岡田利規と6人の俳優たちが挑む、チェルフィッチュ×藤倉大with Klangforum Wien新作音楽劇 (2/2)

生音は想像以上に生だった

──ワークインプログレス公演では、最初は録音された音源、後半は生演奏と共演されました。固定されたある意味“モノ”に近い音と、可変性が高い生音とでは、俳優さんたちの感覚もだいぶ違ったのではないですか?

一同 (うなずく)。

川﨑 生演奏は強い感じがあって、音楽に負けないようにしなきゃいけないなって感じがしましたね。

朝倉 内側と外側、ということがクリエーションの中でずっと語られていて、舞台上にいる演奏者は、演奏をしてないときは観客にもなるよねって話していたんですけど、実際に共演してみたら音もですが、熱や空気が(演奏家から)流れ込んでくる感じがして、私たちパフォーマーと演奏家が良い感じに競演できたら新しいんじゃないかなと感じました。

矢澤 やっぱり生音は思った以上に生でしたね。

一同 あははは!

矢澤 だから影響を受けざるを得ないですよね。藤倉さんはよく「音と合わせなくて良いです、むしろ合わせないでください」って言うんですけど、だからと言って音をまったく無視するってことじゃなくて、岡田さんや藤倉さんが言ってるのは、音と役者ならではの仕方で親密になるっていうことなんじゃないかなと思うんです。

左から椎橋綾那、大村わたる、川﨑麻里子、朝倉千恵子、青柳いづみ、矢澤誠。

左から椎橋綾那、大村わたる、川﨑麻里子、朝倉千恵子、青柳いづみ、矢澤誠。

岡田 藤倉さんが「合わせないで良いですよ」っていうのは、時間に関わる意味なんですよね。つまりタイミングとかテンポ、速くとか、遅くとか。それを厳密にコントロールするというのはすごく音楽的なことで、でも我々にはそういうことはできない、だってそういう教育受けてないし、でもそれで構わない。オペラの国でやったこととは別のこと、なんなら、オペラの国ではできないことをやろうとしてるんだし。音楽ってすごく抽象的な、意味から自由なものであり得るのに、ある意味不思議なことに、タイトルを付けたり、歌詞を付けたり、言葉によって自らを意味と結びつけようとする傾向もまたあるじゃないですか。でもこれは逆に言うと、言葉やパフォーマンスは音楽の聴こえ方や、音楽とパフォーマンスの関連の仕方を変えることができる。その点を生かしたプロダクションになったら面白いだろうなと思っています。

藤倉さんはポジティブ!

──先日のワークインプログレス公演には藤倉さんもモニター越しに参加されましたが、その後の記者会見も含め、お話が非常に面白く、人を巻き込んでいくパワーのある方だなと感じました。皆さんは岡田さんと藤倉さんのやり取りを見て、お二人の共通点や違いなどを感じた部分はありますか?

椎橋 岡田さんが言うことを藤倉さんはすごくよくわかっているので、一緒の感覚の人なんだなと思いました。違うところは……藤倉さんは明るかったです。あ、岡田さんが暗いと言っているわけではなくて!

一同 あははは!

川﨑 岡田さんも藤倉さんもオープンで、身を任せていきたくなるような包容力を持っていると思います。

朝倉 2人ともお話が面白いです。また11月のクリエーションでは、岡田さんがオペラを1回創作されたことで、2人のお話に共通点が増えた感じがしました。

矢澤 藤倉さんにはまだオンライン上でしかお会いしたことはないんですけど、初めて会ったときから飛び込んで行って良いという安心感がありました。僕、全然音楽のことはわからないんですけど、そういうことを気にせずに音楽のことも演劇のことも話して大丈夫なんだなって。でもそれは岡田さんに対しても同じで、そこが共通点だと思います。

青柳 画面越しにお会いしていると、ちょっとディズニーキャラみたいな感じがします。本当にいるのかどうかわからないというか(笑)。

大村 リモート稽古で藤倉さんのお部屋が映るんですけど、とても素敵で。藤倉さんのお人柄と部屋の様子が相まって、こういう状況で稽古ができているのがすごく良いなと思ってます。それと岡田さんと藤倉さん、お二人ともすごくポジティブな方ですね。お二人のやりとりを見ているだけでも面白くて、新たな気付きやイメージが膨らみました。

左から岡田利規、椎橋綾那、川﨑麻里子、大村わたる、矢澤誠、朝倉千恵子、青柳いづみ。

左から岡田利規、椎橋綾那、川﨑麻里子、大村わたる、矢澤誠、朝倉千恵子、青柳いづみ。

──会見で藤倉さんが冗談で、「僕は関西人だから」と何度もおっしゃっていたのが印象的でした。例えば「今回は弦楽四重奏とクラリネットの編成ですが、弦楽器は弓で弦をこする音とピチカートの2種類の音が出せるから全部で8つの音が出せるし、クラリネットは複数種類があって持ち替えられるから、この小編成でさまざまな音を出すことができる。かつオーケストラよりモビリティが高いところが、お得感ありますよね!」と。

岡田 先日、ウィーン芸術週間のフェスティバル関係者と打ち合わせしたとき、藤倉さんもリモートで参加していたんですが、そのときも「僕はプラクティカルだ」というお話をされていましたね(笑)。

大村 僕、どこかで藤倉さんとお会いしたような感じがしていたんですが、僕も藤倉さんも関西出身だからかもしれません(笑)。

目の前でなく、もっと遠くの人に向けて

──上演は2023年と先ですが、この後も定期的にワークショップを?

岡田 ええ。今年もコツコツと折を見てやっていく予定です。

──ワークインプログレス発表会では、立退を迫られた一家を軸に“内と外”、社会の分断をテーマにした物語が10分程度、披露されました。作品の内容と音楽劇というスタイルの結びつきについて、岡田さんはどのように考えていらっしゃいますか?

岡田 音楽が何を意味するのか、ということを劇によって決めるのが音楽劇とするなら、それがどんどん変化して展開していくことは、音楽劇として面白いことだと思うんですね。で、ワークインプログレス発表会で披露した冒頭10分は、“内と外”や分断をテーマにはするんだけど、そのテーマは早々にどうでも良くなっていき、別なところに行くということをやりたいんですよ。そんなことを思いながらこの間久々に「消しゴム山」を観たら、とても良かった。作品に励まされたような気持ちになりました。僕の2021年にやったほかの仕事、それは「未練の幽霊と怪物─『挫波』『敦賀』─」(参照:現実とパラレルな世界を幻視して「未練の幽霊と怪物」上演に岡田利規「とてもハッピー」)もですし「夕鶴」もですし、どちらもベストを尽くして心から満足しているけど、それらはどちらかというと目の前の観客に向けて届けようとしている作品です。でも「消しゴム山」って、目の前にいるお客さんに直接おもてなしをするような作品じゃない。もっと遠くに向けてやっているような感じがあるんですよね。こういうことをもっとたくさんやるべきだなと、改めて思うことができた。新作音楽劇もそういう方向で行きたい。何よりこれは、チェルフィッチュのプロダクションですしね、しっかり攻めたものを作りたい。そう考えたとき、音楽というのは、今我々が置かれている状況とか感情を描写することももちろんできるけれども、それだけではない、もっとデカいものと重ね合わさることもできるわけで、そういうところまで含んだダイナミックな作品にできたら良いなと思います。

左から川﨑麻里子、大村わたる、椎橋綾那、岡田利規、青柳いづみ、朝倉千恵子、矢澤誠。

左から川﨑麻里子、大村わたる、椎橋綾那、岡田利規、青柳いづみ、朝倉千恵子、矢澤誠。

プロフィール

岡田利規(オカダトシキ)

1973年、神奈川県生まれ。演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰。2005年「三月の5日間」で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月「クーラー」で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005ー次代を担う振付家の発掘ー」最終選考会に出場。2007年にデビュー小説集「わたしたちに許された特別な時間の終わり」を発表し、翌年第二回大江健三郎賞受賞。2012年より岸田國士戯曲賞の審査員を務める。2013年に初の演劇論集「遡行 変形していくための演劇論」、2014年に戯曲集「現在地」を刊行。2016年よりドイツの公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品の演出を4シーズンにわたって務め、2020年「The Vacuum Cleaner」が、ドイツの演劇祭シアタートレッフェンの“注目すべき10作品”に選出された。2018年にはタイの小説家、ウティット・へーマムーンの原作を舞台化した「プラータナー:憑依のポートレート」を国内外で上演し、第27回読売演劇大賞 選考委員特別賞を受賞。2020年に刊行した戯曲集「未練の幽霊と怪物 挫波 / 敦賀」が第72回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞、第25回鶴屋南北戯曲賞を受賞した。

青柳いづみ(アオヤギイヅミ)

2008年の「三月の5日間」ザルツブルグ公演よりチェルフィッチュに参加。2007年よりマームとジプシーに参加。以降、両劇団を並行し国内外で活動。近年の主な出演作にチェルフィッチュ「消しゴム山」「消しゴム森」、金氏徹平「TOWER」、藤田貴大演出「みえるわ」(小説家・川上未映子との共作)、「CITY」などがある。またマンガ家・今日マチ子との共著「いづみさん」、朗読で参加した詩人・最果タヒの詩のレコード「こちら99等星」なども発表している。

朝倉千恵子(アサクラチエコ)

東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。近年の出演作にチェルフィッチュ「三月の5日間」リクリエーション、ジゼル・ヴィエンヌとエティエンヌ・ビドー=レイによる「ショールームダミーズ#4」、ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」など。また自身でもパフォーマンスや映像作品を制作している。

大村わたる(オオムラワタル)

1988年、奈良県生まれ。柿喰う客所属。2016年より平田オリザが主宰する青年団にも入団。劇団以外の主な出演作に「東京原子核クラブ」、□字ック「掬う」、木ノ下歌舞伎「三人吉三」、岡崎藝術座「+51アビアシオン,サンボルハ」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ビビを見た!」、MONO「隣の芝生も。」など。映像作品では、テレビドラマ「SUPER RICH」「カラフラブル」「MIU404」「あなたの番です」などに出演。

川﨑麻里子(カワサキマリコ)

1984年、神奈川県生まれ。ENBUゼミナール卒業後、2013年より鎌田順也が主宰するナカゴーに所属。主な出演は東葛スポーツ「A-2活動の継続・再開のための公演」、今泉力哉と玉田企画「街の下で」、ほりぶん「荒川さんかが来る、来た」など。チェルフィッチュには「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」「スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド」「渚・瞼・カーテン チェルフィッチュの〈映像演劇〉」に出演。

椎橋綾那(シイバシアヤナ)

埼玉県出身。舞台を中心に活動。五代目東家三楽の弟子、富士綾那として浪曲師としても活動。チェルフィッチュには「スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド」、映像演劇「風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事」に出演。

矢澤誠(ヤザワマコト)

1972年、福島県生まれ。俳優。これまでにNODA・MAP、宇宙レコード、ニブロール、ミクニヤナイハラプロジェクト、カムカムミニキーナ、安藤洋子プロジェクト、遊園地再生事業団、カンパニーデラシネラ、オフブロードウェイミュージカル「リトルショップ・オブ・ホラーズ」などに出演。チェルフィッチュには「私たちは無傷な別人である」より参加。「地面と床」「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」「消しゴム山」「消しゴム森」に出演している。