COCOON PRODUCTION 2021「物語なき、この世界。」三浦大輔が斬り込む“物語で人生を彩るというエゴ” 主役は新宿?岡田将生・峯田和伸・寺島しのぶが語る思い

三浦大輔が3年ぶりに新作舞台を手がける。これまで、人間の業や社会の歪みに鋭い視線を向け、そこに潜むさまざまな声をあらわにしてきた三浦。今回は、“物語”に対して疑問を投げかけ、「人はなぜ物語を求めるのか」「自分の人生も物語だと感じることは、人間のエゴではないか」という視点から、“物語なき世界”に迫る。

また本特集の後半では、三浦が厚い信頼を寄せるキャストの岡田将生、峯田和伸、寺島しのぶが本作、そして三浦大輔について語る。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 須田卓馬

三浦大輔インタビュー

わい雑さと洗練、今の新宿を思って描いた

──本作は、2018年に上演された「そして僕は途方に暮れる」(参照:キスマイ藤ヶ谷太輔「3キロほど痩せました」、三浦大輔の逃亡劇「そして僕は~」)以来、三浦さんにとって3年ぶりの新作舞台となります。新宿が舞台になるとのことですが、三浦作品ではよく新宿が描かれますね。

三浦大輔

そうですね。まあ特に思い入れはないんですけど(笑)、僕の生活圏が新宿付近なので、空気を体感しているということもありますし、繁華街の中ではよく知ってる場所なので。

──ポツドールが岸田國士戯曲賞受賞作である「愛の渦」や「夢の城」「恋の渦」などをTHEATER / TOPSで上演していた2000年代は、新宿コマ劇場などもまだあって、歌舞伎町辺りはもっとわい雑とした印象でした。ポツドールの作品も、新宿の街に転がっているエピソードと地続きに感じましたが、当時とは新宿もかなり変わってきました。

TOHOシネマズ新宿などができて整備されましたよね。今回、その変わった新宿の風景を思い描いて書いたところがあります。もともとの雑多でわい猥な感じと、今の多少洗練された雰囲気が混在している気持ち悪さというか。

──「物語なき、この世界。」では、風俗店や飲み屋が並ぶ通りを何度も通り過ぎていく警官や、喫煙所に集まってくる喫煙者といった細かな描写がたびたび挟み込まれます。また、これまでは「夢の城」のような群像劇を除いては、どちらかというと明確に1人の主人公が立っている作品が多かったと思いますが、今回は岡田将生さん演じる菅原裕一と、峯田和伸さん演じる今井伸二の2人が軸となっています。

菅原と今井は一応主人公ではあるんですけど、途中から2人を凌駕するような、寺島しのぶさん演じる橋本智子が登場することで、誰が主人公かわからなくなっていくんですよね。その感じが、今回の狙いでもあります。でも実は智子自体、物語に絶対に必要な人物というわけでもなくて、「いったいこれは誰の話なのか」というように、視点が変わっていく作品になれば良いなと思います。

──物語の軸であるはずの菅原と今井を、智子が「あんたたちまだいたの」と一蹴するシーンが良いですね。

そうですね(笑)。2人は主人公であるはずなのに、智子には要らないって言われてしまう。でも確かに俯瞰で見ると、誰が世界の主役かなんてわからないし、逆に“その人目線”で見ればやっぱり自分が主役なんですよね。

なぜ人は物語を求めるのか

──本作では“「人生は物語」だと捉えるのは人間のエゴではないか、人生の本質は物語に対してカスと言われるような部分にあるのではないか”という目線から、売れない俳優・菅原と売れないミュージシャン・今井のある一夜が描かれます。

三浦大輔

以前から、物語というか芸術に対する違和感のようなものがあって。人はなんでそんなに音楽とか映画みたいなものを必要とするのかと思っていたんです。それで役者として主人公になりたい人と、ミュージシャンとしてドラマを求めている人を軸にしてみた、という感じです。ただ今回は僕の思いをほとんど2人に乗せているので、作家の顔が見えすぎるのではないか、という危惧がありますが……(笑)。

──“芸術に対する違和感”という点について、もう少し教えてください。

以前から考えていたことなんですけど、これまでさまざまなドラマや物語を作ってきて、もはや自分がやってきたことを否定することからしか始まらないと感じていて。演劇は特にそうなので、今回は物語を作ることを疑問視してみようと思ったんです。「なんでみんな、そんなに物語を求めたがるのかな。生きていくために物語が必要なものだって、どうして言うのかな」と。コロナ禍によって、人が物語を求める傾向はさらに強まったのではないかと感じます。

この新たな企みに乗ってくれる人たちと

──今回の座組には、岡田さん、峯田さん、寺島さんをはじめ、これまで映画や舞台でご一緒された方が多くそろいました。

そうですね。自分の中でも新しい挑戦になる作品なので、この試みを共有できて、この企みに乗ってくれる人、信頼関係がある人を、というところは大きかったかもしれません。僕の人となりや作風をよく理解してくれて、今回やろうとしていることにも理解力が高い人。僕が信頼して任せられる、一緒に物作りをするスタンスになってくれる人を選んだという感じです。

──お稽古の様子を映像で拝見しましたが、粛々と稽古が進んでいますね。

三浦大輔

そんなことはないんですけど(笑)、コロナ禍において舞台の稽古をするのが、僕は今回が初めてなのでちょっと難しくて。マスクで顔が見えないからコミュニケーションを詰めていくのはあとにし、ひとまず芝居の進行上必要なことを整えているところです。ただ岡田くんにしろ峯田くんにしろ、僕の作風をよく理解して、目指しているところに早く近づけてくれるので、楽ですね。

──本作の登場人物は、菅原裕一にしろ、今井伸二にしろ、これまでの三浦さんの作品にもたびたび登場している役名です。

というか、これまで10年くらいずっと一緒です(笑)。菅原裕一は10代目くらいになるんじゃないかな。智子や里美、田村も全部同じですし。役名を考えるのが面倒くさいので、全部一緒にしちゃってもいいのかなって面白がってるところがあります(笑)。

──例えば「そして僕は途方に暮れる」の菅原と「物語なき、この世界。」の菅原のように、同じ名前の役人物が、三浦さんの中ではつながっていたりするのでしょうか?

つながってないですね。ただ主人公の菅原像は、僕の中で善人でも悪人でもない中途半端な人物という点で常に変わらないので、どの菅原にも似た部分はあると思います。

──これまでの三浦作品で物語を生きてきた登場人物たちが、“物語がない”世界を自らつづるというのは、皮肉に感じます。

そうですね(笑)。まあ矛盾してるという意味では、そもそも“物語なき世界”を舞台で描こうとしてること自体がおかしいんですけどね。だって舞台作品になった時点でもう物語ですから。ただ登場人物が、物語の外側について語るなど、ちょっとメタっぽい感じの要素も入れていて、そういったことを駆使しながら描き切ろうとは思っています。