黒田育世×菅原小春×奥山ばらば「ラストパイ」Dance New Air 2018 ダンスの明日|いよいよダンスの時代がやって来た

目指したのは“人間動物園”

──初演時のメンバーは、金森さんをはじめ、青木尚哉さん、井関佐和子さん、島地保武さん、辻本知彦さんなどそうそうたる顔ぶれですね。今回のメンバーをキャスティングするにあたり、どのようなことを意識されましたか?

黒田育世

黒田 “人間動物園”にしたいと思いました。

一同 あははは!(笑)

黒田 初演から比べると、13年のワークショップ上演時以降、2シーンだけ違うシーンが入ってるんですけど、あとは9割8分、初演通り。山口小夜子さんの衣装がまた着られるのもうれしいですし、今回はプロフェッショナルな方たちで「ラストパイ」を稽古できるのがとてもうれしいです。

──菅原さん、奥山さんとはこれまでどのようなつがなりがあったんですか?

黒田 小春ちゃんは昨年の初夏くらいからですね。ばらばさんは06年から07年に日仏国際共同制作「遊*ASOBU」(振付・演出:ジョセフ・ナジ)で共演していて。「ラストパイ」が再演できることが決まりキャスティングが頭の中でまとまったのは、一瞬でした。

奥山ばらば 黒田さんの作品はこれまで観ていましたが、「遊*ASOBU」以降しばらく共演の機会はなくて。昨年の冬、育世さんから突然お電話があり「『ラストパイ』に出演してもらえないですか」と言われて、すごくびっくりしつつも「ぜひ出させてください!」と即答しました。育世さんという人間にとても魅力を感じた……って言うとちょっと気持ち悪いかもしれませんが(笑)。

一同 あははは!(笑)

菅原小春 私は初演に出ていた辻本さんと仲がよくて、あるときリハーサルが終わったあと、辻本さんに「育ちゃん(黒田)の家に今から行くからおいでよ」と誘われて、お家に行ったんです。そのとき、育ちゃんさんが「いい脚してるねえ、いいねいいね」って興味を持ってくださって(笑)。そこで「『ラストパイ』に出ない?」と誘ってくださり、育ちゃんさんのことは以前からいろいろお話を聞いて興味を持っていたので、ダンスのジャンルは違いますけど飛び込んでみたいなと思って……でもやっぱり大変でしたね(笑)。

一同 あははは!(笑)

菅原 この作品が本当にすごいパワーを持った作品だということを、私はまだちゃんと、自分のこととして見られていない感じがします。

黒田 この作品は本当にハードですよね……でも皆さんが作品に突き刺さろうとしてくださっているのが、本当にありたがいです。

──今回のメンバーだからこそ「こう見せたい」という部分はありますか?

上から奥山ばらば、菅原小春、黒田育世。

黒田 いろんな人がいることが見せられるといいなって思ってます。大前提として“呼吸して生きてる”ということがあるだけで、あとはいろんな人がいてほしい。例えばバーンと脚が上がって、クルクルって回転できるすごい人たちだけを集めた、ザ・エリートな見え方にするのも、それは目に鮮やかで気持ちがいいかもしれないけど、この「ラストパイ」はいろんな人がいるものになったらいいし、そういうのが優しいと思うんです。世の中を見渡してもいろんな人がいるわけで、現実でもそれがそのまま受け入れられている状況になればいいなと思っています。

──会見時に菅原さんは黒田さんについて「“優しい鬼”と聞いています」とお話されていましたが(参照:「Dance New Air 2018」記者発表、黒田育世「ラストパイ」再演に喜び)、お稽古が始まってそれは実感されていますか?(笑)

菅原 まだ「優しい」で止まってます(笑)。(奥山に)どうですか?

奥山 優しいですね、これからかもしれませんが(笑)。

──「ラストパイ」は肉体的に、非常にダンサーを追い込む作品だと思いますが……。

菅原 あ! 作品が鬼ってことかも。

黒田 ああ、作品が? 私じゃなくてね(笑)。

みんなが作品に突き刺さってきてくれる

──今回の「ラストパイ」では、それぞれベースとなる踊りのジャンルが違う人たちが集まっています。共演しながら、お互いの踊りや身体の違いを感じる瞬間はありますか?

奥山 振付をいただく中で、ターンとかステップなど、私が慣れてない、やってこなかった部分では悪戦苦闘していますね。ただ育世さんの作品は肉感的と言うか、硬質な感じがして親近感が湧く部分があるので、踊りのジャンルは違っても似た部分はあるなと感じます。菅原さんとは、“共演”と言うか……(笑)。

菅原小春

菅原 私はちょっとみんなから外れて踊るので、仲間外れって言うか、共演って感じではないんですけど、みんなが踊ってるのを観ると、ばらばさんはちょっと特別な感じがしますね(笑)。それと育ちゃんさんがさっき言ってた、「本来、人間はみんな違くてみんな素敵」ってことを実感します。私も全然、脚を上げたり跳んだりしたことがなくて、でも跳ぼうと思ったら不恰好でも跳べるんだ!と思ったし(笑)、テクニック的にきれいに跳ぶ人もいれば、跳び方じゃなくて脚や指がそもそもきれいな人とか、ばらばさんのようにテクニックじゃなくて“ばらばさんが跳ぶ”って跳び方もあったり……。

黒田 そうそう、“ばらばさんが空中にいる!”って感じ(笑)。

菅原 (笑)。それが面白いなって。

──ご自身のパートはいかがでしょう?

菅原 いかがなものでしょうね、あれは……(笑)。

黒田 あははは!(笑)

菅原 「気合はあるのでやります!」って言ったけど、「やる」ってそんな簡単に言うものじゃなかったなって思ってます(笑)。

黒田 いやいや、あのパートは本当にキツいですよね。でも体力あるよね?

菅原 うーん、どうでしょう。根性はあります! 体力はきっと皆さんのほうがあると思いますけど、とにかく今回は振りが……多い。とにかく……。

黒田菅原 多い!!(笑)

菅原 ご飯を食べてても踊りのことが頭から離れなくて、でもご飯食べててもできるくらいにならないと、そこからが闘いなので。

黒田 またお二人をはじめ、稽古場にいらっしゃる方が皆さん本当に美しくて幸せです。年齢も12歳から50代までさまざまで、ばらばさんみたいに身長が高い大きな方もいれば12歳の(関)なみこはやっぱりまだ小さいし。こういう環境で一緒に踊れるなみこは、なんて幸せな子なんだろうって思います。偏見とか強すぎる常識の枷がなく、人は重力の中で普通に呼吸して生きている、くらいの前提で踊っていられたら、だらしなくなったりずるくなったりしないし、卑劣にもならない。子供たちがみんなこういう環境で育ったら、すごく未来が明るいんじゃないか、こんな動物園育ちの子供ばっかりになったらいいなって思っちゃいます。今回それを経験しているなみこは、大人になってからいい日本を作ってくれないと困るなって思う。それに、私がすごく尊敬している最年長の加賀谷香さんとかしげやん(北村成美)とか、あれだけのキャリアを持っている人たちが稽古場では本当にすってんてんの状態で、安全パイを取らずに作品に頭突きで突っ込んできてくださるような姿を、子供やBATlKのカンパニーダンサーたち、何より私に見せてくださることが、本当に幸せで。日本中、世界中の人と一緒に「ラストパイ」を踊ることはできないけど、舞台をご覧いただくことでそのまま広く染みわたって、自己規制とか強すぎる常識の枷、偏見、あと多すぎる情報をそぎ落としてくれるようになればいいなと思います。「ラストパイ」はそういうことができる作品だと思うので。

──舞台作品では未就学児童入場不可の演目が多いですが、今回は4歳以上から観劇できるというのも素敵だなと思いました。

黒田 4歳からにしたのは、私の娘が4歳半で、この作品が始まるとすぐ寝るんです。だからこちら(演者)の迷惑にならないという感じもあり(笑)。逆にそれ以上小さいと音響や照明の刺激が少し強すぎてかわいそうだなとも思うので、うちの娘基準です(笑)。