麿赤兒が語る「アウトレイジ 最終章」|世界に対する、北野監督なりのパースペクティブが見える

はぐれっぱなしの身体でいる

──おびただしい暴力とあっけない死にあふれたこの映画は、生の実感やその根拠となる“身体性”を忘却した世界を描いているようにも思えます。麿さんは今、人工知能やバイオテクノロジーをモチーフにした「擬人」、人間を超えた人工知能AGIの登場以後の世界を描く「超人」の2本立て公演を準備されていますよね。技術革新が進むなか、人間の身体やその感覚は、いったいどこへ向かうのでしょう。

麿赤兒

僕はどうも人類は、20万年から25万年くらいで滅びるように、DNAのレベルでセットされてるんじゃないかという気がしてるんですよ。それも誰かに滅ぼされるんじゃなく、自滅でね。例えば核があって、爆発したとしても、それは人間が自らやったことでしょう。AIが進化して、自分でものを考えられるようになったとき、「人間って一番危険な存在だから、もう滅ぼしましょう」って結論を出すってこともあるかもしれない。ロボットにしたって今は人間がプログラミングしてるけど、自己プログラミングするようになったら、もう「ご主人様……」なんて言ってくれないよ。どんどん置いていかれてさ。だから、最終的に人間は「家畜人ヤプー」(*注)みたいになっちゃって、こっちが「何かご用ですか、車ですか」なんていって、車輪になったりするんじゃない?(笑) ま、とにかく、人間はアホなことを考えて、自分のことを苦しめて楽しんでる。その滑稽さをいじくってみようと思ってます。わけわかんなくて、面白いですよ。うちの場合、どうしてもアナログでやるAI世界だからさ。

──それこそ身ひとつで、新たな世界に向き合ってみるしかないと?

人間の体のありようも、やっぱり、はぐれっぱなしなんですよ。そこでウロウロしているのが僕の踊り。北野監督は、その頭の良さと芸人的な感覚を使って、すごい複雑な方程式を解くように映画を作ってると思う。あの人、理系だしね。でも僕は、もうちょっと出たとこ勝負。もちろん、現代の感覚とか、情念の世界とか、いろんなファクターはありますよ。でもそれも、筋道立てるというよりは、グチャグチャにしてバアッと出しちゃう。例えば洪水が起きた、地震が起きた、家でお茶漬け食べてるっていうのも、全部、身体に入ってる、という前提でいますから。だから、ポッと立ってれば、それでいいんだってところがあるんです。

──手法やプロセスは違えど、北野監督も麿さんも、「はぐれっぱなし」に強く惹かれ、そのありようを見つめているという気がします。

こんなことしてていいのか、もっと社会のために働くべきなんじゃないか……というような(笑)、ある種の後ろめたさは、僕にもいつも付きまとっていますよ。北野監督だってそういうものを背負って映画をやってるんじゃないのかな。「そんなもん、当たり前だ」って言うだろうけどね。「それを含めて、ここに在るんだよ」って。

麿赤兒

*白人を神と崇め、権力のすべてを女性が握る未来帝国を舞台とする沼正三の長編SF・SM小説。「ヤプー」とは旧日本人のことで、生ける道具、家畜として、白人たちに使われる。[↑戻る]

「アウトレイジ 最終章」
2017年10月7日(土)全国ロードショー
「アウトレイジ 最終章」
ストーリー

元はヤクザの組長だった大友は、日本東西の二大勢力であった山王会と花菱会の巨大抗争のあと韓国に渡り、歓楽街を裏で仕切っていた。日本と韓国を股にかけるフィクサー張のもとで働き、部下の市川らとともに海辺で釣りをするなど、のんびりとした時を過ごしている大友。そんなある日、取引のため韓国に滞在していた花菱会の幹部・花田から、買った女が気に入らないとクレームが舞い込む。女を殴ったことで逆に大友から脅され大金を請求された花田は、事態を軽く見て側近たちに後始末を任せて帰国する。しかし花田の部下は金を払わず、大友が身を寄せる張会長のところの若い衆を殺害。激怒した大友は日本に戻ろうとするが、張の制止もあり、どうするか悩んでいた。一方、日本では過去の抗争で山王会を実質配下に収めた花菱会の中で権力闘争が密かに進行。前会長の娘婿で元証券マンの新会長・野村と、古参の幹部で若頭の西野が敵意を向け合い、それぞれに策略を巡らせていた。西野は張グループを敵に回した花田を利用し、覇権争いは張の襲撃にまで発展していく。危険が及ぶ張の身を案じた大友は、張への恩義に報いるため、そして山王会と花菱会の抗争の余波で殺された弟分・木村の仇を取るため日本に戻ることを決めるが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

大友:ビートたけし
西野:西田敏行
市川:大森南朋
花田:ピエール瀧
繁田:松重豊
野村:大杉漣
中田:塩見三省
李:白竜

白山:名高達男
五味:光石研
丸山:原田泰造
吉岡:池内博之
崔:津田寛治
張:金田時男
平山:中村育二
森島:岸部一徳

※「アウトレイジ 最終章」はR15+作品

麿赤兒(マロアカジ)
麿赤兒
1943年奈良県出身。ぶどうの会を経て、 64年より舞踏家・土方巽に師事したのち、唐十郎と出会い状況劇場の設立に参加する。 1972年に舞踏集団・大駱駝艦を旗揚げ。“天賦典式(てんぷてんしき)”と名付けられた様式で、国内外に広く知られるようになる。 舞踏家として精力的に振付・演出・上演し続けている一方で、 俳優としてもさまざまな作品に出演。舞踊評論家協会賞や文化庁長官表彰、日本ダンスフォーラム賞大賞、東京新聞制定の第64回舞踊芸術賞など受賞歴多数。主な作品に「海印の馬」「流婆RyuBa」「クレイジーキャメル」「パラダイス」ほか。自身の半生を描いた著書「麿赤兒自伝」が発売中。また9月から10月にかけて東京・世田谷パブリックシアターにて、大駱駝艦・天賦典式 創立45周年公演「超人」「擬人」、2018年3月に東京・新国立劇場 中劇場にて大駱駝艦・天賦典式「罪と罰」の上演が控える。

2017年10月6日更新