畠中祐が語る、音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」の“尊さ”

音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」が、10月から12月にかけて大阪・東京・広島ほか全国で上演される。これは筒井広志の小説「アルファ・ケンタウリからの客」を原作としたミュージカル。1988年に音楽座ミュージカルで初演されて以来上演が重ねられ、2020年には東宝製作のプロダクションでもライセンス上演が行われた。

ステージナタリーでは、本公演にて、音楽座ミュージカルの小林啓也とWキャストで主演を務める畠中祐にインタビュー。音楽座ミュージカル出身の両親を持つ畠中は、十代から声優として活動し、今回初めてミュージカルに挑む。幼少期から本作に親しんできた彼に、この作品がミュージカルファンに長く愛されている理由や、父・畠中洋も演じた三浦悠介役への向き合い方、また自身が考えるこの物語の魅力について語ってもらった。

取材・文 / 中川朋子撮影 / 藤田亜弓

原点に立ち返りつつ、新しい「シャボン玉」になる

──畠中さんは、「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」(以下「シャボン玉」)でミュージカルに初挑戦します。この作品に出演することになった経緯を教えてください。

僕が自分で手を挙げました。昨年、音楽座ミュージカルの高野菜々さんがアルバム「プリズム」を出すときに、リリース記念ライブのゲストに僕を呼んでくださり、一緒に「シャボン玉」の楽曲を歌うことになって。僕の両親は音楽座ミュージカル出身なので、子供の頃から「シャボン玉」を知ってはいたんですが、ライブのために改めて資料映像を観たら、めちゃくちゃ面白かった! そのとき「この作品をやってみたい」と思いました。実は僕の所属事務所の社長と、音楽座ミュージカル代表の相川タローさんは幼なじみなので、「スケジュールがうまく合えば、ぜひやってみたいです!」と社長に相談し、お二人が調整してくださって今回の出演が実現しました。タローさんが「やろうやろう!」と言ってくださったのはうれしかったですね。

音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」1989年公演のポスターを指差す畠中祐。

音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」1989年公演のポスターを指差す畠中祐。

──畠中さんのお父様・畠中洋さんとお母様・福島桂子さんは、音楽座ミュージカル時代に「シャボン玉」に出演し、それぞれ作曲家志望の青年・三浦悠介役、スリとして育てられた孤児・折口佳代役を演じていました。子供時代は、この作品にどのように触れていましたか?

家にあった作品のビデオや資料をよく観ていました。子供の頃、両親が「シャボン玉」の歌でハモっていたことも覚えています。今回の出演が決まって母と話しましたし、父からも「うれしいよ」と連絡が来ました。まだ両親とは多くを語り合っていません。2人が口を開くのは、たぶん公演が終わったあとです(笑)。正直な人たちなので、何か言われるとは思うんですけど……今気にしてもしょうがないですね!

──「シャボン玉」では、悠介と佳代のラブストーリーを軸に、宇宙人であるラス星人たちも絡み、スケールの大きな物語が展開します。1988年初演のこの作品が、これほど長く愛されている理由は何だと思いますか?

シンプルに、よくできた台本なんですよね。読むだけで笑えるし、テンポも計算され尽くしている。思わぬ方向にストーリーが広がるのに、ラストに向かってすべての要素がつながっていくのも面白いです。それにとても“器”が大きい作品だなと。それぞれの役について多様な解釈をすることができますし、キャストが変われば当然役の印象も変わります。それでも作品全体の印象や大切なテーマはブレない。それが名作と呼ばれる由縁なのかなと思います。

僕は作中のキャラクターにすごく共感してしまうんです。「シャボン玉」には、悠介が自分を犠牲にしても大事な人を助けようとするというシーンがあります。現代の感覚で考えると、「もうちょっと自分のこと考えても良くない?」と感じる部分もあるのですが……でも同時に僕らの中には「誰かと誰かの、奇跡のようなつながりを信じたい」という気持ちがあるのかも。「現実にこんな綺麗事はあり得ない」と言うのは簡単です。だけどこの物語に心を動かされてしまう僕らはやっぱり、そういう“つながり”を信じたくて生きているんじゃないかな。

畠中祐

畠中祐

──確かにそうですね。初めは地球人を「化け物」と言っていたラス星人たちの心境が次第に変化し、のちに佳代を助けてくれるという姿にも、「誰かとつながれるんだ」と思いたくなる温かさを感じます。

ラス星人もほかのキャラクターも、台本で読むと「うわ、恥ずかしい!」というくらいセリフがストレートです。でも実際に演じてみるととても尊いシーンになります。僕、小さい頃は「宇宙人の動き、面白いなー」くらいにしか思っていませんでしたけど(笑)、改めて観たらラス星人たちが優しくて優しくて泣いちゃうんですよね。佳代に対するラス星人もそうですし、悠介と佳代の間にも真っすぐな愛がある。「誰かを真っすぐに愛することはこんなに尊いんだ」と思うし、僕たちが生きている現実が複雑になればなるほど、このシンプルな“尊さ”を求めてしまう気がする。今回は台本や楽曲を初演のものに近付け、原点に立ち返りつつも新しい「シャボン玉」になる予定です。劇中には泣けるシーンがたくさんありますが、もしお客さんが何気ない場面で感動してくれたなら、今回新たに上演する意味があるんじゃないかな。

今回の悠介は“変なやつ”!それでも変わらない佳代への愛

──畠中さんは現時点で悠介という人物をどのように捉えていますか?

僕は1991年に青山劇場で上演された「シャボン玉」のビデオを観て育ったのですが、このバージョンでは母が佳代、本間仁さんが悠介役を演じていました。自分にとって悠介といえば本間さんが演じていたバージョンでしたが、今回は僕のイメージとはかなり違う悠介を作っていくことになりそうです。僕が抱いていた悠介像は、シャイで繊細で内向的な優しい青年でした。だけど今回の悠介は……変なやつ! 「絡みづらいな」「何考えてるんだろう?」「ネジが2つくらい外れてる?」みたいな感じです(笑)。上演が重ねられるごとに悠介像も変わっていきましたが、2023年版では初演に近い、マイペースなキャラクターとして悠介を見せることになりそうですね。例えば画家のゴッホと実際に会って話したら「何、こいつ!?」って感じだったと思うんですよ。悠介も作曲家だし、今回は“もの作りに徹している変な人”という雰囲気がより強くなるかもしれません。

──悠介は、出会って間もない佳代にキスしようとしたりしていて、他人との距離感が独特ですよね(笑)。7月に台本の読み合わせがあったそうですが、手応えは?

初めての読み合わせではカンパニーの皆さんから「繊細すぎるし、考えすぎ!」と言われました(笑)。だから次は何も考えずにやってみたら「それだ!!」と。自分ではただ声を出してセリフを読んだだけ、という感じだったので、僕の役作りはこれからですね。それに悠介には受け身なところがあるので、佳代との掛け合いで生まれてくるものに全部任せてみてもいいのかなって。悠介は起きたことに全部「イエス」で答え、受け入れる人。でも唯一、佳代に関することだけは違う。佳代と遊園地の迷路で出会った瞬間から、悠介は「何があってもこの人を大切にしよう」という答えを出していたんじゃないでしょうか。

──何でも受け入れてきた悠介だからこそ、佳代を虐待していた養父に「誰にも渡さない何があっても 佳代を離さない」と立ち向かうシーンが印象的でした。

そうですね。あの場面は悠介の中に「俺が守るんだ!」という強い気持ちがあったというより、思わず身体が動いてしまったのかなと。なぜなら彼にとって、佳代は本当に大切な人だから。悠介の佳代への思いの強さはどのバージョンの「シャボン玉」でも一貫していますし、どんなに悠介像が変化してもそれは変わらないと思う。だから僕もその気持ちを大事に演じたいですね。

畠中祐

畠中祐

──2023年5月に開催された「Hibiya Festival 2023」では、高野さんと一緒に「ドリーム」をパフォーマンスしていました。歌ってみていかがでしたか?

小さい頃から身体にしみ込んでいるナンバーですが、やっぱり名曲ですね。歌うたびに感じ方が違いますし、デュエットする佳代の雰囲気にも左右されます。お芝居のワンシーンとして歌うのが面白い1曲なので、「佳代はどれくらい悠介に心を開いているかな」「アプローチを変えてみようかな」と毎回考えながら歌っています。

──本作には「ドリーム」以外にも、「創ろうメロディ」「守ってブレンド」など素敵な曲がたくさんありますね。

今回は、近年は使われていなかった初演の楽曲が戻ってくる予定なので、最近の「シャボン玉」とは違った雰囲気になるかもしれません。初演の楽曲は1980年代のサウンドという感じで、粗削りな雰囲気が面白くて僕はすごく好きです!