三浦宏規がイマーシブシアターを初体験!「ザ・シャーロック」の世界に没入
「ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン」の跡部景吾役で注目を浴び、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のマリウス役に史上最年少で抜擢されるなど、2.5次元作品からグランドミュージカルまで幅広い舞台作品に出演している三浦宏規が、このたび「ザ・シャーロック」でイマーシブシアターを初体験。俳優として数々のステージに立ってきた三浦に、今回は観客として「ザ・シャーロック」の世界を探索してもらった。
観客の証である黒いバンダナをキュッと結んだ三浦は、開演前にロビーで上映される「ザ・シャーロック」の導入映像を真剣な表情で見つめ、説明に耳を傾けている。ロビーから会場入り口へ移動して待機していると、2人の警察官が姿を現した。ものものしい雰囲気が漂う中、入り口に設置されたベルベットのカーテンが開くと、そこには19世紀イギリス・ロンドンの街並みが広がっている。
三浦は一般の観客と共に、ベイカー街を奥へと向けてどんどんと歩みを進めていった。まず、小説の中でも有名なベイカー街“221B”の階段を昇り、2階にあるシャーロック・ホームズのオフィスへと向かう。しばらくすると、ホームズがワトソンを連れてオフィスに登場。これから起こる出来事を見逃さぬよう、三浦は大きな瞳をぱっと見開いて、ホームズとワトソンの姿を見つめていた。
前半の第1幕は、さまざまな登場人物と遭遇しながら物語のハイライトとなるシーンを見て回り、後半の第2幕では、事件解決に向けて奔走するホームズに追随するルートを選択。終演後、「たくさん歩きましたねー! 楽しかったー!」と晴れやかな笑顔を見せる三浦に、「ザ・シャーロック」を体験した感想を語ってもらった。
画期的な場面転換
──イマーシブシアターは2000年代にイギリス・ロンドンでスタートし、それ以降、ロンドンやアメリカ・ニューヨークなどで盛んに上演されてきました。近年では、日本国内での注目度も高まり、イマーシブ・フォート東京をはじめとする常設イマーシブシアターが人気を博しています。三浦さんがイマーシブシアターを体験したのは今回が初めてだったそうですね。
ニューヨークやロンドンへ行く機会があり、その際にいろいろな方から「絶対にイマーシブシアターを観に行ったほうが良いよ!」と勧められていたんです。でも、なかなかタイミングが合わず、残念ながら海外では観劇することがかないませんでした。なので、今回こういった形で体験することができてうれしかったです。実際にイマーシブシアターを体験してみて、いち観客として楽しむことができたのはもちろん、役者としてもさまざまな発見がありました。
──まず、観客目線で楽しかったポイントはどこですか?
会場の至るところで、同時多発的にさまざまなストーリーが展開されるので、「ザ・シャーロック」の世界を理解することができるのかな、大丈夫かなと心配していたんです。でも、どのシーンを観たとしても最終的に物語がつながって、どんな人でも楽しめる構成になっている。とは言え、まだまだつかみきれていない部分があるので、もう一度体験して、もっともっと物語を深く掘り下げてみたいですね。一度だけでなく、回数を重ねるごとに楽しみが増える作品だと感じました。
──俳優として興味深いと感じた点についても教えてください。
たくさんあって選びきれないのですが、特に感激したのは場面転換ですね。一般的な舞台作品だと、一度幕が降りたり暗転したのち場面転換が行われますが、「ザ・シャーロック」ではキャストもしくはお客さんが別の場所へ移動することに伴って、場面が移り変わっていきます。俳優からすると、感情を切ることなく持続させたまま、次のシーンへ進むことができる。この仕組みは非常に画期的だなと思いました。
また、観客の方が同じ空間にいる中でお芝居をすることの大変さについても、とても興味深かったです。僕が舞台に出演するうえで一番大切にしているのは、作品の世界に入り込む能力と、自分を俯瞰できる能力を両立させること。これら2つのバランスを取ることができる俳優を、プロと呼ぶのではないかと思っています。舞台には常に危険がつきまとうので、70%くらいは役に入りながら、残りの30%は冷静な頭でいて、自分の周囲360°を気遣う必要がある。「ザ・シャーロック」は至近距離にお客さんがいる中でお芝居をしなければならないので、プロの俳優として必要な能力を鍛えられる作品なのではないかと思いました。
──今回は特別に、終演後「ザ・シャーロック」のキャストの方々と言葉を交わす機会がありましたが、どのようなことをお話しされたのでしょうか?
「ザ・シャーロック」を体験したうえで、気になったことを伺いました。「座組の雰囲気はどうですか?」とか、「上演時間2時間の作品を1日に何度も上演するのは大変ではないですか?」とか。ダークな世界観の作品ではありますが、キャストの皆さんは和気あいあいとされていて、良い雰囲気のカンパニーだなと感じました。また、「ザ・シャーロック」は短いショーではなく長尺の作品なので、それを1日に何度も上演すると考えたら、すごい体力だなあ……と。キャストによってはマイクを付けていない方もいますし、地声で何公演も演じるのはかなり大変なことだと思います。ですが、そんなことを微塵も感じさせない素晴らしいパフォーマンスを見せていただきました。あとは、「ザ・シャーロック」体験中のとあるシーンで、不意にキャストの方の動線をふさいでしまった場面があったのですが、キャストの方が「警察だ! ちょっと失礼するぞ!」と言ってアドリブを効かせながら動線を確保していて感動した、という感想もお伝えしました(笑)。
キャストと目が合ってドキドキ!
でも恥ずかしがり屋でも大丈夫
──上演時間約2時間の「ザ・シャーロック」では、休憩を挟んだ2幕形式で物語が進行していきます。第1幕では、ホームズのオフィスを訪れたシャーロットが「行方不明になった婚約者のオスカーを探してほしい」と依頼するシーンや、連続殺人事件で最初の被害者となったリンダの殺害現場、マスクを被った正体不明の男ジョン・ミラーが酒場バーキングドックスを訪れるシーン、シャーロットの自宅で起こった出来事、ある人物の裁判の様子などが展開されました。
ジョン・ミラーが酒場に来るシーンで、ちょうど彼の目の前に立っていたんですけど、マスクの中から覗く瞳とばっちり目が合ってすごくドキドキしました。たとえば、「ザ・シャーロック」の中に推しキャラや、推しのキャストさんがいる方にとって、あのような瞬間は至福の時かもしれないですよね。ジョン・ミラーとある人物が観客の間をすり抜けながら、アクションを繰り広げるシーンもびっくりしました。お客さんを巻き込まないようにしながら、あんなに迫力満点なアクションをするなんて……キャストさんたち、本当にすごいですよね。
シャーロットの自宅のシーンでは、家の外にしゃがみ込んで、窓から部屋を見ていたんですけど、なんだかいけないことをしている気持ちになりました(笑)。部屋を覗き込んでいるときも、シャーロットと目が合った気がします。「わー! また“ジョン・ミラー現象”が起きた!」と思って、心臓がバクバクしました。バンダナを口元に付けて参加しているから、キャストの方からは見えないことになっているんですけど(笑)、それでもやっぱりドキドキします。
裁判所のシーンで、僕は傍聴席に座りましたが、陪審員に選ばれた何人かのお客さんが裁判所の中に案内されていましたよね。実は僕、ああいうときに自分が選ばれると恥ずかしがってしまうタイプなんです(笑)。でも、「ザ・シャーロック」くらい没入感がある作品なら、ノリノリで参加できる気がしました。
──陪審員として評決に参加するシーンのほかにも、登場人物のドリンクに毒を入れる役や、アイリーンに腕を組まれたり、秘密を打ち明けられる役に観客が抜擢されることがあります。観客参加型の側面があるのも、「ザ・シャーロック」をはじめとするイマーシブシアターの魅力の1つです。続く第2幕では、主にホームズのあとを追う形で会場内を回っていただきました。ホームズが事件の調査をする様子や、シャーロットがオスカーとダンスをする回想シーン、ホームズとワトソンが酒を酌み交わす場面、そしてホームズと彼の宿敵ジェームズ・モリアーティ教授が対決するシーンなどに立ち会いましたが、印象に残っている場面はありますか?
詳しくはぜひ本編を観ていただきたいのですが、銃を使ったアクションやホームズの男気あふれる肉弾戦など、激しい殺陣をこんなに間近で観られる機会は滅多にないですし、映像を駆使した教会広場でのプロジェクションマッピング、ワトソンがホームズを助けに来る場面など、第2幕も見どころたっぷりでした。イマーシブ・フォート東京ができる前、この建物に来たことがあるんですけど、今回「ザ・シャーロック」を体験してみて、商業施設として活用されていた広い空間を有意義に使った演出が取り入れられていることに感動しましたね。「ザ・シャーロック」のように会場内を自由に歩き回る作品はもちろん、大小問わずいろいろな作品を上演できる可能性がある、夢のような空間だと思いました。
舞台ファンにこそオススメしたい、「ザ・シャーロック」
──三浦さんはこれまで、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のマリウスのように真面目な青年から、「ミュージカル『刀剣乱舞』」の髭切、舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」のハクのように儚げな役どころまで、さまざまなタイプの役を演じてきました。もし「ザ・シャーロック」に出演するとしたら、どのキャラクターを演じてみたいですか?
「ぜひともホームズ役を!」と言うべきところなのかもしれないのですが(笑)、僕はジョン・ミラーを演じてみたいですね。自分のイメージとかけ離れた役を演じて、皆さんをあっと驚かせたい気持ちがあります。
──意外なチョイスで驚きました! 三浦さんのファンの方々には、普段から足しげく劇場へ通うシアターゴアーが多いと思うのですが、そういった方々に「ザ・シャーロック」をオススメするとしたら、どんなところを楽しんでもらいたいと思いますか?
舞台を観ることが好きな方は、同じ作品を何度もリピート観劇する方が多いんです。舞台はやっぱり“なまもの”なので、同じ台本を上演していたとしても、毎公演違う反応が起こりますし、作品によっては日替わりシーンがあったりもして。「今日はここをじっくり観てみよう」とか、「今回はキャストの誰々に注目してみよう」「次はあえてオフ芝居(編集注:群衆シーンなどで、その場面におけるメインキャストではない俳優が舞台上で繰り広げる芝居のこと)を観てみよう」「いつもはしっかり観られていなかったけど、舞台装置はどうなっているのかな? 今日は舞台美術に注目してみよう」とか。舞台慣れしている方こそ、「ザ・シャーロック」の楽しみ方をたくさん見つけられるんじゃないかなと思います。しかも、キャストさんたちをゼロ距離で見られますしね!
もちろん、これまで舞台にあまり触れてこなかった方も楽しめる作品になっているので、「ザ・シャーロック」を入り口として、舞台に興味を持ってくれたらうれしいなと思います。「舞台を観てみたいんだけど、敷居が高くてなかなか一歩を踏み出せていないんだよね……」という方にもぴったりかもしれません。客層も幅広く、僕が体験した回はカップル、グループ、お一人で来られている男性、女性、いろいろな組み合わせの方がいたんじゃないでしょうか。自分がもしもう一度「ザ・シャーロック」を体験するとしたら、1人でじっくり回ってみようかなと思います。バンダナをしているから、周りの目を気にせず作品の世界に没入できますし! また来てみたいなあ。
プロフィール
三浦宏規(ミウラヒロキ)
1999年、三重県出身。5歳でクラシックバレエを始め、数々のバレエコンクールで入賞を果たす。「ミュージカル『テニスの王子様』」3rdシーズンで跡部景吾役、「ミュージカル『刀剣乱舞』」シリーズで髭切役を務め、「恋するブロードウェイ♪」シリーズ、「Nostalgic Wonderland ~song & dance show~」シリーズに出演。そのほかの出演作に、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「GREASE」「のだめカンタービレ」「ナビレラ」、舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」「キングダム」、「BOLERO -最終章-」などがある。現在、ミュージカル「レ・ミゼラブル」に出演中。7・8月にミュージカル「ジェイミー」の公演を控える。