ゲーム「薄桜鬼」を原作とした「ミュージカル『薄桜鬼』」(以下薄ミュ)シリーズの18作目「ミュージカル『薄桜鬼 真改』藤堂平助 篇」が、6月に上演される。タイトルロールを務めるのは、「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三 篇」(2018年)から6年間、藤堂平助を演じてきた樋口裕太。主演の樋口、彼と共に長年にわたって薄ミュシリーズを支え続けている山南敬助役の輝馬、風間千景役の佐々木喜英に、最新作「真改 藤堂平助 篇」の見どころを聞いた。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓ヘアメイク / 橋本紗希、吉田梨々花スタイリスト / MASAYA
藤堂平助の行動すべてに意味を持たせたい
──樋口さんは「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三 篇」(2018年)から藤堂平助役を演じており、現在の薄ミュキャストの中でもベテランです。「ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇」(2023年)の上演前に取材をさせていただいた際(参照:「ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇」特集)、「平助は自分が決めたことを曲げずに、真っすぐ突き進むキャラクター。人間としてカッコいいし、すごく憧れます」とおっしゃっていましたが、このたびタイトルロールを務めるにあたって、大事にしたいことは何ですか?
樋口裕太 「ミュージカル『薄桜鬼 真改』藤堂平助 篇」では、藤堂平助と新選組の仲間たちとの絆、新選組の面々と過ごす時間を大切に表現したいですね。また、平助が自分で決めたことを曲げずに、己の道を歩んでいけるかどうかが作品の肝になると思います。平助は羅刹(編集注:
──「真改 山南敬助 篇」(2023年)でタイトルロールを担った輝馬さんは、「真改 藤堂平助 篇」で約2年ぶりに薄ミュにカムバックします。「真改 山南敬助 篇」の公演を通じて気が付いた、薄ミュの魅力について教えてください。
輝馬 「真改 山南敬助 篇」では、これまであまりフィーチャーされていなかった羅刹という存在の儚さ、“羅刹にも人生がある”ということを取り上げてくださったことが、個人的にすごくうれしかったです。山南は、平助に変若水を渡し、平助が羅刹になることを選択するきっかけを作った存在とも言えるので、平助の決断に大きく関わる役割を務められることが感慨深いなと。改めて、山南というのは罪な男ですね。
──佐々木さんはこれまで「ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇」(2017年)、「ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 3」(2022年)、「真改 山南敬助 篇」(2023年)、「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」(2024年)で風間千景役を演じています。前作「真改 土方歳三 篇」において、久保田秀敏さん演じる土方歳三と対峙するシーンがありましたが、佐々木さん扮する風間の“新境地”とも言える熱い側面が垣間見えたのが印象的でした。
佐々木喜英 風間を演じるうえで、「真改 土方歳三 篇」以外の作品では、涼しい顔をして立ち回りをするように心がけていたんですけれども、「真改 土方歳三 篇」で初めて土方歳三からひと太刀食らって、「風間はいつも冷静なのに、こんなにも激昂しながら真っ向勝負をすることがあるんだ」と新鮮な気持ちになりました。土方役のくぼひで(久保田)も毎公演、一手一手にしっかりと意味を込めて、「今日はこのくらいの強さで攻撃されたから、このくらいの力で返そう」というふうに殺陣を通じて会話をしてくれたので、俳優として非常に良い経験になったと思います。2.5次元作品でキャラクターを演じるとき、お手本となる原作の声やビジュアル面の再現度を高めなければと、どうしても意識してしまうんです。もちろん必要な作業ではあるのですが、そこばかり気にしているとリアルなお芝居がおろそかになってしまう。「真改 土方歳三 篇」で、原作を忠実に再現することとリアルなお芝居を追求すること、2つを両立する道が見えた気がするので、今回の「真改 藤堂平助 篇」に生かしたいと思います。
樋口のラブシーンに興味津々な輝馬、独り身の風間に嘆く佐々木
──「志譚 土方歳三 篇」(2018年)から「真改 山南敬助 篇」(2023年)まで演出を担当した西田大輔さんに代わり、2012年の初演から薄ミュのクリエイティブ面を担ってきた毛利亘宏さんが、前作「真改 土方歳三 篇」(2024年)から薄ミュの脚本・演出を再び手がけることになりました。樋口さんと佐々木さんは「真改 土方歳三 篇」に出演され、輝馬さんは「ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇」(2017年)以来、久しぶりに毛利さん演出版の薄ミュに参加されます。
樋口 わかりやすく言うと、西田さん演出版では新選組の男たちの熱い物語が描かれ、毛利さん演出版では原作「薄桜鬼」の恋愛要素がうまく表現されているのではないかと感じます。僕が薄ミュカンパニーに参加する前にいち観客として観劇していた薄ミュは、毛利さんが演出を手がけた作品だったので、「真改 土方歳三 篇」の稽古をしているときに、「ああ、自分が観てきた薄ミュだ」と懐かしくなりました。恋愛シミュレーションゲームが原作ということで、タイトルロールを務めるうえで、気恥ずかしさもあるのですが……。
輝馬 裕太がキスシーンの稽古をするとき、ぜひメイキングカメラの撮影を入れてください! 俺は自分の稽古がオフでも観に行く! 気合いを入れてバードウォッチングの格好をして行くから!
樋口 面白すぎる! でも稽古に集中できなくなるのでやめてください(笑)。
佐々木 あはは! いいなあ、みんな嫁が見つかって。薄ミュに出演させていただくようになって早数年、風間として毎回嫁探しをしているんですが、毎回フラれているのでみんながうらやましいです(笑)。
樋口 風間、独身の嘆き!(笑)
佐々木 僕は西田さん、毛利さん、両方の演出を経験しているんですけど、改めて毛利さん演出版に出演して、楽曲面に大きな変化を感じました。「真改 土方歳三 篇」で、薄ミュ初期の名曲「ヤイサ!ヤイサ!ヤイサ!」のフレーズが入ったテーマ曲を毛利さんが作詞してくださって、そこにすごく胸が熱くなりましたね。これまで薄ミュシリーズに出演してきたキャストの思いを乗せた、素敵な楽曲に仕上がっていて感慨深かったです。
輝馬 僕もどちらにも出演させていただきましたが、薄ミュに初参加した頃の僕と今の僕はいろいろな意味で変化していると思うので、“山南としての僕”を再び毛利さんに観ていただくのはドキドキしますね。あの頃と比べて成長できているかな、自分ができることは増えたかな、逆にあの頃の自分と変わらないところもあるのかな、って。毛利さんとご相談しながら、「真改 藤堂平助 篇」に向けて役作りをしていきたいと思います。
──毛利さんの現場では稽古に入る前、キャストがお互いの名前を覚えるためのレクリエーションや、ボールを使ったコミュニケーションなど、さまざまなワークショップが行われると伺いました。
佐々木 毎回、お芝居の基礎を築くためのワークショップをやってくださるんです。「真改 土方歳三 篇」のときは、1人ずつ3分間スピーチもやって、「今までの人生の中で一番感謝を伝えたい人」というテーマで話したんですが、僕は輝馬の話をしました。その場にいた人だけが内容を知ることができる約束になっているので、どんなことを話したのかは秘密です(笑)。
樋口 ヒデさま(佐々木)、僕の話をしてくれなくて寂しかったですよ(笑)。
佐々木 ははは!
散りゆく桜の花びらのような儚さ
──先ほど輝馬さんが、樋口さんのラブシーンの稽古が楽しみとおっしゃっていましたが、「真改 藤堂平助 篇」で注目してほしいポイントはありますか?
輝馬 ここで、裕太のラブシーンの期待値をもっと上げておこうかな。
樋口 お客さんたちが本当にバードウォッチングの格好をして劇場に来ちゃうかもしれないから勘弁してください(笑)。自分としては、「真改 山南敬助 篇」と「真改 藤堂平助 篇」は裏と表のような作品だと思っているので、2作品に通じる部分を照らし合わせることができるのが楽しみですね。「真改 山南敬助 篇」を観たあとに「真改 藤堂平助 篇」を観ていただくと、さらにグッとくるものがあるはずです。
輝馬 そういえば、なんで「真改 藤堂平助 篇」は平助が通常の衣裳を着ているビジュアルと、新選組の羽織を着ているビジュアルの2種類があるの? ほかの公演は1つだったじゃない? ズルいよ!
樋口 「真改 山南敬助 篇」だって、山南さんが雨が降る中佇んでいる、しっとりしたカッコいいビジュアルを作ってもらったんだから良いじゃないですか!(笑)
輝馬 そうだね(笑)。注目してほしいポイントで言うと、山南が平助に変若水を渡すシーンはほかの作品でも描かれてきましたが、「真改 藤堂平助 篇」では、そこがさらに掘り下げられるんじゃないかと思っていて。今まではある曲の中のワンシーンで渡したり、誰かがお芝居をしているシーンの裏で渡したりすることが多かったけれど、今回はしっかりと1つのシーンとしてじっくり観ていただける構成になるんじゃないかと期待しています。
佐々木 風間は基本的に新選組と敵対していますが、羅刹や羅刹を束ねている者の存在を否定する考えは新選組と共通していて、「真改 山南敬助 篇」のラストでは、新選組と風間が共闘するシーンがありました。原作にはないシーンなんですけど、土方と風間が羅刹を蹴散らしながら舞台袖にハケていくシーンを西田さんが作ってくださって。今まで敵同士だった者が味方になると、より一層気持ちが盛り上がりますよね。今回は、新選組と風間の関係性がどのように描かれるのか興味深いです。
樋口 「藤堂平助 篇」の風間って、平助の性格に合わせた風間になるから少し子供っぽい性格になるんですよ。個人的に「藤堂平助 篇」の風間がすごく好きなので、ヒデさまがどんなふうに演じてくれるのか楽しみにしています。
佐々木 「藤堂平助 篇」の風間、僕もけっこう好きだな。「風間千景 篇」の風間の次に好きかもしれない。
輝馬 自分は「藤堂平助 篇」の平助も好きだなー。今回、平助はきっと誰よりも苦しむと思うんです。今までの薄ミュシリーズではあまり触れられてこなかった平助の苦悩が、色濃く描かれると思うので、裕太が演じる平助の行く末をしっかりと見届けられたらと思います。
佐々木 改めて思うんですけど、(雪村)千鶴役のキャストは毎年違う方に変わるじゃないですか。「ああ、今年の薄ミュは今年しか観られないんだな」「このメンバーで演じられる薄ミュは今回しかないんだな」と、まるで散りゆく桜の花びらのような儚さを感じるのが、薄ミュの魅力の1つだと思っていて。それを感じながら、1公演1公演、大切に演じたいと思います。あとは、2年ぶりに輝馬の狂った姿を観られるのが楽しみだな(笑)。
輝馬 狂わない! 狂わないよ、俺は!
樋口 「真改 藤堂平助 篇」の山南は狂わないと成立しないんですよ!(笑)
佐々木 ははは! その通りだよ!
樋口 2018年の「志譚 土方歳三 篇」から薄ミュシリーズに出演させていただいていますが、これまで薄ミュに携わってきた方々の思いを受け継いで、僕がこのカンパニーに残ってきた意味を、今回の「真改 藤堂平助 篇」で表現できればと思います。いつも通り、明るく元気な平助らしさ全開で最後まで駆け抜けるので、ぜひ劇場へお越しください!
プロフィール
樋口裕太(ヒグチユウタ)
1995年、東京都生まれ。主な出演舞台に、「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」「『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE」、ミュージカル「ヘタリア」シリーズ、「『東京カラーソニック!!』the Stage」シリーズ、ミュージカル「DREAM!ing」シリーズ、「超ハジケステージ☆ボボボ―ボ・ボーボボ」などがある。現在、SHOW×MUSICAL「ドリームハイ」に出演中。
輝馬(テルマ)
1989年、島根県生まれ。主な出演舞台に「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」「超歌劇(ウルトラミュージカル)『幕末Rock』」シリーズ、「舞台『弱虫ペダル』」シリーズ、「ミュージカル『新テニスの王子様』」などがある。現在「MANKAI STAGE『A3!』ACT3! 2025」に出演中で、9月に「ミュージカル『Fate/Zero』~A Hero of Justice~」の公演を控える。
佐々木喜英(ササキヨシヒデ)
1987年、東京都生まれ。俳優・アーティスト。主な出演舞台に「ミュージカル『テニスの王子様』」、「超歌劇(ウルトラミュージカル)『幕末Rock』」シリーズ、「舞台『刀剣乱舞』」シリーズ、「舞台『鬼滅の刃』」シリーズなどがある。現在「舞台『鬼滅の刃』其ノ伍 襲撃 刀鍛冶の里」に出演中。