「蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳~」藤山扇治郎×北翔海莉×荒木宏文×佐藤永典×上田堪大 座談会|異なるフィールドで活躍する5人が生み出すシナジー

錦織さんのお芝居は退屈な場面がない(扇治郎)

──医学の道を志す若き日の緒方洪庵こと緒方章と、大坂の町を陰で守る在天の姫・東儀左近、別世界で生きる2人が出会うことは、松竹新喜劇で活躍する扇治郎さんと、宝塚で活躍された北翔さんの姿に重なる部分があるように感じます。

左から藤山扇治郎、北翔海莉。

扇治郎 会見で北翔さんがお話されていたように、祖父・藤山寛美の松竹新喜劇の舞台を愛してくださっていたことや、伯母の藤山直美と親しくしていただいていることが、今回のご縁につながったと思うんです。祖父と伯母には本当に感謝ですね。

北翔 私がずっとあこがれていた世界の人が目の前にいて、しかも共演させていただけるのは本当に幸せなことなので、新喜劇イズムをしっかり吸収したいです。章と左近は、進むべき道や守らなきゃいけないものは全然違うけれど、2人の中に息づく“義”の精神は一緒だと思うので、そういった意味では扇治郎さんと私にも共通しているところなのかもしれません。

──会見で演出の錦織さんから「ミュージカルシーンを入れるかもしれない」というお話がありました。2016年に上演されたご自身の退団公演「桜華に舞え」で和物を演じられたことが記憶に新しいですが、今作ではファンの方々にどのようなところに注目してほしいですか?

北翔 左近には、まんじゅう屋で働くお佐枝という名の娘と、大阪の町を守る男装の麗人という2つの顔があります。強い女性ではあるけれど、「左近を守ってあげたい」と章に思ってもらえるようなか弱さも必要なので、今まで宝塚歌劇で培ってきたものとは違った一面を出して、お客様に私の“舞台上での新たな姿”を提示できたらと思っています。

──台本とビジュアルを拝見して、荒木さんが演じる左近の楽人仲間・若狭は、一見スマートな役どころであるような印象を受けましたが……。

荒木宏文

荒木 スマートに演じることもできるし、違ったふうにも演じられると思います。まだどのプランでいくかは決めていないんですが、キャストの皆さんが持っている色のバランスによって、自分のキャラクターの色も変わっていくんだろうなって。最終的には錦織さんからどんなオーダーがくるか次第なので、どういう演出がつくか楽しみですよね。

──さまざまなところで「初めまして」が多い本作ですが、錦織さんの演出を受けるのが今回初めての方もいらっしゃいますね。

扇治郎 僕は、2015年上演の「戦後70年特別企画『広島に原爆を落とす日』」でご一緒させていただいたことはあるのですが、時代劇では初めてで。

荒木 僕は今回が初めてです。会見の前後に少しお話をさせていただいたんですが、すごくフレンドリーな方でした。サービス精神のある方なので、その点も作品に反映されるんじゃないかと思います。

──テンポのよい関西の笑いの要素がちりばめられている本作を、つかこうへい作品からミュージカル作品まで幅広く手がけている錦織さんがどのように演出されるか、今から楽しみです。

扇治郎 そういえば僕、関東の方は関西の笑いについてどう考えてらっしゃるのか気になっていて。例えば、関西のおばちゃんってすぐ口に出すじゃないですか。「誰々が出てきたー!」とか「あの人、死ぬで」とか。

佐藤永典

佐藤 ははは(笑)。大阪のお客さんは笑いに厳しいなんて言われていたりしますけど、実際に大阪で公演してみると温かい反応をいただくことが多い気がします。

扇治郎 確かに大阪のお客さんは温かさや独特な熱気があって、東京のお客さんはスマートなイメージがありますよね。

──北翔さんは千葉県の出身ですが、宝塚時代には関西でお芝居をされる機会が多かったと思います。

北翔 セリフに関して言うと、私も佐藤さんと同じく、左近が関西弁ではなかったので少しホッとしました(笑)。

一同 ははは(笑)。

──昨年大阪松竹座で上演された「銀二貫」で、扇治郎さんは外部作品で初めて主演を務められました。今回再び主演として大阪松竹座の舞台に立つにあたっての心境をお聞かせください。

扇治郎 2年続けて主演させていただけるのは、本当にありがたいことです。松竹新喜劇では大阪が舞台のお芝居を多く上演していますが、外部のお芝居では大阪を題材とした時代劇ってどんどん少なくなってきていると思うんですよね。今回は築山先生の素敵な原作を、なかなかない顔合わせでご覧いただけると思いますので、ぜひ観に来ていただきたいです。あと、錦織さんのお芝居って退屈な場面がないんです。錦織さんの演出に僕らが必死に喰らい付いていって、いい作品を作り上げていきたいですね。

原作者・築山桂からのメッセージ「5人に期待すること」

藤山扇治郎扮する緒方章。

緒方章役・藤山扇治郎へ

舞台を拝見した際、静かな中に熱いものを秘めているように感じました。章は表立って動き回るキャラクターではないのですが、実際に章を演じるときも、そのように表現していただけるのではないかと期待しています。

北翔海莉扮する東儀左近。

楽人の姫 東儀左近役・北翔海莉へ

私が愛してやまない左近を、男装の麗人中の男装の麗人と言っても過言ではない北翔さんに演じていただけるという、これ以上光栄なことはありません。カッコいい左近が見られることを楽しみにしています。

荒木宏文扮する若狭。

楽人 若狭役・荒木宏文へ

「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~三百年の子守唄~」や「もののふシリーズ最終章『駆けはやぶさ ひと大和』」を拝見して殺陣が見事だなと思いました。若狭は非常に思い入れのあるキャラクターなので、その若狭を荒木さんに演じていただけてとてもうれしいです。

上田堪大扮する耕介。

天游息子 耕介役・上田堪大へ

章の恋は秘めた恋ですが、耕介の恋は「親が反対しても添い遂げる」という一途でかわいらしい恋模様。そんな耕介を爽やかに演じてもらえるのではないかと期待しています。

佐藤永典扮する瓦版屋三吉、実は桂木一郎。

瓦版屋三吉実は隠密同心 桂木一郎役・佐藤永典へ

舞台版のオリジナルキャラクターである彼が、私の作ったキャラクターたちとどういうふうに絡んでいくのか楽しみでなりません。章や左近と彼が話したらどんな化学変化が生まれるのか、想像するだけで舞台の世界がどんどん広がっていくようです。

築山桂(ツキヤマケイ)
築山桂
京都府出身。大阪大学大学院博士後期課程単位取得。専攻は日本近世史。1998年「浪華の翔風」で作家デビュー。大坂、江戸を舞台とした時代小説を数多く発表。2009年「緒方洪庵・浪華の事件帳」がNHK土曜時代劇で「浪花の華」としてテレビドラマ化。主な著作は「甲次郎浪華始末」「銀杏屋敷捕物控」「家請人克次事件帖」(以上、双葉文庫)、「寺子屋若草物語」(徳間文庫)、「天文御用十一屋」(幻冬舎時代小説文庫)、「未来記の番人」(PHP文芸文庫)、「浪華疾風伝あかね」「近松よろず始末処」(ポプラ社)など。「緒崎さん家の妖怪事件簿」(小学館ジュニア文庫)など児童書も手がける。
「蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳~」
「蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳~」
2018年5月6日(日)~13日(日)
大阪府 大阪松竹座
2018年5月16日(水)~20日(日)
東京都 新橋演舞場
  • 原作:築山桂「禁書売り」「北前船始末」(双葉文庫)より
  • 脚本:松田健次
  • 演出:錦織一清
  • 音楽:岸田敏志
キャスト
  • 緒方章:藤山扇治郎
  • 楽人の姫 東儀左近:北翔海莉
  • 楽人 若狭:荒木宏文
    天游息子 耕介:上田堪大
    瓦版屋三吉実は隠密同心 桂木一郎:佐藤永典
  • 神道者の娘 おあき:宮嶋麻衣
    思々斎塾手伝い トラ:高倉百合子
    本屋 加島屋:ゆーとぴあ・ピース
  • 手先の半治:渋谷天笑
    同心 新井幸次郎:丹羽貞仁
    北前船の船頭頭 卯之助:笠原章
  • 本屋仲間行司衆 山城屋忠兵衛:神保悟志
  • 天游の妻・町医 お定:久本雅美
  • 思々斎塾主宰 中天游:石倉三郎
あらすじ

天下の台所として栄える商人の町・大坂。若かりし頃の緒方洪庵こと緒方章は(藤山扇治郎)は、蘭学医・中天游(石倉三郎)が主宰する思々斎塾で医学研究の学才を伸ばしていた。その塾では天游の息子・耕介(上田堪大)も学んでいるが、耕介はおあきという女に恋焦がれ親に金の無心をする始末。これには天游と妻のお定(久本雅美)も呆れ顔である。

ある日、幕府が刊行を禁止している禁書を入手するように天游から言いつけられた章は、本屋の加島屋(ゆーとぴあ・ピース)から目的の禁書を入手しようとするが、待ち合わせをしていた天満宮で加島屋が殺されてしまう。同心の新井幸次郎(丹羽貞仁)、手先の半治(渋谷天笑)らも加わって騒ぎとなる中、謎の見目麗しい若侍に心を奪われる章。なんとその若侍は、宮廷の舞楽を担う在天楽所(ざいてんがくそ)の女流楽人・東儀左近(北翔海莉)だった。しかし左近には、千年にわたり大坂の町を守ってきた闇の組織・在天別流(ざいてんべつりゅう)の総領娘という別の顔があった。

謎の瓦版屋三吉(佐藤永典)によって、恋人のおあきが加賀屋殺しの犯人にされ困っている耕介の相談に乗っていた章は、北前船船頭の卯之助(笠原章)が襲われ、その娘・おゆきがさらわれる場面に出くわす。実は卯之助は、天然痘の薬で大儲けを企んでおり、松前からの積荷にそれが含まれていた。そして老舗山城屋(神保悟志)は、その儲けを1人占めしようと画策する。一方、出回るはずのない禁書が市中に出回る事件を追っていた左近は、章と事件解決に乗り出すことに。そんな左近という謎めいた存在に異性としても惹かれていく章。しかし、左近のそばにはいつも楽人仲間の若狭(荒木宏文)がいて……。

藤山扇治郎(フジヤマセンジロウ)
1987年京都府出身。昭和の喜劇王と称され、松竹新喜劇を牽引した藤山寛美の孫。父親は小唄・白扇流の家元で、女優・藤山直美は伯母。93年、東京・歌舞伎座「怪談乳房榎」にて十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)の息子役として初舞台を踏む。96年、祖父の追善供養公演に出演するなど、名子役として活躍し、大学卒業後本格的に俳優デビュー。劇団青年座研究所を経て、2013年に松竹新喜劇に正式入団。祖父の当たり役に次々と挑戦してきた。近年では自身が主宰する若藤会で新劇の名作を上演するなど意欲的に活動。昨年17年には大阪・大阪松竹座で上演された「銀二貫」で自身初となる外部作品の主演を務めた。昨年に引き続き、今年18年も山田洋次監督作品・映画「家族はつらいよ」シリーズの最新作に出演。
北翔海莉(ホクショウカイリ)
千葉県出身。1998年、宝塚歌劇団に入団後「シトラスの風」で初舞台を踏む。翌99年、月組に配属。2003年「シニョール ドン・ファン」で新人公演初主演、06年「想夫恋」でバウホール公演単独初主演を果たす。同年、宙組へ組替え。12年に専科へ異動後は、各組の公演に出演し、主要な役を次々と務めた。15年星組へ異動し、全国ツアー公演「大海賊」「Amour それは…」にてトップスターに就任。以降、充実の舞台で客席を魅了したが、16年「桜華に舞え」「ロマンス!!(Romance)」で惜しまれつつ退団。昨年17年9月にはミュージカル・コメディ「パジャマゲーム」で女優活動をスタートさせた。
荒木宏文(アラキヒロフミ)
1983年兵庫県出身。2004年、第1回「D-BOYSオーディション」で最終選考に残り、俳優集団D-BOYSに加入。05年1月「ミュージカル『テニスの王子様』」で2代目乾貞治役を務め、注目される。08年「夏休みのような1ヶ月」で山崎育三郎と共に映画初主演、10年には音楽ユニット・D☆DATEのメンバーとしての活動を開始。15年にはソロデビューを果たす。近年の出演作は「もののふシリーズ最終章『駆けはやぶさ ひと大和』」「御茶ノ水ロック-THE LIVE STAGE-」ほか。
佐藤永典(サトウヒサノリ)
1990年埼玉県出身。2008年「ミュージカル『テニスの王子様』」で俳優デビュー。その後、「冒険者たち」「少年探偵団」「ロミオとジュリエットのハムレット」「かげろう」「孤島の鬼」で主演を務める。出演映画「Sea Opening」が現在公開されているほか、今年18年には主演映画「やっさだるマン」も公開予定。近年の出演作は、シアターコクーン・オンレパートリー2017 DISCOVER WORLD THEATRE vol.2「危険な関係」「『GANTZ:L』-ACT&ACTION STAGE-」「座・ALISA Reading Concert 喜歌劇『天国と地獄』オッフェンバック原作より『12月25日、雪』~天国と地獄~」など。
上田堪大(ウエダカンダイ)
1988年京都府出身。2013年「霜月の星の下~果たして龍馬は命日に暗殺されたのか~」で初舞台。以降、「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」の鬼龍紅郎役、「ダイヤのA The LIVE Ⅲ」の真田俊平役、音楽劇「金色のコルダ Blue♪Sky」の土岐蓬生役をはじめとする舞台、ミュージカル、映画などで活躍。また昨年17年には「『漫劇!! 手塚治虫 第四巻』The Fusion of Comics & Theater」で初主演を務めた。近年の出演作は、音楽劇「チンチン電車と女学生」「舞台『K -MISSING KINGS-』」など。