やっぱり僕は、舞台人なので…
──改めて今回、“物語”に焦点を当てたのは、なぜですか。
「人生は物語だ」って言っても、例えば映画やドキュメンタリーのように都合の良いものを並べたものが人生かというと、そうではない。人生には物語にならない無駄な部分もいっぱいあって、それはどこに行ったのか、ということを考え始めたんです。と同時に、芸術って、退屈な日常の中で別の人生を体感してみたいとか、別の人生に共感したいとかっていう思いに応えている部分があって、そういった意味では、芸術は人に物語を与えていると思うんです。人間は、音楽や歌、美術や映画、舞台といった芸術と自分の人生とを照らし合わせて共通点を見つけ、「自分の人生も物語だ」と思い込もうとするわけですが、自分の人生を物語で彩りたいという思いが、そもそもエゴなんじゃないかと僕は思っていて。
──コロナ禍によるホームステイ期間中、NetflixやAmazon Prime Videoなどで、映画やドラマを積極的に“摂取”する人が増えました。三浦さんご自身はどうでしたか?
実は僕もその1人です(笑)。だから現状を達観しているわけではなく、自分のことを思い返して「そうだな」と思ったというか。その一方で、映画館に向かってたくさんの人が歩いていくゴジラロードの様子が、ある種の縮図に見えて、「なんでそんなにも映画が観たいのかな」「何を映画に求めてるのかな」と考えたことが本作の根底にあります。
──台本を拝読すると、テーマが非常にストレートに描かれているなと思いました。
セリフで「これは物語なのだろうか」とか「自分たちが主人公なら……」と語ってますからね。いつもは状況から汲み取ってほしいという部分がありましたけど、今回は今までと違うシーンの作り方、人の描き方をしないとテーマに肉迫できないし、これまで以上に言葉の力を借りないとなかなか表現し切れないなって。そこで手こずっている感じがあります。
──意識的に言葉にしようとされているんですね。
そうかもしれないですね。今回は、これまでのようにミクロの世界から広がる感じではなく、世界全体をそのまま俯瞰したいと思っています。ただそれを伝えるのがなかなか難しくて言葉を駆使しているというか。その点は今までの僕の作品と大きな違いかもしれません。
──また、稽古では作品全体の空気感がまず立ち上げられていて、大きなラフが描かれているように感じました。それは、三浦さんが近年、映像作品によく携わっているからでしょうか?
そうですね。この3年の間にいろいろ映像をやったので、映像的な切り取り方をしている部分はあると思います。とはいえ、もともと映像的なことをあえて演劇でやるのが自分の持ち味だと思うので、今回はそういった“映像的なものを舞台化する極み”だと思っていただければ良いかもしれません。
──台本の書き方にも稽古の進め方にも、新たな挑戦を感じます。
舞台だから、映像だからと特に考えずにやろうとしていますが、やっぱり僕は舞台人なので、舞台の新作となると今までやってきたことと違うことをやらないと意味がないと思ってはいます。大風呂敷を広げて、目標点を高い位置に設定しないと、舞台作品を作るモチベーションが上がらないんです。その点、今回は技法とかではなくまず難しいテーマを置いていますし、舞台じゃなければこういうことはやらないでしょうから、そこも“極み”かもしれません(笑)。
──シアターコクーンでの上演は、2015年に上演されたネルソン・ロドリゲス作「禁断の裸体」(演出)、「そして僕は途方に暮れる」(作・演出)に続き3度目です。劇場に対してはどんな印象をお持ちですか?
自分のやりたいこと、作品性を100%生かして舞台を作れる最後の場所というイメージですね。コクーン以上のサイズになると、自分がやりたいことを多少曲げないと表現できないかなと思うんですが、コクーンは100%やらせてくださるし、キャパ的にも使いやすいです。
──三浦作品では舞台美術も重要ですが、シアターコクーンは天井も高く、舞台美術が映えますね。
そうですね。舞台空間を使い切るというのは演出家にとって目標だと思うので、その点でコクーンは余すところなく使い切ることができる、やりやすい劇場だと思います。
“誰もやろうとしないことをやる”の姿勢で
──松尾スズキさんがシアターコクーンの芸術監督に就任して1年半経ちました(参照:シアターコクーン芸術監督・松尾スズキ インタビュー)。三浦さんは二十代に松尾さんの影響を強く受けたとおっしゃっていますが、松尾さんが芸術監督になったことでコクーンの印象が変わったところはありますか?
松尾さんが芸術監督になられてから、シアターコクーンがさらに華やかにというか、ステータスが上がって、劇場に憧れる人がさらに増えたんじゃないでしょうか。僕らも若い頃にシアターコクーンに憧れましたけど、今の若い演劇人たちの中で、コクーンがどういう位置付けになっているのか、聞いてみたいですね。
──また、今は三浦さんご自身が、若い演劇人たちから憧れの対象となっていると思います。
たぶん僕の作品って、役者もラフにセリフを言うし、物語は日常に根付いたものだし、自分たちに近い世界だから「自分でもこういうのだったらできる」と思われるところがあるんじゃないかな。
──いやいや、三浦さんが作品に臨む姿勢や覚悟は、誰でもまねできるものではありません。
気が小さな人間のくせに、そういう思い切りだけはあるんですよね(笑)。僕が「愛の渦」(編集注:乱交パーティで出会った男女の一夜を描いた作品)で岸田國士戯曲賞を受賞したとき、授賞式で宮沢章夫さんが「乱交パーティの話は誰でも思いつきそうだけど、それをやろうとするかどうかが重要だ」とおっしゃって。普通は考えても誰もやろうとしないことを、あえてやろうとするのが僕の作家性だと言われたと感じて、すごく合点がいったんですよね。
──まさに今回も、そんな三浦さんの作家性がフルに発揮されそうです。
あははは!(笑) そうですね。完成に達すれば、ですけど。がんばります。
- 三浦大輔(ミウラダイスケ)
- 脚本家、演出家、映画監督。早稲田大学演劇倶楽部を母体として演劇ユニット・ポツドールを結成し、「愛の渦」で第50回岸田國士戯曲賞を受賞。その後海外でも多数公演を行ったほか、近年は映画監督としても活動。主な舞台作品に「裏切りの街」「ストリッパー物語」「母に欲す」「娼年」など。シアターコクーンではネルソン・ロドリゲス作「禁断の裸体」の演出、「そして僕は途方に暮れる」の作・演出を手がけた。脚本・監督を手がけたドラマ「初情事まであと1時間」第2話が7月に放送、監督作「そして僕は途方に暮れる」は2022年に公開予定。
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