久保田秀敏・佐々木喜英が刃を交わして“新しい伝説”を作る「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」

2023年4月、西田大輔体制の集大成となる「ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇」は、好評のうち幕を下ろした。それから1年、「ミュージカル『薄桜鬼』」の立ち上げに携わった毛利亘宏が西田からバトンを受け取り、4月の最新作「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」でカムバックする。新体制で臨む「真改 土方歳三 篇」では、久保田秀敏扮する土方歳三と、佐々木喜英扮する風間千景が刃を交わし、火花を散らす。「自分がこの作品を引っ張っていく」と気合十分な久保田、2015年上演の「ミュージカル『薄桜鬼』黎明録」で土方役を演じ、現在は風間役を務める佐々木に、「真改 土方歳三 篇」にかける思いを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / ヨシダヤスシ
ヘアメイク / 古橋香奈子(LaRME)スタイリスト / MASAYA(PLY)

土方歳三はシャイな気を遣いすぎの人

──久保田さんは「ミュージカル『薄桜鬼 真改』相馬主計 篇」(2021年)から新選組副長・土方歳三役を務め、今作「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」でついに作品の主軸を担います。

久保田秀敏 別の作品でも真ん中に立たせていただいたことはあるんですが、「ミュージカル『薄桜鬼』」はその中でも特別。土方歳三というキャラクターは「ミュージカル『薄桜鬼』」のどのルートにおいても、作品の軸にいないといけないと思っているんです。土方中心のルート「真改 土方歳三 篇」でもそれは変わらず、真ん中でどっしりと構えていたい。そのうえで、ほかのルートよりもさらに土方の心の移り変わりを深く考察して表現できればと思っています。

──佐々木さんが演じる鬼の頭領・風間千景も、土方と同様、「ミュージカル『薄桜鬼』」の鍵を握る存在です。

佐々木喜英 これまで僕は「ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇」(2017年)「ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 3」(2022年)「ミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇」(2023年)で風間を演じているのですが、2つのルートではいわゆるラスボスのような役どころではなかったので、今回の「真改 土方歳三 篇」が今までで最も重要度が高いポジションになると思います。歌う曲数も殺陣の数も、僕がこれまで風間を演じてきた中で間違いなく一番のボリュームになると思うので、心してかかります。

久保田 そうか! 本公演で風間を演じたのは2作品だけなんだ。もっとたくさんやってるイメージがあったな。

久保田秀敏

久保田秀敏

佐々木 本公演は意外と少ないんだよね(笑)。新選組が(雪村)千鶴と出会うまでを描いた前日譚「ミュージカル『薄桜鬼』黎明録」(2015年)で土方役を演じているから、「ミュージカル『薄桜鬼』」に携わっている年数はわりと長いんだけど。

久保田 もうすぐ10年になるんだ! それにしても1つのシリーズの中でまったく異なる2つの役を演じるってすごいことだよね。こういうケースを経験したのは「ミュージカル『薄桜鬼』」だけ?

佐々木 うん。「ミュージカル『薄桜鬼』」だけだね。風間という役ももちろん大切ではあるんだけど、「黎明録」は自分にとってすごく印象深い作品だから、これからも忘れることはないと思います。

──「ミュージカル『薄桜鬼』」への出演を重ねる中で、お二人が大切に育ててきた土方と風間というキャラクターの魅力はどんなところにあると思われますか?

久保田 土方は気遣いの人で、周囲を気にしすぎだと思うんですよね、結局(笑)。

佐々木 ははは!

久保田 みんなの前では“鬼の副長”として毅然とした態度を取っていますけど、心の奥底には弱い部分があって、周りの人が支えてくれたから生きてこられたところがあると思うんです。弱い心を持っているからこそ、いざ大事な局面になったときに男らしさが垣間見えて、すごく魅力的に感じるんだろうなって。土方のそういうシャイなところは、現代の僕たちに通じる部分があるんじゃないかなと思います。

──通じる部分というのは?

久保田 物事をもっとストレートにズバッと伝えられたらスムーズなのに、今の世の中って言いたくても言えない、我慢しないといけないことが多いと思うんですね。

佐々木 風間は、鬼の頭領として純血の鬼を絶やさないために千鶴を追いかけていますけど、これまで僕が出演した「原田左之助 篇」「真改 山南敬助 篇」では、最終的に千鶴を追うことを諦めているんです。でも、「真改 土方歳三 篇」でついに土方と真っ向勝負することができる。なので、今回は自分がまだ知らなかった風間の一面をたくさん知ることができる気がしていて。風間は鬼ではあるんだけれども、人間味が出るような役の作り方をすることになるんじゃないかと考えています。

佐々木喜英

佐々木喜英

土方歳三と風間千景、両極の役を演じた経験

──「真改 土方歳三 篇」の見どころの1つに、土方と風間の直接対決が挙げられると思います。久保田さんから見た風間、佐々木さんから見た土方はどのような人物に映っていますか?

久保田 風間は「ごもっともなことしか言っていないな」というイメージがありますね。お客さんとしても「そうだよね! 風間が正しいよね」というふうに感情移入しやすいキャラクターだと思います。また「1人の男として負けたくない」と感じるような、男性からも惹かれるキャラクターなんじゃないかなって。「薄桜鬼」において風間=敵という構図になってはいますけど、土方の考え方も間違っていないし、風間も風間で正論を言っている。2人とも己の信念を持っているから、ちゃんとぶつかることができているんじゃないかな。

佐々木 そういえば僕、悪役と言われるキャラクターを演じることが本当に多くて……(笑)。

久保田 ははは! 言われてみれば確かに(笑)。

久保田秀敏扮する土方歳三。

久保田秀敏扮する土方歳三。

佐々木喜英扮する風間千景。

佐々木喜英扮する風間千景。

佐々木 風間も悪役のような立ち位置ではありますが、土方と同じく自分の信念を貫くために戦っている。土方が芹沢鴨から「お前は鬼になれ」と諭されるシーンが「黎明録」の中に登場するんですけど、僕は“鬼の副長”土方歳三が誕生するまでの過程を身をもって知っているので、その後、副長として立場を確立した土方を演じるくぼひで(久保田)と対峙すると、すごく不思議な感覚になるんですよ。土方の気持ちもわかるし、風間の気持ちもわかる。負けられない正義と正義のぶつかり合いだから、どちらが悪というわけではないんです。

久保田 土方役を経験したヒデくん(佐々木)だからこそ、土方の闘志を燃やすような言葉を投げられるわけですよね。「風間がこうやって動いたら、土方の心に火が点くな」というツボがわかっている。土方を演じていて、それをすごく感じます。ヒデくんの思いにつられて、僕の中にもより一層熱い気持ちが込み上げてくる。今回の土方ルートでは、炎のように燃え盛る土方と風間の感情のやり取りをヒデくんと一緒に表現したいですね。