何をリアルと捉えるか
──成井さんは40年、鍛治本さんと林さんは20年近くキャラメルボックスの劇団員として活動されています。劇団で演劇を作り続ける中で、“変わらない”ところ、また“変わった”と感じる点はありますか?
成井 “何をリアルと捉えるか”という価値観が大きく変化しましたね。今考えると、1980年代は舞台上でどれだけ遊べるか、いわゆる遊戯性を重要視していた気がします。面白いことをしたい、お客さんを笑わせたいという気持ちももちろんあるけれど、若さゆえにじっくりとドラマを描く技量がなかったから、“笑い”に走るしかなかったのではないかなとも思っていて。特にこの20年ぐらいの間に、より一層現実的な題材を扱うようになり、自分自身や役者の技術も上がって、人間ドラマをしっかりと表現できるようになってきた。劇団の旗揚げから40年経った今、物語が要求するリアルをちゃんと演じてみせることが大事になってきたんじゃないかと思います。自分も変わるし、時代も変わる。それに伴って、リアルの捉え方も変わってきた。でも、ずっと変わらずに「面白いものを作りたい!」という思いだけは持ち続けています。それだけはこれから先もずっと変わらないと思います。
鍛治本 変わらないのは、新人からベテランまで誰も手を抜かず、全力でやり遂げるところ。高校野球のように、「ああ、これはアウトかな……」というところでもヘッドスライディングをするような(笑)。このスタイルはやっぱりキャラメルボックスの魅力の一つですし、自分自身もこれからも変わらずに全力で挑み続けたいなと思います。
林 キャラメルボックスの稽古場は失敗してもいいところ。それがずっと変わらないところなんじゃないかなと思います。やり残したことがないように、とにかく全力でやる。夏の記念公演①が終わったあとに、高校時代の演劇部の仲間と集まったんですけど、仲間たちから「自分たちが高校生の頃に観ていたキャラメルボックスから、良い意味でずっと変わらない。キャラメルボックスの作品でしか受け取れない感情がある」と言ってもらって、劇団員である自分自身、新たな発見がありました。
鍛治本 あっ! 変わったところもありました! 若手のお芝居のクオリティが高いこと。自分が新人だったときのことを考えると、今の若手は本当に達者です。
林 そうですね! みんな上手だし、すごく堂々としてる。記念公演①のとき、若手の子たちと一緒に舞台袖でスタンバイしていたんですけど、若い子たちはみんな余裕なんですよ。私はガチガチに緊張してたのに!(笑)
成井・鍛治本 ははは!
40年続いた理由は…
──記念公演①②の上演が決定した際、成井さんは「創立時23歳だった私・成井豊は現在63歳。普通なら定年退職の歳ですが、まだまだやりたいことがいっぱいある」とおっしゃっていました。観客の方々はきっと、50周年、60周年と、これからもキャラメルボックスの作品を観続けていきたいと考えているのではないかと思います。
成井 私は今64歳ですが、確実にゴールが近付いていると思うんです。オリジナル脚本を今まで69本書いてきて、原作ものを含めると110本書いているんですが、この本数は作家として決して多くはないと思うんですよ。1年に1本のペースで書くのは無理なので、あと10本新作を書くのは難しいでしょうね。でも、記念公演①に向けて「ナナメウシロのカムパネルラ」を書いてみたら、69本の中で一番書くのが楽だったんです! 生みの苦しみがないわけではないんだけど、昔に比べるとかなりスムーズに書けて、これは年の功ですね。70本目はさらに楽に書けるんじゃないかな!(笑)
鍛治本 個人的に俳優というのは、オファーをいただいて、役をもらってからしか動き出せない役回りだと思っているので、自分がいつ俳優でなくなるかは本当にわからないと常々思っていて。でも、自分が俳優ではなくなっても、自分が舞台をやらなくなっても、僕はずっとキャラメルボックスの劇団員であることは辞めないだろうなと勝手に思っているんです。“家族”と言うとちょっと言いすぎかもしれないんですが、キャラメルボックスは“実家”みたいなものですかね。
林 鍛治本さんがおっしゃったこと、すごくよくわかります。キャラメルボックスってすごく特別な存在なんですよね。一度活動を休止して、2021年に復活公演をやってから、公演回数が減って、劇団員のみんなと一緒にいる時間は少なくなってしまいましたが、それまでは劇団員と共に過ごす時間が本当に長かった。家族と離れて奈良から上京して、普段は1人の生活だけど、稽古場に行けばみんながいる。ある意味で“家族”みたいな存在だなと思っています。これからの目標としては、若い劇団員の子たちと一緒に何か新しいものを作っていきたいですね。同期入団の原田樹里、森めぐみと一緒にねこはっしゃ。というユニットをやっているんですが、最近活動できていなかったので、ねこはっしゃ。の公演もやりたいですし、若い子たちともユニットをやってみたい! フットワーク軽く、自分からいろいろなところに出向いてお芝居を続けられたら良いなと思います。
──“家族”“実家”……素敵な関係性ですね。成井さんにとってキャラメルボックスはどんな場所ですか?
成井 今、キャラメルボックスにいる約40人の劇団員は、キャラメルボックスという劇団、キャラメルボックスが作る芝居が好きなんですよ。プロデュース公演などで魅力的な俳優さんたちとたくさん出会ってきましたが、彼らにとってはキャラメルボックスが一番ではない。でも、キャラメルボックスの劇団員にとってはキャラメルボックスが一番なんです。その点において、劇団員は圧倒的に信頼できます。とにかく、芝居は一生懸命やらなきゃダメ! キャラメルボックスの劇団員はそれをわかっている。手を抜こうと思えばいくらでも手を抜けるけど、それをやったらキャラメルボックスの芝居ではなくなるということを、全員わかっているんだよね。しかもお互いに、「この人たちは手を抜くことをしない、全力で芝居をする」ということを知っているから、信頼し合って作品を作ることができる。家族は家族でもちろん大事な存在なんだけど、劇団員は家族以上に信頼している部分があるかもしれない。40年劇団を続けてこられた理由はこれだと思うな……って今考えたんだけど、どう?(笑)
鍛治本・林 そう思います!!
成井 ははは! 長年、キャラメルボックスの芝居を観続けてくださっているお客さんにも劇団員の気持ちがしっかりと伝わっているんじゃないかな。「この人たちはベストを尽くさずにいられないやつらなんだ!」って。これからもずっと、芝居を全力でがんばらずにはいられない僕たちであり続けられたらと思います。
プロフィール
成井豊(ナルイユタカ)
1961年、埼玉県生まれ。劇作家・演出家、成井硝子店三代目店主。早稲田大学第一文学部卒業後、高校教師を経て、1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立。劇団では、脚本・演出を担当。オリジナル作品のほか、北村薫、東野圭吾、伊坂幸太郎、辻村深月、筒井康隆といった作家の小説の舞台化を手がけてきた。代表作に「銀河旋律」「広くてすてきな宇宙じゃないか」「また逢おうと竜馬は言った」「サンタクロースが歌ってくれた」など。2019年、劇団の活動休止後は、同年に立ち上げた演劇団体・成井硝子店での活動や、梅棒とのコラボレート公演など、外部公演での脚本・演出も行っている。
成井 豊|株式会社ナッポスユナイテッド - NAPPOS UNITED Co.,Ltd.
鍛治本大樹(カジモトダイキ)
1983年、宮崎県生まれ。俳優。2007年に演劇集団キャラメルボックスに入団。劇団公演のほか、ほさかよう、瀬戸山美咲などの作品にも出演している。
林貴子(ハヤシタカコ)
1982年、奈良県生まれ。俳優。2009年、演劇集団キャラメルボックスに入団。劇団公演に出演する傍ら、同期入団の原田樹里、森めぐみと共に立ち上げたユニット・ねこはっしゃ。のメンバーとしても活動している。
林 貴子 - 演劇集団キャラメルボックス[CARAMELBOX]公式Webサイト