「イマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~」は、京都・南座による“体験型マルチエンディング演劇”。これまでに南座は、中村獅童と初音ミクの「超歌舞伎」や、ASOBISYSTEM、NAKED Inc.とコラボレートした“未来型エンタテインメント”イベント「ミライマツリ」、きゃりーぱみゅぱみゅなどさまざまなアーティストのライブステージ「音マツリ」など、多種多様な挑戦を行ってきた。今回は観客の回遊や投票などの仕掛けが施された参加型演劇・イマーシブシアターを立ち上げる。
劇中では死によって恋仲の相手と離れてしまったサクラヒメ(純矢ちとせ)が転生し、5人の男性(川原一馬、荒木健太朗、世界、平野泰新、Toyotaka)の中から運命の相手を探す様が描かれる。ステージナタリーでは、12月中旬に行われた製作発表の直後に、その5人を演じるキャストの座談会を実施。タップが得意な川原、殺陣の名手・荒木、キレのあるダンスを持ち味とするEXILE / FANTASTICS from EXILE TRIBEの世界、新体操で高校総体優勝経験を持つ、MAG!C☆PRINCEの平野、そして、ダンサーでヒューマンビートボクサーでもあるBeat Buddy BoiのToyotakaに、本作への期待や互いに感じた“運命”を語ってもらった。
取材・文 / 中川朋子 撮影 / 須田卓馬
運命の人を探す「サクラヒメ」の物語
劇中では歌舞伎の演目「桜姫東文章」をモチーフとしたストーリーが展開。意に添わぬ縁談から逃れるため、ある男女が心中によって恋を成就させた。転生して花魁となり、前世の記憶を頼りに運命の相手との再会を望むサクラヒメ(純矢ちとせ)は、神秘的な陰陽師(川原一馬)、孤高の浪人(荒木健太朗)、優しさとユーモアを持つ義賊(世界)、男気に溢れた鳶(平野泰新)、心優しき町医者(Toyotaka)と出会う。サクラヒメは彼らの中から、運命の人を見つけ出し……。なおマルチエンディングとなる本作の結末は毎回異なり、サクラヒメと結ばれる相手は2・3階エリアの観客による“裁決”(投票)で決定される。
没入型演劇“イマーシブシアター”とは?
イマーシブ(immersive)は「没入型の、のめり込むような、引き込まれるような」の意。イマーシブシアターは参加型演劇作品の総称で、従来の物語を鑑賞するスタイルの演劇に対し、観客が自分の意志で物語に参加したり、展開に関わったりする体験ができるエンタテインメントだ。
回遊、投票、マルチエンディング……どう楽しむ?
日本におけるイマーシブシアターの先駆者・DAZZLEが脚本・演出を手がける「サクラヒメ」では、南座が丸ごと没入空間に。観客は観たい場面を自ら選び、自分だけの「サクラヒメ」の物語を組み立てられる。
「サクラヒメ」の観劇スタイルは2通り。1階エリアでは手の届く範囲で展開する物語に没入でき、2・3階エリアではストーリーの行く末を“裁決”できる。南座の機構“フラット化”が生かされる1階エリアでは、観客席が取り払われ、舞台と客席エリアが地続きに。1階エリアの観客は、劇場に入るとまず専用コスチュームを羽織って“都人(みやこびと)”に変身。約1時間10分の本編中、1階エリアのいたるところで行われるパフォーマンスを、間近で鑑賞できる。
物語の結末を左右するのは、2・3階エリアの観客である“雲上人(うんじょうびと)”たちだ。マルチエンディングとなるこの物語には、まるで恋愛シミュレーションゲームのように5パターンの結末が用意されており、サクラヒメがどの男性と結ばれるかは、着席鑑賞型エリアとなる2・3階の観客による裁決(投票)で決定。さらに上階でしか観られないシーンもあり、2・3階エリアの特設アクティングステージで出演者たちがパフォーマンスを披露する場面もある。
パフォーマンスを目の前で体感するか、物語の行く末を自分で決めるか? あなただけの「サクラヒメ」を味わおう。
初観劇にオススメなのは1階? それとも2・3階?
──製作発表も終わり(参照:回遊や投票で新しい体験を、南座「サクラヒメ」に純矢ちとせら意気込み)、いよいよ本格的に「サクラヒメ」がスタートしましたね。世界さんとToyotakaさん以外の皆さんは初対面だそうですが、座組の印象や作品について楽しみなことを聞かせていただけますか?
川原一馬 公の場での製作発表に参加した経験があまりなかったので、緊張しました。素晴らしいキャストの皆さんと挑戦的な作品を作れることに興奮していますし、僕自身、挑戦することを大切にしながら舞台に立つことを意識してきたので、2020年の1発目にこのような作品に挑めるのがうれしくて。すごいスキルを持った皆さんと演劇を作るというのが面白いと思うので、素敵な舞台にしたいです。
荒木健太朗 思ってること、全部言ってもらっちゃった……(笑)。
一同 あははは!
荒木 このメンバーでやることと、毎回2・3階エリアのお客様の投票で、誰か1人がサクラヒメの運命の相手に選ばれるということは以前から聞いていたので、みんなとはライバルになるなと思っていて。でも実際に会ってみたら、「今日は負けてもしょうがなかったな」と思える人たちなんだろうなと感じました。それから僕はこれまでにも観客としてイマーシブシアターを体験したことがあって、投票結果が出たあと、舞台裏が毎回どんな感じになるのか気になっています。「今日は青だよ!(編集注:「サクラヒメ」で荒木が演じる浪人のイメージカラーは青)」とか発表されてからバタバタと準備して、カッコつけて登場できるのかな?と思うと心配ですけど、楽しみです!(笑)
世界 僕とToyotakaくんは先に稽古を始めていたのですが、作品が動き始めたことを実感しました。「サクラヒメ」ではきっとチームワークがすごく大切になってくる。共演者の皆さんにお会いして、いいチームになりそうだなという空気を感じています。
平野泰新 僕は今回が初舞台で、製作発表に出るのも初めて。もちろん南座に立つのも初めてなので、初めてづくしでビビり散らかしています(笑)。でも共演者の方々とお話して「皆さんについていこう。この背中を見て僕も大きく成長しよう」と思えました。ワクワクしますし、早く演じたいです!
Toyotaka 僕も「新しいものを生み出したい」という挑戦の気持ちでダンスを続けてきました。今は全員が期待と不安を抱えてると思うんですけど、「サクラヒメ」は初日から千秋楽まで恐ろしいスピードで成長する作品なんじゃないかな。さっきの会見で「2・3階エリアのお客様にどうアピールしますか」という質問がありましたが、初日と千秋楽でみんなの答えがまったく違うものになるんじゃないかと。どんな舞台になるか、シンプルに楽しみですね。
──南座はこれまでにも、エンタテインメントの新たな可能性を切り拓く試みを行ってきました。今回の「サクラヒメ」は、1階の客席を取り払う南座のユニークな新機構“フラット化”を用いて上演されますね。1階エリアの観客は会場を回遊しながら観劇できますし、2・3階エリアの方は物語の結末を決める投票に参加できます。皆さんが「サクラヒメ」を体験するとしたら、最初の観劇には1階エリアと2・3階エリア、どちらを選びますか?
Toyotaka 直感ですが、最初は2階で観たいです。僕はまず地図を開きたいタイプなので(笑)、「おお、なるほど」って全体を観たあとで1階や3階を攻めてみたいな。
平野 僕は1階ですね。1階では「自分が『サクラヒメ』の世界にいる」という没入感を体験できると思います。そのあと上の階で観たら、「このシーンでこういうことが起きてたんだ! じゃあまた1階で観ようかな」とか、想像力が働きそうです。
世界 僕も1階です。まず飛び込んでみるのが好きだから、もし自分がこのビジュアルを見て初めて「サクラヒメ」を知った人なら、まず1階で物語の中に入ってみたいって思います。僕は「まず地図を開いて」とかそういうタイプじゃないので(笑)。
Toyotaka おいおいおいおい!(笑)
一同 あははは!
荒木 これ、めちゃくちゃ悩みますね……。僕自身は観客としてイマーシブシアターを観たことがあるので、上から全体を観たいです。でも初体験なら1階がいいのかなあ。普通の舞台は「俳優の演技を観せていただく」感じなのに対して、パフォーマンスが同時多発するイマーシブシアターだと、自分から観ようとしないと物語が見えないんです。1階で観るのと上の階から観るのとでは、別ものだと思う。
──今回は2・3階からでないと観ることができないシーンもあるそうです。
荒木 上の階からは、みんながすごく計算された動きをしているのが見えると思う。それも観たいし、でも1階を体験してみたいし、どっちがいいって言われると、うーん……何回も観てほしいです!(笑)
川原 僕は俳優としては2・3階で観たいけど、観客としては絶対に1度は1階を体験したい。自分の視界や手の届く範囲で起こってることしか情報が入ってこないって、すごくリアルだと思うんです。人間も他人の考えとか、見えない場所で起きていることはわからないですし。そうやって観劇しながら自分でストーリーを組み立てることができるのは、すごく面白いと思います。