数々のテレビドラマ・映画で存在感を放つ中村アンが、7月に演劇集団Z-Lionの最新作「笑ってもいい家」で、初の舞台に挑戦する。
「いつか舞台に挑戦してみたかった!」と言う中村の勇気を受け止め、協働するのは、自身も俳優で、脚本・演出家でもある演劇集団Z-Lionの粟島瑞丸。中村を主演に据えて送るのは、“ある事情”を抱えながら、都会から離れた山奥で共同生活をする若者たちの物語だ。初舞台に向けて、自然体な姿勢はそのままに、不安と期待が入り混じった様子の中村と、そんな中村の“今”を冷静に分析し、導かんとする粟島が、作品への思いや稽古場でのエピソードを語った。
構成・文 / 大滝知里撮影 / 秋倉康介
最初は端っこで…中村アンは初主演に「まさか」の思い
──今回、演劇集団Z-Lion「笑ってもいい家」で初舞台に挑む中村アンさんは、舞台という表現の場にどのような印象を持たれていたのですか?
中村アン 舞台に対して、興味は前からすごくあったんです。目の前にお客さんがいる舞台では、演技に一切のごまかしが利かないというか、一度(ステージに)出てしまったら止められない、失敗できない。そこで、映像とは違う力が鍛えられるのだろうなと思っていたんです。また、身体を使って表現することにも魅力を感じていて、いつか機会があったらと考えていました。でも、最初はもっと端っこで、「舞台とはこういうものだ」と学んでいく形を想像していたので、「まさか!」と。
粟島瑞丸 いきなり主役ですからね(笑)。
中村 舞台はやりたいけれど、主演をやらせていただくことに少し引っかかったので、どう気持ちを持って行ったら良いのか、私の思いと不安を、粟島さんに正直にお伝えしました。
粟島 でも僕は、アンさんの舞台を“毛嫌いしていない”ところが良いなと思いましたよ。興味があるだけでも、臨む姿勢って違ってくるじゃないですか。僕は俳優を続けるにあたって、舞台をやることは絶対にマイナスではないと思っているので、どうせやるなら端っこでも真ん中でも一緒ですよ、とお答えしました。
中村 ご自身で脚本を書いたり、俳優として演技されたりしている粟島さんがそうおっしゃって、寄り添ってくださったので、「そうか、そんなに重く考えすぎなくて良いのか」と不安が少し和らいだのを覚えています(笑)。
見る角度によっては難しい問題が浮かび上がる作品に
──「笑ってもいい家」では、中村さん演じる、カメラマンの仕事を辞めた主人公・吉澤朱音が、山奥で新しい生活をスタートするところから物語が始まります。演劇集団Z-Lionは、昨年上演された「テーマ 我が家の家族」(参照:演劇集団Z-Lion新作「テーマ 我が家の家族」追加キャストに守屋茜・竹中凌平ら)より、これまでのファンタジーな作風を一変し、現代劇にシフトしました。本作はその第2弾となりますが、粟島さんはどのようなことを描きたいと思って今回、執筆されたのですか?
粟島 最近、自分の中で、“よく考えると深いこと”や“見る角度によっては扱いづらい問題にも捉えられること”に目を向けるようにしていまして。「笑ってもいい家」について、ネタバレを避けながら説明するのは難しいのですが(笑)、今回はとある“身近に起こりうる問題”が軸にあって、それに対するいくつかの視点、さらに優しさを持つ人間が集まれば、その問題について考えながらも受け入れられるのではないか、ということを伝えたいなと思っているんです。僕は、世の中で起こっている問題にいろいろな意見があることを知れば、明日からニュースの見方も変わるだろうと思っていて。物語では、共通した問題を抱える登場人物たちが共同生活をしているのですが、紐解くと、アンさん演じる朱音だけはみんなと少し問題の質が違ったという。朱音はその家に一番最初に暮らし始めた人で、いわばボス。そこで、「この家の中では笑ってもいい」というルールを決めて生活するんです。
中村 ボス感はあまりないんですけど(笑)。朱音はリーダーのような立場で、訪れて来る人と打ち解けていこうとするんですが、ある共通項を持った人たちなので基本はウェルカムなんです。でも、そこでつながっているだけで、深くは知らないままに共同生活をするのがこの物語の面白いところかなと。ちょっとシリアスなチラシのイメージで劇場に来たら、「意外と明るいお話だな」と感じると思います。
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“腹をくくった”中村アンに惹かれた粟島瑞丸