スターダンサーズ・バレエ団「Dance Speaks 2024」森優貴は夢がモチーフの新作「Traum-夢の中の夢-」を語る (2/2)

スターダンサーズ・バレエ団は集中力とエネルギーが高い

──スターダンサーズ・バレエ団の印象については、いかがでしょう?

創るということに対して、すごく真摯に取り組んでくれています。総監督の小山さんともお話しして再確認・再認識したんですけれど、スターダンサーズ・バレエ団は立ち上げ当初から日本人の振付家が日本で上演する作品を継続的に作り、発表するという活動方針を掲げていて、それが小山さん、そして常任振付家の鈴木稔さんに受け継がれているのだなと思います。“無から作品を作り続け、発表し続け、団体としての唯一無二の表情を築いていく”という、芸術団体にとって本来は当たり前の思想と活動が、日本のバレエ団では実現できているところがごく少数に限られているのが現状です。スターダンサーズ・バレエ団は、設立当時から引き継がれてきている明確な伝統が稽古場にはあって、今回のような新作制作のときでもダンサーたちが作品をきちんと捉えようとし、振付家の言葉、話を絶対に漏らさず聞こうとし、理解しようとする。そして自発的に身体に落とし込もうとする姿勢、他人への注意も漏らさず聞き自分に生かそうとする集中力とエネルギーを強く感じます。現在も小山総監督の元で、常任振付家である鈴木稔さんが存在することで、“創る”ということが日常化されているのでしょう。すごく気持ちがいい現場です。

ダンサーって職業病で(笑)、実は言われないと動かない部分があるんです。そしてチームワークが苦手です。というのも、幼少時から日々クラスを通してトレーニングするということに慣れているので、思考と身体がもしリンクしていなかったとしても、決まったことをやって身体を鍛えるということは続けてきた。俳優やオペラ歌手であれば、作品で求められる役割に沿って、台本や楽譜の文字、または音から発声に移す作業の段階で、発声の仕方を自分の役柄に合わせてどう変化させるか、声質を作り出し変化させるのか、容姿の見た目から、日常での生活に役を取り組む人もいる、自分の役柄に憑依するように作り上げていく、その先に役者生命を失うほど崩壊してしまった、そんな役者をドイツで見てきました。それくらい役と共に日常から創っていく。個人作業の時間の費やしが舞踊よりも長いわけです。でも舞踊の場合は、踊ることを始めたときから身体的な訓練を重ねてきているからこそ、分解作業をせずともある程度はできてしまう。そして1つの場所に集まって、一緒に過ごす時間の中でしか作品を作ることができない、共通の時間と空間を必要とする表現方法なので、個人作業という自発的な自身との向き合いと、集合した環境で打ち出していかなければいけない役目を同時進行で行わなければいけない。慣れ親しんでいると思っている身体のみを使って。すごく複雑で時間のかかる作業なので。

「Traum-夢の中の夢-」の稽古の様子。

「Traum-夢の中の夢-」の稽古の様子。

その点において、スターダンサーズ・バレエ団のダンサーたちは自発性があり、どんなことでも絶対に吸収しようという意識がとてもまっすぐだと感じます。僕自身が各々の個性、能力をしっかりと見極め、自分が意識している以上に引っ張り出し、そして共に正しい方向に導き磨いていってあげなければと更に気合いが入ります。

──最後に改めて「Dance Speaks2024」について伺います。3作品を通してどんな公演になりそうでしょうか?

とても貴重で興味深い組み合わせのトリプルビルだと思います。3作品それぞれが異なるアプローチの仕方、そして全幕公演ではないからこその凝縮感。公演タイトルのように、「3つの作品が、ダンスが、何を語るのか?」ご覧になられるお客様がそれぞれの作品で実感する感じ方も違うでしょう。トリプルビルの醍醐味ですよね。

しかしお客様のアンテナの準備もそれぞれ必要となるのも事実です。「何が語られようとしているのか?」「何が語られたのか?」1秒1分先のことも、後のことも、舞台芸術は起こった瞬間に過去になっていく。だからこそ舞台上から発信されるものを受動的に受けるのでなく、自ら掴みにいってほしい。舞台とは舞台上で起こることと客席で起こることの相互関係ですから。「Dance Speaks2024」では3作品それぞれの色、作家性、舞踊表現、多くの要素をスピーディかつ情報量たっぷりに楽しんでいただけると思います……とはいえ、僕もまだ3つ並べたところを観ていないので(笑)劇場にいらっしゃる際は、ぜひご自身のアンテナスイッチを片手にしっかり握り締め、アンテナ全開で喰らいつくように観ていただければと思います。きっと楽しめます。

森優貴

森優貴

プロフィール

森優貴(モリユウキ)

1978年、兵庫県⽣まれ。1998年にドイツ・ハンブルクバレエ学校卒業後、ニュルンベルク・バレエ団を経て、シュテファン・トス率いるトス・タンツカンパニーに入団。11年間に渡り数多くの作品で主役を務め、振付家としても作品を多数発表。2012年9月よりドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニー芸術監督に就任。欧州における日本人初の芸術監督となる。2016年ドイツ舞台芸術界の栄誉あるファウスト賞振付家部門にて優秀作品賞受賞。2019年8月付けでダンスカンパニー芸術監督を退任したのち日本に拠点を移す。現在は多彩なカンパニーで演出・振付を手がけるほか、K-BALLET TOKYOが展開するK-BALLET Optoのアーティスティック・スーパーバイザーや宝塚歌劇団講師や公演の演出振付等、幅広く活動。第19回ハノーファー国際振付コンクール観客賞及び批評家賞、平成19年度文化庁芸術祭新人賞、平成24年度兵庫県芸術奨励賞、平成29年度神戸市文化奨励賞など受賞歴多数。