今月のお笑い 22本目 [バックナンバー]
ウエストランド井口と作家飯塚が語る「2024年2月のお笑い」
「R-1」敗因、オードリーin東京ドーム、テレビの日光江戸村化、ウエランとアイドルの相性
2024年3月8日 18:00 50
構成
※取材は3月4日に実施。
「R-1」やっぱりルシファー応援
井口 (「M-1」王者の
飯塚 もしかしたら今年も「M-1」に出場するためにいろいろ考えているのかもしれないね。テレビで変なキャラつけられたらネタの邪魔になるかもしれないし。
井口 ブランディングなのかなんなのか知りませんけど。こっちはノンブランディング芸人でやってますから。僕だったらテレビ出尽くしたあとに「M-1」勝ってやりますよ!
飯塚 井口くんは呼ばれた番組に全部出て、全部で傷ついて、ボロボロになりながらやってる(笑)。その結果、「R-1」まで出てるからね。
井口 そうですよ。誰よりも僕が「R-1」を盛り上げてるんだから。
──「M-1」決勝で「R-1に夢がない」と言って、その「R-1」に出場するという、大車輪の活躍です。ということで、今回はまず今週土曜(3月9日)に迫っている「R-1グランプリ」の決勝のメンバーをさらってみましょうか。
飯塚 バランスを考えて選んだわけじゃないんだろうけど、すごくバランスが取れていますよね。古参もいれば、芸歴10年以内の大会のファイナリストもいて。
井口 街裏ぴんくさんが初進出したのは芸歴制限が撤廃された大会の醍醐味という感じがしますし、「THE W」との2冠が懸かっている吉住、アマチュアのどくさいスイッチ企画もいますしね。芸歴制限が設けられる前の大会で決勝に行ってたのは
飯塚 先月あれだけお抹茶の話したので、通ってくれてよかった。
──前回は準々決勝の結果が出た段階での話でしたが、いよいよ優勝の可能性も出てきましたね。
飯塚 お抹茶に関しては、全然どっちもありそう。爆裂優勝するかもしれないし、あるいは……っていう(笑)。未知という意味でもめちゃくちゃ楽しみです。でもやっぱりルシファーさんにがんばってほしいよね。ネタ時間が4分になったのはルシファーさんに有利だと思う。4分になったことでコントの人が勝ち上がる率が上がった気がする。3分だとストーリーを見せづらいから、フリップや大喜利っぽいネタがここ数年は多かったけど。
井口 「チャンスの時間」(ABEMA)でMCの千鳥さんがルシファーさんを応援してたのもうれしいというかなんというか。
飯塚 オードリーもネタライブに何度もルシファーさんを呼んでいて、応援してると思う。ウエストランドもそうだけど、ヤーレンズやラブレターズも「オードリーのネタライブ」に出てたあと決勝に行ったから、機運は高まっている感じがする。
井口敗退は大会自体が盛り上がった証拠
──飯塚さんは準々決勝と準決勝を配信でご覧になったんですよね。井口さんの敗因の分析をお願いできますか?
飯塚 あくまでも僕が思ったことですけど。井口くんの出た日の準々決勝って、朝の朝だったんですよ(10時半開演、12時終演)。お客さんもたぶん「朝早いなあ」とか思いながら会場に足を運び、朝早いからかはわからないけどちょっと空気が重くて、「どっかで爆発してほしい、この空気壊してほしい」と笑いを待ち望んでるところにダークヒーローの井口くんが登場して、「R-1」をイジりまくるネタで爆発してました。
井口 すごかったですよ。こんなにウケるかっていうくらいウケましたから。出てきた瞬間、「井口が言うぞ、言うぞ」の空気で。まず平日の午前中にやっていること自体をイジったら、みんなふつふつと心の中で思っていたことだったんでしょうね、ドッカーンとウケて。
飯塚 そうそう。で、準決勝は昼から(13時半開演)だったんですけど、みんな本当に面白くてウケてて、客席が「『R-1』っていいじゃん」みたいな空気になっていたんですよ。こんなにいいネタたくさん観られて最高じゃん、という気分のところに、「R-1」を腐す奴(=井口)が出てきちゃった(笑)。そこが少しお客さんのテンションと合わなかったのかなと思いました。
井口 準々は確かに、お客さんがみんなちょっと嫌(な気分)だったんですよ(笑)。そこに僕が出てきていろいろ言うので、スカッとしたんでしょうね。
飯塚 準決勝の空気がもっと重かったら、と言ったらよくないけど、みんながスベっている状態だったら井口くんだけがウケてたと思う。
井口 みんながよすぎましたね。
飯塚 そういう意味では、大会が成功してるってことだよね。「R-1」を腐すネタで決勝に行けないってことは、お客さんが「『R-1』面白いじゃん」となっているわけだから。
井口 僕が出てみて感じたのは、準決勝のほうがライトなお客さんが多かったのかなと。準々から準決までの間に“準決審査員問題(※)”があったじゃないですか。「しめしめ、これは1個またネタできたぞ~」と思っていたら、準決勝のMCをやっていた
※編集部注:お見送り芸人しんいちが準決勝の審査員を務めるというXのポストに因縁の相手として知られるZAZYが反応。さらにおいでやす小田も加わってちょっとした騒動になった。
飯塚 濱田祐太郎と戦っている人がいたとは誰も思ってなかっただろうね(笑)。
井口 僕のライバルはまさかの濱田祐太郎でした(笑)。敗者復活盛り上げ要員としての意気込みもあったんですけど、今年は敗者復活がないので僕が出ていたことなんてもう闇に葬られるだけですよ。と言っても、ネタ自体は準々決勝の前日に飯塚さんに電話して「こういうのやれば?」って言われて「じゃあそれやります」でやっただけなんですけど(笑)。
──飯塚さんに相談したんですね。
井口 2回戦に出たあと「こういうのあんまり求められてないな」と感じたので、飯塚さんに聞きました。
飯塚 とはいえネタの入口の相談だけで、中身は全部井口くんの魂の言葉でしたけど(笑)。
井口 準決が終わったあと、有吉弘行さんとかマヂカルラブリーの野田さんに会って「R-1どうだったの?」って聞かれましたけど、「負けてんじゃねえかよ!」とはならなかったですね。みなさん「ちゃんとこいつがんばってるな」という印象は持ってくれているみたいで。台本だと「準決で落ちてんのかよ!」みたいな流れになっていることが多いんですけど、実際そんなことは誰も言ってこない。
飯塚 めっちゃリスク背負ってやってるって、芸人さんはわかるから誰も腐せないよね。
井口 あと「R-1」に参加して思ったのは、ピン芸人たちが大会の盛り上がりを背負っているんだなということです。僕が出場するって、本職のピン芸人からしたら嫌じゃないですか。こんな芸風でもあるし、「M-1」獲ってる奴が来んなよって。でも会う人、会う人、とくに芸歴制限が設けられる前の「R-1」に出ていた人は、「ありがとね、出てくれて」って言ってくれましたね。「これで盛り上がるわ」と。
飯塚 ルール改正とかもそうだけど、全部終わらせないためにやってることではあるのは間違いない。「余計なことするな」とか「出なくていいのに」とか思う人もいるかもしれないけど、盛り上がって大会が続くことが一番だから。あと、敗者復活戦やってほしいって声も聞くけど、あれリハーサルが大変なんですよ。「M-1」は漫才だから敗者復活戦出場者のリハーサルはいらないけど、「R-1」はファイナリストとあわせて約30組×2本分のネタを全部リハする必要があって、とても簡単なことではない。
井口 逆に、カンテレが今までよくやってくれてたってことですよね。
飯塚 そういうところでスタッフの労力を減らして、決勝の中身に力を入れるのはいい判断ではあると思いますね。「敗者復活やってよ!」と安易には言えない。
【データで見る!】「R-1グランプリ」まとめページ
オードリーANN in 東京ドームが示すもの
井口 芸人と話してても、「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」の話にはやっぱりなりますよ。(会場、ライブビューイング、オンライン配信の観覧すべて合わせて)16万人ですから。別次元の話というか、とてつもない現実を突きつけられた感じがします。
飯塚 当日まで内容もゲストも発表していなくて、とにかく「オードリーが東京ドームで何かする」っていうだけでこれだけの人が集まるのはすごいよね。ダウンタウンさんみたいにテレビのど真ん中で活躍するような、天下獲りのパターンって誰もが憧れていたと思うけど、芸歴を重ねていくと「どうやら自分たちはなれないぞ」みたいなことに気づいてしまって。でも、そういう芸人さんたちに、こういうパターンもあるってことを示すイベントになったんじゃないかなと思う。
井口 こんなこと今までのお笑いの歴史でもなかったですからね。新しい方法がまだあったんだなっていう感じはします。
──ちなみに、飯塚さんはいつから番組に携わっているんですか?
飯塚 5年前です。番組開始10周年の武道館イベントのあとから。そこからリスナーが増えている雰囲気はなんとなく感じていましたけど、毎週ニッポン放送に行くとそこにいるのは7~8人のスタッフだし、リスナーに直接会うこともないから想像がついていなかったんですよ。だから当日、水道橋駅に着いて、朝から人がダーッとあふれているのを目の当たりにした瞬間の興奮はすごかったです。「こんなに聴いている人がいるんだ!」と。内容もそうですけど、1日の経験としてめちゃくちゃテンションが上がりました。
井口 肌で実感するのはイベントならではですよね。聴取率とかもリスナーが増えているかどうかはよくわからないし。
飯塚 もう、笑けてきちゃう感じ。「これみんなリスナーなの?」みたいな(笑)。観に来たリスナーもそうなっていたと思う。
井口 僕もそれのめちゃくちゃスモール版ですけど、「ぶちラジ」をずっとやってきて、初めて公開収録をやったときは笑けましたね。150人ロフトプラスワンに集まって、「いたんだ!」という感動がありました。
飯塚 内容は当日までシークレットだったけど、本人たちは日々準備をしているわけで、そんな中でも毎週のラジオにはドーム以外の話題でトークを作ってくるのもすごいなと思いました。終わったあと、いろんな感想ラジオを聴きまくっていて。
──2月はほかにも、「華大どんたく」や「赤えんぴつin武道館」など、巨大なお笑いイベントが複数開催されました。
井口 「テレビ千鳥」(テレビ朝日)も今度幕張メッセでやるみたいですね。
飯塚 ここ数年、ラジオ局が先行してイベントを成功させていて、テレビ局も「イベントをやったらいいんだ!」となりがちなんですけど、そもそも番組の歴史があって、ファンがいて、その熱や文脈があるからこそ成り立っているものなんですよね。イベントで稼ぐことが目的になっていればファンは気づくし、それがわかった瞬間に冷めてしまう。イベント化が期待できるテレビの企画募集が本当に最近増えていて。
井口 マネタイズ、マネタイズ!ですよね。
飯塚 そんな簡単じゃないですよっていうのは、テレビ局の上層部の人にもわかってほしいですね。ビジネス逆算の企画だけじゃなくて、初期衝動だけで生まれるようないびつな番組もたまには試してみないと、本当に世の中を巻き込むものは残らないと思う。
ガクテンソクにパスが集中「SECOND」抽選会
──「THE SECOND」32組の対戦組み合わせが決まりました。
飯塚 個人的に思い入れが強いのは、
井口 32組いて、吉本以外で一緒にやってきた同士がここでぶつかっちゃうのかっていう。
飯塚
井口 しかも相手が
飯塚 組み合わせ抽選会での令和ロマンのMCの上手さも話題になってましたが、何か現場で起きると
──よじょうさんが金属バットの代わりにくじを引く場面もありました。
井口 ちょうどこの前、ガクテンソクさんと一緒になりましたよ。奥田さんってちょっと前まではイジれないややこしさがありそうって勝手に思ってましたけど、「ややこしい人だなあ」と言っていい感じなんだなーと思いました。
飯塚 「THE SECOND」はあらゆることがネタに取り込まれるから、この1カ月のうちに起こる出来事もネタに入ってくるのかなと思うと「M-1」とは違った楽しみがあるよね。
井口 2年連続でこんなこと(※)になってるんでね(笑)。
※編集部注:昨年は「ノックアウトステージ16→8」で三四郎に敗れたあと、娯楽映画とフランス映画に例えてツイートした件がちょっとした騒動に。そして今年2月にはかたつむり林とX上でバトルを繰り広げた。
飯塚 いいなと思うのが、総合演出の日置(祐貴)さんが自分のnoteで、「スタッフみんなで相談して、この32組しかいないって自信を持って言えます」ということを書いていて。どんな大会でも当たり前のことではあると思うけど、あえて言ってくれる人っていなかった。
井口 「誰が選んでんだよ!」とか言う人が必ず現れますからね。
飯塚 視聴者からしたら闇の中で決まってると思っちゃうからね。賞レースって審査に対するいろんな憶測とかがつきものなのを考えて、番組の代表として言ってくれてるんだと思う。
手ぶらで1200人の前に立つ「RGあるあるライブ」
──前回大好評だった「RGがあるある歌い続けウエストランドがあるなしクイズし続ける会」の第2弾が東京・なかのZERO 大ホールで行われました。
井口 1200人も来たってすごいですよね。前回はヨシモト∞ホールでやって、配信もないし1回きりだと思ってるから「伝説のライブだった」とか言いたい放題で広めようとしてましたけど、こんなことになっちゃったから不安でしょうがなかったですよ(笑)。完売もしてたし。
飯塚 とんでもなくハードルは上がってたよね。配信されなかったことで噂が噂を呼んで。僕も加担していたところもあると思うけど。
井口 この連載でも話してくれましたからね。
飯塚 観に行かせてもらったけど、みんな満足して帰ってたと思うよ。即興でお客さんにお題のワードをもらって、即興でRGさんが曲を選んで、即興で井口くんが毒を吐いて、即興で太くんがあるあるを言うっていう、全部が即興。それを生で体験してるから、異常な熱みたいなものがあった。
井口 ムゲンダイが300人くらいだから、その人たちが全員来てたとしても1000人くらいは噂のみでチケットを買っているんですよね。喜んでくれているんだったらよかったですよ。「何が伝説だよ!」って思った人もいたかもしれませんけど(笑)。
飯塚 すごいなと思うのが、1200人規模のイベントで、井口くん手ぶらで行くんでしょ?
井口 そうですよ。
飯塚 普通、1200人規模のイベントって、ネタにしろトークにしろ、用意していくじゃん。1200人の前で全部即興って、冷静に考えたらすごい。
井口 考えてこいや!って話ですからね(笑)。手ぶらでいいから僕もストレスなくやれてるんだと思います。逆に、考えだしたら怖くなっちゃう。
──手ぶらで1200人の前に出ていくほうが怖くないですか?
井口 怖いですけど、なんでしょうね? めんどくささが勝ってるのかなあ。まあ言ったら、「R-1」だって前日に飯塚さんに電話してスマホにメモったことやってるだけですからね(笑)。
飯塚 井口くんの芸風的に、仮にうまくいかなくても「こんなもの1200人も呼んでやるようなもんじゃない!」って言えるのは強みだよね。「失敗したじゃないですか!」と言ってもいい。
井口 それはあるかもしれないですね。いやー、今考えたら怖くなってきましたよ。なんで手ぶらで行ってたんだろうっていう。
飯塚 ありえないよ。手ぶらでお客さんの前に出るなんて。失礼だと思う!(笑)
井口 いや、失礼ですよ本当に(笑)。誰も何も考えないでカラオケの機材置いてるだけですから。
飯塚 お客さんが、盛り上がると思ってなんだろうけど、「文春」とか過激なお題を出していて。それに対して井口くんがみんなの代弁者になっちゃって、正しいことを説く講演会みたいになる瞬間もあったんだよね。もうちょっとどうでもいいお題が多く出ても面白かったかもしれない。
井口 序盤からそんなお題ばっかりでしたもんね。お客さんも手ぶらだからなあ(笑)。
飯塚 「バレンタイン」が一番面白かったよね。井口くんが言った「#高いチョコまずい」がトレンドに入ってた。
井口 お笑いってそういうもんですからね。ただ、「#高いチョコまずい」がなんのことかわかってないで怒ってる人もいましたよ。
飯塚 チョコ論争になっちゃった(笑)。
井口 僕が常々言っている「1秒も考えない」の究極ですよ(※)。「こんなライブがあったんだ」とか一切調べず、単純に「高いチョコまずい」に怒るっていう。
※編集部注:「2022年12月のお笑い」で、井口は「心配です、みんなが詐欺に遭わないか。 なんで1秒考えなくなっちゃったのかなあ、人って」と目に入ったもの・耳に入ったものがすべてだと思ってしまうファンを心配。
──井口さんが反町隆史「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」を歌う場面がありましたね。
井口 そういう流れになってちょっと歌っただけですけど、えらいもんで、1200人の前で歌えてめちゃくちゃ気持ちよかったです(笑)。もっとちゃんと歌いたくなりました。
飯塚 ちゃんと歌うライブには1200人も来ないよ(笑)。
井口 最後、お題を言ってくれた大学生をRGさんが舞台上に上げたじゃないですか。その子がパッて客席観た瞬間、「うわ!」っていう顔をしたんですよ。確かに1200人埋まってる光景ってすごいじゃないですか。その顔を見たときに、本当に彼が何かになるかもしれないと思いました。
飯塚 人生を変える体験になったかもね。
井口 表に出る人ではないにせよ、何かになる可能性はあるんじゃないかなと。あながち、変なだけのイベントじゃないというか(笑)。いい影響を与えられていたらやったかいがありますよ。
──河本さんのあるあるもまた冴えていました。
井口 RGさんがあれだけ歌ってから出すからウケるっていうのもありますけどね。
飯塚 でも独特だよね。すっごい共感する!っていうあるあるじゃないんだけど、絶妙。太くんのその能力って本当に高いと思う。ただ、あの瞬間しか輝かない能力だけど。
井口 このイベントでしか出せない能力。
飯塚 うまく番組とかに生かせられればいいんだけど。今のところ、RGさんのライブのあの瞬間しか生かしどころがないね(笑)。
サーヤとくるまの関係性は“エモい”のか論争
飯塚
※編集部注:学生お笑い時代にコンビを組む話もありながら、別々のコンビで活動してそれぞれの方法で有名になったラランド・サーヤと令和ロマンくるまが再会してサシ飲みする動画に、その背景を汲んだ視聴者から「エモい」という反響が集まっているのに対して嫌悪感を表す意見も寄せられている。
飯塚 サーヤさん自身も思うところあったのか、「キモい恋愛論争に使って下さい♪」と動画の概要欄に書いてたりして。とにかくそういう、なんでも「エモ消費」のオカズにされちゃう事案って多くて、本気でずっと追いかけてる人より、ちょっと立ち寄った人が「エモい!」って騒いでるのをよく見る。
井口 とにかくみんなエモにしたがりますからね。
飯塚 それこそオードリーも、デカいイベントあると「2人の絆が~」とか「仲の良さが~」とか言われがちだけど、星野源さんが作ってくれたイベントの主題歌(「おともだち」)で「別に好き同士ではないけど、長く一緒にいるから嫌でも通じちゃってる」っていうオードリーの関係性がちゃんと歌詞になっていて、それがあったからか「2人の友情に泣けました」みたいな感想が少なかったのはよかった。
井口 僕らもまだ「実は河本さんとの絆が……」とか言ってくる奴いますからね。その曲をとにかく流しまくっていくしかないですよ。
飯塚 ウエストランドにも通じる歌詞ではあるよね。
実は品がある井口×アイドル番組
飯塚 「ウエストランド大活躍」という話で、アイドルの番組「SAKURA GRADUATIONの清算てれび」(中京テレビ)でウエストランドがMCをやっていて。少し前には「サクラミーツ」(テレビ朝日)にも出ていたのを観たんだけど、ウエストランドとアイドルって相性がいいなと思った。アイドル番組のMCで一番ダメなのはアイドルに手を出しそうな人だと思うけど、井口くんって品はいいじゃん。毒は吐くけど、品はある。
井口 見てる人も、こんな奴がアイドルに手を出すわけないと思うでしょうしね(笑)。
飯塚 毒は吐くけど本気で怒りはしないし、ちょっとバカにもできるし、そこがちょうどいいんだろうね。アイドルと絡む番組、今後増えるんじゃない?
井口 昔、配信番組でアイドルの人たちと一緒にやっていたことがあって、そういう経験も生きてきましたね。15年もやっていれば一通りのことは経験しているので、「意外とこいつらちゃんとやれるんだ」って思った人は多いかもしれないです。「M-1」以降に知った人はそういうイメージがなかったと思うので。
飯塚 ユニクロのWeb CMでナレーションしていたけど、大企業って、起用するタレントの好感度とか、問題を起こさないかとか、すごいちゃんと検討しているから、ユニクロが「この人は大丈夫だ」ってなるのは相当なことだと思う。「M-1」優勝から1年経って、ようやく「なんにでも毒吐く人間じゃないですよ」ってことが伝わったのかもね。
井口 この連載と「焚き火」に出たこともあって、「井口はヤバい奴じゃない」周期に入ってきた気がします。
飯塚 やっと“芸”だと認識された(笑)。
井口 CMは、TikTokとかYouTubeショートに上げていた愚痴の動画をスタッフさんが見てくれて「こういう感じで」となったんですけど、なんでもやっておくもんだなと思いましたね。
──NHK Eテレの「ヴィランの言い分」で井口さんがワサビ役を演じたのも、芸が認知されているんだなという感じがしました。
井口 「わらたまドッカ~ン」(NHK Eテレ)とかもそうですけど、こういうのに出ると同級生から「子供が見てるよ」って言われますね。飯塚さんはお子さんがいるから子供が好きなものも把握していると思いますけど、僕からするとまったく知らない世界で子供に大人気のものがあったりします。
飯塚 うちの息子も、「M-1」の敗者復活を一緒に見たおかげで、この前ニッポンの社長が出てきたときに「あ、ケツだ」って言ってた。1回見ただけで覚えてる。
井口 子供って記憶力もすごいですよね。「わらたま」で
テレビが職業体験施設になっている
飯塚 「あちこちオードリー」(テレビ東京)で
──テレビ好きとしてはしょんぼりしてしまう話です。
飯塚 さみしいですよね。テレビには一番新しいものが生まれる場所であってほしいと思っちゃうけど、それはきっとあんまり期待されてないし、芸人さんたちも本当にやりたいことがあったら自分たちのYouTubeでやる。テレビはあくまで、頼まれて出るものなのかなと。だからテレビ側も過去の栄光にすがるじゃないけど、リバイバル企画だったり、豪華MCを集めてかつてのテレビの熱気を再現するような特番をやったりするんだと思います。もちろんそれも強みでもあるから、生かしつつ新しく盛り上がれるものができたらいいのになとは思いますね。
──テレビが職業体験のようになっている?
飯塚 日光江戸村化してますよね(笑)。昔の人の暮らしを体験してみたいっていう。日光江戸村に今風のカフェとかできてほしくないじゃないですか。
井口 そこは昔のままがいいですもんね。新しいことをやろうとしても失敗しちゃうことがよくある。
飯塚 だからこそ、井口くんにはチャンスなんだろうなと思う。
井口 そうですね。僕はなんにも思ってないので(笑)。
飯塚 来たものをとにかく全力で返すっていうね。
井口 「これ出てもうまくいかないだろうし……」とか言ってる芸人もいますけど、やってみればいいじゃんって思っちゃいます。
飯塚 二極化しているのかもね。セルフプロデュースのプランがあって、出るものを選ぶ人が成功することもあれば、井口くんや永野さんみたいに「(仕事を選ぶなんて)何を偉そうに」って言いながら全部出る人も際立つ。
井口 出てみないとわからないじゃないですか。うまくいくかもしれないし、うまくいかなかったとしてもいいだろっていう。
飯塚 まったく見えないものをやってみたらめっちゃ面白くなることもあるし、見えてたけど全然うまくいかなかった、ということもある。うまくいかなかったことがネタになることもあるし。まず経験してみないとそれにも気づけないからね。
井口 その結果、8日間のうち6日くらい僕がテレ朝にいる事態になってますよ(笑)。しばらくそのあたりの番組に僕が出まくってると思いますので。
飯塚 井口くん、準レギュラーなのかなっていうくらい「ロンハー」に出てる(笑)。
「モテたい、稼ぎたい」時代の転換期
飯塚 「ジョンソン」(TBS)の豪邸を訪れる企画を観て思ったんだけど、よしもとの真ん中の売れ方してる人たちって時計とか靴とか、高価なものに詳しいんだよね。ザ・芸人のギラギラ感というか「モテたい、お金持ちになりたい」みたいなエネルギーが魅力になっていて。それを出せる人にこそカリスマ性みたいなものが宿っている感じがする。ウエストランドも三四郎も「モテたい」とは言うけど、ちょっと違うでしょ?
井口 モテるもんならモテたいですけど、自らモテる動きは特にしてないですからね(笑)。めっちゃ高いもの買うとかもないし。やっぱりよしもとは縦の関係性があるから、売れている先輩から脈々と受け継がれるみたいなこともあるんじゃないですか? こういうものを身に着けて、この店に行って、これ食べて、とか。それがないですからね。みんな独自活動。杉並区からも出ないですし。
飯塚 爆笑問題がまず全然違うタイプだもんね。
井口 そういうのが一番ない人ですよ(笑)。
飯塚 ただ、昔は「モテたい、稼ぎたい」が芸人の正義で、そういうエネルギーに後輩芸人たちも憧れて軍団が生まれる感じがあったけど、昨今のいろんな状況とか考えると、そういうのも変わってくるんだろうなと思った。「シンプルにお笑いが好き」っていう芸人さんたちも増えてきているし、それを言える空気感もできてきたし、時代の転換点にいる気がする。
生きているうちに検査をしよう
──そろそろ終わりのお時間です。
井口 この前、
──それはうれしいです! 秋山さんの話題は何度かこの連載で出ていますね。2月の話題で言えば、「秋山ロケの地図」(テレビ東京)がギャラクシー賞月間賞に選ばれました。
井口 アイデアが尽きないところがすごいですよね。それでいて、“ちゃんとした人”とは思われているじゃないですか。めちゃくちゃ変なことやっているのに。
飯塚 こんなに天才なのに、「秋山軍団」みたいなものができてないのもすごいよね。群れてない。
井口 後輩からしても、何も盗めなさそうですよね(笑)。独自の芸すぎて。
飯塚 芸人さんたちから「秋山さんと飯行って~……」っていう話、あんまり聞かない。
井口 軍団で番組、とかも観たことないです。
──一般の方や謎のおじさんとやっていますもんね。
飯塚 あと、
井口 よかったですよね、早期発見で。変な話、売れてなかったら検査もしていなかったでしょうから。
飯塚 だから、自分もPET検査することにしました。ラジオ聴いて、生きてる人の言葉は刺さるなと思って。
井口 僕も全然大丈夫だったやつなんですけど、お腹にしこりがあったときに(太田光代)社長に言ったんですよ。社長は所属タレントが病気と聞くとテンション上がるというか、張り切る人なので(笑)、「薬は飲んでるの?」とか全部聞いてきて。で、社長のかかりつけの病院に診てもらいました。
──心強いですね。
井口 病院にもついてきて。僕が独り身っていうこともありますけど、ファミリーとはいえ、さすがにお母さんにもほどがあるだろっていう(笑)。
──付き添いもしてくれるんですね。
井口 検査も待っててくれて。笑けますよね。あと、今度
井口 (帰りがけに)あ、あとあの話するの忘れてました。
飯塚 意外と初だと思う。芸人のネタに作家がアイデア出ししてるのを映像で見せるって。
井口 めちゃくちゃよかったです。
──前回話していた「今月のお笑い」ネタライブは4月の開催を予定しています。「今月のお笑い」で名前が挙がったことがある芸人さんをお呼びしようと思っていますので、よろしくお願いします!
プロフィール
井口浩之(イグチヒロユキ)
1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。3月19日(火)に岡山で公開収録を開催。タイタン所属。
飯塚大悟(イイヅカダイゴ)
1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヤギと大悟」(テレビ東京)、「オドオド×ハラハラ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。
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