舞台「奇子」 PR

舞台「奇子」|手塚治虫の“問題作”を舞台化、因果の物語に挑む2人の共犯関係

手塚治虫のマンガを原作とした舞台「奇子(あやこ)」が、7月14日のプレビュー公演にて開幕。原作に多大な影響を受けたと言う中屋敷法仁が上演台本・演出を手がけ、数奇な運命をたどる奇子役には舞台初挑戦となる駒井蓮が抜擢された。人間のダークサイドを徹底的に描き、問題作と呼ばれた“黒い”手塚作品の舞台化に2人はどう挑むのか? 稽古開始から2週間が経った6月下旬、対談を実施した。

取材・文 / 川口聡 撮影 / 川野結李歌

中屋敷法仁×駒井蓮 対談

奇子と一緒に呼吸できる人を探していた

──中屋敷さんは「奇子」の舞台化を長年熱望されていたそうですね。

中屋敷法仁 「奇子」は手塚治虫さんの作品の中でも、最高傑作だと思っています。ずっと舞台化したかった作品です。初めて触れたのは演劇を始めるよりずっと前、幼少の頃ですが、夢中になって読んでいました。「奇子」からは多大な影響を受けていて、自分の過去作でも血縁関係、一族の絆や離散の話、近親相姦、運命に争う人々が登場しています。僕の作品に出てくるおじさんは全員ずるい人だったりしますし(笑)。今回、舞台化するにあたっては、新しいことをやろうというより、自分の原点に立ち返る感覚が強いです。

左から中屋敷法仁、駒井蓮。

──中屋敷さんと駒井さんは今回初顔合わせですね。お互いの第一印象を教えてください。

駒井蓮 実は「奇子」のオーディションを受ける前、中屋敷さんのワークショップに参加させていただいたことがあったんです。

中屋敷 「世の中にはこんなヤツがいるんだ」って思ったでしょ?(笑)

駒井 そうですね(笑)。中屋敷さんは言葉選びや着眼点が独特で面白くて、今までご一緒したことがないタイプの演出家でした。

中屋敷 今の若い女優さんは自分を飾るのが上手い人が多いですが、駒井さんは驚くほど自然体だった。「がんばって演技しなきゃ!」という感じもあまりないし、かと言って演技をサボっているわけでもない。佇まいそのものが、信頼できる人だなと思いました。

駒井 とんでもないです。私は「上手に演じたい」というより、「作品の役に立ちたい」という思いが強くて。あるとき、上手く演じようとすることが作品にとってマイナスになることがあると気付いたんです。

──駒井さんが演じる奇子は物語の軸となる天外(てんげ)一族の体面を守るため22年間も地下牢に閉じ込められ、外の世界を知らないまま蠱惑的な女性に成長するという難しい役どころです。中屋敷さんはオーディションの中で、駒井さんのどんなところが奇子にふさわしいと思われたのでしょう?

中屋敷法仁

中屋敷 “蠱惑的”ということで言えば、オーディションには正直、駒井さんより美人な方やセクシーな方もいました(笑)。でも僕は、純粋に奇子と一緒に呼吸できる人を探していた。“奇子っぽい人”ではなく、奇子でいることを厭わない人。そういう意味で駒井さんは興味を持って“奇子”という人物を探ってくれそうだと、しっくりきたんです。

駒井 応募要項の役の条件にも“妖艶”とはっきり書いてありました。私は今年で19歳になりますが、今までは十代らしいまっすぐな役を演じることが多くて、奇子が持つ妖艶さは、これまでの私のイメージとはちょっと違うかもしれないですね。

中屋敷 自分で自分を妖艶だと思っていないところが、逆に他人から見たら妖艶に見えたりすることもあるだろうね。

駒井 なるほど。表面的には違うかもしれませんが、自分なりに奇子に通じる部分を探していけたらと思っています。5歳から27歳までずっと地下で暮らしているという設定は現実離れしていますが、奇子にとってはそれが当たり前の日常だと思うので、いかにリアルに表現できるかが勝負です。

綻びがあるところに人間らしさが芽生える

──相続争い、政治策謀、少女監禁や近親相姦といった衝撃的な描写が数多く登場する「奇子」は、手塚治虫の作品群の中でも、とりわけ“黒い”作品に位置付けられています。

駒井 少女監禁といった強いワードには、確かに興味を惹かれると思うんですが、最終的にはそういった部分じゃないところで物語の深さが伝わればいいなと思います。

中屋敷 “同じ穴のむじな”という言葉もありますが、「奇子」で描かれるのは、閉じられた“窖(あなぐら)”のような世界で憎しみ合い、愛し合う人間模様です。昭和という時代、青森という土地、血族というしがらみから、いつまでも逃れられない人たちが罪を重ねていく。それぞれにやむにやまれぬ事情があり、善人と悪人を簡単に決められないし、綻びがあるところに人間らしさが芽生えていたりする。手塚さんの人物描写には、人間という動物に対する深い考察と圧倒的な愛情を感じますね。

──「奇子」の物語の大半は青森県を舞台としていますが、お二人とも青森ご出身ですよね。作品に故郷を感じる部分はありますか?

左から中屋敷法仁、駒井蓮。

中屋敷 手塚さんご自身が青森生まれではないということもあり、原作も青森の原風景を描いているわけじゃないんですね。外から見た青森のイメージの結晶と言いますか、「奇子」を読むと「青森ってこう思われてたのか」と強く感じます。

駒井 すごくわかります。

中屋敷 僕自身、東京にいるときは、なぜか過剰に青森県民ぶっているところがあったりして。上京して15年以上ですが、いまだに「やっぱり雪国の人は暑さに弱いんだねー」とか言われますし。

駒井 “青森あるある”ですね(笑)。あと青森って「津軽海峡・冬景色」の世界をイメージされがちですよね。

中屋敷 「北へ帰る人の群れは誰も無口で」という歌詞が象徴的だよね。ヤクザ映画でも「姿を隠せ!」と言われて青森に身を隠したり(笑)。

駒井 あははは!

中屋敷 本州最北端だからか、陰惨なことが起こる物語の舞台にされやすいのかな。

駒井 青森には今でも農村文化が根強く残っていて、「奇子」の作中でも長男が絶対的に偉かったり、親戚付き合いが重要視されたりしています。

中屋敷 どこか堂々とできない県民性もあったりする。手塚さんは「奇子」を通じて、メインストリームを走ってない人たちの疎外感を描きたかったんじゃないかなと思います。

手塚治虫生誕90周年記念事業
PARCOプロデュース2019 舞台「奇子」
2019年7月14日(日)・15日(月・祝)
茨城県 水戸芸術館 ACM劇場 ※プレビュー公演
2019年7月19日(金)~28日(日)
東京都 紀伊國屋ホール
2019年8月3日(土)・4日(日)
大阪府 サンケイホールブリーゼ
あらすじ

青森で500年の歴史を誇る大地主・天外(てんげ)一族は、終戦後の農地改正法により衰退しつつあった。次男・仁朗が太平洋戦争から戻ると、家には父・作右衛門と兄嫁・すえの間に生まれた奇子という4歳の異母妹がいた。GHQのスパイとして暗躍する仁朗と一族の犯した罪が絡み合い、幼い奇子は地下牢に幽閉され、死んだことにされてしまう。それから約20年、外の世界から隔離されて育った奇子は、やがて性に対し奔放な美しい女性へと成長し、地上に解き放たれる。

スタッフ

原作:手塚治虫

上演台本・演出:中屋敷法仁

キャスト

天外仁朗(次男):五関晃一(A.B.C-Z)

天外伺朗(三男):三津谷亮

下田波奈夫(刑事):味方良介

奇子:駒井蓮

天外すえ(長男の妻):深谷由梨香

天外志子(長女):松本妃代

お涼:相原雪月花

山崎(親戚の医師):中村まこと

天外市朗(長男):梶原善

中屋敷法仁(ナカヤシキノリヒト)
1984年青森県出身。高校在学中に発表した「贋作マクベス」で第49回全国高等学校演劇大会 最優秀創作脚本賞を受賞。青山学院大学在学中に柿喰う客を旗揚げ、2006年に劇団化。旗揚げ以降、すべての作品の作・演出を手がける。また外部プロデュース作品も多数演出。劇団公演以外の主な演出作にパルコ・プロデュース「サクラパパオー」「露出狂」、「黒子のバスケ」シリーズ、Dステ「柔道少年」、青山円劇カウンシルファイナル「赤鬼」、GORCH BROTHERS PRESENTS「飛龍伝」、「文豪ストレイドッグス」シリーズがある。2019年9月には柿喰う客の新作「御披楽喜」の上演が控えている。
駒井蓮(コマイレン)
2000年青森県出身。2014年にポカリスエットのCMでデビュー後、雑誌「ニコラ」の専属モデルに抜擢され、2015年からはパナソニックオーディオのイメージキャラクターを務めている。2016年から女優業をスタートし、ドラマ「キャリア~掟破りの警察署長~」にレギュラー出演。「セーラー服と機関銃 -卒業-」で映画デビューを果たす。津田寛治とW主演を果たした2018年公開の映画「名前」で映画初主演。2019年には映画「町田くんの世界」、NHKよるドラ「腐女子、うっかりゲイに告る」ほかに出演している。