この架空の島は日本の縮図?豊原江理佳×土居志央梨×増子倭文江が語る、俳優7人で立ち上げる「楽園」

「楽園」が6月に新国立劇場 小劇場で上演される。舞台は、日本のある架空の島。島には古くから続く神事があり、祭祀の日になると、島で生まれ育った人、島に出戻った人、他所から住み着いた人たちが拝所に集うことになっていて……。

リアルな会話と展開の妙に定評があり、舞台や映画、小説と活動の幅を広げている山田佳奈と、“人間”に迫った演出で、新劇からミュージカルまで多彩な作品を手がける眞鍋卓嗣が、新国立劇場のシリーズ【未来につなぐもの】で初タッグを組む。演じるのは、登場人物さながらに、年齢や活動のフィールドが異なる7人の俳優たち。本特集では、“若い子”役の豊原江理佳、“東京の人”役の土居志央梨、“つかささま”役の増子倭文江の3人に、身体を通すことで見えてきた本作の面白さや、稽古場での活発なやり取りについて語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 藤田亜弓

架空の離島。でも日本の縮図のような…

──本作は、山田佳奈さんが以前、実際に沖縄のある離島を取材した体験をモチーフに描かれた新作です。台本を読まれたときの第一印象は?

増子倭文江 山田さんが取材された島は、本当に楽園のような美しい島だったんだろうなと思いました。でもそこでは、日本の縮図のようなことがたくさん起こっているわけですが。また会話が面白いですね。親子のやり取りや、女性同士の嫌味の言い合いとか(笑)、エグさも含めて面白いなと。あとジャッジをしない台本だなと思ったんですよね。“どっち寄り”にも書いていないっていうか、どれが正しい正しくないということもなく、そのままに書かれている脚本だなと。そういう投げかけが、お客さんにはどう伝わるのかなっていうのはまだ模索しているところですね。

左から土居志央梨、増子倭文江、豊原江理佳。

左から土居志央梨、増子倭文江、豊原江理佳。

豊原江理佳 閉鎖的な村の中で起こる出来事が描かれているなと感じました。セリフにも「前時代的」という表現がありますが、村ならではのエピソードだなと思う部分もありますし、でもこの島だけじゃなく、今の日本が抱えている課題がいろいろ描かれていて、今の日本がテーマなのかなって。

土居志央梨 明確な結末があるという感じではなく、わかりやすい感じではないんだけれど、“何かが変わりそう”とか“何かが動きそう”というような予感を感じさせる物語だなと。作品を観た方に面白いと思っていただくには、この7人の女性同士ですごく濃密な時間を作り出していかないといけないんだろうな……「がんばろう!」と思いました。

全員 (笑)。

──舞台に現れる登場人物は7人だけ。増子さんが演じるのは村の祭祀を取り仕切る神職者の“司さま”です。土居さんは島の祭祀を取材するため東京からやってきたテレビ番組制作会社のADである“東京の人”、豊原さんは都市部から島に遊びに来てダイビングショップの嫁になった“若い子”を演じます。

増子 先程の話に続けて言えば、司さまはジャッジをしない人だと思います。生まれながらにしてそういう仕事を代々続けていくことが決まっていて抗えないし、それを受け止めて生きるという覚悟を持った人。その一方で、もう誰も神を恐れるような時代でもなくなってきていて……もしかしたらノロ(編集注:琉球神道における女性の祭司)さんのような存在がベースにあるのかもしれませんが、ノロさんも今や数人しかいらっしゃらないと聞きますし、この芝居でも、司さまと言われつつも軽く見られているような感じのシーンがあったりします(笑)。司さまとしては、「それでもなんとかこの神事を続けていかなきゃ」というわけでもなく、やはり流れに乗っていくというか、そのままを受け入れて自分の運命を生きていく人なんじゃないかなと思いますね。

増子倭文江

増子倭文江

土居 私の役は、言ってみれば司さまと真逆にいるような、自信がまったくなくて、覚悟が決まっていない人なんじゃないかなと思います。(少しほかの表現を考えてから、改めて)……とにかく、自信がないんだろうなって(笑)。かわいそうになるくらいいろいろな人に翻弄されて、たくさんつらい目に遭って……私もここまで翻弄される役は初めてで、演じるのは楽しいです。

増子  “東京の人”がみんなの間で、ウロウロしているのが面白い(笑)。でもガッツはあるんだよね。

土居 そうですね、1人で島へ取材に来ているし、がんばってはいるんだけど、とにかく“がんばる”ことに精一杯で自分を見失いかけているというか。がんばりたいと思ってもがくんだけどもがき方もわからないから、一生懸命泳いでるのに全然前に進まない感じがあって、空回ってばかりで。でもそこが何だか愛おしい人だなと思います。

土居志央梨

土居志央梨

──豊原さん演じる“若い子”は、冒頭すぐには姿を現さず、村の人たちが彼女についてさまざまに語ったあとに姿を現します。

豊原 “若い子”は、自分の意見がちゃんとある人ですが、同時にすごく不器用な人だと思いますね。都会から離島に来て自分と血のつながらない子を育てたり、友達にもあまり会えない環境の中で暮らしているのはやっぱり苦労があると思うし、自分から積極的に環境になじんだりするような人ではないところがあるんじゃないかなと。最初は「彼女は、なんで周囲の人にこんなこと言っちゃうんだろう?」と思っていたんですけど、稽古が進む中で、それは彼女が自分自身を守る方法なのかもしれないなって感じる日もあるし、また別の日は「いやいや、そうじゃないかも……」と感じることもあるし。毎日の稽古の中でどんどん印象が変わっています。ただ一貫して感じるのは、彼女の優しさというか、人生に対して適当じゃなく、誠実に生きているというところですね。

演じることで見えてきた登場人物たちの関係性

──登場人物7人の中で見ると、島のコミュニティにガッツリと関わるほかの4人に比べて、皆さんが演じられる“若い子”“東京の人”“司さま”は、島の現実を少し客観的に見ているという点で共通点があるのかなと思います。

豊原 “おばさん”は、すごく揉め事を起こしたくない、保守的な人だなって感じがしますね。悪い人じゃないんだけど、例えば“村長の娘”が“区長の嫁”に嫌がらせをしていても、波風立てないことを一番優先するみたいなところがあるし、自分の“娘”に対しても「子供がいないと云々」って話をしたりとか、ちょっと自分の地元のおばさんのイヤな感じを思い出しちゃうなって(笑)。

増子 本当にいますよね(笑)、こういう事なかれ主義な人。

豊原 そうですね。明らかに中は腐ってるのに、それがバレるのを嫌がる、みたいな。そういう意味で、西尾まりさん演じる“娘”はすごく苦しいでしょうね。親子だからこそ「親にだけはわかってほしい」と思うところもあるだろうに、親は悪気なく発言するので、すごく傷つくんじゃないかなって、2人の親子関係を外から見ていると感じます。

豊原江理佳

豊原江理佳

土居 “東京の人”にとっては、村の人たちの様子はとにかく何もかもがびっくりだと思うんですけど(笑)、実際に影響を受けるのはこのお二人、“司さま”と“若い子”なんじゃないかな。逆に言えば、村の人たちはみんな人間らしいところがあり、弱いところもあるからすぐ共感できる。でもこの2人は達観した視点を持っている人たちなので、だからこそ2人の発言がグサッとくる感じがあると思うんですよね。

増子 司さまは、ある意味村そのものという存在であるにもかかわらず、おそらく誰ともきちんと話したことがない、関わったことがない人だと思うんですね。村の方達が生き生きのびのびと、愚かしさもたくましさもかわいらしさもさらけ出して、めちゃくちゃ言いながら楽しんでいる様を司さまは見守っているというか。そこに孤独を感じます。

──3人が物語の後半に向かってどのように絡んでいくのか楽しみです。また7人の登場人物は、立場もさまざまですが、年齢的にも二十代から七十代と幅が広い女性たちです。

土居 “若い子”は、改革者のイメージだなって、江理佳ちゃんが演じているのを見て感じたんですよね。若いけど、ちゃんと意思を持って選んで行動している人。だからこそ“東京の人”はショックを受けるんじゃないかな。自分より若いのに、こんなに覚悟を決めてるんだ!って。

豊原 確かに“若い子”は能動的な人というか、妥協してこの島にいる人ではないんだろうなと思いますね。島のやり方に「もっとこうしたら良いのに」って思ってはいるけど、血がつながらない子と家族になろうとしていたり、祭祀も手伝おうとしていたり……。

土居 もしかして若い子って……ゆくゆくは村長とかになる人なんじゃない?

全員 ああ……!(笑)

増子 司さま的にはね、“若い子”と“東京の人”にはちょっとした希望を感じるんですよ、最後それがどうなっていくのかはまだわからないけど……。

左から土居志央梨、増子倭文江、豊原江理佳。

左から土居志央梨、増子倭文江、豊原江理佳。

豊原 “若い子”も“司さま”に感じるものがあって、それで変わっていくんだと思います。これは稽古の中で“司さま”の背中を見ているときに感じたことなんですが、“若い子”は現代っ子らしくすぐ効率とかって考えてしまいがちなんですけど、「そうじゃないところにある大切さは何か」ってことを“司さま”から感じて変わっていくんじゃないかなって。「効率的なことばかりじゃなく、人が自然と共に生きていくこととは……」ということを、“司さま”を通して知っていくんじゃないかなと。“司さま”の後ろ姿にすごく神聖なもの、信じられるものを感じたんです。

土居 私は増子さんと一対一でお芝居するシーンがあるんですけど、そこですごく響くセリフがあって。“司さま”は生まれたときからある意味選択肢がなく、この道で生きるしかないという状況で生きてきた人で、でも“東京の人”はどう生きていったら良いかわからなくてもがいている。そんな“東京の人”に“司さま”が「選び抜く能力が大事だ」と言うんですね。それを聞くと、私にはたくさん選択肢があるんだと感じられるんです。1つの道を追求してきた“司さま”の孤高のカッコよさと、たくさんの選択肢から自分で道を選んで泥臭く生きている私たちと……その言葉はきっと私だけじゃなく、いろいろな人に響く言葉なんじゃないかと思います。私たちは自分の生き方を選べるんだ、と勇気がもらえる言葉だなと。