映画「キャッツ」安倍寧×堀内元|舞台「キャッツ」の息遣いが、映画ならではのアプローチで立ち現れる

名曲に呼応する、歌い継がれるべきニューソング

映画「キャッツ」より、ジェニファー・ハドソン演じるグリザベラ。

──彼女は今回、作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーと挿入歌「Beautiful Ghosts」を書き下ろしました。

堀内 素敵な曲だと思います。エンドクレジットでは自分で歌ってもいて。

安倍 あの曲は三重丸!

堀内 ははは(笑)。

安倍 もともと「キャッツ」には、“ジェリクルキャッツ”村で疎外されていたグリザベラの持ち歌「Memory」という代表曲があった。そこに外部から流れ込んできたヴィクトリアの持ち歌「Beautiful Ghosts」が加わった。この2曲が見事にエコーし合っている。これは映画版の大きな見どころの1つだと思う。「Beautiful Ghosts」も今後いろいろな人に歌われ、スタンダードナンバーになっていくんじゃないかな。

安倍寧

堀内 とにかく「キャッツ」は曲が良いですよね。それがしっかりと今の時代を生きる人たちに歌い継がれているっていうところが素晴らしい。

安倍 メロディ優先の曲もあればリズミカルなものもあって、色とりどりの楽曲でとにかく楽しいよね。ロイド=ウェバーって天才だなと思う。彼の音楽なくして、あのミュージカル世界は成り立たないでしょう。

堀内 この映画はこの先、DVDになったり、ケーブルで観られるようになったりするわけでしょう? 「キャッツ」という傑作を世に遺していく意味で今回の映画化は、すごく大切なプロセスの1つだと思います。

異なるものの美しさがある「キャッツ」

──最後に、長年多くの人に愛され続ける「キャッツ」というミュージカルの魅力をどう捉えているか、教えてください。

堀内元

堀内 僕が出演していた当時、踊りの際に脚をどれだけ高く上げるだとか、どれだけ速くたくさん回れるだとか、そういうのは二の次で、とにかく猫らしさを追求していました。その過程で即興の演習があって。2人組やグループで、与えられたテーマに従って猫らしく動くんです。まあ、それってロンドン版に限っての話なんですが。結局その練習がキャストをひとつにまとめてくれたんです。キャストには僕のようなバレエベースの人をはじめ、コンテンポラリー・ダンサー、シェイクスピア俳優、オペラ歌手などさまざまなバックグラウンド、かつ人種の異なる面々がいました。それらがオープニングとエンディングでは一緒に歌い、踊るんです。お客さんに訴えかけるあのときのエネルギーが大好きでした。昨今、ミュージカル界では人種問題に配慮したキャスティングがなされ、「その時代、その場所にアフリカンの人はいなかったのでは?」と不自然に思うプロダクションもある。でも「キャッツ」の場合は最初からそれがない。人種や性別を問わず、どの役を誰がやってもいいんです。

安倍 もともとあの村の中にはいろいろな猫がいるっていうね、1種類じゃないんだっていうのがテーマでもあるから。

堀内 ええ。そのテーマがちゃんと映画にも受け継がれていて、ますます「キャッツ」がいとおしく思えました。

安倍 僕は「キャッツ」というのは、最終的には人間の物語だと思っている。いろいろな個性を持った人間が、それぞれの個性を競い合い、社会を作っている。その姿を猫というフィルターを通すことによって鮮明に浮かび上がらせているんです。猫の物語であると同時に我々人間の物語だから、何度観たって飽きることがない。そういう意味では、人間がこの地球で生き続ける限り、「キャッツ」も魅力的な作品として生き残っていくと思います。

鑑賞後にお楽しみいただきたい小噺

堀内 ちなみに、最後の部分では、舞台版では描き切れていない「“ジェリクルキャッツ”とは何なのか?」という問いの答えをオールドデュトロノミーが明かしてくれているんですよね。もともと「jellicle」は原作者T・S・エリオットが作り出した言葉で。彼の幼いめいっ子が猫を見るたびに「dear little cat(親愛なるちっちゃな猫)」と言っていたのが、「d」を「ジ」と発音する英語のなまりで「jellicle cat」と聞こえたことから来ているんです。オールドデュトロノミーがヴィクトリアを部落に招き入れる際に言う、「Now, You’re a Jellicle Cat(これであなたもジェリクルキャットよ)」というセリフには、「我々はただのかわいい猫。そんなにえらいもんじゃない。誰だってこの一族になれるんだ」というメッセージが込められているんですよ。以前からずっと、舞台上で「jellicle」についてちゃんと説明すればいいのにって思っていたから、映画館では思わず、ニコニコ笑っちゃいました。

左から堀内元、安倍寧。