ダンスでも演劇でもない、CHAiroiPLINというジャンル
──CHAiroiPLINの作品はいつもやキャスティングが絶妙ですが、今回もリアの三人の娘たちの顔合わせがまず強烈ですね。長女ゴネリルが中村蓉さん、次女リーガンがスズキさん、三女が小林ららさんです。
スズキ すごいですよね(笑)。ららちゃんはいつも末っ子とかの役になりがちなので、今回は全然違う役をやらせてあげたいなと思っていたのですが、ずっと誘っていた蓉ちゃんのスケジュールが合い、今回ようやく出演してもらえることになったことや、僕が女役をやってみたかったこと、それとこの3人で“三姉妹の闘いのダンス”をがんばりたいなと思ったことから、三姉妹はこの顔合わせになりました。
佐藤 (スズキのほうを見て)僕の娘、だ(笑)。拓朗のリーガン役は意外だったけれど、そういう理由だったんだね。
スズキ はい(笑)。ただ三姉妹の1人をやる以上は、めっちゃ踊らないといけなくて。いつもはそういうポジションではない役をやるんですけど、今回はそういうのもいいかなと思って。
──そしてグロスターの息子エドガーを田村興一郎さん、エドマンドを青井想さんが演じます。
スズキ 想くんはうちのメンバーなんですが、主役をやらせてあげたいなあと思っていて、今回ダークヒーローであるエドマンドにしました。彼はマスクが可愛いので“いい人に見えるけれど実は……”というギャップが怖さを増すんじゃないかと思っています。エドガー役の田村くんはオーディションに来てくれたメンバーで、実はフランス王役と悩んだのですが、グロスターの息子でおぼっちゃまであるエドガー役が似合うんじゃないかなと思いました。一方、フランス王役は関口晴くんにしたんですけど、関口くんとらら演じるコーディリアとのデュオが面白いんじゃないかと思って。そんな感じで、ダンスの組み合わせやバランスを考えてキャスティングを決めています。
──取材の前にお稽古を見学させていただきましたが、グロスター、エドガー、エドマンドの親子シーンが、コミカルで面白かったです。
伊藤 遊んでいるような感じでしたね(笑)。酒を飲みながらあっちこっちにフラフラ……としている感じで。
一同 あははは!
スズキ 後から聞いたのですが、田村くんはキムさんからいろいろ影響を受けていてキムさんを慕っているそうで、エドガーにぴったりだったなと思いました。
──ちなみに今回、佐藤さんが踊るシーンはあるのでしょうか?
佐藤 実はまだ何も聞いてないんです。ただCHAiroiPLIN名物のケチャはめちゃくちゃ難しいので、ケチャだけはないといいな……と思っていたらそのシーンには出ないことがわかって。ホッとしつつも、ケチャをやらないとやっぱりCHAiroiPLINじゃないなという気もしていて……。
スズキ 実は今回、誓さんが踊るシーンは3つあります!
佐藤 (驚きの表情で)ん!
スズキ 「じごくのそうべえ」のときは全然誓さんが踊るシーンがなかったんですけど、今回は踊ってほしいなと思っています!
佐藤 がんばります(笑)。
──出演者の方にとって、CHAiroiPLINに出演するときは、ダンス作品に出る心持ちなのでしょうか、演劇作品に出る心持ちなのでしょうか?
佐藤 僕、「じごくのそうべえ」のときは踊る気マンマンだったんですけど、結局踊らなかったので、ダンスカンパニーに出たのに踊らないのって面白いなと思いました(笑)。
伊藤 ちょっと区別が難しいですね……CHAiroiPLINの舞台はCHAiroiPLINっていうジャンルというか。
佐藤 ああ、そうですね。ダンスでも演劇でもなくCHAiroiPLINっていうジャンルかもしれません。
──先日、スズキさんは令和6年度芸術選奨 舞踊部門 文部科学大臣賞新人賞を受賞されました。受賞によって、CHAiroiPLINの活動やシリーズに対して自信が強まった部分はありますか?
スズキ それはあるかもしれないです。ただ今回も稽古初日はすごく緊張していました。誓さんは1回一緒にやったことがありますが、キムさんや塩野拓矢さん、富岡晃一郎さんなど初めてご一緒する方が多いので、構えていたんですよね。ただこのインタビューでもわかるように、キムさんは口数は少ないけれども的確で、稽古でも「ここはこういうシーンで」とお話しすると「じゃあやってみましょう」とすぐに10分くらい踊ってくださるんです(笑)。なので安心というか、全部が全部、僕が作らなくても良いし、俯瞰で捉えて「あ、このシーンはこの人に任せていいんだな」と思ったりできる。そういう意味で、今回のチームには自信を持っています。一方で、ダンスシーンの作り方やシーンの構築の仕方に、CHAiroiPLINのメソッドみたいなものが構築されつつあると感じるのですが、マンネリ化したくない、常に新しい発見をしたいという思いもあって。という点でも、今回は新しい人たちが多いので、より集中して稽古ができているのが楽しいです。
スズキ拓朗は貪欲で人たらし?
──クリエーションが進んでいく中で、佐藤さんと伊藤さんは、演出家・スズキ拓朗の魅力をどんなところに感じますか?
スズキ 照れますねえ(笑)。
佐藤 天才だと思います。
スズキ いやいやいや!
佐藤 発想力という点でもそう感じますし……あとは人たらし。
スズキ それは自分もじゃない!(笑)
佐藤 (笑)。人間的にもですが創作に関しても、さっきキムさんに「歌ってくれないんですか」って言っていたように、ちょっと何か言っちゃうと「じゃあ、それやりましょう!」って採用されちゃうところがあって(笑)、とにかく貪欲だなと思います。あと、カンパニーメンバーに対する気の遣い方や、それぞれのいいところの取り入れ方も細やかです。メンバーもみんなものすごい働き者で、拓朗やCHAiroiPLINに対する献身度の高さがすごいなと思います。
それと彼は、挑戦の仕方がすごいと思います。ダンスって普通、言葉にできないものを表現するものというイメージがありますが、言葉だらけのものをダンスしようっていう発想が面白いし、強さもある。やっぱりちょっと、発想の仕方が人とは違うなと思います。
伊藤 ……めちゃめちゃ頭がいいんだろうなって。
スズキ え?(笑)
伊藤 誓さんがおっしゃったように本当に貪欲で、来たものをとりあえずパッと掴んで触ってみる人だなと。
佐藤 で、手放すのも早いんだと思います。
伊藤 あ、そうですね、頭の中ですごくスピーディに取捨選択が行われている感じがします。腰が重い自分からすると、すごく腰が軽い感じがします。
スズキ 頭がいいわけではなくて……いろいろな現場に振付で入ったりして、いろいろな演出家の方とご一緒する機会があるので、さまざまな方の考え方に影響を受けて、舞台をやりたい気持ちが構築されている感じがします。
──ということは、どこかに伊藤キムさんも入っていらっしゃる?
スズキ 入ってます入ってます! 今でも覚えているのは、煙になるワークショップがあって、キムさんが「今から煙になります」って言うんです。学生たちはいろいろやってみるんだけど「いや、それは煙を“やっている”ので、煙に“なって”ください」っておっしゃって……。
伊藤 ……煙じゃなくて、霧じゃない?
スズキ あ、霧か!(笑) でも霧になるって言われても学生は誰もわからなくて。そうしたらキムさんがやって見せてくれたんです。それを見て、「あ! 霧になってる!」と。もちろんそう感じたからといって、キムさんのように霧になることはできないんだけど、「そういうことなんだな」ということがわかりました。で、それを咀嚼して、自分の答えを出す方法を、僕は演劇で学びました。
観た後に、食べ物の味わいが深くなるような公演に
──本作にはツアー各地でアンサンブルキャストが大勢出演します。どのような出演の仕方になるのでしょうか?
スズキ 原作に「リア王には100人の家来がいた」とあるので、本当は100人アンサンブルキャストが欲しかったんです。でも現実的には難しかったので、結局各地20人ずつアンサンブルキャストが出演することになりました。アンサンブルキャストには、オープニングアクトだけではなく、作品の中にがっつり出演してもらいます。“リアの家来がどんどん減らされていく”というシーンがあるんですけど、そこでリア王の家来役として、オーディションのようにどんどん減らされていく様を演じてもらいます。
──また本作は東京、島根、徳島をツアーします。東京以外のツアー先で島根や徳島は珍しいですね。
スズキ 島根は「じごくのそうべえ」も上演した場所で、劇場スタッフの方に「ぜひまたやってください」と言っていただいたので、行くことになりました。徳島はコンドルズでもよく行く場所で、個人的にも知人がいるのですが地元の方に「CHAiroiPLINも徳島に来てください」と言っていただき、今回、行きます。なのですべてはつながりというか……やっぱり一生懸命になってくれる人、一緒にがんばれる人と一緒にやりたいなという思いがあって、そういう点で島根と徳島の方たちは期待してくれているのでがんばりたいと思います。
──最後に皆さんに、CHAiroiPLIN流のシェイクスピアの楽しみ方について伺いたいです。
佐藤 「リア王」は、シェイクスピア作品の中でもタイトルやあらすじを知っている方は多いのではないかと思います。でもたとえお話を知らなくても、動きや展開の面白さを感じていただくだけでも良いと思いますし、ダンスという点でCHAiroiPLINは決して難しくはない、視覚的に楽しめるダンスなので、あまりいろいろなことを考えずに楽しんでいただけるのではないかと思います。またCHAiroiPLINは衣裳や舞台美術、映像もこだわりがあって、特に映像は青山健一さんという、毎回CHAiroiPLINが一緒にやっている方が手がけられるのですが、ダンスと合わさったときに面白いのはもちろんですけれど、映像だけ観ても非常に面白いものになっているので、ぜひさまざまな楽しみ方をしてもらえたらと思います。そしてお話の核には“家族の愛”がありますから、お子さんから大人の方までいろいろな世代の方に楽しんでいただけると思いますし、ぜひご自分の家族のことも考えてもらえたらと思います。
伊藤 CHAiroiPLINのスタイルって、“解体していく”ということだと思うんです。今回も「リア王」を解体して、さらに調理して、新しい料理にするというか。それが美味しいのかどうかはまだわからないし、ひょっとしたらすごい味がするものになるかもしれないけれど、でもシェイクスピアという素材を、これでもか!という感じで調理して上演するカンパニーなので、ぜひ味わっていただきたいなと思います。
スズキ 今回は、ちょっとお腹を空かせて観に来てほしいなと思っています。食べ物の話が出てくるので、自分の思い出の味をきっと思い出すんじゃないかなと思いますし、上演時間が約1時間半なので、お芝居を観てからご飯を食べたり、飲みに行ったり、お茶をしたり、をセットで考えてもらえたらすごくうれしいですね。例えば富士山の頂上で食べるおにぎりが美味しいように、パフォーマンスを観たことで食べ物や飲み物の味わいがいっそう増すような、そんな効果がある公演になるとうれしいなと思っています。
プロフィール
スズキ拓朗(スズキタクロウ)
ダンスカンパニー・CHAiroiPLIN(チャイロイプリン)主宰。ダンスカンパニー・コンドルズ所属。蜷川幸雄が学長を務める桐朋学園芸術短期大学に入学し、演劇・パントマイム・ダンスの基礎を学ぶ。NHK「みいつけた!」振付・出演。「刀剣乱舞」「文豪ストレイドックス」、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、花園神社野外劇、日生劇場、博多座公演など多数振付。紅白歌合戦、FNS歌謡祭出演ほか、フィリップ・ドゥクフレ作品などに客演。これまでに、令和元年度文化庁芸術祭新人賞受賞、横浜ダンスコレクションEX奨励賞、トヨタコレオグラフィーアワード ファイナリスト、第46回舞踊批評家協会新人賞、若手演出家コンクール2013最優秀賞など受賞多数。2024年に上演した、おどるシェイクスピア「PLAY!!!!!~夏の夜の夢~」では、第75回芸術選奨 舞踊部門 文部科学大臣新人賞を受賞。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師、公益財団法人セゾン文化財団シニア・フェロー。平成27年度東アジア文化交流使。
スズキ 拓朗 (@suzukituolang) | Instagram
CHAiroiPLIN -dance company- official website
CHAiroiPLIN チャイロイプリン (@CHAiroiPLIN) | X
佐藤誓(サトウチカウ)
俳優。1988年から2000年まで花組芝居に参加。その後、蜷川幸雄、平田オリザ、ケラリーノ・サンドロヴィッチらさまざまな演出家の舞台に出演。2025年6月に山西惇との演劇ユニット・らんぶるを立ち上げ第1回公演を行なった。11月から来年1月にかけて二兎社「狩場の悲劇」に出演予定。
伊藤キム(イトウキム)
振付家、ダンサー。1987年、舞踏家・古川あんずに師事。1995年に伊藤キム+輝く未来を結成。フランス・バニョレ国際振付賞、第一回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞、横浜文化賞奨励賞を受賞。2005年に一旦活動を休止。その後、幼稚園児から大学生までを対象にしたワークショップ、おやじが踊って給仕する「おやじカフェ」のプロデュースなどを手がける。2015年、伊藤キム&GEROを結成。