ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 32本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚と野田クリスタルが語る「2024年12月のお笑い」

M-1振り返り、敗者復活戦の審査、結局令和ロマン、お笑い界の諸問題、もっと褒めよう

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ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」。今回はゲストにマヂカルラブリー・野田クリスタルを迎えて「M-1グランプリ2024」についてたっぷりと語ったほか、お笑い界が抱えていそうな諸問題の解決に挑戦してみた様子をお届けする。

構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる

※取材は12月30日に公開イベント「ライブ!!今月のお笑い3」として実施。

「M-1」敗者復活戦審査員の立ち位置

──野田さんは前回から引き続き、そして井口さんは今回初めて「M-1」敗者復活戦の審査員を務めました。

井口 実は去年から3つくらい審査員のオファーが来ていたんですよ。スケジュールの都合でできなかったものもあるんですけど。「M-1」の日は何かあるかもしれないと思ってもともと空けていたし、お世話にもなっているのでやらせてもらいました。(爆笑問題)太田さんが審査員をやらない主義だからどうなんだろうという思いもあったんですけど、1回やってみたら、やってもいいのかなと思いましたね。

飯塚 この連載きっかけで井口くんの“審査員練習ライブ”をやっておいたかいがあったね。

ライブレポート

井口 いやいや、何一つ生きてないです(笑)。しかも、あのライブは配信なかったんですよね? あのライブの僕の採点ほど神がかってるものはなかったのに! だから、今後も審査員やっていこうかなと思いましたよ。僕がいかに考えているかをもっと伝えていかないと。みんなナメてるんですよ、僕のこと。(令和ロマンの)くるま、くるま、くるま、くるまで。くるまより僕を信じろよ!

──初審査の手応えは?

井口 会場にいると、やっぱり敗者復活戦を勝ち上がった人に決勝で活躍してほしいっていう気持ちになるんですけど、自分が「この組が行くんじゃないか」と思ってもお客さん投票で勝ち残れなくて、そこはもどかしい部分でしたね。一応自分の中でひとつ決めていたのは、負けた人のいいところを言うこと。勝った組は勝った段階ですごいことは伝わるから、なるべく負けた側のコメントをするようにしていました。あとは、勝敗じゃないところで変なことがあったら言おうと思っていましたね。

野田 審査員コメントってめっちゃ難しくて、あの場では褒める以外できないんですよ。終わったあとにネタのダメ出ししても意味ないから。もしダメ出しするなら大会の前にするべきで。

井口 確かに。あと、勝ち残り方式だから、僕らが言った感想がその後も審査を続けなきゃいけないお客さんに影響しちゃう可能性があることを考えると、勝った人がどうよかったかは言えないんですよ。そもそも、敗者復活の審査の基準がよくわかんなくなってきちゃっているというか。「決勝に上がって優勝してくれるかも」という人なのか、「その場で一番ウケていた人」なのか、「自分が面白いと思った人」なのか。

野田 僕らがやるのは観客投票で選ばれた3組の中から最終の1組を選ぶ、という審査だから、しょうがないことだけどそこまでは感想を言いながらただ座っているだけの状態になるんですよね。やれることが少ない。例えば芸人審査員が選んだ1組も足した4組で最終投票するとか。

飯塚 でも、そうすると芸人審査員が選んだ1組が少し有利になる可能性もありますよね。観ている人が「芸人さんが選んだってことは面白いんだ」って影響されちゃうと思うので。

井口 芸人審査員も10%ずつくらい持って各投票に参加するとか? ……まあ、なんでもいいか! いろいろ考えてもしょせん敗者ですもんね! 大前提、負けてるんだから。

左からウエストランド井口、マヂカルラブリー・野田クリスタル、作家・飯塚大悟

左からウエストランド井口、マヂカルラブリー・野田クリスタル、作家・飯塚大悟

豆鉄砲とスタミナパンの新しさ

──人のネタをあまり見ないことでおなじみの井口さんですが、こうして敗者復活戦の21組を一挙に見てどうでしたか?

井口 けっこう面白いなと思いましたよ。ただ、敗者復活から決勝も含めて、言葉遊び的なボケがめっちゃ多いなと思いました。ヤーレンズが前回やった感じが今のトレンドになっているのか、既存の言葉をモジったボケというか、「こういう意味か!」となるタイプのネタが多かった気がします。

飯塚 全体的にボケの意図をツッコミでバラすネタも最近多い傾向にあるよね。

野田 ツッコミの権力が上がってきてますよね。例えばダンビラムーチョって、ツッコミのフニャオが「なんだその顔、蛾じゃねえか!」と言うじゃないですか。蛾かどうかは本来はボケが決めるはずだったんですけど、フニャオが「蛾じゃねえか!」とツッコんだあと、大原が「え、そうなの?」って言ってるんですよ。ツッコミに決められてるんです、蛾かどうかを(笑)。

井口 なんでそんなに理解がいいんだ?って思うツッコミがけっこうありました。ツッコミが全部瞬時にわかりすぎだろっていう。

飯塚 敗者復活で気になった組はいた?

井口 豆鉄砲は新しいことやってるなと思いました。あの論理のまま押し切るのって大変だから。まあ、よくよく聞いたらけっこうみんなご存知のネタだったみたいですね。この2年くらいどの賞レースも一切見てなかったので、実はオール初見だったんですよ。だからこそ一番審査員に向いていたんですけど(笑)。

飯塚 でも、豆鉄砲みたいに1人の主張だけでネタを構築できるのって確かにすごいと思う。やりたくてもできないネタ。

野田 胡散臭さもあるし、噛み合ってましたよね。

井口 あとは、散々言われていると思いますけどスタミナパン。「やってみたいから練習してみよう」の形って、付き合うほうがどこかで折れざるをえないけど、トシダが最後まで一切折れずに、「やらねえよ!」のままやり切った。どこかで矛盾が生じてもおかしくないのに、矛盾を感じさせることなくやり切るっていうのは新しいし、すごいことをやってるなと思いました。

飯塚 新しすぎて、新しさがお客さんに伝わってないかもっていうくらい成立してた。普通はコントに入るか、完全に止めるかどっちかだけど、トシダさんはコントに片足つっこみながらずっと「やらねえよ!」って言ってた。

井口 僕らが若手の頃ってメタ系も多かったんですよ。アルコ&ピースの「忍者」みたいな。そういう形でもなく、コントに入る奴と「やらない」っていうスタンスのままの奴で4分やり切るのはすごかったです。

飯塚 奇をてらっているわけでもないしね。麻婆さんがキャバ嬢をやるコントに、前向きに入っていくほうがあり得ないわけで。トシダさんの「お前がキャバ嬢として来たら嫌だよ」っていうリアクションが本来正しいから、よりリアルな関係性の掛け合いになってる。

野田 でも、最近はコントインしてからすっかり戻らなくなりましたよね。僕らも戻らないけど、けっこうそれって豪快な技じゃないですか。1回ボケたらマイクの前に戻って「もう1回やってみよう」を繰り返すものだったのが、今はコントから戻るほうが珍しくなってる。

どのネタやるのか問題

井口 ひつじねいりは、この並び(Cブロックのラスト)で考えたら準決勝で次点くらいの順位だったかもしれないと思うと、1%差で負けましたけど、もしブロックで勝ち上がってたらどうなっていたのかなと思います。

飯塚 テレビで見ていたレベルの体感だけど、豆鉄砲やひつじねいりのネタはけっこう名作としてお笑い好きからも知られていて、そのせいか、ちょっとウケが少ない感じがした。

野田 ひつじねいりはもっと票入るかなと思いましたね。

井口 準決勝とは違うネタをやったわけですけど、それがどう出たのか。僕は準決勝のネタのほうがウケていた気がしますけど。

飯塚 「準決勝でやったネタを敗者復活戦でもやるのか問題」はあるよね。ひつじねいりから井口くんに「ネタどうしたらいいですか?」っていう相談はなかったの?(※)

井口 誰もなんにも相談してこないです。

飯塚 ママタルトは?

井口 ママタルトも1つも聞いてこない。

野田 全然リスペクトされてないなあ(笑)。

※編集部注:ひつじねいりもママタルトもウエストランドを中心とする新ネタライブ「漫才工房」メンバー。井口が工房長なのだが……。

飯塚 「敗者復活戦のネタを決勝でやるか問題」についてはどうですか?

野田 通常の精神を持っていたら変えますよね。「さっきマンキンでやってたのになあ」って思われるのが恥ずかしいから。

井口 「M-1」が巨大コンテンツになっていて、敗者復活から注目している人も多いから、全国の人に別の2本を見せたいっていう考えもあるでしょうしね。

野田 あと「来年に残すか問題」。毎年最強の2本ができるかどうかも限らないから、一応保険としてやらないっていう選択肢もある。

井口 でも僕は基本、前年のネタをやるっていう感覚がないので、その1年のネタで勝負してほしいです。

野田 えらいなあ。

井口 そうなんですよ、えらいんですよ。僕は毎年新ネタ作ってるのに誰も評価してくれない。僕こそ和牛なのに! こんなにいろんな形でネタを作り続けて、和牛より和牛なんだから!

野田 和牛より和牛は、もう(ウシの)和牛なんじゃないの?

井口 もうそうですよ、熟成肉なのに(笑)。

野田 あと思うのは、決勝と予選は違うっていうことをみんな自覚しないといけない。ファンも含めて。予選やライブで見て、「あのネタやればいいのに」とかファンは思うかもしれないけど、決勝は予選やライブとまるで物が違う。こればっかりは本人が後悔しないように、本人が決めたほうが絶対いいです。他人がごちゃごちゃ言わないほうがいい。自分の肌感覚で挑戦して失敗しないと、反省できない。1回決勝を経験すればわかるから、照準を合わせられる芸人なら次は大丈夫だと思いますね。

「ライブ!!今月のお笑い3」の様子

「ライブ!!今月のお笑い3」の様子

東京お笑いは“脱線”しない

野田 これは意見が分かれると思うんですけど、「脱線してもいいのか問題」。めちゃくちゃやっている芸人ほど脱線しないんですよ。トム・ブラウンとか、ダンビラムーチョは1回も脱線しない。僕は脱線は、ネタに対して不真面目だなと思っちゃうんです。本筋で勝負したいから。でもなんとなく関西漫才って脱線してもいいニュアンスがありますよね。

飯塚 インディアンスは脱線しまくることが味になってるタイプ。

野田 僕は東京お笑いだから、本筋が1つあってそこから飛びたい。

井口 ダンビラムーチョは去年より断然面白かったです。勝ち上がるかなと思いましたけど。

──次に登場した金魚番長に敗れました。

野田 ダンビラムーチョはめちゃめちゃ面白かった。でも金魚番長も面白かったし、「金魚番長が面白かった」ってちゃんと会場のみんなに伝わったのがよかった。けっこう難しいネタだったと思うけど、ちゃんと票が入った。

──井口さんの思う「決勝で活躍してくれそう」なのはどういうコンビなんですか?

井口 サンドウィッチマンさんのときみたいに、無名な人がバーンと行くのが勝ち筋なのかなと。無名で、なおかつ見たことないタイプのネタ。僕はけっこうそこを重要視して見ていました。

野田 なんか1個仕掛けがあるとか。

井口 そうですね。例えばバッテリィズみたいなコンビが敗者復活戦から決勝に行っていたらかき乱していたと思います。本当にギリギリまで悩んで、最終的には「もっとすごいネタがあると信じたい!」っていうところで決めましたね。

順番を超越した令和ロマンの圧倒的優勝

──決勝の話に移りましょう。

飯塚 みんな思ったことだと思いますけど、笑神籤で最初に令和ロマンが出た瞬間に「優勝しちゃうかも」と思いました。そういう星のもとに生まれたんだなって。観客もめちゃくちゃ沸いてたし、この勢いをほかの人たちがひっくり返すのはなかなか大変だから。

野田 トップだったことで純粋なネタの評価をするのが難しくなりましたよね。審査員コメントでは、ネタのこと以上に「トップだったこと」に触れられていましたし。

飯塚 たぶん、令和ロマンの1本目って面白くしすぎないようにあえてしてると思うんです。共感性を強くして、お客さんに問いかける感じで巻き込むスタイルにしているから、あの流れで出たらめちゃくちゃ沸く。すべて計算ずくではないと思うけど、それができたのはすごい。

野田 井口はどう? くるまの話だけど。

井口 まず1つ言っておきたいのは、くるまが前回の「M-1」で言っていた「トップバッターだったらこのネタをやる」みたいな話は、嘘です!

飯塚 (笑)。今年は2本しか用意してないって言ってたけどね。

井口 それはいいとして、何度も言っていますけど、やっぱりその場を掌握した人が勝つんですよ。僕らのときで言うと「人前でこんなに悪口言う人初めて見ました」とか、ほかの人が言い出した時点で勝ちというか。今年はどうやったって“令和ロマン対ほか”という構図になってしまう中、トップで出たことで完全に令和ロマンの空気になったし、僕も全然やっちゃうことだけど、そのあとに出てくるコンビが令和ロマンのつかみをイジったりして、よりその構図が際立った。ただ、それでも勝ちきるのは本当にすごいと思いますけどね。あれだけ面白いし一番ウケていたから、順番とかは超越していたと思います。最終決戦の順番がどうこう言ってる奴もいますけど、そんなもんバッテリィズがトップで令和ロマンがトリでやったら令和ロマンが全部かっさらって本当の覇者みたいになるだけだから! で、「ウエストランドは順番で優勝した」とか言いやがって。何番目でも勝ってるわ! こっちは6票獲ってるんだぞ、7分の6だぞ! すごい獲ってるんだから。

野田 今もその熱量で言えるんだ?(笑)

井口 だって今回のせいですごい蒸し返されてるんですよ。「ウエストランドは順番で優勝したからな」って。全然違うからな!

飯塚 じゃあもし、一番手令和ロマン、二番手ウエストランドだったら勝ててた?

井口 勝てますよ。だってすごかったですもん、(ウエストランドが優勝した2022年大会の)2本目の「R-1」のくだりの爆発力。

野田 え、まだ言う? 何年前の話?

井口 今でこそ似たようなことを言う奴が増えましたけど、僕がその祖ですからね? 祖のすごさ! 結局井口以前、井口以後に分かれるんですよ。「M-1」という大会で、まさかほかの大会のこと言うなんて誰も思わないじゃないですか。予選で1回もやってないネタを最後に持ってくるとかも含めて本当にすごいんだから。

飯塚 どのルートで行っても「井口がすごい」にたどり着くっていう芸なんですよ(笑)。

野田 ダラダラしゃべってたけど、結局令和ロマンが1位ってことでいいの?

井口 令和ロマンが1位です。順番関係なくいいネタを2本きっちり揃えた令和ロマンが優勝にふさわしかったと思います。

飯塚 あんなに「くるまが!」って噛みついてるのに、そこはちゃんと認めるんだ(笑)。

努力家でモラルのある真空ジェシカ

井口 真空ジェシカの1本目も面白かったです。4年連続決勝に行っている中、今までで一番強いネタをここで出してきた。

野田 真空ジェシカってあんな感じなのに、商店街のネタをあれだけ仕上げて、本当に努力家。

飯塚 言葉遊び的な部分だったり、元ネタがあるボケが比較的多いイメージでしたけど、あの商店街の現場で起きていることの面白さにグッと寄せてきていましたよね。相当「M-1」に照準を合わせてきたんだろうし、だけど真空らしさは損なわずにやっているのが、まさに努力家だなと思いました。

野田 真空ジェシカじゃなかったら構成が変にきれいに見えてちょっとムカついてくるネタにも見えるんですけど、真空ジェシカがやると全然ムカつかないですよね。

飯塚 真空ジェシカが初めて決勝に行ったときの回を見返したら、ガクさんの感じが“戸惑いツッコミ“って感じでしたけど、今回は怯えている感じというか、演技の上手さが乗っかってて、ちょっとずつバージョンアップしているんだなと思いました。それと「NHKを、見る!」とかは、真空ジェシカの日頃の言動を知っている人からすると「NHK」って言った瞬間に「うわ、きっとやばいことを言うぞ」って身構えるから、より面白いんですよね。年間の活動によってフリが効いてる。

野田 ああいう目線って本当に正しい情報、正しいモラルを持った人じゃないとできないですからね。

飯塚 コンプライアンス芸人。

野田 コンプライアンス絶対守るから、スポンサーはどんどんついたほうがいい。

井口 問題を起こさなそうですよね。川北なんか一番真面目だから。

飯塚 僕は、一番笑ったのは真空ジェシカの2本目で。今まで見たことない感じがしました。バカすぎるというか(笑)。バカの方向性がマヂラブと近い気もしました。

野田 そうですね。ただ何が違うかって、マヂカルラブリーってネタに芸能人の名前を使わないんですよ。2人とも単純にあんまり芸能人を知らないから。知らんものでネタを作れないからファンタジーになってるっていう。

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読者の反応

ウエストランド井口 @westiguchi

年末のイベントの(使えるとこ)!!
読んでねー!!!
#今月のお笑い https://t.co/vzIYUHDMcB

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