「お勢、断行」倉持裕 インタビュー / 倉科カナ×上白石萌歌×大空ゆうひ 座談会|お勢なりの悪の哲学、美学を描きたい

倉科さんには笑っていてほしい

──本作の軸となるのは、倉科さん演じるお勢と、上白石萌歌さん演じる晶。その2人と、大空ゆうひさん演じる園が対立します。大空さんは昨年末に上演された「鎌塚氏、舞い散る」での好演も記憶に新しいですが、今回はまったく異なるタイプの役になりますね。

大空さん、すごく楽しみなんですよね。「鎌塚氏」がすごく良かったですし、女主人という役どころは今回も同じなのですが、性格ややっていることは全然違う。「鎌塚氏」のときは優しい女主人という設定でしたが、これだけシュッとした、凛とした印象の大空さんが、ものすごく怖いことをしたり、逆に狼狽したりする姿が見てみたいなって。

──その園に、お勢と晶が立ち向かいます。お勢はある意味、自分の中で1本筋が通ったストレートな人物だと思いますが、晶は登場人物の中で唯一無垢な存在で、だからこそ謎めいた女性ですね。お勢と晶の関係は仲の良い姉妹のようにも、何か精神的なつながりを持った同志のようにも見えますが、2人はどのような関係なのでしょうか?

倉持裕

実は僕としても、この2人の関係をもう少し追求したいと思っていて。あからさまではないにしても、精神的な同性愛という感じがあるべきだなとは思っています。お勢が晶を守らなくては、晶のためなら私は“断行”する、というところまでいかないといけないなと。

──実は晶が、深い企みを持っている可能性も?

晶にもし裏があるとすれば、晶はお勢が「自分のためには何でもやってくれる」と思っていることかもしれないですね。

──なるほど。確かに育ちのいい人が持っている無垢な怖さってあるかもしれません。

ありますよね?(笑) 自分のためにみんなが何かをやってくれることを、ものすごく自然に思っている人って。

──ではお勢を演じる倉科さんには、どんな期待を?

笑っていてほしいんですよね、彼女は本当にニヤニヤした顔が似合うから(笑)。残酷なことを言えば言うほど顔がほほ笑んでいくような次元の違う悪いやつでいてほしい……と今お話しながら、お勢も晶も、両方自分たちが感じたことを「間違いない」と思ってる人たちなんだなって思いました。晶は、みんなが私のために何かをしてくれるのは当然だと思っているから感謝や申し訳なさを感じていないし、お勢も罪を犯した人に罰を加えるのは間違いではない、当然だと思っている。だからこそためらわずに、“断行”できるのではないかと思うんです。

──そう考えると2人とも恐ろしい女たちですね(笑)。さらに彼女たちを取り囲む存在として、江口のりこさん、柳下大さん、池谷のぶえさん、粕谷吉洋さん、千葉雅子さん、正名僕蔵さん、梶原善さんといった色濃いキャストが登場します。バラエティに富んだ、笑いにも強いキャストが集まりました。

やっぱり僕自身コメディが好きですし、どんな題材、どんなジャンルのものをやるにしても笑いは入れたいなと思っていて。あと喜劇ができる役者はうまいですからね。ということもあってこのキャスティングになりました。なかなかない顔合わせだと思います。

油断してはいけない……

──倉持さんはこれまで「お勢登場」以外にも、ペンギンプルペイルパイルズ作品など、たびたびシアタートラムで作品を上演されています。今回は世田谷パブリックシアターでの上演となりますが、劇場の大きさ、空間が変わることで特に意識していることはありますか?

世田谷パブリックシアターは、やっぱりトラムよりダイナミックな使い方をしないと成立しない劇場だと思いますね。シアタートラムでも“ケレン味”を意識しましたが、より出さないといけないだろうなと。

──「お勢登場」では、先ほどお話に上がった二村周作さんの舞台美術のほか、太田雅公さんの衣装、杉本公亮さんの照明など、ビジュアル面での作り込みも評判を呼びました。今回も舞台美術は二村さん、衣装は太田さん、照明は杉本さんが手がけられ、さらに斎藤ネコさんが音楽を担当されますので、どのようなダイナミックな劇空間が立ち上がるのか、非常に楽しみです。

そうなんですよ、それがいけないと思っていて(笑)。大したことをやらなくても、カッコよく見えちゃうじゃないですか。あの人たちのおかげで「すごいものを観た!」という感じになっちゃうと思うんですよ。だから油断しちゃいけないというか、そこにあぐらをかいちゃいけないなと思ってます(笑)。

──(笑)。期待しております!


2020年2月27日更新