F/T20モモンガ・コンプレックス「わたしたちは、そろっている。」白神ももこ×西井夕紀子対談|今ここから、遠くの誰かに思いを馳せる

時間軸はそれぞれ、でも“わたしたちは、そろっている”

──モモンガ・コンプレックスはこれまで、劇場公演はもちろん、屋外やギャラリースペースなどさまざまな空間で作品を発表してきました。今回は回遊式作品ということで、出演者は会場内に点在する自分の“部屋”で、6時間にわたってそれぞれのパフォーマンスを繰り広げることになります。

左から白神ももこ、西井夕紀子。

白神 パフォーマンスの内容も部屋によってまったく違うものになりますので、お客さんも場所や時間によって、まったく違うものを観ることになると思います。でもそれぞれがバラバラなことをやっていても、“私たちはそろっている、共に存在している”と言いたいというか。

──先日お稽古を見学させていただいたときは、臼井梨恵さんが3分ごとにタイマーをセットして、ラジオ体操をやってみたり、ただ窓の外を眺めてみたり、口の体操をしてみたり、とさまざまな過ごし方をしていました。

白神 パフォーマーたちの時間軸はバラバラにしたいと思っていて、3分単位の人もいれば1時間で動きを変える人もいていいし、そういう感覚すら放棄する人がいてもいいと思ってます。

──パフォーマーとしては、お二人それぞれどんなふうに6時間を捉えていますか?

西井 未知ではありますが、手に負えないものが入ってくる感じはあるだろうなと。私の場合は、ほかの“部屋”にいるパフォーマーやミュージシャンに手伝ってもらいながら、空間に流れている時間を壊すのか包むのか……そういう居方をしたいなと。

左から白神ももこ、西井夕紀子。

白神 私は、理想では一番気ままな存在でいたいなと思っています。普段はすごく時間を意識して生きてるんですけど、今回はそれを止めようと自分に課して、適度にその場その場の状況に応じられる存在でいたいなと。

西井 逆にストイック……(笑)。

一同 あははは!

──西井さんはクラシックからパンクまで幅広いジャンルを、さまざまな楽器で演奏されますが、今回はどんな楽器を持ち込む予定ですか?

西井 とりあえず私の部屋にアップライトピアノを用意してもらうので、それさえあれば安心かなと。あと、会場にはいない、ほかのミュージシャンにも手伝ってもらう予定なので、そこはぜひお楽しみに(笑)。

──それぞれの部屋は行き来したり、コミュニケーションを取ることはできるんですか?

白神 ほかの人の部屋への出入りはないですが、でも手紙とか糸電話や音を使ってコミュニケーションするのはありかな、と思っています。

ソーシャルディスタンスは優雅?

──今回は東京・東京芸術劇場 シアターイーストでの上演となります。白神さんは6年前の「フェスティバル/トーキョー14」で、東京芸術劇場 プレイハウスでも公演されていますが、劇場公演についてはどのように考えていらっしゃいますか?

白神 コロナによって、劇場公演に対する思いが、観客としての自分も少し変わってきていています。予約して劇場に行く、ということに前よりハードルを感じますし、やる側としても積極的に「来てね」と言えない感じがあって悩ましいなと。開演前も人と話すことがはばかられるのでシーンとしているし、お通夜みたいだなって感じることがあって、でも、「……ってことは、舞台はより原初的になってきているのかもしれない。冠婚葬祭って“祭”だもんな」と思ったり。

西井 この間、海外のクラシックのオーケストラが、海辺の綺麗な場所で演奏している映像を観たんですけど、コンサートホールのように音が反響する壁がないから、演奏としてはすごく無骨で、あっさりしたものになっていたんですね。でもそれが、古典なのに新しいものに感じられて。

──確かにこれまでのやり方では届かないものがある反面、価値の再発見や、以前とは異なるアプローチが今後は求められていくのかもしれませんね。最後に白神さんにお伺いしたいのですが、白神さんはこれまで、日常のふとした隙間に光を当て、そこに潜むおかしみや人間らしさを作品として昇華してきました。コロナによって日常の比重が増え、さまざまな価値観の転倒が起きている中で、白神さんが今新たに感じている日常の面白さ、あるいは日常に対する目線の変化などがあれば教えてください。

左から白神ももこ、西井夕紀子。

白神 今までは人がいっぱい集まって、一緒に何か食べながら観ているものにヤジを飛ばしたり、そこには子供もいてワイワイしたり……ということが大好きだったんです。でも今そういう状況を見たら「ヤバいな、この状況」と思ってしまう。そんなふうに自分の意識が変わってしまったことは、あまりに極端で悲しいと思う反面、いとも簡単に人の価値観が変化してしまうということに興味深さも感じます。と同時に、ソーシャルディスタンスは意外と優雅だなというか(笑)。「今まで自分たちはどれだけ寿司詰めにされて効率化を求められてきたんだろう」と思ったりもして。それは新たな気付きでした。

──そういう意味では、今回の作品は観客が自分の観たい場所、観たいものを自ら選択できる、究極的に優雅な公演と言えるかもしれません(笑)。

白神 あははは! そうかもしれませんね(笑)。

「フェスティバル/トーキョー20」ラインナップ

「移動祝祭商店街 まぼろし編」
「移動祝祭商店街」ビジュアル(Photo by Alloposidae)
2020年10月16日(金)~11月15 日(日)
特設サイト、東京都 豊島区内商店街、豊島区内各所、F/T remote(オンライン会場)

企画デザイン:セノ派(杉山至、坂本遼、佐々木文美、中村友美)

作品紹介

街の記憶や歴史をもとに山車を作り、豊島区内を練り歩く“山車パフォーマンス”で、「フェスティバル/トーキョー19」のオープニングを飾った舞台芸術家コレクティブ・セノ派が、「フェスティバル/トーキョー」に再登場。“一人でいる方法”をテーマに、4人のメンバーそれぞれによる企画が、リアルとオンラインを交えて行われる。

「とびだせ!ガリ版印刷発信基地」
「とびだせ!ガリ版印刷発信基地」ビジュアル(Photo by minamiasami)
東京都 大塚駅周辺、豊島区内各所
2020年10月16日(金)~11月15日(日)
※計20日程度開催

ディレクション:Hand Saw Press

作品紹介

昨年の「フェスティバル/トーキョー」期間中、気軽にZINEを作成・交換できる場として、大塚駅南口の商店街に限定オープンした「ガリ版印刷発信基地」。今回は、トラックに印刷機を乗せた出張スタジオが拠点となる商店街から飛び出し、豊島区内各所に出没する。

「RENDEZ-VOUS(仮)」
「RENDEZ-VOUS(仮)」ビジュアル(Photo by Mischa Lorenz)
2020年10月16日(金)~11月15日(日)
東京都 トランパル大塚、星野リゾート OMO5東京大塚4階OMOベース

コンセプト・振付:ファビアン・プリオヴィル

作品紹介

近年、テクノロジーとコンテンポラリーダンスを融合させた作品作りを行っているファビアン・プリオヴィル。彼が手がける「RENDEZ-VOUS」は、公共の場での上演を前提としたVR技術を使用したダンス映像インスタレーションだ。本プロジェクトは2018年からドイツやギリシャで行われてきたが、今回は“東京版”として、東京・トランパル大塚と星野リゾート OMO5東京大塚 4階OMOベースを会場に開催される。

「神の末っ子アネモネ」
「ファーム」より。(Photo by Alloposidae)
F/T remote(オンライン会場)

作:松井周

演出:キム・ジョン

作品紹介

「フェスティバル/トーキョー19」で松井周の戯曲「ファーム」を演出したキム・ジョンが、今回は松井の新作に挑む。本作は、アウグスト・ストリンドベリの戯曲「夢の劇」を、“コスプレ”など現代カルチャーを通じて再解釈・再構築する作品で、人間界に降りるも、奇跡も起こせず去ることになる主人公・神の娘の物語を描く。なお、本作は韓国で上演・収録された映像の配信上演となる。

モモンガ・コンプレックス「わたしたちは、そろっている。」
「わたしたちは、そろっている。」ビジュアル
2020年10月24日(土)・25日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト、F/T remote(オンライン会場)

振付・演出:白神ももこ

作品紹介

白神ももこ率いるモモンガ・コンプレックスによる本作は、劇場内に設置されたいくつかの小部屋を、観客が観て回る“観察型ミュージカル的ダンス・パフォーマンス”。「伊勢物語」といった作品をモチーフに、“上演”や“個と全体 / 集団”の意味が問い直される。

「ムーンライト」
「ムーンライト」ビジュアル
2020年10月31日(土)・11月1日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

構成・演出:村川拓也

作品紹介

「フェスティバル/トーキョー12」で発表された「言葉」以来、約8年ぶりに本フェスティバルに参加する村川拓也によるドキュメンタリードラマ。ベートーベンの「月光」に惹かれてピアノを始めたという、京都で暮らす七十代の男性を主人公に、彼の人生が村川との対話とピアノの発表会の形式で紐解かれる。

<トランスフィールド from アジア>テアター・エカマトラ「Berak」
<トランスフィールド from アジア>テアター・エカマトラ「Berak」ビジュアル
F/T remote(オンライン会場)
監督:モハマド・ファレド・ジャイナル
作品紹介

モハマド・ファレド・ジャイナル率いるテアター・エカマトラは、多民族都市国家であるシンガポールの現実に向き合った作品を作りながら、マレー演劇の確立を目指す集団。「フェスティバル/トーキョー20」では「Tiger of Malaya(マラヤの虎)」を発表予定だったが、来日が困難になったため、代わりに制作・収録された作品「Berak」がオンライン配信される。

<トランスフィールド from アジア>F/T×BIPAM 交流プロジェクト「The City&The City:Divided Senses」
<トランスフィールド from アジア>F/T×BIPAM 交流プロジェクト「The City&The City:Divided Senses」
作品紹介

東南アジアにおける舞台芸術のプラットフォームとして年々存在感を増す「バンコク国際舞台芸術ミーティング(BIPAM)」。「BIPAM2019」「フェスティバル/トーキョー19」での双方のディレクターによるプレゼンテーションに続くステップとして、今年度は、それぞれの都市についてリサーチを行い、そのプロセス、成果をオンラインで交換するプロジェクトが行われる。バンコクと東京、2つの都市をいかに互いに「トランスレート」し、今後のアウトプットへとつなげるのか。身体の移動を制限された状況にあるからこそ、五感を研ぎ澄まし、互いを刺激しあえる仕組み作りを模索する。

※初出時、タイトルに誤りがありました。訂正してお詫びいたします。


2020年10月23日更新