時代の変遷の中で…変化していく神事の意味合い
──またこの物語では、表では神事が進行し、その陰でさまざまな村人のやり取りが繰り広げられます。神聖であるはずの古くから伝わる神事と、人々の思惑が渦巻く裏のコントラストが面白そうだなと感じたのですが、この村の人たちにとって、神事は一体どんな存在なのでしょう?
増子 それは、登場人物それぞれによって違うと思いますが……“司さま”はないがしろにされてますね。
全員 あははは!
増子 いわゆる祭りよりはもっと規模としても小さいし、泥臭いというか。水とか山とか身近で自然なものに祈りを捧げるものという感じなんじゃないでしょうか?
土居 ここでの神事は、お祭りよりもさらに日常過ぎるのかもしれないですね。山田さんが今作のモチーフになった島を取材されたときの映像を見せてもらったのですが、それがすごく面白かったんです。すごく神聖なことがまさに日常的に行われているという印象で、でも儀式という感じではなく、親戚の集まりのような感じ。みんなが拝所にいろいろ持ち寄って、子供たちも入ってきたり出て行ったり……。
豊原 すごくラフなんですよね。
増子 「ちょっとあんた踊ってよ」って言ったり。
土居 そう(笑)。まだ稽古で模索している段階ではありますが、今作の神事も、そういった日常に溶け込んだものなんじゃないかなと思います。
──稽古が始まって、作品に対する印象や稽古の様子が変わってきたところはありますか?
増子 すごく風通しのいい現場だと思います。みんなの年齢はいろいろですが、でもあまり年齢的なギャップを感じずに、フラットに取り組めているんじゃないかな。それぞれがきちんと自分の意見を言いますし、「ここがわからない」と誰かが言うと「こうしたらいいんじゃないか」と意見を出し合って。そしてそれを丁寧に受け止めてくださる眞鍋さん、という状態が出来上がってきたと思います。
土居 そうですね。新作だし、みんなで協力しないと立ち上がっていかないところはありますが、先輩たちが良い雰囲気を作ってくださっているから私たちも意見が言いやすし、眞鍋さんが本当に穏やかな方なので……何を言ってもちゃんと1回、受け入れてくださるんです。そのうえで「じゃあこうしてみましょう」と稽古を進めてくれるので、クリエイティブな現場だなと思います。今は、読み合わせでわからなかったことが立ち稽古を通して見えてきている感じがあります。
豊原 私はストレートプレイの経験があまりなく、戯曲を読んでわからない部分があったので、稽古に入った最初のうちは、実は怖くてどうしたら良いんだろうと思っていたんです。でも、立ち稽古が始まったら皆さんが「とにかくなんかやってみよう!」という気迫に満ちていて、「できるとかできないじゃなくて、とにかくやるんだ!」というポジティブさのあるカンパニーなので(笑)、私も小さなことで悩んでいてはダメだな、やってみてわからなければみんなに聞けばいいんだ!と思って、皆さんのお芝居する姿を見て奮起しました。今はすごくのびのびとやらせていただいてます(笑)。
眞鍋さんは、まず受け止めてくれる演出家
──今お話に挙がりました、眞鍋さんの印象についてもお伺いします。あまり口数が多い方ではないと聞いたことがあるのですが、お稽古ではどんな印象ですか?
増子 確かに口数は多い方ではないですね。いろいろな演出家の方がいらっしゃいますが、群を抜いて穏やかな方だと思います。ものすごく私たちの話を聞いてくださいますし……ただ、キャストの1人、“村長の娘”役の清水直子さんが役についていろいろと話していたことがあって、清水さんは俳優座の方なので眞鍋さんと付き合いが長いと思うのですが、清水さんが「こうでこうで、こう思うんだけど……」と話しているのを、眞鍋さんはじっと「はい、はい、はい」と静かに聞いていらして、最後に「直子さん、もう1回言ってもらって良いですか」って言ったときにはみんなで大爆笑しましたね。
全員 あははは!
増子 あれだけ聞いてたのに?ってみんなで大笑いしてしまって、直子ちゃんも「もう言えないよー」って。でも途中で話を遮ったりしない、辛抱強い方だなと思いました。
土居 優しすぎて「本当はもっと思っていらっしゃることがあるのでは?」と心配になっちゃうくらいなんです(笑)。あんなに器の広い方は初めてで、びっくりしました。ヘンテコな提案をしてみても「やってみましょう」と言ってくれて、やってみたら案外面白かったりして(笑)。可能性を広げてくれる方だなと思います。
豊原 私も「こんなに言っても良いのだろうか」と思うくらい自分の話をしてしまうんですが、いつも全部聞いてくださるので、ついつい思っていることを全部お話ししてしまって(笑)。でも必ず「言ってることはわかります」と肯定してくれますよね。
増子 必ず言ってくれますね! 直子ちゃんのときだけちょっとわからなかったみたいだけど。
全員 あははは!
──作品自体は、決してハッピーな人ばかりが出てくるわけではありませんが、本作が「楽園」と題されたことに山田さんの思いが織り込まれているように感じます。改めて「楽園」というタイトルにはどんなことをお感じになりますか?
土居 どうなんでしょうね……。私はまだもうちょっと稽古を深めてから自分がタイトルに何を感じるのかを、改めて考えたいです。
増子 全部をひっくるめて楽園、なんじゃないかなと思います。美しいだけじゃなくて、人の営みから生まれるさまざまなことを含めて「楽園」なんじゃないかなって。
豊原 私もまだ自分がどこに思いが行き着くのかわからないんですけど……でも「楽園だけどこんなに複雑な人間関係で」という皮肉だけで終わりたくないなって。複雑な人間関係の中でも何かを掴み取ったり、無くしたり、成長したりということを通じてお客さんに何かを見出してもらえるようにはしたいし、お客さんにはぜひ、他人事ではなく“自分事”として捉えてもらえたらなと思います。
プロフィール
豊原江理佳(トヨハラエリカ)
1996年、ドミニカ共和国生まれ。2008年にミュージカル「アニー」でデビュー後、ニューヨークにわたり研鑽を積む。近年の主な出演作に映画「キネマの神様」、テレビドラマ「ホームルーム」、舞台は「ピーター&ザ・スターキャッチャー」、ミュージカル「タイタニック」、ミュージカル「The Fantasticks」、ミュージカル「ザ・ビューティフルゲーム」など。6月9日公開の映画「リトル・マーメイド」吹替版でアリエル役を担当。また8月にせたがやこどもプロジェクト2023「メルセデスアイス MERCEDES ICE」に出演。
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土居志央梨(ドイシオリ)
1992年、福岡県生まれ。京都造形芸術大学大学在学中にオーディションを受け、映画「彌勒」でデビュー。その後、映画「赤い玉」「二人ノ世界」などに出演。主な出演作にNHK連続テレビ小説「おちょやん」、テレビドラマ「太陽の子」、NHK大河ドラマ「青天を衝け」など。舞台は木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」、KAATキッズ・プログラム2019「グレーテルとヘンゼル」、KUNIO15「グリークス」、「夜への長い旅路」「広島ジャンゴ2022」「アンナ・カレーニナ」など。
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増子倭文江(マスコシズエ)
1955年、栃木県生まれ。劇団青年座所属。これまでの主な出演作に映画「お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方」「家族はつらいよ2」、テレビドラマ「裕さんの女房」「その女ジルバ」など。舞台は「砂塵のニケ」「をんな善哉」など青年座公演のほか、こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」「闇に咲く花」、「奇跡の人」「母 MATKA」「ピグマリオン」「荒れ野」など。2015年 第22回・2020年第27回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。