それぞれの思惑がうごめくストーリー
──まだ台本を受け取られたばかりということですが(編集注:取材は1月中旬に行われた)、台本をお読みになった第一印象から教えてください。
倉科カナ まずお勢の心の動きをつかみたいと思って読み始めたのですが、台本だとお勢のセリフには「……」が多いこともあり、彼女がどういう気持ちなのか、その思惑がまだちゃんと理解できていないところが多くて。倉持さんもおっしゃっていたんですけど、本作の舞台になる大正から昭和初期って魅力的な時代でもあるので、台本が素敵だったぶん、一層がんばりたいなと思います。
上白石萌歌 全員が全員を疑っている話というか、お互いの目線が交錯しているような作品だと思いました。また言葉が美しくて、私は大正とか昭和の言葉を役として発したことがなかったので、張り合っていても汚くならない言葉、倉持さんの言葉の巧みさを稽古でも本番でも存分に味わっていきたいなと思っています。
大空ゆうひ 倉持さんの胸に刺さるセリフ、えぐってくるセリフが印象に残りましたね。罪って何だろうとか、善と悪を天秤にかけているようなセリフが全体のテーマとして出てくるんですけど、その天秤が善と悪でゆらゆら揺れて、また全員がその天秤を持っている感じが非常に面白かったです。誰が一番悪いのかは一読しただけではわからなくて、私が演じる園もどれだけ悪い人物なのかがすぐにはつかめなかったので、色濃いキャストの皆様と稽古の中で探っていけたら面白そうだなと。
──それぞれのお役の印象についても、もう少し教えてください。お勢は希代の悪女ということですが、本作ではむしろ正義感を感じる部分もありますよね。
倉科 そうなんですよね。意外と悪女っぽい感じはしないというか、腹に一物抱えている感じはあって、妖艶さや何を考えているのかわからない部分もあるんですけど、悪は悪なりに許せない悪があると言うか、悪役なりの正義があるのが面白くて、そこもちゃんと考えながらお勢を演じていけたらなと。
上白石 晶は一見すると無垢な少女で、何にも染まっていない役。善でも悪でもないという立場をしっかり演じていけたらなと思います。先輩方の悪に染まらないように……。
一同 あははは!
──大空さんのお役は、登場人物の中でも最も内面が揺れる役なのかなと思います。
大空 そうですね。本当に稽古場で皆さんと一緒に作っていくまではニュートラルに、先入観を持たずにいこうと思ってはいるんですけど、園は後妻で周りの人たちに対してストレートに感情を出す立場ではないので、その隠している思いが劇中でどんどん出てくると思いますし、表に見せないもの、腹の中にあるもののうごめきみたいなものが出せたら素敵だろうなと思っています。
倉科 私、ちょっとチェスしているイメージがあります。引いて見ていて、ここをどう動かせばいいのか、ということを俯瞰しているような。
大空 ちょっと上から人物相関図を見ているような?
倉科 そう!
──お勢と晶は協働して園たちに対抗していきますが、修羅場をくぐり抜けて生きてきたお勢とお嬢さん育ちで世間を知らない晶は、一見するとまったくタイプが異なります。策を巡らせるお勢の言動を、晶はいったいどう見ているのでしょうか?
上白石 実は、一番状況をわかっていたりして。
倉科・大空 それ、怖い!
一同 あははは!
上白石 晶の、何もわからない人なりの怖さ、何も知らない怖さみたいなものを出していけたらなと思います。
倉科 純粋な悪?
上白石 正義ゆえの悪、みたいな。その点でもお勢と晶とは対照的な存在なのかなと思いますね。
倉持さんはなぜこんなに、女性の心理を言い当てるんだろう
──倉科さんは「誰か席に着いて」、大空さんは「鎌塚氏、舞い散る」にご出演され、上白石さんは今回が倉持作品初参加となります。倉持さんの作品にはどのような印象をお持ちですか?
倉科 やっぱり言葉がとても素敵ですね。
大空 女性がふと漏らす言葉みたいなものにすごくリアリティがあって、口にするとしっくりくるんですよね。倉持さんはなんでこんなに女性の心理を言い当てるんだろう(笑)。またセリフのニュアンスをくどくど説明せずとも、お客さんに通じる信頼感があるんですよね。それは役者にとって幸せなことです。
倉科 確かに倉持さんが書かれる女性っていつも素敵ですよね。ただ綺麗というだけじゃなくてキュートさ、愛らしさ、人間味が加わるのでさらに魅力的で。
上白石 どんな残虐なシーンでも笑えます。でもわかりやすく笑いが提示されるわけではなくて、それぞれに「私はここで笑っちゃった!」というような不思議な感じがあって。
倉科 今回は、ほぼ悪人しか出てきませんけど(笑)。
大空 毒気がすごいですよね。この毒気にやられないようにしないと。
一同 あははは!
──「~ですわ」というような、時代を感じさせるセリフについてはいかがでしょうか?
倉科 稽古にはニュートラルな気持ちで臨もうと思いつつ、やっぱり言葉は難しくてどうアプローチしようかと迷っています。響きは素敵なんですけど、やる側としてはどうアプローチしていくといいかなって。
大空 「鎌塚氏」のときも、貴族のチームは貴族のしゃべり方になれなくてなかなかテンポが上がらなかったんです。でも稽古で慣れてきたら上演時間が10分くらい縮んで。今回もセリフの言い回しに慣れていけばいいのかなって、ちょっと楽観的ですけど(笑)。
上白石 最初から自然に言えなくてもいいですかね?
倉科 一緒にがんばろう!
上白石 安心しました(笑)。
──先ほど“色濃いキャスト”という発言もありましたが、今回はベテランの舞台俳優さんが多く、確かに色濃い顔合わせですね。
上白石 私は今回の稽古中のテーマは“恥を晒す”こと。皆さんどっしりと構えていらっしゃる方ばかりなので、背伸びせず、皆さんの演技からたくさん盗んで恥じらいをなくしたいと思っています。
大空 でも実は私が一番オタオタしていると思う。
倉科 いやいや……(笑)。私はすごく安心してるんですよね、今回のキャストの皆さんはとても器が大きな方というか、すべてをキャッチしてくださる方ばかりですし、瞬発力のある方ばかりなので、たくさん甘えようと思って。実は19歳の萌歌ちゃんにさえ甘えようと思ってますから!
一同 あははは!
2020年2月27日更新