和歌と通じるのは“解釈を託す”潔さ、小野賢章・佐倉綾音が体当たりで挑んだ朗読劇「鴨の音」 (2/2)

朗読劇はスリルであり、演者にとっての“爪研ぎ”である

──小野さんは声優業に限らず、俳優としてミュージカルや舞台などにも積極的に出演されていますが、小野さんが考える朗読劇の面白さは何でしょうか?

小野 スリル。朗読劇って全然稽古をしないじゃないですか。

佐倉 なるほど、それをスリルと捉えているんですね。

小野 何が起きるんだろうっていうワクワクを朗読劇には感じます。舞台やミュージカルは約1カ月間、同じ内容を稽古して、できあがったものを変わらないクオリティで提示するという作業ですが、朗読劇はその時間を取らない分、すべてが決まっているわけではないことが魅力なんだと思います。舞台では俳優同士が「ここ、どうする?」という話し合いをよくするんですが、朗読劇ではほかの役者さんから出てきたものに対してその場で返して、時に突っ込んでいく。そういうライブのやり取りが面白い。だから、ほぼぶっつけ本番だった1日目のスリルはたまらなかったですね。それは演じる側の面白さですが、観る側には聞こえてくる声から想像を膨らませる面白さがあって、結局、僕らと観客の共同作業だと思うんです。全部がかみ合ったときに、今回の「鴨の音」のように素晴らしい朗読劇になるのではないかなと。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

──佐倉さんはあまり朗読劇の経験は多くはないそうですが、今回「鴨の音」に挑まれて、朗読劇に対する印象は変わりましたか?

佐倉 朗読劇って自分では終着点がよくわからない部分があって。そもそもお芝居に正解はありませんが、朗読劇については自分の中で目指すべきところが決まってなくて、参加を戸惑うんです。昔、朗読劇好きのスタッフさんに「どんなところが面白い?」と聞いたら、「舞台はいろいろなことが起きていてどこを観て良いかわからなくなるけど、朗読劇は聴覚に集中できて想像力に意識を向けることができる。自由に想像して受け取るのが好き」ということをおっしゃっていて、そういう人もいるのか!と思いました。私はお芝居の、しかも王道が好きなので、舞台は装置も役者さんも音響も、豪華であればあるほど良いと思うし、どうしても足し算を求めてしまうんです。でも、そのスタッフさんのように、舞台に引き算を求めている方もいるんだと知って、目からうろこでした。特に今回は目が見えない役だったので、聴覚で楽しむ芸術の需要を余計に感じることができましたし、だから朗読劇という文化は廃れないんだなって。その気付きが、朗読劇と向き合うための礎になりました。賢章さんの“スリル”というのも、なるほどなって思いました。

小野 うろこだった?

佐倉 (笑)。でも確かに、朗読劇が演劇に絶対に勝てないという私の思いの中には、稽古時間の少なさも含まれていて。時間をかけて練られたものにはかなわないし、動きや音楽があって、歌ったり踊ったりする人たちがいる演劇にはどうしても勝てないと思う。けれど、稽古期間が短いからこそスケジュールを押さえにくい役者さんが参加できたり、その方たちが普段研ぎ澄ませている神経や感覚、お芝居を、即興でぶつけ合ったりすることができる。それが朗読劇の良さだとしたら、私たち演者の爪研ぎにもなるのかなと。出演者たちの即興的な演技がハマって、お客様を巻き込むことができたときに、すごい化学反応が起こるんだろうなと、今回、特に感じました。

左から佐倉綾音、小野賢章。

左から佐倉綾音、小野賢章。

「鴨の音」に飛び込んで、全力でエンタメを提供する若手陣

──“ハマる”と言えば、「恋詠歌林」では、物語が由来する下鴨神社で上演されること、歌人という和歌の詠み手たちの物語であること、そしてそれを声を生業にする方たちが読むこと、すべての歯車がピタリと合うような、シリーズの中でも力強い作品が立ち上がったという印象を受けました。また、若い世代のお二人の参加が新たな展開を生む期待にもなったかと思います。お二人は、野沢雅子さんを筆頭に続いてきた「鴨の音」に“若手”として参加して、どういった風を吹かせられたと思いますか?

小野 自分の役割や立ち位置で言うと、元気で、フレッシュで、斬り込んでいくみたいなことを求められると思うんです。今回の舞台では、後ろに大先輩のお二人がどっしりと構えてくださっていますし、たぶん僕らがうまくやろうとすれば、きっとすごくうまくできてしまう。でも本当に求められているのはそれではなく、ちょっとはみ出したりする部分なのかなと。無理やり変なことをしようとするのではなく、周りを気にせずに大らかに演技をする。「鴨の音」に限らず、そうやっていろいろなところに飛び込んでいけると良いなと思います。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

「世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第四夜『恋詠歌林』」より。

佐倉 私や賢章さんのファンにはおそらく、若い子がたくさんいると思うんです。「鴨の音」ではきっと、若い子たちにもこういう素敵な場所があって、そこで観るエンタメは素晴らしいんだよということに触れてほしい、そのきっかけとして呼ばれたのではないかなって。

小野 それ、プロデューサーさんに言われたのに忘れてた(笑)。

佐倉 若い世代に広めたいという意図にも共感できますし、私もそうなってくれたら良いなと思っています。実際に1日目の公演を観てくれたお客様からSNSを通してたくさんの感想が届いていて、期待通りのリアクションが返ってきたんです。でもこれは“若手”として招致された私たちだけの力ではなく、スタッフさんの思いや、下鴨神社の心の広さがあったから。そこで私たちは全力でエンタメを提供していくしかないんだという思いを新たにしました。「鴨の音」のように、これからも素敵なエンタメをお届けできるよう、全力で臨んでいきたいです。

左から小野賢章、三石琴乃、中井和哉、佐倉綾音。

左から小野賢章、三石琴乃、中井和哉、佐倉綾音。

プロフィール

小野賢章(オノケンショウ)

1989年、福岡県生まれ。幼少期より劇団四季ミュージカル「ライオン・キング」やミュージカル「エリザベート」に出演。その後、映画「ハリー・ポッター」シリーズでハリー・ポッター役を担当し、以降は俳優・声優の両軸で活動。俳優ユニット・Team Unsuiに参加する。近年の舞台出演作に、「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」、ミュージカル「ジャック・ザ・リッパー」など。

佐倉綾音(サクラアヤネ)

東京都生まれ。劇団東俳を経て声優の道へ。主な出演作に「僕のヒーローアカデミア」(麗日お茶子役)、「新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION」(速杉ハヤト役)、「進撃の巨人」(ガビ・ブラウン役)、「五等分の花嫁」(中野四葉役)、「ご注文はうさぎですか?」(ココア役)など。これまでの朗読劇出演作に「STORY LIVE Vol.1 三津田信三×佐倉綾音『避難小屋の体験』」「FGO THE DRAMALOGUE -アヴァロン・ル・フェ-」がある。