AAF戯曲賞 PR

第17回 AAF戯曲賞受賞記念公演「シティⅢ」演出・捩子ぴじんインタビュー|希望や未来に対する問い、ダルさと向き合う身体

「戯曲とは何か?」をテーマに、上演を前提とした戯曲を募る愛知県芸術劇場のAAF戯曲賞。審査員を務める演出家たちが応募作すべてに目を通し、審査会で議論を重ねて受賞作を選出している。2017年の第17回AAF戯曲賞で大賞を受賞したのはカゲヤマ気象台の「シティⅢ」。その受賞記念公演が10月26日から28日まで愛知・愛知県芸術劇場 小ホールで上演される。本作の演出を務めるのは、ダンサー・振付家の捩子ぴじんだ。今回、演劇作品の演出に初めて挑む捩子に企画参加への経緯、初演出にかける思いを聞いた。

取材・文 / 川口聡 撮影 / 前谷開

AAF戯曲賞とは?

第17回AAF戯曲賞公開審査会の様子。

第17回AAF戯曲賞
公開審査会の様子

2000年にスタートした、愛知県芸術劇場が主催する戯曲賞・AAF戯曲賞。大賞受賞作の上演を前提とし、リニューアルした第15回からは「戯曲とは何か?」をテーマに掲げている。第15回は松原俊太郎の「みちゆき」、第16回は額田大志の「それからの街」、第17回はカゲヤマ気象台の「シティⅢ」が大賞を受賞した。

審査員を務めるのは、第一線で活躍する、三十代から四十代の演出家たち。第18回は、篠田千明、第七劇場の鳴海康平、指輪ホテルの羊屋白玉、地点の三浦基、そしてやなぎみわが審査員に名を連ねている。なお第18回は10月上旬に一次審査の結果が発表され、応募総数109作品の中から14作が通過した。二次審査の通過作品は11月上旬に発表。大賞・特別賞を決定する最終の公開審査は、19年1月6日に実施される。

第18回AAF戯曲賞 審査員

篠田千明 ©Tada Hengsapkul

篠田千明

鳴海康平(第七劇場) ©松原豊

鳴海康平
(第七劇場)

羊屋白玉(指輪ホテル) ©Sakiko Nomura

羊屋白玉
(指輪ホテル)

三浦基(地点) ©Hisaki Matsumoto

三浦基
(地点)

やなぎみわ

やなぎみわ

門外漢にも「戯曲を書いてみようかな?」と思わせる何かがある

──捩子さんは今回の「シティⅢ」で演劇作品の演出に初めて挑まれますが、そもそもAAF戯曲賞をご存知だったんでしょうか?

捩子ぴじん

演出のお話をいただく前からAAF戯曲賞に注目していました。コンペの審査って普通はブラックボックスで、どういう話し合いがされているかわからないことが多いですが、AAF戯曲賞は審査内容をオープンにしていて、僕もインターネットで生中継されている審査会を見たことがあります。それぞれの演劇観を持つ審査員が真っ向から議論をぶつけ合って、多数決じゃないから、なかなか結論が出ないんですが、見ていて刺激的で面白かった。こんなに真摯に戯曲に向き合って審査してくれるなら、自分も応募してみたいと思い、“戯曲の書き方”の本を買ってギリシャ悲劇から読み直したりして(笑)……結局は書かなかったんですけど。「戯曲とは何か?」というテーマも、考えさせられる問いだなと思います。

──捩子さんが戯曲を書かれたらどんな内容になるのか、とても気になるところです。

いつか書くかもしれません(笑)。AAF戯曲賞には、門外漢にも「戯曲を書いてみようかな?」と思わせる何かがあるんですよね。それは劇作家ではなく、演出家が審査してるところが大きいような気がします。劇場としてはもうちょっと演劇の外にいる人たちから応募があるといいと思ってるんじゃないかな。そういう意味でも今回、僕に演出の仕事が来たのかなと。

──これまでダンサー・振付家として活動されてきた捩子さんですが、なぜ「シティⅢ」で初の演劇作品の演出を引き受けようと思われたのでしょう?

戯曲を読んだら面白かったので、やってみたいと思いました。戯曲の演出は初めてですが、戸惑いや違和感はなかったです。僕は肩書きはダンサーですが、演劇っぽい作品もこれまで作ってないわけではなかったので。

──捩子さんは岡田利規さんの「God Bless Baseball」、快快「アントン、猫、クリ」といった演劇作品への出演や、悪魔のしるしの危口統之さんとも関わられていましたよね。

捩子ぴじん

そうですね。もちろん岡田さんや快快、危口さんから影響は受けてます。僕はちょっとズルくて、ダンスも演劇もシーンが盛り上がっていたから興味を持ち始めたところがあって。大駱駝艦を辞めて1人でやり始めたときはコンテンポラリーダンスが盛り上がっていたときだったし、そのあとチェルフィッチュが活動し始めて演劇が盛り上がってるなという状況で、観客として演劇を観に行き始めたんです。

──「京都国際舞台芸術祭2010」フリンジ企画、「フェスティバル/トーキョー11」では、ご自身のアルバイト経験をもとにしたセルフドキュメンタリー作品「モチベーション代行」を発表されていました。

演劇が自分に関係があると思ったのはコンビニのバイト中でした。店員の仕事自体が演劇みたいでしたし、「ドキュメンタリー演劇というものがあるらしい、じゃあコンビニの仕事も演劇になるじゃん!」と作ったのが「モチベーション代行」です。演劇に対する知識もなかったですし、YouTubeにアップされている海外のポストドラマ演劇を参考にしながら、見よう見まねでやりましたが、僕にとってポストドラマ演劇の形式はギターの弾き語りみたいな手軽さがありました。その頃に初めて演劇というものを考えました。

水中に潜ってた人間が、水面でかろうじて息継ぎをするような苦しさ

──「シティⅢ」は56億7000万年後、文明が一度滅んで再興した、はるか未来の荒野にある町を舞台に、泥棒や旅芸人、爆弾屋、占い師といった人々が悲劇に巻き込まれながらも希望を見出していく作品です。この戯曲を最初に読んだとき、どのような印象を受けましたか?

第一印象で浮かんできた言葉は“よちよち歩きの個人”です。人前で声を発する機会を与えられたけど、何を話したらいいのかわからない人たちが、なんとか生きている世界。それは非常にロマンチックだなと思いました。作者のカゲヤマさんは作品概要の中で“未来・希望・絶望・物語”というキーワードを書かれていますが、それらがどれくらいわかりやすく戯曲に表れているかと言うと、実は非常にわかりにくい。でもカゲヤマさんが、それらを戯曲に込めようとしたというのは読んでいてわかったんです。「シティⅢ」の演出をすることが決まったあと、愛知県芸術劇場とSPAC(静岡県舞台芸術センター)が共同で北村想さんの「寿歌」を宮城聰さんの演出で上演することになっていたので(参照:北村想×宮城聰「寿歌」特集)、「寿歌」の戯曲を読んでみたら「シティⅢ」の世界観とどこか似ていた。両作とも旅芸人が出てくるし、SFっぽい未来の話だけど古い雰囲気もある。過酷な状況の中でも登場人物はあっけらかんとしていて、ユーモアでその場を乗り越えようとしている。カゲヤマさんと会ったときにそのことを話したら「高校生のとき、好きで読んでいた」とおっしゃっていました。

第17回AAF戯曲賞受賞記念公演「シティIII」稽古場より。

──8月下旬から9月頭まで行われた愛知県芸術劇場での稽古を経て、京都芸術センターで本格的な稽古がスタートしました(インタビューは9月下旬に行われた。 / 参照:捩子ぴじん演出、AAF戯曲賞受賞記念公演「シティIII」こだわりながら稽古中)。少し時間が空いたことで戯曲に対するイメージは変わりましたか?

だいぶ変わりました。最初、カゲヤマさんはふざけたことをやりたいのかなと思っていたんですが、実は切実な思いでこの戯曲を書いたんじゃないかと思っています。ずっと水中に潜ってた人間が、水面でかろうじて息継ぎをするような苦しさで、なんとかして物語を書こうとしてるんだと。物事が動かない状況の中で、個人がどうやったら状況を動かせるんだろうって。どうしていいかわからない、でもなんとかしようとしている。

──9月には「エンゲキ・カフェ~声に出して読む演劇体験~」と題し、「シティⅢ」の戯曲を使った市民向けのリーディングワークショップが愛知で行われました。ワークショップを経て、作品にフィードバックはありましたか?

ワークショップはすごくいい経験でした。稽古場でずっと俳優の声を通してセリフを聞いていたので、テキストを読む声が耳に固定されてしまっていたんです。ワークショップに集まってくれた人たちにセリフを読んでもらったことで、それまで聞こえなかったことがストンと聞こえて腑に落ちて。小学生の参加者もいたのですが、荒廃した未来に生きる人々のセリフを子供の声で聞いたとき、違和感があるからこそ説得力を持ったセリフとして聞こえたんです。

──捩子さんはセリフを音として聞くということに興味があるんでしょうか?

そうですね。耳が敏感なので音は気になります。稽古中も「空調の音を切ってほしい」って言うことがよくあるし、いろんな音が混ざっている場所が苦手だったり。今回もシーンを作るとき、役者に「演奏、演奏」とよく言っていて、それは、音楽っぽく演出したいということではなく、セリフをしゃべったり体を動かしたりするとき、楽器を演奏するような感覚でいてほしいと思うからなんです。