ママリアン・ダイビング・リフレックス / ダレン・オドネル「私がこれまでに体験したセックスのすべて」稽古場レポート|“性”を語らい、人生をシェアするドキュメンタリー演劇

演出家ダレン・オドネルが語る、作品のすべて。
異なる層をぶつけ合わせて見える景色とは?

ダレン・オドネル

常に新しい都市や文化、言語でママリアン・ダイビング・リフレックスの作品を見せることに興味があります。同じような形式を使って作品作りをしていても、そこで語られるストーリーはその土地によって大きく異なる。それが、研究者の立場としても非常に面白いんです(笑)。「私が体験したセックスのすべて」では1930年代か1940年代のどこかでストーリーが始まり、出演者のセックスの経験の変遷を追っていきますが、日本には独特の文化、セックスに対する文脈があると思っていて。日本の文化は世界に大きな影響を与えていて、私がよく創作を共にするドイツやイギリス、カナダの十代の若者たちの多くは、日本に憧れ、いつか訪れることを夢見ています。そういった文化をセクシャリティの観点から観察してみると、どのようなものが立ち現れるのか、ずっと興味がありました。それに、日本はアメリカやカナダと同じような先進国ですが、そこには共通点だけでなく違いも必ずある。その差異が、人間の根元的な営みであるセックス(性)を通してどういうふうにあぶり出されるのか、比較できたらと思っています。

シニア世代は“セックス”の劇的な変化を経験した人たち

この作品では、時代と共に変化するセクシャリティを見せています。これは、一定数の人々を1グループとして、5年に1度、10年に1度と定期的に調査して結果を見ていく、“タイム・シリーズ・サンプリング”と呼ばれる社会科学的なアプローチの過程に近いですね。今の60歳以上のシニアは非常に面白い世代で、彼らが小さかった頃にはセックスを語ることはタブーとされていたんです。でも、年齢を重ねるごとにセクシャリティが世間で開かれたものになっていき、今や街中にセックスショップがあって、セックストイが売られ、ロボットとセックスすることもできる。そういう時代の変化を生き抜いてきた世代。特に、多様な視点からセクシャリティを眺めることができる日本公演のキャストは特別だと感じています。この公演では、普段はもしかしたら出会わない彼らのような人たちと観客をかけ合わせることをしています。私のアーティスト活動の根っこには、異なる層の人々をぶつけ合わせ、そこから生まれたものを見つめたいという思いがあって、今回の公演でも、コンテンポラリー・アートを扱うフェスティバルに来る人々を、性にオープンなシニアの方々とかけ合わせたい。そういう場を作ることが大切なんじゃないかなと思っていて。余談ですが、メルボルンのロイヤル・ボタニカル・ガーデンの協力を得て、サボテンと人間がスピードデートをしたらどうなるかっていうのも実験しているんです。面白そうでしょう?(笑)

ダレン・オドネル
1965年、カナダ・エドモントン生まれ。エッセイスト・脚本家・演出家・パフォーマンスアーティストであり、シティプランナー。俳優としてトレーニングを積み、トロント大学で都市計画の理学修士号を取得。1993年にアート&リサーチ集団「ママリアン・ダイビング・リフレックス」を設立し、自ら芸術監督を務める。また、同団体の作品の演出も担う。ドイツのルール地方で開催される世界的芸術祭ルール・トリエンナーレで大型の教育普及プログラムを担当するなど、“社会の鍼治療”と呼ばれる独自のメソッドを持つ。ユニークなアート表現で国籍、言語、世代や立場を越えた人々と創作活動を続けており、政府や公共施設、美術館、劇場のクリエイティブ戦略、また高齢者や難民、若者たちの暮らしの改善、文化の育成にも貢献している。著書に「Social Acupuncture: A Guide to Suicide, Performance and Utopia SOCIAL ACUPUNCTURE」「Haircuts by Children and Other Evidence for a New Social Contract」(共にCOACH HOUSE BOOKS)。

きっかけは?参加を決意したホンネのすべて

出演者の3名に、作品への参加を決めた経緯と、稽古を重ねる中で湧き上がってきた実感や作品に込める思いを語ってもらった。

障害者が「性の対象」と見られることはほとんどないので、「障害者も性のことを考えるよ」ということを伝えたくて、今回参加してみようと思いました。これまでの概念を覆すような日本にはなかったステージになると思います。

(六十代女性・まさこ)

参加してみようと思ったきっかけは、東京・スパイラルホールに出てみたいというミーハー感覚です。実際に参加してみて、ダレンを始めママリアンのスタッフの方がフランクに接してくれるので、すごく気が楽になった。でも、自分のことをしゃべるのはやっぱりちょっとつらいという気持ちもある。そのつらさを越えたところに何があるかが楽しみ。最初は若い方に向けた公演だと思っていなかったけれど、自分の生きざまが少しでも役に立てればいいな、参考になればいいな、と思う。

(七十代男性・はる)

最初はちゅうちょもあったんですが、お話を聞いてみようと思ったのが出演のきっかけです。自分の性的な体験はちょっと人と違うなと思っており、求められていることと、自分の話せることの間にズレがあるんじゃないか、という不安がありました。ダレンさんたちとコミュニケーションを重ねるうちに、徐々にその不安は小さくなっている気がします。

(六十代女性・ゆき)