- 2020/2021シーズン 演劇「ピーター&ザ・スターキャッチャー」
- 2020年12月5日(土)・6日(日)、10日(木)〜27日(日)
※5・6日はプレビュー公演
東京都 新国立劇場 小劇場
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作:リック・エリス
原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン
音楽:ウェイン・バーカー
翻訳:小宮山智津子
演出:ノゾエ征爾
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音楽監督:田中馨
美術:深沢襟
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出演:入野自由、豊原江理佳、宮崎吐夢、櫻井章喜 / 竹若元博、玉置孝匡、新川將人、KENTARO、鈴木将一朗、内田健司、新名基浩、岡田正
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演奏:田中馨、野村卓史
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ノゾエと田中の対談を部屋の隅で聞いていた宮崎吐夢。「今回、稽古後もみんなで飲みに行けないので、ノゾエくんと(田中)馨くんはどういう気持ちでこの作品に臨んでいるのか知ることができてありがたかった」と感想を語る彼は、黒ひげの唯一の子分・スミーを演じる。ノゾエ率いる“劇団ピーター&ザ・スターキャッチャー”は、どのような雰囲気で稽古を進めているのか。その様子を教えてもらった。
舞台上でまじまじと見てしまうかも
演出家が何を着て稽古しているかもまったく見えてないような人間の言うことなので(笑)、話半分に聞いてほしいのですが。とりあえず稽古場は俳優もスタッフさんも最初から最後までずっとマスク着用です。演技している相手の表情も下半分わからないし、特に初対面の方はそもそもどういうお顔をされているのかもいまだに確認できていません。
昨日、稽古場でKENTAROさんがたまたまマスクを外したのをチラッと見たのですけど、大変に失礼ながらものすごい二枚目でビックリしたんですよ(笑)。おそらく今、稽古されているほかのカンパニーの皆さんも同様の経験をされているはずで、これって演劇史の中でも特異な状況なのではないでしょうか。舞台稽古に入って初めて出演者全員マスクを取るらしいのですが、そのときずっと1カ月以上稽古してきた相手役の顔をしげしげと見ながら、「ああ。この方、こういうお顔をされてたんだあ」と演技そっちのけで見入っちゃうかもしれません。そういう舞台裏が作品にどう影響するのかも未知の体験です。
マスクを着けたまま歌ったり叫んだり動いたりの稽古は当然息苦しいのですが、1つだけ気付いた利点がありまして。口臭を気にしなくて良いから、普段の稽古に比べて最初からフレンドリーに向かい合い、顔と顔を近付けたりできるんです(笑)。このいつになく近い距離感が本番始まってどのくらい離れていくのかも見ものです。
“前へ前へ”がない、穏やかな稽古場
稽古場の雰囲気はノゾエくんが稽古の初日、「とにかくイライラするのをやめましょう。さんざん迷って遠回りしてみませんか」と言ってた言葉に象徴されると思います。今回キャスティングされている俳優さんも、どことなく温厚で人柄重視といいますか、おだやかな“草食俳優”の方々ばかりで、終始「波風の立たない現場だなあ」という印象です。
僕は今年50歳で、最近はどの現場でも最年長ということも珍しくなかったのですが、今回は年上の俳優さんも多くて、しかも皆さん、超が付くほどお優しい。中でも一番年上の岡田正さんのお気遣い、心配りといったら、仏様みたいなんですよ(笑)。僕は非常にズボラで決められた立ち位置とかも割とあやふやなのですけど、「昨日、こっちに立っていらしてたよね」ってそっと教えてくださったり、僕の靴とかトートバッグを「それ、かわいいね」っていちいち褒めてくださるんです。僕もなかなかの年齢になってきて、若い俳優さんとどう接していいのか、こちらが良かれと思って言ったことが説教やマウンティングになってたりしないか悩んでたりするのですが、いつか岡田さんみたいな先輩になりたいと思います。今回お会いできて本当に良かった。
ピーター(物語の中心となる少年)役の入野自由さんはとにかく達者です。僕がずっといた小劇場界の俳優は、上手い下手、売れてる売れてないにかかわらず技術的には基本的に自己流というかでたらめなんですね。だから入野さんのセリフ回しを聴くと、聴く人の耳に情報がきちんと伝わる技術の確かさを感じます。それに加えて舞台の経験も豊富で身体も動くし、さらに現場の空気を良くするすべも心得ていて実に頼もしい。
モリー役の豊原江理佳さんは稽古場の席がお隣なので、「どうしたらいいのかわからなくて悩んでます」的なこともおっしゃったりしますが、何の問題もない。まだお若いのに堂々としてて貫禄があります。河内出身だそうでたまに大阪弁が出るのがとてもかわいく、いっそ河内弁のまま演じたら良いのにとも思います。
黒ひげ役の櫻井章喜さんが稽古中なんでもすぐ質問するのにはビックリしました。大人計画に入ってすぐ、主宰の松尾スズキさんに「質問禁止(提案は可)」と言われ、質問する俳優も今まで周りにあまりいなかったということもあり、「いくらなんでも質問しすぎなんじゃないか」と心配になるくらいです(笑)。でも偉ぶったところがまったくないので、普段の櫻井さんに黒ひげ役っぽさはみじんもなく、その意外性、ギャップも含めて本番ではどのような黒ひげになるのかとても楽しみです。
竹若元博さんはもともと芸人さんですが、セリフ覚えも動きや段取りの飲み込みも早くて的確で一番、俳優さんっぽい。あと、人の楽譜が落ちると瞬時に拾ってくださったり、ちょっとした一言で場を和ませたり、気遣いの条件反射が異常に素早くて、その瞬間を稽古場で目撃するたび感動します。
新川將人さんとKENTAROさんは、さすがキャリアも長く、さまざまな舞台を経験されていて、歌稽古でも動きの段取りを全員で考えるときもどんどん引っ張っていってくれますし、お芝居もすごくきちんとしていて、ふざけた演出が付くと大真面目にきちんとふざけて見せるのが素晴らしい。ぜひ見習いたいです。玉置孝匡さん、鈴木将一朗さん、新名基浩さんとは以前、それぞれ別の舞台で共演経験があり、またご一緒できてうれしいです。
内田健司さんとは今回、初めてご一緒するのですが、「蜷川幸雄さんの最後の秘蔵っ子」と聞いていて、どんなキレッキレの藤原竜也さんみたいな若者が来るのか身構えていたら、なんといえばいいのか……“藤原竜也感”はゼロでした。内田さんは一挙手一投足がいちいち面白くて、アクション指導の前田悟さんも歌唱指導の今井マサキさんも殺陣を付けたり指揮の仕方を指導しているうちに、内田さんにはいつの間にか演技指導を始めてしまうのが楽しいです。いろいろな人の“演出家ごころ”がくすぐられるのでしょうか。今後も目が離せません。
総じて皆さん大変に控えめで、“前へ前へ”という人が1人もいないんです。一応、ミュージカル(音楽劇)なのに(笑)。思えば、ノゾエくんの主宰の劇団はえぎわに出演したときも、すぐ舞台奥に下がったり、人の後ろでセリフを言おうとする俳優さんたちばかりなのを思い出しました。この座組もそういう村の住民ばかりが集められたんでしょうね。それが今回、果たしてどうなるのか。ぜひ劇場でご覧いただきたいです。
歓迎、予期せぬ反応
それと以前、ホリプロ制作のブロードウェイミュージカル「ピーターパン」を観たとき、一番面白かったのが、子供たちの反応だったんですよ。もう舞台そっちのけで騒いだり暴れたりして、外に出されちゃう子もいるんですけど(笑)、それがおかしくておかしくて。鶴見慎吾さんが演じるフック船長が何か言うたびに、「フック船長、ダッサーい!」とか声かけて、お芝居が止まっちゃったり。
こういう時期なので、子供たちが劇場に集まるのはなかなか難しいかもしれないですけど、そういうお祭り感というか、客席で予期せぬいろんなことが起こったら楽しいなあと思います。