ディミトリス・パパイオアヌー「THE GREAT TAMER」 PR

平原慎太郎と湯浅永麻が語るディミトリス・パパイオアヌー「THE GREAT TAMER」|イマジネーションと戯れる

2人で1つ、2人で3人。消えゆく肉体の境界線

平原 それから、彼の作品って2人で1つに見えたりとか、肉体のパーツを分離させて組み合わせることをよくやりますよね。「PRIMAL MATTER」(2012年初演)ではその手法をよく打ち出しているなと思いました。例えば1人は露出が多くて、もう1人は服を着ていて、2人が動きを重ねることでどっちがどっちか分からなくなり、肉体と肉体の境界線が曖昧になっていく。それが例えば、サモトラケのニケのように腕がなくなって見えたりすると想像力をすごく掻き立てられて、“ツボる”んですよね。またそこへほかの人の手がくっついったりすると、さらに境界線が薄れていって。そういうのが……好きなんです!

左から湯浅永麻、平原慎太郎。

湯浅 告白した(笑)。

──個体の身体をバラバラにして2人を3人のように見せたり、2人を1人にしてしまったりということも、ディミトリス・パパイオアヌーはよくやりますよね。

平原 「THE GREAT TAMER」にもそういうシーンはあるの?

湯浅 やってますね。

平原 やってるのー!? ああ、早く観たいー!

一同 (笑)。

──そういった身体の見せ方など、「これはダンスなのか」と問われると、いわゆる一般的な踊りとは少し違いますよね。でも行われているのは、やっぱりダンサーにしかできない動きでもあって……。

平原 (指をぱちんと鳴らし)その通りです。

「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert
「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert
「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert

──ディミトリス自身は、「自分は演出家、ビジュアル・構成作家であり、振付家ではない」と語っていますが、彼の作品の中でのダンサーの役割についてはどのように感じますか。

湯浅 ダンサーの定義が広いと思いますね。いわゆるユニゾン的なことはあまりなく、数人か1人の見せ場が多くて、ダンサー個人を象徴としても使うけれど“アイドライズ”しない。つまりその人をアイドル化することなく、常に全体の一部であるという扱い方なんです。彼は、「ダンサーは画のためのtool(道具)だ」と言っていますが、踊り手から観てもそれがいやな感じはしない。むしろ全員ニュートラルだからこそ、逆にそれぞれの個性が見えてくる部分があって、それは幸せなことですよね。

平原 彼の作品は、舞台美術や音楽、衣装などと等しく、ツールの1つとしてダンスがあるので、もしかしたら「ダンスを観た」とは感じにくいかもしれないですね。でも、“言いたいことを視覚的に立ち上げて、観客に想像の余白を残す”という点では、とてもダンス的だと思います。だから……これは宣伝を抜きに、伝えたいんだけど、「ダンスの面白さの拡張は、ここまで及んでいるぞ!」と。

湯浅 そうですね。彼の作品は生活の中で作られた法則やタブーみたいなものを、否定も肯定もせず、状態としてふわっと提示してくれるんです。そしていろんなイメージを引き起こし、私たちがすでに持っている価値観にクエスチョンマークを投げかけてくれる。そういったプレゼンテーションが本当にうまいと思います。

アーティストのセンスに触れるべし

──パパイオアヌーは、ピナ・バウシュ亡きあとにヴッパタール舞踊団に新作の長編(「Since She」2018年初演)を振り付けた最初の振付家で、その点でもダンス界から注目されているアーティストです。

平原 人間って美しいものを観たときに魂が揺さぶられると思うんですよね。その点で、ディミトリス・パパイオアヌーの作品には魂を揺さぶられる瞬間があるし、魂に響く感じは、もしかしたらピナの作風に似ているかもしれない。だから彼がヴッパタール舞踊団に振付したことは納得できます。

湯浅 そうですね。と同時に、パパイオアヌーの作品が日本で上演されるのは初めてですから、何をきっかけに観に行くかってすごく難しいと思うんです。ただ、読者の方には一度ダンスという枠組みを取っ払ったうえで、1つの出来事として観に来てほしい。この作品を観たとき、私は「何を観たんだろう?」って思ったんです。でもあとになって、何か素晴らしい、心をふつふつとさせられるような体験だったなと思うようになって。舞台は本当に生もの、一期一会なので、観られるうちに観ておいたほうがいいですよ!とお伝えしたいです。

「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert
「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert
「THE GREAT TAMER」より。©Julian Mommert

平原 作り手のセンスを観に来るだけで、十分楽しいと思うんですよね。作品とかダンスとかそういうカテゴライズではなくて、アルバムを1枚聴くとか1時間半の映画を観るのと同じように、ディミトリス・パパイオアヌーという人のセンスを1時間半観に行くことは、本当にオススメです。チケット代もこの規模の作品にしてはお手頃ですね……!

湯浅 価格設定がヨーロッパとそんなに変わらないですね。

平原 これは絶対、観たほうがいいですよ。

湯浅 彼の作品では、観終わったあと、なぜかみんなニヤニヤしてしまうんです。客席に妙な連帯感が生まれると言うか、観劇後の幸福感が私だけじゃないんだなって実感できるんです。

平原 ね、皆さん、これはニヤニヤしに行ったほうがいいですよ!

左から湯浅永麻、平原慎太郎。