思うことはやってみてもいいと言われているように感じます
──小川さんがシーズン ラインナップ説明会に出席されるのは今回で3回目でしたが、今年はどんな気持ちで臨まれましたか?
ラインナップ説明会のときは、実はそんなに緊張しないんです。と言うのも、毎年大野さんがたくさんお話になるので、終了時間に間に合うのかなって、そのことが気になっていました(笑)。緊張はむしろ、そのあとの懇談会のほうが少しありますね。記者の方から直接ご質問いただいたりしますから。ただ、常にできる限り自分の言葉で話す、思ってもいないことは言わないことにしようと思っているので、今回も何を聞かれても正直に話そうと思って臨みました。
──会見の最中、お話されている大野さんや吉田さんの様子に小川さんが目線を向け、うなずいていらっしゃる様子が印象的でした。会見前には、3人でお話されたりしたのでしょうか?
そうですね。説明会前の控室では全然違うお話をしたりもしましたし、実は私からお願いして、過去にもオペラ・バレエ・演劇の芸術監督3人だけで話し合う時間というのもありました。
──吉田さんは、ラインナップ紹介の前に芸術監督としての所信表明をされました。それをお聞きになって小川さんも影響を受けた部分はありますか?
すごく受けましたね。前任の大原(永子)先生が作られたものをより先に、と都さんはおっしゃっていましたが、すごくいいことだなと。大原先生とはよくお話させていただくことがあったんですけれど、当時大原先生は「自分の使命はバレエ団の力を上げていくことだ」とおっしゃっていて。それが都さんの代になってさらに推し進められていくということで、「芸術監督(制度)ってすごく意味があるな」と思いましたし、演目的にもこれまで古典が中心だったところに、コンテンポラリーの新たな人たちが関わるのはいい流れだなと。演劇も、オデオン座やコメディフランセーズ、イギリスのナショナルシアターのように長い歴史がある劇場だと芸術監督にさまざまな役割があると思うんですけど、新国立劇場はまだ20年なので、芸術監督も“流れ”の中でどう動いていくかが大切なんじゃないかと思うんです。私が参与になったとき、歴代の芸術監督である栗山民也さん、鵜山仁さん、宮田慶子さんとお一人ずつお話しさせていただく機会があったんですね。そこで、皆さんがそれぞれ、当時どのようにお考えになっていたのかを知って共感しましたし、尊敬する方々なので、私も自分の役割を果たせたらと思います。温故知新しながら引き継いでいくものは引き継ぎ、こつこつプロジェクトやフルオーディション企画のように、新しく作るものは作っていきたいなと思っています。
──ラインナップ説明会で小川さんは「地に足が着いた」という言葉を度々おっしゃっていました。主に作品に言及するときに使われていましたが、ラインナップ全体からも“地に足が着いた”感じを受けます。2018年は海外作品を中心に新しい作品が並び、2019年度は「ことぜん」シリーズなど現状に対する疑問を軸にした作品が印象的でしたが、今年は“現状を踏まえてどうするか”という目線を感じます。
ラインナップは1年単位でなく、4年間でなんとなくの流れを考えているので、今年に合わせてこのテーマやラインナップになったというより、やりたいと思っていることのさまざまなタイミングが重なったというところもあります。ただその中で「人を思うちから」というシリーズは、この3作品を読み直したときに改めて「すごいな、人ってこんなに人を思うことができるんだ」って思ったんですね。日本でしかできない作品と思ったんです。だからこのタイトルは、今の私が付けたなって感じがすごくします。2020 / 2021シーズンはちょうどオリンピック・パラリンピックが終わったあとでもあるので、ワッと上がった熱がスーッと収まっていくときにこそ劇場へ、という気持ちもあって。それで短編フェスティバルには「初めての演劇」というサブタイトルをつけています。
──これまでもそうでしたが、演劇の敷居を、より低くしてみようというアプローチとなりそうです。
そうですね。公演自体は1~2週間程度、12本前後の短編をやりたいと思っています。またトークやワークショップなどいろいろなことを画策していて、暑い時期なので、飲食も自由にしながら、劇場内のあちこちを使って上演してみたいなって。私自身も、作品と演出家がそれぞれ決まったあと、隙間を埋めるように演出したいなって思っています(笑)。
──説明会、懇談会とお話を伺っていて、小川さんが芸術監督として非常にポジティブに動いていらっしゃる印象を受けました。
芸術監督の任期が4年と聞いたときは長いなと思ったのですが、始めてみたら意外と早いですね。内部の方にはすごくサポートしていただいている感じがしていて、やっぱり人間関係は人を知るにも自分を知ってもらうにも、時間がかかるなと思います。ただ、思うことはやってみてもいいと言われているように感じます。
──芸術監督として、以前よりも見えてきたものがあるということでしょうか。
そうですね、ちょっとあるかもしれません。以前は探り探りだったことが、徐々にのびのびと、やりたかったことをやらせてもらえるようになってきたと思います。
- 海外招聘公演「ガラスの動物園」(フランス語上演 / 日本語字幕付)
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- 2020年9月
東京都 新国立劇場 中劇場
- 2020年9月
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作:テネシー・ウィリアムズ
演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
出演:イザベル・ユペール、ジャスティーン・バチェレ、シリル・グエイ、ナウエル・ペレ・ビスカヤー
- 「リチャード二世」
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- 2020年10月
東京都 新国立劇場 中劇場
- 2020年10月
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作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出:鵜山仁
出演:岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、立川三貴、横田栄司、勝部演之
吉村直、木下浩之、田代隆秀、一柳みる、大滝寛、浅野雅博
那須佐代子、小長谷勝彦、下総源太朗、原嘉孝、櫻井章喜、石橋徹郎
清原達之、鍛治直人、川辺邦弘、亀田佳明、松角洋平、内藤裕志 - ※「シェイクスピア歴史劇シリーズ映像上映」
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- 2020年11月
東京都 新国立劇場 小劇場
- 2020年11月
- 「ピーター&ザ・スターキャッチャー」
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- 2020年12月
東京都 新国立劇場 小劇場
- 2020年12月
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原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン
作:リック・エリス
音楽:ウェイン・バーカー
翻訳:小宮山智津子
演出:ノゾエ征爾
- 人を思うちから 其の壱「斬られの仙太」
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- 2021年4月
東京都 新国立劇場 小劇場
- 2021年4月
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作:三好十郎
演出:上村聡史
出演:2020年1・2月開催 オーディション合格者16
- 人を思うちから 其の弍「東京ゴッドファーザーズ」
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- 2021年5月
東京都 新国立劇場 小劇場
- 2021年5月
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原作:今敏
作:土屋理敬
演出:藤田俊太郎
- 人を思うちから 其の参「キネマの天地」
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- 2021年6月
東京都 新国立劇場 小劇場
- 2021年6月
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作:井上ひさし
演出:小川絵梨子
出演:高橋惠子、鈴木杏、趣里、那須佐代子、佐藤誓、章平、千葉哲也
- 「短編フェスティバル『嘘』(仮題)─はじめての演劇─」
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- 2021年7月
東京都 新国立劇場 中劇場・小劇場 ほか
- 2021年7月
2020年1月31日更新