“腹をくくった”中村アンに惹かれた粟島瑞丸
──中村さんは心に問題を抱える人物に対して、どのような役作りをしようと考えていますか?
中村 “初めて会った人と徐々に距離が縮まっていく感じ”を大切にしながら作っていきたいですね。朱音は意外とオープンな人で、明るく仲良くやっていこうとするので、その様子が前半と後半でガラリと変わるさまや、テンポが違うシーンでの緩急をしっかり表現できたらと思います。現実とかけ離れたお話ではないので、リアリティを大切に演じたいですね。
──朱音役は中村さんに当て書きされたのですか?
粟島 そうですね。ここ最近、アンさんのことをバラエティ番組ではなく、女優として観る機会が多くて。僕の中では、言い方が難しいですが、アンさんは“腹をくくった”のかなと感じていたんです。バラエティ番組が悪いと言っているのではなく、“腹をくくる”って僕はすごく素敵なことだと思っていて。朱音役は、僕が観たいアンさん像、もともと知っているアンさん像、これから見えてきてほしいアンさん像を織り交ぜた役というか。脚本は、アンさんに実際にお会いしてから書き上げました。
中村 最初にお会いしたのは、今年の2月でしたね。まだ寒かったですもん。初めに粟島さんからお手紙をいただいたんです、「こういう者です」って(笑)。
粟島 まあ、礼儀として(笑)。
中村 手紙には演劇集団Z-Lionについてと、粟島さんの思いが書かれてあって、心が動かされました。“初めて”ってどんなことでも不安なので、一度お話をお聞きしたいと思い、実際お会いしたら粟島さんのお人柄がすごく温かかったので「えい!」と飛び込んでみようと。
粟島 ありがとうございます(笑)。
中村 実は、昨年の秋くらいから壁にぶつかっていたんです。できる女性とか、ストイックな女性とか、役ってその人のイメージでいただくことが多いんですけど、このイメージのまま進んでいくことに危機感もあって。そんなときに小野武彦さんと共演させていただき、お話ししていたら「アンちゃん、もう少し自分を解放してお芝居ができたら、もっと楽しくなるよ」と言われて。「変わりたい」と思っていたときに、アドバイスいただけたので、とても良いタイミングでした。
“1人じゃない”という安心感がある舞台で勝負をかける
──お稽古が始まって数日経ったそうですが、稽古場での中村さんの様子はいかがですか?
粟島 もうかなり稽古場に溶け込んでいますね(笑)。共演者も気の良い人たちが多いので、アンさんの横でカップラーメンを食べていたりして、変な気を遣う様子もなく、フラットな雰囲気で進んでいます。
中村 本当にルームシェアをしているような距離感です(笑)。ドラマの現場とはまた違ってびっくり。
粟島 先日、読み合わせをしたんですが、アンさんの読み方から、きちんと芝居に向き合ってやられているということが感じられましたし、やっぱり芝居心があるなと。何より、稽古場でのアンさんの様子を観ていて、これから楽しいことがたくさんあるなと思ったんですよ。舞台で出す声量や届け方などは、今は“わからない”だけ。それを覚えてレベルアップしたら、今後、規模の大きい舞台作品やミュージカルなどにも広がっていけるのではないかと感じました。
中村 えー、本当ですか? けっこう狭い中にいたので、幅を広げたいという気持ちはあったんですよ。
──お稽古場で苦戦されていることはありますか?
中村 テンションの保ち方です。コントロールがまだ全然できないんです。映像では瞬間的に集中することが多く、カットや編集がありますが、舞台では“ずっと走ってる”から、感情や集中力を維持し続けなきゃいけない。今までとは頭の使い方が違うので、ここからどう自分の中で消化して相手にぶつけていけるか、今はなじませている段階です。でも、毎日皆さんと稽古場でお会いしていると安心感も少しずつでき、「1人じゃないんだ」と救われています。
──粟島さんは、本作で中村さんの俳優としてのどういった姿を引き出したいですか?
粟島 アンさんの明るくポジティブなイメージのほかにも、いろいろなアンさんをこの1時間30分くらいの時間で見せられたらと思います。そのための仕掛けはたくさん考えていますが、演出家としてアンさんを自分の思い通りに動かしたいという気持ちはありません。僕のノートにアンさんが応えてくれて、その積み重ねで共に進んでいけたらと思っています。“中村アン”の1から10までの姿を見せつつ、出演者10人が息を合わせてバトンをつないで、良いバランスと芝居の空気感を作っていきたいです。
──お稽古場での今の中村さんの成績は何点くらいでしょう?
粟島 今ですか……4点くらい?(笑)
中村 4点!? 低い!(笑)
粟島 いや、今70点というのも……ねえ! だって初舞台ですし、わからないことだらけだろうから。
中村 そうなんです。まだ体験していない照明とか、音響とかもあるんだよなっていう、そういうレベルなので、いろいろな瞬間に動揺があるんですよね。
粟島 セッションですからね。音を出すタイミングで、ちゃんとセリフ言えよっていう音響さんと、気持ち良いところで音を出してくれよっていう俳優の生のセッション。
中村 そうですよね。愛を持って作品と向き合いながら作っていく。結局は気持ちだと思うので、最後まで維持しながら挑みたいです。あとはお客さんが観に来てくださることが一番うれしい。熱量って実際に目にしなければ伝わらないと思うので、“勝負!”だという思いが届くとうれしいです。私の闘いをぜひ、肌で感じていただけたら。
粟島 初めてで勝負をかけるってカッコいいですよね。
中村 最後までしっかりとがんばりたいなと思います。
プロフィール
中村アン(ナカムラアン)
1987年、東京都生まれ。女優。主な出演作に、テレビドラマ「グランメゾン東京」「DCU~手錠を持ったダイバー~」「NICE FLIGHT!」「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」、映画「名も無き世界のエンドロール」「マスカレード・ナイト」など。「DCU」では第4回アジアコンテンツアワードの助演女優賞にノミネートされるなど、女優として国内外で評価を受ける。
中村 アン|株式会社プラチナムプロダクション公式サイト PLATINUM PRODUCTION
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粟島瑞丸(アワシマズイマロ)
1981年、大阪府生まれ。俳優、脚本・演出家。2001年に俳優デビュー。2012年に俳優活動と並行して、演劇集団Z-Lionを旗揚げし、自身でプロデュース、脚本、演出を務める。外部でも活躍し、近年の手がけた作品に、朗読劇「半沢直樹」(「繰り返される時…」脚本・総合演出)、「スタンディングオベーション」(脚本)、三人芝居「オブセッション」(演出)、SOLO Performance ENGEKI「HAPPY WEDDING」(演出)など。