「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」オーディション 東宝演劇部プロデューサー鈴木隆介と塚田淳一が語る、ミュージカルスターの見つけ方 (2/2)

十人十色の輝きを持つ先輩“シンデレラ”、大切なのはたゆまぬ学びと努力

──舞台製作の現場に立つお二人から見て、第一線で活躍しているミュージカル俳優に共通するものはありますか?

鈴木 学び続ける姿勢があることは大切です。ある有名な俳優さんがオーディションを受けに来たとき、演出家のジョン・ケアードさんが「彼はscholar(学生)だ」と言ったのが印象的でした。それは「常に学ぶ姿勢があって、彼はこれからもその姿勢を変えないだろうから」という意味だそうです。確かに長年活躍されている俳優の方々は柔軟で、努力を欠かしません。今回のオーディションでは5年後、10年後に活躍できる方に出会いたいですし、学びをやめずに成長し続けていけるかどうかが、一番大切なポイントだと思います。

鈴木隆介

鈴木隆介

塚田 私がこれまでにご一緒した俳優さんに共通して感じるのは「みんな人間が好きなんだな」ということ。そういう方は常日頃から人間観察をごく自然にされているので、周囲の人たちの表情や仕草を自分の中に取り込み、舞台での演技に生かしているんです。そういう俳優さんは人を大事にしているし、興味を持って他人に接しているのだろうなと思いますね。

──お二人はこれまでにさまざまな才能を目の当たりにしてこられたと思います。これまでに経験した“驚きの出会い”があれば教えてください。

鈴木 私が一番多く携わってきたのは「レ・ミゼラブル」と「ミス・サイゴン」。この2作品では出演者を公募しますが、まったくノーマークだった候補者が役を獲っていくときはやはり驚きます。実技オーディションではまず30人くらいの集団で候補者に会うのですが、集団にいても何かが違う人、どこか輝いて見える人っているんですよ。オーラ……と言うと変かもしれませんが、そういう輝きを持つ人は存在感が際立っているし、ひと声でみんなを魅了してしまう。やはり生まれつきの何かがあるのだろうなと。そういう方にオーディションで会えると興奮するし、うれしくなっちゃいます(笑)。

塚田 そうですね、鈴木さんがおっしゃった通り、オーディション会場に入ったとたんもうその役に見えてしまうし、歌声を聞いた海外スタッフがすぐに太鼓判を押してしまうような方もいます。また、私はある俳優さんのすごい役者魂に驚かされた経験があって。海外のスタッフたちはとことんまで表現を追求するので、例えば2つのオーディション課題曲のうち片方が良くても、もう片方に伸びしろがあれば、候補者は「もっと違う表現をしてみて」と指導されるんですね。そこで成長を見せられないと、海外スタッフから合格をもらうことはできません。その俳優さんは歌唱映像を撮っては海外に送り、「違う」と言われてはまた歌を練習し……ということを1年半から2年くらい必死に続け、最終的に見事その役をつかみ獲ったんですよ。俳優さんの役や作品に対する気持ち、演じたいという情熱はすごいなあと思います。

塚田淳一

塚田淳一

──運命のように一瞬で見出されてしまうスターもいれば、たゆまぬ努力で夢に近付いていくスターもいるのですね。東宝芸能で長年マネージャーをされている秋元さんは、第6・7・8回の「東宝シンデレラ」に携わられて、いかがでしたか?

秋元 僕も地方審査や合宿審査で、いろいろな場面を目にしました。2011年の第7回では上白石萌音・上白石萌歌の姉妹や浜辺美波、山崎紘菜が受賞しました。萌音と萌歌は姉妹ですが、全然タイプが違います。姉の萌音は機転が利いて対応力に長け、歌、ダンス、お芝居のどれも合格点でした。それ以上に僕がすごいと思ったのが、萌音は自分を意識的ではなく自然に客観視・俯瞰視できていることなんです。それはなかなか身に付けられるものではありません。その一方で妹の萌歌は、本能的に演じているように見えて面白かった。その本能的な様子が危うくもあり、同時にワクワクさせてくれて、姉妹のタイプの違いがとても魅力的だったのを覚えています。かと思えば浜辺のように、一見かわいらしいけど負けず嫌いなところと素直さを持ち合わせ、成長に期待したくなった子もいるし、山崎のように身長が高くて運動神経が良く、とても強くて良い目をした、カッコいい子もいた。このように、これまでの「東宝シンデレラ」ではいろいろな個性を持った子たちに出会うことができました。今年はどんな輝きの応募者がいるのか、僕も非常に楽しみです。

舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」橋本環奈の出演回より。(写真提供:東宝演劇部)

舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」橋本環奈の出演回より。(写真提供:東宝演劇部)

舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」上白石萌音の出演回より。(写真提供:東宝演劇部)

舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」上白石萌音の出演回より。(写真提供:東宝演劇部)

来たれ、未来のスター!

──最後に「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」に応募するか迷っている方や、既に応募された方にメッセージやアドバイスをお願いします。

塚田 こんなことを言うと応募者の方が尻込みしてしまうかもしれませんが(笑)……東宝演劇部の強みに、海外スタッフと長年一緒に作品を作っていることがあると思います。海外スタッフは普段、ブロードウェイやウエストエンドで通用する舞台人と共に働いているんですよね。そう考えると、今回のオーディションから将来世界に羽ばたくような俳優たちが生まれれば良いな、という思いを胸に秘めています。私もワクワクしながら選考に臨みたいと思いますので、皆さんのチャレンジをお待ちしています!

鈴木 未経験者でも構いません。審査ではその場で求められたことを自分なりに精一杯出しきれば良いし、審査員は皆さんのパフォーマンスの先にある将来性を見ています。今回はミュージカル賞が設けられてはいますが、今はミュージカル出身の俳優がどんどん映像作品にも出ていますよね。先ほど塚田さんがおっしゃったように、専門職のように思われがちなミュージカル俳優が映像の世界でも活躍されているのは喜ばしいことだし、私たちのようなミュージカルの作り手はぜひそんな方々を輩出していきたい。幅広く活躍するスターをきっかけに、舞台になじみがない方にもぜひ劇場に来てほしいんです。今回のオーディションを受けた方が10年後、東宝を代表するスターになればうれしいですね。そんな才能を探し出し、育てるのが私たちの仕事です。「自分は何もできないしなあ」と思っている方も、もしかしたらまだ気付いていない輝きを持っているかもしれません。だから、少しでも興味があればぜひトライしてください!

プロフィール

鈴木隆介(スズキリュウスケ)

2004年に東宝入社。演劇部企画室、人事部、演劇部企画室、帝国劇場を経て、2017年にプロデューサーとなる。近年の主な製作作品に「FUN HOMEファン・ホーム ある家族の悲喜劇」「ラヴズ・レイバーズ・ロスト -恋の骨折り損-」「ドッグファイト」「両国花錦闘士」「レ・ミゼラブル」など。11・12月には担当する「歌妖曲~中川大志之丞変化~」が上演される。

塚田淳一(ツカダジュンイチ)

2005年に東宝入社。帝国劇場営業係、経理財務部、演劇部宣伝室、演劇部企画室を経て、2015年にプロデューサーとなる。主な製作作品に「ミス・サイゴン」「ラ・マンチャの男」「屋根の上のヴァイオリン弾き」「グレート・コメット」「ナイツ・テイル」「レ・ミゼラブル」「メリー・ポピンズ」「オリバー!」「紳士のための愛と殺人の手引き」「シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ」など。

オーディション応募者へ、東宝芸能からのメッセージ

東宝芸能ロゴ

──「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」を通して、どのような方を探しているのでしょうか?

映画や舞台、ドラマなど多方面で日本のエンタテインメントを引っ張っていってくれるようなスターに出会えることを期待しています。

──「東宝シンデレラ」「TOHO NEW FACE」の両方に共通するもの、またはそれぞれのオーディションで、応募者に特に強く求めるものを教えてください。

求められるのは見た目の美しさやカッコよさだと思われがちですが、実際はそればかりではありません。内面も大切です。謙虚な姿勢を持ち、努力し続けられる人こそ、この世界で活躍できると思っています。

──東宝では1940年代から60年代まで「東宝ニューフェイス」を開催してきました。今回の「TOHO NEW FACE」はその名称を継承していますが、どんなところが過去のオーディションと違うのでしょう。

これまで多くのスターを生み出してきた「東宝ニューフェイス」という良いイメージのある看板を、男性部門の開設にあたり使用させていただきました。ミュージカル部門を新設させたことが、今までのオーディションと異なるポイントです。

──これから応募するかどうか迷われている方、すでに応募されている方に向けてメッセージをお願いします。

輝く可能性は誰もが持っているものです。「東宝シンデレラ」の先輩方も、「まさか自分が!」と思っていた人も多いです。予想もできない未来を一緒に見に行きましょう。