられず、舞台上の気まずさを共有して居心地の悪さを一緒に楽しむような特別感があります。ちなみに松本さんの初日開幕コメントに、“稽古最終日に最後の8ページが上がった”とありましたが、それはギリギリまでラストをお決めにならなかったからなのか、新たなアイデアが浮かんできたからなのか、どのような理由からだったのでしょうか?

山内 稽古最終日と言っても、開幕の前日というわけではなくて、小屋入り前の稽古場での稽古最終日なので、そこまでギリギリではないんですよ(笑)。でもいつもより遅かったことは遅かったですね。最後を決めたくなかったということではなくて、考える時間ができてしまってちょっと迷ったというか、慎重になった。今回は、さっきお話しした通り、トーンや方向性についてはわかってはいたんだけれども、具体的にはずいぶん悩みました。当初はマダムとその夫、マダムと不倫している若い詩人、その詩人を好きな若い女性という4人の関係を描こうと思っていましたが、そうなると不倫ドロドロなものとしてすぐできてしまう。また直接的なドロドロは、松本さんがもうその道のベテランなので。

松本 あははは!

山内 それで、「舞台で同じことをやってもしょうがないな、それを避けるにはもう少し抽象的にしたいな……」と悩んでいたら、ちょっと時間がかかってしまいました。

──松本さんは、最後のページを渡されて、ピースがはまるような感じがあったのでしょうか?

松本 本当に秀逸なラスト8ページでびっくりしました。映画でも演劇でも、ラストって「ああ、こういう感じか」と思うことも多いのですが、今回は本当にラストがびっくりするくらい良くて。私はラストシーンで3~5行ぐらいの歌詞をセリフとして言うんですけど、歌わずに読むので、どうやってしゃべったらいいんだろうと悩みました。あんなに長い、しかも少し下品な歌詞を、歌でなくセリフとして言うなんて、責任重大だなと。それで山内さんに「これはどうすればいいんですか」とお尋ねしたら「わからない」っておっしゃって(笑)。結局、ラストシーンは公演を追うごとに表現が進化するというか、毎回微妙に変わっていって、ラスト3日くらいで「ああ、これか」というのをなんとなく見つけた感じがしました。

山内 それと今回、舞台美術の壁にプロジェクターで歌詞を出したんです。それはこれまであまりやったことがなくて……なぜならプロジェクターを準備するのが大変だから。でも今回は、プロジェクターで歌詞を出したら面白いんじゃないかと思ったし、今松本さんが話したシーンは、歌じゃないのに歌詞が出て、これはあまり見たことがない形になったんじゃないかな(笑)。

KAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」より。(撮影:益永葉)

KAAT×城山羊の会「勝手に唾が出てくる甘さ」より。(撮影:益永葉)

ささやき声まで聞こえてしまうような舞台空間が好き

──WOWOWでは3月に、舞台に焦点を当てた「特集:演劇に出会う!いまを創る4人の劇作家」という番組が放送・配信されます。お二人は、映像を中心に多方面で活躍されていますが、一方で舞台にもこだわりを持って活動をされています。今回はKAATの中スタジオでしたが、城山羊の会は劇団の人気から考えると明らかに小さな、小劇場B1やザ・スズナリといった劇場で公演することも多く、松本さんもコアな演劇ファンが集まる作品にたびたび出演されています。お二人が思う舞台の面白さ、密な空間でやる芝居の面白さはどんなところにありますか?

WOWOW「特集:演劇に出会う!いまを創る4人の劇作家」ビジュアル

WOWOW「特集:演劇に出会う!いまを創る4人の劇作家」ビジュアル

山内 僕の作品は声が小さいので、小さい劇場のほうが声が通るということが一番大きいですね。僕が俳優さんたちに要求しているのは、声のボリュームというかトーンで、本多劇場クラスの大きさでやったこともありませんし、俳優とお客さんがなるべく近い距離で、ささやき声も聞こえるような空間がいい。ただ小さい劇場でやるとキャパが少ないから、長い期間やらないと観られないお客さんが出てきてしまうし、かといってそんなに長く劇場がとれないし……難しいところですね。

松本 私も緻密な表情や小さな声、小さな心の動きが全部見えてしまうような空間のほうが、演じていても感覚的にヒリヒリしてくるので好きです。隠せるもの、偽れるものがなく、微細な心の揺れまで全部伝わってしまうのが楽しいし、過度な嘘をつかず、脚色せず思ったことをすべて伝えられるのが良いなと思います。特に私は普段、感情表現が激しい役が多かったりするので、表現過多になっていくのはきつくて。特に何かしなくても、心がちょっと動いたり、探り合ったりする芝居はとても楽しいので、そんな秘め事みたいな空間を、客席と俳優が共有している感じが好きです。

──松本さん、山内さんを、客席でよくお見かけします。お二人が最近ご覧になった舞台や、気になっている劇団やアーティストがいたら教えてください。

松本 実は最近、あまり舞台に行けていなかったのですが、年末に4日連続で行くことができまして、赤堀雅秋さんの一人芝居「日本対俺」、蓬莱竜太さんの「シャイニングな女たち」、白井晃さんの「シッダールタ」、劇団普通は観ることができました。4本とも良くて、ヒットでした!

山内 僕は亡くなった鎌田(順也)くんのナカゴー、ほりぶんが一番好きな劇団で、あとは昨年岸田國士戯曲賞を、それからヒットドラマの脚本で有名になってしまった安藤奎さんのアンパサンド、劇団普通はこの数年追いかけていて必ず観ますし、SNSでも感想を書いたりします。ただそれより若い人たちに関しては、いくつか観てはいるんだけど多くはないです。(少し考えて)あ……以前から知ってはいたんだけど、桃尻犬はこの2年、面白いなと思っています。中野坂上デーモンズの(松森)モへーくんも面白いなあと思うんだけど、時折全然わけがわからないものもあったりして(笑)。でもこれからも観ていきます。

──お二人ともご多忙の中、観劇を続けていらっしゃることを改めて伺い、いち舞台ファンとしてうれしくなりました。松本さんが、城山羊の会の舞台にまた立たれることを楽しみにしています!

プロフィール

松本まりか(マツモトマリカ)

2000年の女優デビューから多くの舞台やテレビドラマに参加し、2005年に白石晃士のモキュメンタリー「ノロイ」に本人役で出演。2018年にテレビドラマ「ホリデイラブ」で大きな注目を集めた。主な出演作にテレビドラマ「ミス・ターゲット」「夫の家庭を壊すまで」「奪い愛、真夏」など。近年の舞台出演作に方南ぐみ企画公演朗読舞台「逢いたくて」、ナイロン100℃「Don't freak out」など。2026年1月にスタートしたテレビドラマ「元科捜研の主婦」(テレビ東京系)で主演を務めている。

山内ケンジ(ヤマウチケンジ)

劇作家・映画監督・CMディレクター。2004年、「葡萄と密会」で演劇活動を始め、2006年に城山羊の会を結成、全作品を作・演出。2015年、「トロワグロ」で第59回岸田國士戯曲賞を受賞。城山羊の会では、この数年、毎年冬に新作を上演しており、2022年、KAAT×城山羊の会「温暖化の秋 -hot autumn-」で、第74回読売文学賞戯曲シナリオ部門を受賞。その後、「萎れた花の弁明」(2023年)、「平和によるうしろめたさの為の」(2024年)、2025年は再びKAAT×城山羊の会として「勝手に唾が出てくる甘さ」を発表、好評を得た。映画の脚本監督作品では「友だちのパパが好き」(2015年)、「At the terraceテラスにて」(2016年)、「夜明けの夫婦」(2021年)、「アジアのユニークな国」(2025年)などがある。