2022年に芸能生活30周年を迎えた瀬奈じゅんが、その節目として2023年1月に行う予定だったコンサート「ALive Returns」。公演関係者の体調不良により、開幕直前でやむなく全公演中止となった同コンサートが、2024年10月25・26日に改めて開催される。
ステージナタリーでは、気持ちを新たに「ALive Returns」に挑まんとする瀬奈にインタビューを実施。自身の過去や挫折を受け入れ、「“今の私”を観てほしい」と前を見据えて話す瀬奈が、リベンジ公演に向けて心境を明かした。
取材・文 / 大滝知里撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)
ヘアメイク / 松元未絵スタイリスト / 下平純子
衣裳協力 / [ジレ]CHONO、[スカート]ykF
コロナ禍で演じた役に求められた“1人で空間を埋められる”能力、今こそ原点に戻りたい
──「今を生きる」の“alive”、「1つのライブ」の“A Live”、瀬奈さんの愛称「あさこ」の“A”Liveといった意味が込められた「ALive」コンサートは、瀬奈さんが2009年に宝塚歌劇団を退団したあとにスタートしたコンサートシリーズです。2013年に一度Finalを迎えた「ALive」を、芸能生活30年の節目に復活させたいと思われた経緯を教えてください。
2010年に開催した最初の「ALive」は、宝塚歌劇団を退団してすぐだったので、自分のためというよりも、今まで私を応援してくださったファンの皆様へ感謝の気持ちを込めて、皆様に喜んでいただけるようなコンサートをしたいと考えたんです。2022年にデビュー30年を迎え、もう一度、“ファン感謝祭をやりたい!”という思いに駆られたのと、私自身が原点に戻りたいなと思って、「ALive Returns」として実施を決めました。
──過去3回上演された「ALive」には“Handsome Woman”という副題が付けられ、瀬奈さんの性別を超えた魅力が感じ取れるパフォーマンスが繰り広げられました。2013年の「ALive Final」で、原点の魅力を見せることはやり切ったと感じられたのですか?
劇団を離れ、女性の役として舞台に立つにあたり、やっぱり自分の中の“タカラヅカ色”や“男役色”を削ぎ落とさなければいけないという思いがずっとありました。外の世界に出てからは、自分の表現の癖が演技の邪魔になることも多々あって。でも、劇団で学んできたことは私の財産であり、誇りであり、決して邪魔なものではないし、そう扱ってきてしまったのは自分自身なんだということに、最近気が付いたんです。デビュー25周年のときにはまだそんなふうには思えなかったんですよね。実は、ちょうどコロナ禍くらいから、オファーされる役柄が変わってきたんですよ。わがままな女優や元女優、母親など、絶対的な存在感やすべてを包み込むような大きさを必要とする役が増えて、そのような役に挑戦するときに、「あれほど大きな宝塚大劇場で私は“1人で空間を埋める”という経験をしてきたじゃないか!」と思い至ったんです。そう感じたときに、今、求められているものは、これまでずっと邪険にしてきてしまった自分の中にある要素で、これはほかの女優さんにはない個性だと実感したんですよね。だからもう一度、そこに立ち返りたい。そのせいか、今回の「ALive Returns」では、予想外に劇団時代に触れたような楽曲が多くなりました(笑)。
──今回の「ALive」リベンジ公演は、前回から1年半以上経ってからの実現となりました。“再びの挑戦”は公演中止後すぐに決意されたのですか?
もう「すぐに! 必ず!」と。公演中止になったときは、とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだったんです。また、コロナ禍になって、今まで気をつけなくても良かった部分にまで気を配らなければならない、世の中の理不尽さみたいなものもすごく感じました。一方で、自分たちが今までどれほど幸せに舞台に立てていたのかということも痛感して。中止になってしまっても、文句も言わずに「待っています」というお言葉をくださった皆様に、早く恩返しがしたいと思いましたね。
──この1年で「ALive Returns」に向き合う気持ちの変化はありましたか?
「より良いものにしたい」という気持ちが強まっているので、前回よりも気合いが入っています!(笑) 内容についても、“ファンの皆様に感謝する、楽しんでもらう”というコンセプトはそのままに、曲や構成、曲数などを調整したので、結果的にスッキリした部分があるかな。また、前回とは状況も変わり、客席降りができるようになったので、演出面も少し変わりました。お客様をもっと身近に感じることができるコンサートになると思うので、楽しみです。
バチン!とハマる、瀬奈を新たなフェーズに導く三木章雄(構成・演出)のアレンジ
──今回は、瀬奈さんとゆかりの深い三木章雄さんが構成・演出を手がけます。三木さんは瀬奈さんの在団中のコンサート「SENA!」(2004年)や、退団公演の「ファンタスティック・ショー『Heat on Beat!』(ヒート オン ビート)」(2009年)などを担当されました。三木さんが「ALive」の演出をされるのは今回が初めてとなります。
私が、「30周年のコンサートをやってほしい」と三木先生にお願いしたのですが、先生は大喜びで快諾してくださって。それが私にとってはすべてというか、絶対に素晴らしいコンサートを届けることができるという確信を得た気がしました。先生には、“瀬奈じゅんが活きる演出”をしてくださるという信頼感がありますし、先生はいつも「あさこ(瀬奈)にこれをやらせたい」と意欲を持って臨んでくださるので、“ファンの皆様がご覧になりたい私”を一番良い形で見せてくれるのではないかなと思っています。
──瀬奈さんはこれまでさまざまな演出家と舞台でご一緒されてきましたが、三木さんは瀬奈さんにどのような影響を与えてくれた存在ですか?
私、三木先生のアレンジのセンスがすごく好きなんです。例えば1つの楽曲でもボサノババージョンやジャズバージョンと、いろいろなアレンジ方法がある中で、「この曲をこんなに大胆なアレンジにしちゃうの?」と驚かされることも多かったのですが、それ以上に、先生は「あさこにはこういうのが似合う」と、私にとって一番良いアレンジをいつも示してくれるんです。だから、先生が私に求めてくださる演出や与えてくださった楽曲は、私の中で全部ターニングポイントになっているんですよね。“新しい自分”に出会うというよりも、“自分が表現したかったこと”にバチン!とハマる。「ALive Returns」では、そんな私のターニングポイントになった楽曲を歌いますので、ぜひ楽しみにしていてください(笑)。
──セットリストには、先ほど少しおっしゃられていたように、在団中に歌われた楽曲が多く並ぶのでしょうか?
前半は思い出の楽曲を中心に、後半にはスタンダードな名曲を歌い踊ります。いわゆる劇団時代の作品の主題歌は多くありませんが、ショーで歌った往年の名曲が素敵なアレンジでちりばめられます。というのも、私が劇団時代に三木先生の構成・演出で「EL VIENTO」(2007年)というディナーショーをやったときに、私が先生に「(劇団の)主題歌は使いたくない」と伝えたんです。ディナーショーって、トークのほかにタカラヅカの主題歌を歌うコーナーがある形が定番なのですが、それを一切やりたくないと。ディナーショーではあるけれど、1つのショー、1つの作品を作りたかったんですよね。そのときに、「主題歌を歌わなくても、男役を匂い立たせられる」ということに気が付いて、ショーを作る面白さに目覚めちゃったんです。今回も三木先生と作った1つのショーをお見せしたいと思っています。
一緒に波に乗ってくれるメンバーを迎えて、“瀬奈じゅんの今”を届ける
──出演者は瀬奈さんの相手役だった彩乃かなみさんをはじめ、越乃リュウさん、宇月颯さん、晴音アキさん、そして回替わりのゲストに大空ゆうひさん、霧矢大夢さん、春野寿美礼さん、大鳥れいさんと、豪華なメンバーがそろいました。
出演者に関しては、彩乃かなみさんはマストで。もちろん私の中では全員マストなんですけど(笑)、月組に所属していたので、月組の仲間と一緒にできたら良いなと。みんな、私の思いや表現したいことを理解して、一緒にその波に乗ってくれるメンバーです。ゲストに来てくださる大空ゆうひさんと霧矢大夢さんとは、どうしてもやりたいことがあって……何をやるかはお楽しみに。2人は私にとって月組時代の戦友ですが、花組時代の戦友となるのが、春野寿美礼さんと大鳥れいさんです。ゲストの4人は私とほぼ同世代で、今、この4人と一緒に歌ったら楽しいだろうなあと期待しています。前回出ていただく予定だった真琴つばささんとは、今回は残念ながらご一緒できないのですが、応援してくださっていました。なので、憧れの人である真琴さんと共演するという夢は、もう少し先の未来にとっておこうかなと。
──今回の「ALive Returns」では、原点に戻ってお客様に喜んでもらうことがコンセプトになり、古巣の仲間たちとパフォーマンスを披露されますが、瀬奈さんは、ご自身の原点である宝塚歌劇団時代と今のご自身との距離感をどのように捉えているのでしょうか?
何も考えてない(笑)。ただ、花組・月組100周年(参照:時代を彩ったスターたちが集結、宝塚歌劇花組・月組の100周年に「Greatest Moment」)のときに彩乃かなみちゃんと新曲を歌ったんですけど、共演した上級生から「タカラヅカのときにやってた場面なの?」と聞かれたんです。初めて歌って踊る曲でしたし、男役としてカッコつけたりキザったりもせずに歌っていたんですが、そう言われて、「人としてのカッコ良さを認めてもらえたのかな」とちょっと自信になったんです。最初に、「劇団を離れてから自分が積み重ねてきたものを邪険にしてしまっていた時期があった」と言いましたが、人目を気にして傷付いて、もがいていたことに疲れちゃって(笑)。自分に優しくなろうと思ったんです。それには、子供が来たことも大きかったですね(編集注:瀬奈は特別養子縁組制度で長男、長女を迎えた)。コロナ禍の緊急事態宣言のときに家族とずっと一緒に過ごしながら、こんなに愛してくれている家族がいるのだから自分に誇りを持たなきゃダメだと。苦しい時間を抜けた先にある“今”を大切に生きている感じがします。
──まさに“アライブ”を実感されていらっしゃる瀬奈さんは、リベンジ公演をどのようなコンサートにしたいと思い描いていますか?
50年生きてきた私が培った、人としての生き様をお見せできればと思っています。今まで積み重ねてきたものに女性や男性の区別は関係なくて、“瀬奈じゅん”という人間をありのままお届けできるコンサートにしたいです。結婚して母になりましたが、私の生き方はやっぱり、どちらかと言うと“ハンサムウーマン”なんです。コンサートではそれを表現できればと考えています。今年でデビュー32年になりましたが、舞台人として自分が何を成せたかは、死ぬときにわかれば良いと思っていて。すべては人間性ですから、人として誠実であり続けるためにも、今の自分が恥ずかしくないように歩いていきたい。そんな私の、何の役も演じていない姿を観て、一緒に“瀬奈じゅん祭り”を楽しんでいただければうれしいです。
プロフィール
瀬奈じゅん(セナジュン)
1974年、東京都生まれ。俳優。宝塚歌劇団入団後、1992年に「この恋は雲の涯まで」で初舞台。2005年に「JAZZYな妖精たち / REVUE OF DREAMS」で月組トップスターに就任。2009年「ラスト プレイ / Heat on Beat!」で宝塚歌劇団を退団後、舞台やコンサート、映像などで活躍する。2012年には「三銃士」「ニューヨークに行きたい!!」「ビューティフル・サンデイ」での演技に対して第37回菊田一夫賞演劇賞を獲得。同年、第3回岩谷時子賞奨励賞にも輝く。近年の出演作にミュージカル「ヘアスプレー」、ミュージカル「SUNNY」、ブロードウェイミュージカル「ビートルジュース」など。2024年8月に音楽劇「空中ブランコのりのキキ」、2024年12月・2025年1月に「天保十二年のシェイクスピア」が控える。
瀬奈じゅん JUN SENA Official Web Site