岩井秀人の初期作品から近作まで、ポイントとなる数々の作品で主要な役どころを演じてきた古舘寛治。2人の関係は10年以上前、ハイバイのワークショップから始まった。“熱い時代”をくぐり抜けた信頼関係を軸に、2人の気のおけないトークが展開する。なお本特集では、「特集 岩井秀人」をより楽しんでもらうため、4月に放送される5作品から、ゆかりの人たちによるコメントも紹介。これを読めば岩井秀人のことがさらに、気になる。
取材・文 / 熊井玲 撮影 / 平岩享
面白い才能を探して、ハイバイに出会った
──古舘さんが一番最初に出演された岩井作品は、「おねがい放課後」プレビュー公演(2007年)ですよね?
古舘寛治・岩井秀人 そうです。
──同じ年に、岩井さんは青年団演出部に所属されていますが、お二人の接点はそれ以前からあったのでしょうか?
古舘 「おねがい放課後」のちょっと前だと思うんですけど、(青年団の)志賀廣太郎さんが劇団員に「ハイバイは面白い劇団だ」ってすごい宣伝してたんですよ。で、こまばアゴラ劇場で上演された「クライオー・クライオー」(05年)を観て、そのあとにワークショップに参加したんだと思います。
岩井 僕は以前から青年団を観てて、「S高原から」に出てた古舘さんがすっごく面白くて、「あの人なんなんだろう」って思ったのをよく覚えてます(笑)。で、時間の前後がよくわからないんだけど、志賀さんがハイバイのことを広めてくれたせいか、ワークショップに青年団の人が何人か来てくれて。
古舘 そうそう。その頃僕は青年団に入って数年経っていて、とにかく面白い才能と出会わなきゃって必死だったんです。だからいろんなところに首を突っ込んで、面白いなと思ったところにはいろいろアクションもしてたと思うんですが、その1つが岩井くんのワークショップだった。それが初めましてだったのかな?
岩井 だと思います。でもワークショップに来てくれてなかったとしても、なんとかつながろうとしてたとは思いますよ。
熱い時代を過ぎて
──「おねがい放課後」で、古舘さんは初期の岩井作品によく登場する、過激な持論を展開する演劇講師“品川幸雄”を演じられました。
古舘 あれは演っててすごく面白かった。人間ってどうしようもない生き物で、権力を持つのは、たとえ役のうえであっても快感なんですよねえ。
岩井 ですね。
古舘 品川幸雄は、毎回若者たちをけなして、踏んづけて、叩きつけてっていう役。セリフがとっても面白くて、本当に楽しかったですね。逆に、その話から思い出したんだけど、サンプルの「自慢の息子」(10年初演)で息子の正役を演じたときは、自分の情けなさとか恥ずかしさばかりを出さないといけなくて、人前で自慰行為をしたり、母親を怒鳴りつけたり、ネガティビティの権化みたいな役だったのでずーっと苦しかったですね。そんなわけで「おねがい放課後」はすごく楽しかったんだけど、岩井くんは超厳しい、ザ・日本演劇界的な演出家だなと。
岩井 古舘さんには全然怖くなかったでしょ?
古舘 いやいや、ビビりながら演ってましたよ(笑)。
岩井 でも確かに、そういう時期だったとは思います。古舘さんや志賀さんは、演技を見てオファーしているわけだから、ある程度信じようと思ってはいたけれど、ほかの人に対しては当時、相当追い詰めてましたね。
古舘 熱い時代でしたね。僕にとっても三十代は、小劇場に捧げた時代。岩井くんはその中で出会った何人かのすごい才能の中でもデカい人の1人……いや、一番デカい存在と言い切ってもいいです。
飽きてから、どこまで面白くできるか
──「おねがい放課後」の品川幸雄のほか、慇懃無礼でトンチンカンな言動を繰り広げる「て」の牧師、長年のひきこもり生活から社会復帰する「ヒッキー・ソトニデテミターノ」の和夫と、岩井さんは古舘さんに毎回ハードな役どころを任せていらっしゃいます。それは古舘さんへの信頼からでしょうか?
岩井 俳優さんとしての信頼ということはもちろんありますけど、古舘さんなら面白がってやってくれるだろうなっていう期待もありますね。台本上のどんな些細なことも古舘さんは見付けてくれるし、切実さを損なわずに面白くしてくれる。書かれたことに、説得力と面白さをどんどん足して、「こういうふうにも面白くできる」って提案してくれるんです。それがすごくうれしいですね。それと古舘さんの稽古場での取り組み方も好きです。僕自身は、どこか悪ふざけだと思って(演劇を)やってるところがあって、そうじゃないと人生のキツい部分を描いた作品を真剣に演りながら、「これで魂救います」みたいな感じは、ちょっとイヤなんですよね。どこか「ふざけててすみません」って感じでやっていたいと思っているので。……それで今思い出したんですけど、「おねがい放課後」の稽古で、新鮮さを保つためにあんまり稽古をやりすぎないようにしてたんですよ。そうしたらあるとき古舘さんに「もっとやらないの?」って言われて。「いや、あんまり長く稽古をやって飽きちゃうといけないんで」と言ったら、「岩井くん、それは違うよ。飽きてからどれだけ進められるかが俳優の仕事だから、もっと稽古しよう」って古舘さんに言われたんです。で、「ならば」と、そのあとすっごい稽古をするようになったら、2週間後くらいに古舘さんがボソッと「岩井くん……飽きてきた」って。
一同 あははは!
古舘 ええ、そんなオチだったかなあ?(笑)
岩井 そうですよ。古舘さん、自分で逆の発言をした自覚がある感じの表情でニヤニヤしてて。結局「あんたが『飽きない』みたいなこと言ったんだろ?」って、笑いながらケンカみたいになりましたから。
古舘 あははは。でもまあ、慣れて飽きてつまらなくなる俳優はやっぱりダメだとは思います。特に舞台では何回も何回も同じシーンを演じるし、それを毎回新鮮にやるのが俳優の仕事。だから稽古すればするほどよくなっていくはずなんですよね。一方、映像の現場だと、みんながそれぞれセリフを覚えてきて、その場でドーンと合わせたらすぐ本番になる。そのやり方が、特に日本では定着しています。演劇のように1カ月かけていろいろ試して、ベストなパフォーマンスを引き出す、というような時間がないことが多いんですよね。
岩井 海外だと、映像でもリハーサル時間があるんですかね?
古舘 もちろん監督次第ではあるけれど、聞いたところによるとほとんどの現場で、やはり時間をとってリハーサルするようです。それに、そのことは作品を観ればわかる。「これは時間を作らないと撮れないな」ってシーンが海外の映画にはありますから。
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「おとこたち」はワールドスタンダード