藤澤経清×毛利亘宏×西田大輔、薄ミュを作った男たちがたっぷり語り尽くす!10周年記念鼎談

2012年にスタートした「ミュージカル『薄桜鬼』」(以下薄ミュ)が、新作「ミュージカル『薄桜鬼 真改』斎藤一 篇」の東京公演千秋楽となる4月27日に10周年を迎える。

この記念すべき10周年の節目に、薄ミュを語るうえで欠かせない3人のレジェンドが集結した。ゲーム「薄桜鬼」の総合プロデューサーである藤澤経清、2012年の初演から演出・脚本・作詞とクリエイティブ面を担ってきた毛利亘宏、毛利からバトンを受け継ぎ、2018年の「志譚 土方歳三 篇」より薄ミュカンパニーを率いる西田大輔。3人はそれぞれどのような思いを抱きながら薄ミュに携わってきたのか? 薄ミュを作った男たちがたっぷりと語り尽くす。なお薄ミュ公式サイトでは、今回の鼎談のアナザーエピソードを公開予定だ。

取材・文 / 横澤由香撮影 / 藤田亜弓

一太刀も浴びずに振られた風間

──まずは2012年、薄ミュの立ち上げ時を振り返っていただけますか?

藤澤経清 「薄桜鬼」は最初に2010年に舞台化されたんですが、そのときはキャラクターが3次元の状態で動いていること、そしてあの長いストーリーを凝縮して2時間半くらいの舞台作品になっていたことに僕はすごく感動したんです。「いやあ、舞台ってすごいなあ」って。そのあとでこのミュージカル化の話が出たときは「薄桜鬼」の世界とミュージカルがちょっと僕の中で結びつかなくて。「歌? 殺陣? どうするんだろう」って思いました(笑)。台本の監修チェックをさせてもらったときにも「ここに歌が入ります」と書いてあって「あ、そうなのか!」ってびっくりしたり……会話が歌になっていたりとかね、「こういうやり方があるんだ」って初めて知って、すごい手法があるんだなあって感心しました。そして、本番の舞台を観てまたびっくり!って感じでしたね。

毛利亘宏 僕は薄ミュをやるにあたってまずはコンセプトをどうしようか、というところからのスタートでした。ゲームでは(プレーヤーであり主人公の雪村)千鶴が選択することによって各キャラクターの攻略ルートに導かれていくんですけど、あくまでも舞台では毎回1人、攻略相手の隊士が代わる代わる主人公となっていく形を念頭に置いていたので、いわゆる彼ら目線での物語の構築を心がけ、それが作品の売りになるように作ろうとは決めていて。

「ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇」より。

「ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇」より。

──初めから明確に“○○ルート篇”という形で、シリーズものとして考えていらしたんですね。

毛利 そう。斎藤一らしい作品、沖田総司らしい作品を目指していました。ただ、ある程度まではそれで良かったんですけど、「風間千景 篇」をやるときに「これはちょっとストーリーを構成するのが厳しいわ」となりまして(笑)。

藤澤 「真改」も作っていない頃だったので、正確にはまだ風間ルートというもの自体がなかったんです。だから今でこそ風間ルートと呼ばれているものの原型を、毛利さんと話をしながら「たぶんこんな感じですよ」って、1つひとつ作っていった気がするなあ。

西田大輔 へえー。

毛利 うん。「どうしたらできるんだろう?」って、藤澤さんともすごくご相談させていただいたのを覚えています。風間ルートは起承転結をつけていくのがとても難しかったんです。だからすごく細かいエピソードをつなぎ合わせて作り上げたんですよね。

左から毛利亘宏、藤澤経清、西田大輔。

左から毛利亘宏、藤澤経清、西田大輔。

藤澤 そうです。あと僕はちょうど劇場版をやっていた頃で、そっちにもちょっと風間ルートの要素が入っていたこともあり、「僕の中での風間ルートはこんな感じ」っていうイメージを毛利さんにも共有して。

毛利 主役のキャラと千鶴がどう結ばれていくのか、というところが1つの柱でもある薄ミュにおいて、風間が振られるという流れは非常にエポックメイキングなことでした(笑)。これ、何度も言ってきましたけど、鈴木勝吾の風間じゃなければ風間は振られてなかったです。ハハハッ(笑)。

西田 すげーわかる!(笑)

藤澤 (笑)。あの展開は最後まで迷いましたよね。

西田 俺は最初風間が振られたことを知らなくて、自分が薄ミュをやることが決まったときにたまたま勝吾と話したんですよ。「『風間千景 篇』のときってどうだったの?」って。そうしたら「いやあ、僕は振られたんで」って(笑)。

毛利 風間が1回も斬られずに振られたっていうのがもう楽しくてしょうがない。一太刀も浴びないで振られるの、良いよね。

「ミュージカル『薄桜鬼』風間千景 篇」より。

「ミュージカル『薄桜鬼』風間千景 篇」より。

──密な共同作業、本当の意味でのメディアミックスの賜物だったんですね。2019年、西田さん演出の「志譚 風間千景 篇」ではラストを改訂されていますが。

西田 そうです。あれも藤澤さんと相談させていただきながら決めていって。「志譚」では風間が振られないんですよ。

毛利 そうそう! 勝吾じゃないからでしょ?

藤澤西田 (爆笑)。

──大人っぽい余韻のある描写でした。

西田 ですね。風間自体とても人気のある登場人物でインパクトもやはり大きいでしょうし、たぶん「志譚」での結末はこうなんじゃないかな……という。中河内(雅貴)くんが風間を演じた影響がやっぱり大きかったと思いますよ。

「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」より。

「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」より。

ご都合主義ではない「薄桜鬼」

──西田さんは2018年の「志譚 土方歳三 篇」から演出家として薄ミュに参加されています。今、藤澤さんと毛利さんに薄ミュの初期について振り返っていただきましたが、西田さんはもともと薄ミュをご存知でしたか?

西田 もちろん。毛利さんとは同世代でもありますから、どんなお仕事をされているのかはお互いに知っていましたし、初演からどんどん薄ミュが大きくなっていく様子も僕はリアルタイムで見ているので、作品の持つエネルギー、毛利さんや俳優陣、製作陣の「これをどんどん大きくしていこう」という勢いみたいなのもすごく感じていました。よもや僕が関わることになるとは思っていなかったから、今は不思議な気分でもあるんですけど、実際に座組に入ってみると、藤澤さんがめちゃめちゃ歴史に詳しい方だとわかる作られ方をしていて感動しましたね。もちろん千鶴の存在はファンタジーだけれど、新選組の姿や歴史観が1つの裏切りもなくきちんと調べ上げられていて、見事なまでにできあがっている。そしてそこにいる1人の少女が、歴史の中で誰かと恋をしていく中に“吸血”という設定もあり……その吸血シーンがね、またもう見事!

西田大輔

西田大輔

毛利 そうなんですよ。

西田 なんかキュンとするし、官能的ですらある。歴史に対して真摯に作っているからこそ生まれるバランスと信頼、ご都合主義じゃないところが「薄桜鬼」の素晴らしさだなあって、僕はすごく思ったんです。そこはやはり藤澤さんの中のポリシーでもあったんですよね?

藤澤 そうですね。ちょっと話が逸れますが、僕らは鎌倉幕府の成立は1192年と習ったけど、最近は1185年と言われていて。それは今の時代でははっきりとわからないからしょうがないことなんだけど、当時の人たちにとって史実は1つ。でも僕らが知っているのは「何年に何が起こった」ということだけ。しかも書き物として残ってはいるけれど、実際はその史実すら本当かどうかわからないですよね。

毛利西田 (うなずく)。

藤澤 この幕末の出来事も「何年に何が起こったのか」だけはいろいろな資料からわかる。ただ、その裏側で誰が何をやっていたかは実際に見たわけじゃないから誰もわからない。でも、だったらそれを“信念を持った人たちの物語”として1つの歴史としてまとめられるんじゃないのかな、そういう話を作れたら良いなと思って作ったのが、この「薄桜鬼」でした。だから表向きの話もしっかり描いたうえで、その裏にある「こうだったかもしれない」ということも伝えられると良いなあって感じですね。表の歴史に対して裏切りがないように作れば、観た人もちゃんとわかってくれると思っていますし、そういう設定がしっかりあるからこそ、ゲーム以外のメディア展開でもベースに使ってもらえるんだなって。そう考えると、作って良かったなと思います。

藤澤経清

藤澤経清

芹沢鴨役・窪寺昭がつないだ縁

──毛利さんと西田さんは「志譚 土方歳三 篇」でタッグを組む以前から交流があったのでしょうか?

毛利 お互いの存在は意識していたけど、今のようにプライベートでたまにご飯を食べに行くようになった縁も、実は薄ミュなんです。というのも、西田さんの劇団(AND ENDLESS)の窪寺(昭)さんが「ミュージカル『薄桜鬼』黎明録」に出てくれたときに「え、2人ってそんなに会ったりしてないの? じゃあ俺がつなげるよ」って僕たちをつなげてくれて。だから、薄ミュがなければこんなに親しくなれてなかったんじゃないかなあとは思いますよ。劇団を持っている同世代の人間として、やはり僕らはライバルなので。

左から毛利亘宏、藤澤経清。

左から毛利亘宏、藤澤経清。

藤澤西田 (笑)。

──窪寺さんは芹沢鴨として2015年の「黎明録」以降、「新選組奇譚」「HAKU-MYU LIVE 2」に出演されています。「黎明録」では大人の俳優が1人入ったことで、若者たちが演じる新選組の青臭さが際立ち、作品自体の振り幅と解像度がグンと上がりました。また、芹沢がその後のシリーズに与えた影響も大きかったです。

毛利 そういう意味でも僕と西田さんの関係って、薄ミュがつないだ縁であり、窪寺さんがつないでくれた縁でもある。それが今こうやってシリーズを続けていく原動力になっているんだなって思うと、とても感慨深いですよね。

窪寺昭演じる芹沢鴨(右)。

窪寺昭演じる芹沢鴨(右)。

西田 うん、そうですね。……あ、忘れちゃいけない。つなげるといえば井俣(太良)さんがいるじゃないですか!

毛利 あ、そうだった。

藤澤 薄ミュの生きるレジェンドですね。

──毛利さんの劇団・少年社中のメンバーでもある井俣さんは、近藤勇として第2作の「沖田総司 篇」から皆勤賞で出演しています。

毛利 やっぱり近藤さんが欲しいな、ということでたまたまうちの井俣を選んでいただいて。結果的にこんなに長くやるとは思ってもいなかったんだけど(笑)。

西田 でもすごいのがね、井俣さんって今でも稽古場でいじられてるの(笑)。いやなんかもうあの人間性は素晴らしい! 素敵な役者さんですよ。ホントにどこまでも少年だし、「志譚 土方篇」のゲネプロに毛利さんが来たときのこと、覚えてます? 僕が「これまでにリスペクトを込めて作りました」ってお話をさせてもらったり、あったかい雰囲気でお話ししていたところに、近藤姿の太良さんがツカツカっと歩いて来て。ま、言っても毛利さんとは二人三脚でやってきてる人だから、毛利さんに何か良い言葉でもかけるのかなあと思ったら「俺と、西田さんの、ミュージカル『薄桜鬼』を、観ろっ!!」って。

井俣太良演じる近藤勇(中央)。

井俣太良演じる近藤勇(中央)。

藤澤毛利 (爆笑)。

西田 それだけ言って去って行った。俺ら苦笑いですよ。すごいでしょ? この予想外な感じ(笑)。ホントにこの人は近藤さんだなあって思いましたよ。

毛利 なんかね(笑)。そんなことも、ありましたねえ。