第18回 AAF戯曲賞 篠田千明×鳴海康平×羊屋白玉×三浦基×やなぎみわ|5人の審査員が挑む「戯曲とは何か?」

第17回 AAF戯曲賞 公開審査会はこうなっていた!

AAF戯曲賞の最終審査では例年、審査員が愛知県芸術劇場 小ホールに集まり、議論を重ねて受賞作を選び抜く公開審査会を行ってきた。この会では、どのような話し合いがされているのか? リニューアル後の過去3回の審査会の中で、最も長い約3時間15分におよんだ2017年の第17回最終審査会の模様をダイジェストでレポートする。

審査会スタート~42分
1作ずつ探っていく

第17回AAF戯曲賞では、全89作から5作が最終審査に残り、ここから大賞と特別賞が1作ずつ選出されることになる。まず議事・進行役の同劇場プロデューサー・山本麦子が、審査員の篠田千明、鳴海康平、羊屋白玉、三浦基を紹介。審査が始まると4人は静かに戯曲をめくり始める。「毎年どう審査してましたっけ?」と口火を切ったのは鳴海。山本は「そのときどきでしたね」と答え、1作品ずつ所感を話していくことに。

第17回AAF戯曲賞 最終審査会の様子。

1作目の吉野摩訶(原作:牧野大誓)「イソップ物語」は、原作者がすでに亡くなっており、その未発表作品を遺族が脚色した“史劇”。鳴海「史実に基づいた骨組みが作られているから説得力はあるが、書いてある言葉がその言葉以外の意味を持っていない」、三浦「よく書けているが、今これを上演するかな?という気は拭えない」、篠田「原作と脚色がいて、戯曲の書き手は誰なんだ?ってところは面白い。『作者とは誰か?』を考えさせられる」とさまざまな意見が飛び交う。

2作目は、文明が一度滅び、再興したはるか未来を描くカゲヤマ気象台の「シティⅢ」。三浦「文体を持っている作家。でも短い」、篠田「読めば読むほど面白いが、“そこ、もうちょっと書いて!”って箇所がどんどん出てくる」、羊屋「私も“もうちょっと書いて!”となった」と述べ、鳴海はこの作品の短さを「不要だと思う箇所を削いで、これだけはというところを残した結果、このボリュームになったんだと思う」と分析した。

3作目は、実際の上演時のアーカイブ的な写真や参考図版が数多く掲載された三野新の「人間と魚が浜」。三浦「写真や図版がいっぱいでユニークだし、コンセプト的には大歓迎。釣りという設定は面白いが、セリフは弱い」、篠田「最終審査にあたり、写真だけを見ることにした」、鳴海は「写真の側から演劇にクロスオーバーしてこようと思ったんだろうな。写真の平面性と演劇という空間芸術をどうにか接合して、写真の側から食い破ろうと試みている」と評し、三浦は「そもそも入射角が違う作品は、どのように評価すべきなんだろう?」と審査基準への問いを投げかけた。

4作目、セリフ中に“(笑)”の記号が多用された山内晶の「白痴をわらうか」に対しては、鳴海「よく笑うよね。冗長率が異常に高い。基本はおしゃべりで、たまにシチュエーションやコンディションの説明をするけど、すぐに笑って異化する」と分析。三浦「“(笑)”をここまで頻繁に入れてるってことはスラッシュというか、セリフを切る役割なんだろうな」、羊屋「2人の登場人物の背後に“何か”がいるような気がして、そこが魅力」と印象を述べる。

5作目は“「そばに居てほしい」と「近寄らないで」が同時に起こっている今”を描く山縣太一の「ホールドミーおよしお」。篠田「用紙1枚にワンシーンが書かれているのがいいな」、羊屋「書き方がなんとなく『枕草子』っぽい」、三浦「時間を意識してるところは確かにある。読みやすいっていうことがポジティブなことかはわからないけど」という意見が。審査員が一通り話し終わると、篠田は「よーし、じゃあコーヒーください!」とスタッフに注文。鳴海は「そんなシステムあったっけ?」と微笑んだ。

42分~1時間
「今年はみんな歯切れが悪い」

左から鳴海康平、篠田千明。

篠田が、ほかの3人に「何推しですか?」と単刀直入に尋ねると、それぞれが推したい作品や“なし”の作品を挙げていく。羊屋は「今回、どういう立場で読めばいいんだろう?という壁が初めて見えた」と審査の難しさに頭を悩ませる。篠田の「戯曲を読むこと=演出を考えること。どういう空間に立っているかが想像できないと読めない」という発言に対し、三浦は「俺は空間とか配置とか想像しないで、言葉だけ読んでる」と続ける。また羊屋が「すべての戯曲を同じ観点から読んでいない」と話すと、篠田は「私は今回、(読むときの観点を)そろえた。戯曲を読んでいるとき、“自分の中に生まれる時間”で判断しようと」と述べ、戯曲の読み方や観点に審査員それぞれの個性が感じられた。場に沈黙が生まれると、羊屋は「今年はみんな歯切れが悪いな(笑)」とつぶやく。篠田は「読んでいる時間の中で、自分の中に何かが生まれた作品は『シティIII』『ホールドミーおよしお』『白痴をわらうか』かな」と3作に絞る。これに対して三浦「その点は同意します」、羊屋「同意します」と篠田に賛同した。

1時間~1時間13分
「もっとタガが外れてていい」

左から羊屋白玉、三浦基。

三浦が「来年から上演台本禁止にしよう」と発言すると、羊屋は「でしょ?」、篠田は「え、えー!(笑)」と異なる反応。三浦「上演した作品は、どうしてもアーカイブ化しちゃう。もうちょっとはみ出したもののほうがいいのに」、鳴海「最終的にある形を現実化(上演)して、それをテキストに戻した上演台本は、確かにパッケージになっていて、それをはみ出さない印象はある。第1稿みたいなものだったらいい気がする」、羊屋「上演台本は、最初の怨念みたいなものがクリーンになっているんじゃない?」、三浦「上演台本を審査してると、“日本の演劇シーンの縮図”を見てる感じがある。戯曲だからもっと自由でいいはずで、タガが外れてていいじゃん!って思う。これから応募しようという人は、新作書き下ろしをやってみようという気概のもとに、少々型破りでも、整ってなくてもいいんじゃないかという意味で、上演台本じゃないもののほうが可能性を感じる」と語った。

1時間13分~1時間42分
各自、推し作品を決める

審査中、落とされそうになったある作品に対し「いや、僕はありだね」と鳴海が異議を唱えると、篠田が「来いよ、来いよ、康平!(笑)」と煽る場面も。審査員たちは「ある物語の系譜におけるバリエーションの発展系を評価すべきか、戯曲・ドラマというものの“もう1つの提案”を持ちかけるオルタナティブな作品を評価すべきか」「作者が“誰”と作ろうとしているのか?」「テキストを読んでいるときの体験について」「上演したら面白くなりそうな戯曲」といった多角的な切り口でディスカッションする。5人全員の推し作品が決まったところで「休憩しません?」と篠田が提案し、休憩がはさまれることに。

10分間の休憩

1時間52分~2時間10分
1回目の投票「シティⅢ」と「白痴をわらうか」で票が割れる

休憩中に審査員たちは、自分が推したい1位と2位の作品を選び、用紙に記入して投票する。開票が行われると、1位は「シティⅢ」に2票、「白痴をわらうか」に2票、2位には「人間と魚が浜」に2票、「シティⅢ」と「ホールドミーおよしお」に1票ずつ入る。

鳴海康平

1位で票が割れた「シティⅢ」と「白痴をわらうか」の2作品に論点が絞られると、三浦が「もうちょっとポジティブに語ろう」と提案し、推し作品のいいところをプレゼンする流れに。「シティⅢ」に1票投じた篠田は、自身がいいと思ったセリフを読み上げる。同じく「シティⅢ」に票を入れた鳴海は、作品に込められた寓意性について述べ、「書かれている内容と読者が完全にコミュニケーションを取れないところからスタートしているのが悪くない。わからないから読者が設計や世界観の色彩を決めざるを得ないことがたくさん出てくる。作者の中にはあるだろうと思われるが、それを言葉に起こして書いたところで、読者には伝わらないから書かない。だから短くなったという感じがする。それはある意味誠実」と評価した。

一方、「白痴をわらうか」を推す羊屋は「(登場人物の)2人は透けた会話をしていて、背後にあるもののほうが強度があるという構成にセンスを感じます」、三浦は「1位が『白痴をわらうか』で、2位を『シティⅢ』にしたんですが、『白痴をわらうか』はミニマムな局所で世界を語ろうとしているところがよくて、『シティⅢ』はちょっと俯瞰している。どちらもいいんですけど、『白痴をわらうか』は単語レベルで切り替えてくる感じがユニーク」と投票の理由を語った。

2時間10分~2時間22分
「2020年まで待たなきゃって気持ち」

三浦基

ここで三浦は応募作全体について「演劇ってもうちょっと破天荒なことができるんだけどなって思ってしまった。残酷なことや奇想天外なことも含めて、現実よりもできる」と指摘し、「そういう意味で期待値を込めて『白痴をわらうか』と『シティⅢ』に入れました」と付け加える。この意見に対しては、篠田「今の日本って(東京オリンピックが開催される)2020年まで待たなきゃ!みたいな気持ちってありますよね?」、三浦「全体の動きとしてね。今ちょっと停滞してる」、鳴海「5~10年ぐらい前は、『自分はなんでここにいて、あっち側にいないんだ?』という描き方の作品が多かった。今年特に感じたのは、自分は移動せず、場所はそのままで、『自分は変わるつもりはない。でも自分を助けてくれる存在が、なんでここにいないんだろう?』って描き方が多かった気がする」、羊屋「『シティⅢ』も救済の話ですよね」、鳴海「僕は『白痴をわらうか』のほうがその傾向が強いと思う」、羊屋「両作とも“手の届かない何か”を待ち望んでるところがあるね」と議論を深めていった。

2時間22分~2時間33分
「どんな演劇が観たい?」

篠田と鳴海が「シティⅢ」、羊屋と三浦が「白痴をわらうか」を推す形で2対2の膠着状態になると、三浦は「どんな演劇が観たい?」と話題を変える。「俺は、社会批判をバンバン言ってる演劇が観たい」と明かした三浦は、エジプト・カイロの実験演劇祭に参加した際に観劇した作品に触れ、「アメリカを批判する内容のプロパガンダ演劇だったんだけど、カーテンコールのときに観客が熱狂して舞台に上がって役者と抱擁し始めて、ゾッとしたの。『観客=誰?』という問題になったとき、観客が民衆たり得るなと。事実として演劇にはそういう力や怖さがあるんだと改めて思った。日本でもそれほどの社会性を帯びた演劇を観てみたい」とエピソードを語り、「日本にも震災とか孤立感という背景があると思いますが、社会の価値観が転覆するような危険な作品を読んでみたいし、観たい。劇作は1人でできるんだから、妄想豊かにバンバン変なこと書けばいいのに」と言葉に力を込める。これを受けた羊屋は「シティⅢ」と「白痴をわらうか」について、「大風呂敷を広げるより、まず壊れかけているものを繕わなきゃいけないって感じがする」、三浦「それは『シティⅢ』にすごく感じるね」、羊屋「『白痴をわらうか』も、“待つ少女”っていうか、故障しているものを繕っている」と印象を話した。

2時間33分~2時間53分
「胃が痛くなってきた……」

羊屋白玉

ここで三浦が「なんで『白痴をわらうか』は観たくないの?」とストレートに鳴海に問う。鳴海は「『外側の移動は望むけど、自分は動かない』という作品を、選ばないほうがいいんじゃないかと思ってしまう。上演されたら面白いかもしれないけど、笑うっていうことだけで異化して処理するのではなく、もう少し言葉やアクションで解決してほしかった」と回答。三浦は「停滞感というのには同意。『シティⅢ』に鞍替えしてもいいです」と申し出るが、「言葉のセンスがあるから、詩人としては『白痴をわらうか』に軍配が上がる」とやはり迷っている。羊屋は「胃が痛くなってきた……」と心情を吐露し、鳴海と三浦は頭を抱える。それぞれの好きなセリフを読み比べた末、篠田「音で聞いたら『白痴をわらうか』もいいかもしれない。上演してみたら面白いのは『白痴をわらうか』って気がしてきた」、三浦「物語を取るか、局所主義を取るかだよ」、鳴海「『白痴をわらうか』は書かれていることが作家とイコールではないにしても、1人しか出てこないっていうことが弱い。バランスが悪くてもたくさんの人間を描いた『シティⅢ』を選びたい」と主張を強めた。

2時間53分~3時間10分
ついに大賞・特別賞が決定!

3時間が経過したところで再び停滞ムードにが漂うと、進行役の山本から「AAF戯曲賞としては、受賞作を上演して戯曲を検証する狙いもある。上演が前提であることを切り口に討議してみてはいかがでしょうか?」と提案が。三浦が「演出家としての意見を言おう。どっちを上演したいですか?」と問いかけるも、再び意見が2対2に分かれ、全員からため息が漏れる。山本は「この2作品で票を取ってみますか?」と持ちかけ、“これが大賞だと思う”1作に投票することに。開票するも山本が「2対2に分かれてます……」と結果を伝えると、会場からは笑いが起こる。三浦が「俺、動いていい? 『シティⅢ』にします」と票を動かすと、羊屋は「許可します」と納得。審査開始から約3時間10分で「シティⅢ」が大賞、「白痴をわらうか」が特別賞に選出されると、審査員たちは、ようやく胸をなでおろし、客席からは拍手が起こった。AAF戯曲賞の審査会では、ノミネート作家が来場していた場合、その場で表彰式が行われる。第17回では山内晶に特別賞の表彰状が授与された。

なお第18回AAF戯曲賞の公開審査会は、19年1月6日の15:00から愛知県芸術劇場 小ホールにて開催。インターネットでの動画生中継も実施されるので、審査員と戯曲との真剣勝負をリアルタイムで体感してみては?