SiriuS|声も個性も正反対、だからこそ生み出せるハーモニーを

男性デュオの新星・SiriuSが、デビューアルバム「MY FAVORITE THINGS」を2月19日にリリースした。SiriuSは、共に東京藝術大学声楽科出身のテノール・大田翔とバリトン・田中俊太郎によるユニット。「サウンド・オブ・ミュージック」でおなじみの表題曲「私のお気に入り」をはじめ、さまざまな年代のミュージカルソングが計14曲収録された本作では、2人の豊かな表現力を堪能することができる。

ステージナタリーでは1月中旬、SiriuSにインタビューを実施。大田と田中は、180cmの長身にそれぞれのイメージカラーである青と赤のシャツ、そして黒のスーツを着こなし、颯爽と姿を現した。しかし口を開くとそのイメージは一変。柔和な笑顔や、息の合ったやりとりで場の空気を和ませる。2人の奏でるハーモニーの美しさが、2つの星が重なったときに最も明るい光を放つ恒星・シリウスのようであることから命名されたSiriuSは、一体どのようなユニットなのか。2人のこれまでとこれから、そしてアルバムに込めた思いをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 櫻井美穂 撮影 / 佐藤類

2人の少年が歌の道に進むまで

──おふたりは東京藝術大学音楽学部声楽科のご出身で、学部を卒業後、大田さんは修士課程、田中さんは博士課程まで進まれています。共に声楽の道を極めていらっしゃいますが、そもそも歌の道に進むことを決めたのはいつ頃でしょうか?

田中俊太郎

田中俊太郎 中学3年生のときですね。水泳部の引退後、合唱部に引き抜かれたのですが、そのまま全国大会に進めたんです。そこで甘い汁を吸って……(笑)。

大田翔 味をしめちゃったんだ?(笑)

田中 そうそう(笑)。あとは純粋に「アンサンブルって面白いな」と。なので高校では合唱部に入って、個人レッスンも受けるようになりました。もっとうまくなりたくて。

大田 僕はもともと習いごととして児童合唱団に入っていたんですけど、はっきりと歌の道に進むって決めたのは、中学2年生のとき。ソプラノ歌手だった音楽の先生の一言がきっかけです。授業でカンツォーネの「帰れソレントへ」をみんなで歌っていたら、その先生から「大田くん、1人で歌ってみて」って言われて。「あなた、声がいいから、まじめに勉強してみたらいいんじゃない?」と褒められたんです。

──東京藝術大学在学中には、それぞれどんな勉強をされていたのでしょうか?

大田 大学院から専攻が分かれるんですけど、僕はオペラ専攻で、俊太郎さんは独唱専攻でした。

──在学中、おふたりにつながりは?

大田翔

大田 学年が離れていたし専攻も違ったから、お互いに存在は認識しているけど……という程度でしたよね。大学時代は。

田中 でも学内でやったミュージカルで一緒になったよね。

大田 「岬のクフィ」ですよね! 懐かしい。

田中 大学の先生が新作のミュージカルを作るっていう企画があったんですけど、それに僕も大田くんも呼ばれたんです。

大田 当時、僕が院生で俊太郎さんは博士課程でしたっけ。

田中 そうだね。あの頃、ミュージカルってやったことあった?

大田 ほとんど初めてでした。俊太郎さんは何役か兼ねてましたよね。

田中 うん。僕もミュージカルやるの、ほぼ初めてだったんだけどね(笑)。

──当時の印象を覚えていらっしゃいますか?

大田 俊太郎さんに初めて会ったときに思ったのは、「うわさに聞いていた人だ!」です。

田中 えっ、どんなうわさ……?

大田 「カッコいい先輩いるよ」って。だから会った瞬間、「この人だ!」ってすぐにわかりましたよ(笑)。

田中 僕の印象は「オペラ科の人だ」……かな。カリキュラムが違ったから、授業で会う機会はなかったんですけど、オペラ専攻は毎年“オペラ定期”(藝大オペラ定期公演)という大きな公演をやっていて。公演を通して彼のことは知っていました。

正反対だからこそ、支え合える

──その後、大田さんは大竹しのぶさん主演「ピアフ」のイヴ・モンタン役や、劇団四季「ウェストサイド物語」の主人公・トニー役、「You're a Good Man, Charlie Brown」のシュローダー役など、多くのミュージカル作品に出演されています。田中さんはクラシックコンサートのほか、「東京ディズニーリゾート35周年“Happiest Celebration!”イン・コンサート」にシンガーとして出演されるなど、おふたりとも幅広い活躍をされていますね。

大田 両親とも舞台の仕事をしていた関係で、お芝居やミュージカルは小さい頃からすごく身近でした。でも観るのは好きでも、自分が役者として舞台に立つというイメージは全然なかったんです。考えが変わったのは、大学がきっかけですね。オペラの授業に演技のレッスンがあったんですけど、それがすごく楽しくて! そういった授業を通して、クラシックに限定せずにいろいろなものに挑戦してみたいなと思うようになりました。

田中 僕は大学院で日本の歌曲を勉強していたんですけど、歌曲は長くなると“連作歌曲”といって、物語性が生まれてくるんです。芸大に入る前に半年間、別の大学で文学を学んでいたほど、もともと物語や言葉というものにすごく関心があって。音楽で物語をたどるようなお芝居にも興味があるし、だから僕も大田くんと一緒で、クラシックに限らず幅広くやっていくのが面白いんじゃないかなと考えるようになったんです。

左から田中俊太郎、大田翔。

──おふたりは、それぞれ別の道を歩んでいたところ、クラシックからポップスまで、幅広い楽曲を歌いこなせる実力がレコード会社の目に留まり、ユニット結成に至りました。大学の先輩・後輩から、ユニットのメンバーへと関係性は大きく変わりましたが、改めて印象が変わった部分はありますか。

大田 俊太郎さんはインテリだし、まさに頼りになるアニキというか。僕はかなり感覚人間なので、イメージが浮かんでいてもうまく言葉にできないことが多いんです。でも俊太郎さんは、そんな僕の話をじっくり聞いて、整理してくれるだけじゃなくて、さらに新しいアイデアをくれたりする。知性ってこういうことだな、っていつもうっとりしてます(笑)。

田中 時を経て出会ってみると……「ああ、天才ってこういうことなんだな」って(笑)。大田くんは、とにかく発想力がすごい。僕は物事を組み立てるのは好きなんだけど、0から1を生み出すのは苦手。だから僕も大田くんにはすごく助けられています。この間、2人でCDのブックレットを書いていたんですけど、大田くんがアイデアを出して、それを僕がまとめるっていうスタイルでやったら、すごく短時間でできたんです。20分もかからなかったよね。

大田 早く終わったから、お茶して帰りました(笑)。

──個性が違うからこそ、支え合えるんですね。

田中 なんかよくできた夫婦みたいだよね。

大田 アハハ! そうかも。

──歌い手や俳優としては、相手のどこに魅力を感じますか?

田中 テノールは主人公やヒーローの役が多いんですけど、大田くんは舞台に立った瞬間からその役の出で立ちになれる。そこがすごいなと。

大田 俊太郎さんは、常に“声”をどう使うかを考えていて、曲ごとにいろいろなアプローチの引き出しがある。だから一緒にやっていると、「今度、こういう感じでやってみない?」って提案してくれるので、心強いです。


2020年4月17日更新