「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」オーディション 東宝演劇部プロデューサー鈴木隆介と塚田淳一が語る、ミュージカルスターの見つけ方

映画・演劇を製作する東宝と、芸能プロダクション・東宝芸能によるオーディション「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」が行われる。沢口靖子、長澤まさみらを輩出してきた女優オーディション「東宝シンデレラ」に加え、東宝の創立90周年を記念する今回は、男性を対象とした「TOHO NEW FACE」を同時開催。各部門でグランプリが1名ずつ選ばれるほか、ミュージカルで活躍が期待される人を対象としたミュージカル賞も新設された。

ステージナタリーでは、「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」の開催に向けて、オーディションで審査員を務める東宝演劇部のプロデューサー、鈴木隆介と塚田淳一へのインタビューを実施。長年人気ミュージカルを送り出してきた彼らが求める理想の俳優像や才能の見つけ方、さらには過去に経験した“驚きの出会い”について聞いた。なお特集後半には、東宝芸能から応募者への応援メッセージも掲載している。

文 / 中川朋子

「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」とは?

東宝と東宝芸能が主催する、「なりたい私になる」をキャッチコピーとしたオーディション。「東宝シンデレラ」では満10歳から満22歳までの女性、「TOHO NEW FACE」では同じく満10歳から満22歳までの男性を対象としており、各部門にグランプリとミュージカル賞が用意されている。受賞者は東宝芸能株式会社と専属契約を結ぶほか、東宝による映画、演劇、ミュージカルに出演する。

応募締切は2022年7月18日(月・祝)23:59。

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東宝演劇部プロデューサー鈴木隆介&塚田淳一が語る、才能との出会い方

100周年に向け、“オール東宝”で臨むオーディション

──今回「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」で審査員を務める鈴木さんと塚田さんは、共に東宝演劇部のプロデューサーです。まずはご自身と演劇との関わりを教えていただけますか?

鈴木隆介 私が演劇の世界に入ったきっかけは、劇団四季の「キャッツ」でした。中学2年生のときに初めて観て「ネコになりたい!」と思い(笑)、十代の頃は劇団四季と宝塚歌劇をたくさん観劇しましたね。高校生くらいのとき「レ・ミゼラブル」で初めて東宝のミュージカルを観て、就職活動中は「モーツァルト!」で中川晃教さんの素晴らしい初舞台に触れ、「自分より年下なのにすごい! 悔しい!」と思ったことを覚えています。そんなわけでミュージカルにどっぷりとハマり、2004年に東宝に入社しました。プロデューサーになったのは2017年からです。これまでに小川絵梨子さん演出の「FUN HOME」(参照:3世代の主人公が父の記憶紡ぐ、小川絵梨子初のミュージカル「ファン・ホーム」)、シェイクスピア原作の祝祭劇ミュージカル「ラヴズ・レイバーズ・ロスト -恋の骨折り損-」(参照:何が飛び出すかわからない!?村井良大らの「ラヴズ・レイバーズ・ロスト」開幕)、屋良朝幸さん主演の「ドッグファイト」(参照:屋良朝幸が“ミリタリーカット”お披露目「ドッグファイト」新キービジュアル)などを担当してきました。2020年には明治座、ヴィレッヂの同い年のプロデューサーと一緒に立ち上げた三銃士企画で「両国花錦闘士」(参照:「両国花錦闘士」幕開け、美形力士役の原嘉孝が感慨「僕の今年の漢字は“知”」)を上演し、今年11・12月には第2弾となる「歌妖曲~中川大志之丞変化~」(参照:中川大志が“リチャード三世”モデルの主人公に、三銃士企画第2弾「歌妖曲」)が控えています。

新入社員の頃から「レ・ミゼラブル」に携わってきたことで、ミュージカルの人材を見つける難しさを痛感しています。いつも新しい才能に出会いたいと思っているので、今回のオーディションで出会いがあればと思っています。

ミュージカル「レ・ミゼラブル」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「レ・ミゼラブル」より。(写真提供:東宝演劇部)

塚田淳一 私は2005年に東宝に入社するまで、実はあまり演劇を観たことがなくて。学生時代は映画館でアルバイトをしていたので、映画に携わる仕事ができるかと思って東宝を志望しました。ですが最初の人事面談で、「映画館に関わりたい」という意味で「劇場に行きたいです」と話したことで、帝国劇場に配属されまして(笑)。そこから演劇とがっぷり四つで組み合う人生が始まりました。帝国劇場で働いた2年間で、演劇の楽しさやお客様の生き生きとした姿を目の当たりにし、「この仕事をやっていきたい」と思いました。プロデューサーになったのは2015年頃です。これまでに「ラ・マンチャの男」「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「屋根の上のヴァイオリン弾き」など、東宝が長年上演し続けている演目に多く携わりました。最近では「オリバー!」(参照:「オリバー!」開幕、市村正親&武田真治がビッグカンパニー率い少年オリバーの世界立ち上げる)や「メリー・ポピンズ」(参照:濱田めぐみ・笹本玲奈らが歌唱披露!「メリー・ポピンズ」本公演まもなく開幕)も担当しましたね。中でも思い出深いのは「ミス・サイゴン」。2004年、東宝の内定者だった時期に観劇したんですが、その後も宣伝と製作を担当させてもらいました。縁を感じる作品です。

私たちは新しい人材を常に探し求めています。素晴らしい作品を素敵な俳優さんに脈々と受け継いでいってほしいという思いで、審査に参加させてもらいます。

ミュージカル「ミス・サイゴン」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「ミス・サイゴン」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「ラ・マンチャの男」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「ラ・マンチャの男」より。(写真提供:東宝演劇部)

──40年近い歴史を持つ「東宝シンデレラ」に加え、このたび男性部門のオーディション「TOHO NEW FACE」が始動しました。「TOHO NEW FACE」誕生の経緯については、東宝芸能の芸能部第2芸能室長・秋元大吾さんに伺います。

秋元大吾 東宝は今年、創立90周年を迎えます。10年後の100周年に向け、“オール東宝”で息の長い俳優・女優を見つけられればと、今回のオーディションが決まりました。9回目となる「東宝シンデレラ」は5・6年に1回のペースで開催されており、女優の原石を見つけるという、ある種のブランディングとして続いています。しかし東宝芸能として男性の俳優を大々的に募集したことがなかったので、今回、男性部門を作ることになったんです。“ニューフェイス”というネーミングは少し古いのではないかという意見も出ましたが(笑)、「映画会社らしさ、東宝らしさがあって良いのでは」という声もあり、「TOHO NEW FACE」と名付けることにしました。

受賞者は東京で歌、ダンス、演技のレッスンを受けることになりますが、地方在住の方にももちろんチャンスがあります。スキルアップのためのカリキュラムを組み、いろいろなお仕事に出会えるよう東宝芸能としてサポートします。また事務所としては、可能な限り学業と芸能活動を両立してほしいと思っています。もちろん保護者の方とも相談しながらですが、学生さんの応募も大歓迎ですよ。

求めているのは完成形より将来性

──今回の「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」にはミュージカル賞が創設されており、応募の際に“俳優志望”か“ミュージカル志望”かを選ぶことになっています。ミュージカル俳優として素質がある方を発掘・育成することもお考えなのでしょうか。

塚田 はい、完成形というより将来性のある方を探しているので、ミュージカルに興味がある人に出会いたいですね。オーディションの形態として“俳優”と“ミュージカル”が分かれてはいますけど、「お客様に何かを伝えたい」という表現力が大切だということは、映像の俳優でもミュージカル俳優でも共通しているはず。ただミュージカルの場合は歌やダンスを使ってお芝居をすることも多いですから、そういったことに積極的にチャレンジしたいと思ってくれる方を求めています。

──オーディションの募集年齢は満10歳から22歳までです。お二人はお子さんや若者の才能をどのようにして見抜くのでしょう。また男性の場合は声変わりを控えた応募者もいそうですが、それは審査に関わってくるのでしょうか。

塚田 もちろん変声期前のお子さんを審査する場合は、声が変わることも視野に入れて選ぶとは思います。でも私の選考基準としては、やはり表現力が第一かなと。舞台の作り手としては、身体表現とかセリフの言い回し、表情、感情の表出などを重視して審査したいです。鈴木さんはどうですか?

鈴木 変声期を経てどんな声になったとしても、いろいろな声の人がいたほうが豊かな作品になると思いますし、声変わり前であることがデメリットになるとは思いません。私はオーディションでは、応募者のエネルギーに注目しています。どれだけ大きな感情表現ができるか?というところですね。それから思ったことを素直に表現したり、指導者から言われたことを受け入れてその通りに動いたりできる対応力も大切だと考えています。

塚田 確かに、素直さや対応力は特に必要ですね。力が付けば演出家と意見をぶつけ合って役柄を作り上げることもできると思いますが、演出家や歌唱指導、振付の先生からの指導をまずはそのまま受け入れられるというのも大切なことです。オーディションでは演技審査で言われたことをちゃんと返せるかどうかに注目したいですね。

ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカルの裾野を広げる一助になれば

──ミュージカル俳優といえば歌、ダンス、演技の三拍子がそろっていることが理想と言われます。今回のオーディションでは、応募者のどのようなところを重視されるのですか?

塚田 確かに歌、ダンス、演技は大切な柱です。でもその3本柱のすべてを兼ね備えるのはなかなか難しいことだと思います。だから個別の作品のオーディションでも、私たちは「この役なら歌とお芝居ができる人がふさわしい」「このキャラクターなら歌とダンスが得意な人が良いね」など、柱の中でも“強弱”を付けて選考します。今回は将来性を見据えて審査することになりますので、歌、ダンス、演技のどれか1つでも得意なものがあればそれを伸ばせば良いし、ほかの2つに対してもやる気があればそれを評価したいですね。

──ミュージカル賞の受賞者の方は今後具体的にどのようなステージに進むのか、現段階での構想があれば教えてください。

鈴木 東宝の舞台作品に出てもらうべく、実は東宝演劇部でもう案出しを始めています。海外作品なのかオリジナルミュージカルなのか、それともストレートプレイになるのかはまだわかりませんが。今私たちは2025年くらいまでのラインナップを考えていますので、そこに加えられるかな?と作戦を練っています。

──近年ではミュージカルブームが盛り上がっています。お二人は演劇プロデューサーとして、ミュージカル賞が作られたことと、男性部門の「TOHO NEW FACE」がスタートした理由をどのように考えていますか?

鈴木 僕が新入社員の頃に比べ、ミュージカルを作る会社や製作本数が多くなり、出演者が不足している状況です。ミュージカルの観客の大多数は女性ですし、我々が育て上げた魅力的な男性スターが今後、ミュージカル界の中軸になってくれればうれしい。今は2.5次元舞台からステップアップしていく男性の俳優たちがたくさんいますよね。しかし新しいスターを待つだけではなく、作り出していかなければいけないなと。そういう理由もあり、我々としても男性を対象とした「TOHO NEW FACE」やミュージカル賞の設立は待ち望んでいたものでもありました。

ミュージカル「エリザベート」より。(写真提供:東宝演劇部)

ミュージカル「エリザベート」より。(写真提供:東宝演劇部)

塚田 私も鈴木さんと同時期に入社していますが、確かにこの15年ほどで一気にミュージカル界の裾野が広がった気がします。鈴木さんが「ミュージカルの観客の大多数は女性」とおっしゃいましたが、演目によっては男性のお客様もすごく増えました。これは個人的な意見ですが、私はいずれ“ミュージカルとそれ以外”という垣根がなくなり、映像作品にもミュージカルにも当たり前に出演する俳優さんが増えてほしいと思っていて。それによって誰もが身構えず、当たり前にミュージカルを楽しめるようになればうれしいです。私と同世代の俳優には、テレビ番組などへの出演を通してミュージカルの“啓蒙活動”をされている方がたくさんいて。そういった方々とよく「ミュージカルという分野を“普通”にしていきたいよね」と話しています。今回のオーディションが、ミュージカルの裾野が広がる一助になればうれしいですね。