ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 17本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚が語る「2023年9月のお笑い」

若い制作者が組みたい令和ロマン、改めて面白い太田・タカトシ・ブラマヨ、伝書鳩を見届けた夏、キングオブコント発表会見を見る会

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ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が、毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」2023年9月号は、取材日がちょうど「キングオブコント2023」ファイナリスト発表会見のプレミア公開日と同日だったことから、2人でその模様を見届けることに。感動のない人生を送っていることが発覚した井口も、かねてからの仲間であるジグザグジギーラブレターズの決勝進出には心から喜んでいる様子だった。そのほか、「NOBROCK TV」に出演した爆笑問題・太田の話術、すべてを捧げた「ランジャタイ国崎七変化」、25歳以下の大会「UNDER25」をはじめこの夏さまざまな賞レースで活躍したフリーの大学生トリオ・伝書鳩の話などが語られている。

構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる

※取材は9月27日に実施。

「M-1」ラストイヤー出るか出ないかの結論

井口 やっぱり「キングオブコント」の話からしますか?

──なんの話からでもいいですよ。

飯塚 まずあの話を回収しなきゃ。結局、ウエストランドは「M-1」出なかったんだね。

井口 そうですね。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

──エントリー締め切り数日前だった前回の取材の段階でも迷っていましたが。

井口 まあやっぱり、日頃そんなにライブ出てないしなっていうのもあるし、「M-1」関係の人も本当に出てほしくなさそうでしたし。「出ようか迷ってるらしいですね?」みたいな投げかけもなく、「じゃ、また決勝のトロフィー返還のところで!」みたいな感じだったんで(笑)。

飯塚 前年の「M-1」チャンピオンが出る「M-1」なんて、これ以上のアウェーないよね。

井口 ただ、お客さんの雰囲気がアウェーなのが嫌だっていうのはあまり気にしていなかったんですよ。別に常にアウェーですし。そこはあんまり関係なかったんですけど。

飯塚 ゆりやんレトリィバァさんが今年「THE W」にまた出場していて。本当にストイックだよね。井口くんと同じで、いいネタができたら賞レースにかけたいんだと思う。それを披露する場として、いつもの舞台だと物足りない、注目されるところでやりたいっていう気持ちが強いんだろうね。

井口 今後そう思う人も増えてくるんじゃないですか? ましてや若くして優勝して、まだまだ出られるってなったら。前回飯塚さんが言っていたように、できることなら一番注目度が高い場で披露したいじゃないですか。いいネタができたとして、年末のネタ番組にいくつか呼んでもらっても、どこでやるのがいいのかよくわかりませんし。だから、「M-1」は明記してほしいです。「優勝したらもう出られません」って。

──じゃあ出場しなかった理由は「いろいろ察して」ということですかね。

井口 まあ、そうですね。本当に迷いましたけど、一言「出ますか?」的なことを言われていたら違ったかもしれませんけど。でもこういう気持ちを味わえたのは優勝したからこそですよね。それもこれも、ネタをやり続けなきゃいけないからこんなことになっちゃうわけで。もっと自由にできるって聞いてたんですけどね?

編集部注:「タイタンライブ」などで事務所のボス・爆笑問題が舞台で新ネタをおろし続ける限り自分たちもネタやめられない、と井口は常々嘆いている。

若いテレビマンは令和ロマンと歩んでいきたい

飯塚 「バラバラ大作戦」(テレビ朝日)でママタルトひつじねいり令和ロマン春とヒコーキの4組のレギュラー番組「研修テレビ」が決まって、やっぱりウエストランドの番組は始まらなかった(参考記事:せいや×イワクラ、クロちゃん×ナダルの新番組「バラバラ大作戦」でスタート)。

井口 ここで言っていた通り、始まりませんでしたね。なんかわりと僕に近い後輩たちが起用されていますけど。

飯塚 あえて避けてオファーしてるのかな?っていうくらいの井口くん周りのメンバーだよね。

編集部注:ママタルトとひつじねいりはウエストランドが中心となって実施している新ネタライブ「漫才工房」のメンバー。春とヒコーキは事務所の後輩。令和ロマンはライブで一緒になったり、くるまがこの連載のゲストにも来てくれた。

井口 昔はあり得なかったじゃないですか。例えばジグザグジギー、三四郎、ラブレターズや僕らが、テレビには出ていないけどライブでは中心的な存在だったとしても、絶対そんな座組の番組が始まるわけがなかった。今やダウ90000や真空ジェシカ、ましてやこの4組なんて、お笑いファンがチョイスしたのかな?っていう。作っている人がめちゃくちゃお笑い好きなんですかね?

飯塚 そうだね。今、「令和ロマンと仕事したいです」っていうディレクターの相談をすごい受ける。少し前だとそれがニューヨークだったりしたけど。

井口 それって、令和ロマンと共に成功していきたいみたいなことなんですか?

飯塚 それもあるんじゃない? まだ誰のものでもない、と言ったら変だけど、なんとなく「このコンビはこのディレクターさんと一緒にやってるな」というイメージがあると思うんだけど、若いテレビマンにとっては令和ロマンとかはゼロから一緒に歩んでいける感じがあるんじゃないかな。

井口 錦鯉さんですら意外と冠番組が始まらないですからね。もうどうせ誰かのものになっちゃうだろうと思われるのか、優勝すると逆に始まりづらいのかもしれないですね。

飯塚 それで言うと、ニッポン放送の「お笑いラジオスターウィーク」にウエストランドが呼ばれてないね(参考記事:「お笑いラジオスターウィーク」今年も開催 令和ロマンからマシンガンズまで芸人尽くし)。

井口 それはおかしいですけどね!

飯塚 好評だったはずなのにね。

井口 (ニッポン放送ディレクターの)野上さんと飯塚さんがやってくださいよ。

飯塚 野上さんは「令和ロマンのオールナイトニッポンX(クロス)」をやってた。

井口 あいつ……。裏切ったな! 熱量持って言ってくれてたのに。

飯塚 でもあのときは、ウエストランドが「M-1」で優勝“しちゃった”からやった特番でもあったから。「本当にやりたい人で」となったらこうなってくるのかもね。

井口 まあまあ、そうなんでしょうね(笑)。

飯塚 「お笑いラジオスターウィーク」にはさや香も入ってたからね。これもウエストランドを避けているかのようなラインナップ(笑)。

井口 「バラバラ大作戦」のことは今後チェックしてめちゃくちゃ言っていくしかないですね。

焚き火で語るにふさわしい天才とは

井口 「焚き火で語る。」(テレビ朝日YouTube)に小宮さんが出てて。「天才だと思う芸人」の話で、僕やさらば青春の光・森田さんの名前も出してくれたんですけど、「2人は秀才寄り、天才はともしげかな」と話していたんですよ。コメント欄を見たら「ともしげなわけねえだろ!」みたいに書かれてました(笑)。ああいうのってだいたい、「プロから見たらそうなんだ!」「確かにそう思う」ってリアクションが多いじゃないですか。なのにめちゃくちゃ否定するコメントが付いていたのでびっくりしました。見ている人の中で答えがあるというか、「天才」と言ってほしい人とそうじゃない人がいるんでしょうけど。

飯塚 それは確かにあるかもね。でもちょっとずつ井口くんに近づいてきてるね、「焚き火」が。

井口 もうそこまで迫ってきてますよ。

飯塚 これでともしげさんが先に出ていたらショック?

井口 ともしげさん行かないでしょ、さすがに! お笑いは大好きだから語ることはあると思いますけど。ともしげさんが出たら「『焚き火』もういいよ」ってなるかもしれませんね(笑)。

編集部注:井口は「『焚き火で語る。』に呼ばれない。なぜならネタに定評がないから」とかねてより嘆いている。「2023年5月のお笑い」参照。

改めて、やっぱり面白い爆笑問題・太田

飯塚 NOBROCK TVに爆笑問題が出ていて。「スターだと思う人」ベスト3を発表していたんだけど。

井口 そうだそうだ。けっこうしゃべってましたね。

飯塚 本当に今さら言うことじゃないけど、太田さんって話面白いなあって思った(笑)。

井口 でも意外とあんまり言われてこなかったかもしれないですね。話術の部分。あの憑依してしゃべる感じ、モノマネしているわけじゃないけど本当にその人の人となりや情景が浮かぶし、唯一無二のトーク術な気はします。

飯塚 落語というかね。気持ちが入ってくるようなしゃべり方。ラジオを聴いてる人はもちろん知っていることだと思うけど、漫才の太田さんとはまた違うじゃん、まとまったエピソードトークをするのは。太田さんの話、ずっと聴けるなと思った。

井口 ああいう場がなかなかないですからね。言っても「太田上田」(中京テレビ)は上田さんと五分五分でしゃべるので。NOBROCK TVみたいに聞き手がいて、20分独白スタイルでっていうのはあんまりなかった。

飯塚 「THE FIRST TAKE」みたいに、しゃべり慣れた、代表的なトークを誰もちゃちゃ入れずに録音して聴かせるYouTubeがあってもいいなって思った。

井口 いいですね。笑けるだけじゃなくてもいいし。伝説的なエピソードでも。

飯塚 そうそう。いい話でもいいし。

永野の知識に裏付けされたカルチャー芸

飯塚 「週刊ダウ通信」(テレビ朝日)で、蓮見くんの「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」受賞記念として永野さんが蓮見くんの輝かしい半生を解説していく企画があって、“永野ショー”になってて面白かった。ただの腐しじゃないんだよね。音楽や映画に造詣が深いがゆえのカルチャー芸が足されていて。サザンオールスターズの逸話と今のダウ90000を重ねたりしているのが永野さんだけの芸だなと思った。

井口 まさに昨日「マルコポロリ!」(関西テレビ)で永野さんと一緒だったんですけど、みんな震えてましたよ。「今日永野さんと一緒か……」って。無敵状態になっちゃうと、もう何言っても効かないんで(笑)。

飯塚 永野さんって、イジるところがないからね。何を斬られてもいい人だから、永野さんが「やめてよ~」ってなることがない。

改めて、やっぱり面白いタカトシ&ブラマヨ

飯塚 「マルコポロリ」つながりなんだけど、福岡に移籍したダイノジの近況を聞く回で、タカアンドトシさんが2人ともすごい悪口言うんだよ(笑)。悪口でノッてて、それがすごい好きだった。タカトシさんってけっこう悪口芸が得意というか、合っているんだよね。かつてはポップな笑いの象徴みたいな感じもあったけど、ちっちゃいところをつつくのが好きなんだろうなーと思った。

井口 タカトシさんってそういうのが好きな感じですもんね(笑)。本来いい人キャラではないというか。

飯塚 あと、陣内智則さんの芸歴30周年の回にブラックマヨネーズさんが来てて(参考記事:「マルコポロリ!」で陣内智則30周年SP、親交深いブラマヨら駆けつける)。今さら言うことじゃないけど、ブラマヨさんめっちゃ面白いなと思った(笑)。

──太田さんに続いて。

飯塚 誰かをやり玉に上げるときにこそタカトシさん、ブラマヨさんが本領発揮してるなと思いましたね。「マルコポロリ」は、みんながほっとけないイジられ役を真ん中に置いて、横に豪華なキャストを呼ぶっていうのが作戦化されてる気がする。

松本人志にすべてを捧げる国崎の儀式

飯塚 「ガキの使い」(日本テレビ)の「ランジャタイ国崎七変化」を見たんだけど、なんかすごい……儀式みたいだった。ダウンタウン松本人志っていう笑いの神に貯金も捧げ、髪の毛を捧げ、持っているものすべてを捧げてこの一瞬に懸けている感じが、国崎さんっぽくもあってすごかった。

井口 「ここだ!」ってときに全振りするパワーがすごいですよ。

飯塚 貯金を全額使うっていうボケは前からやりたかったみたいだね。いろんな番組で提案しても「それはさすがにやめましょう」って言われていたのが、「ガキの使い」でやりましょうとなって、やろうとしたらクレジットカードが切れなくて失敗して(笑)。ランジャタイも今や自分の番組を持って、回したりもする中、テレビで自分の個性を爆発させられる機会が減ってきていた部分もあると思うんだよ。

井口 本来そういうことがしたい人ですもんね。

飯塚 去年の「お笑いの日2022」ではダイアン津田さんとのコラボが話題になったけど、要所要所で大きい笑いを決めてる。

井口 ここに来てランジャタイのギアが一つ上がってる感はありますね。「ガキの使い」の「コロッケものまね」とか。ここ最近は自分の番組に地下芸人や後輩芸人を呼んで、紹介もするような立場ですけど、本来はああいうところでめちゃくちゃやるっていうのが強みだし、本当にやりたいことでしょうし。

飯塚 もし「ウエストランド井口七変化」が来たら、嫌でしょ?

井口 本当に嫌ですね。

飯塚 井口くんはまったくそういう感じでやってきてないもんね。三四郎とかウエストランドって生きざま芸人だから、ランジャタイみたいなファンタジー芸人とは流派が違う。ああいう、出オチ、3次元の大喜利を求められたりすると大変そう。

井口 だから、あんまりそういうフィールドに行きたくないです。もちろん呼ばれたら全力でやりますけど。断らずに全部やるっていうのは決めてるので。逆にそういう能力が長けてる人が強い場所はありますよね。

もうやめよう「大学生“なのに”面白い」

飯塚 「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」という25歳以下の賞レースがあって。最近いろんなところで言ってるんだけど、「若いのに面白い」「大学生なのに面白い」は、そろそろやめませんか?っていう。ハードルを下げる必要ないくらい、普通にみんな面白いから。

井口 そりゃそうですよ。大学1年生で始めてたら4年生で4年目。4年目って言ったら僕らが認定漫才師とか「いいとも!」レギュラーですからね。

──優勝したえびしゃはプロ1年目です。

飯塚 大学お笑いをやってからワタナベエンターテインメントの養成所に行って、リセットされて今1年目。

井口 いやいやいや、リセットなんてないですよ!

飯塚 「UNDER25」の決勝に、大学生の伝書鳩っていうトリオが残っていたんだけど、自分の中で“伝書鳩と過ごした夏”っていう気持ちがあって。と言っても、本人としゃべったこともないんですけど。

──どんな夏だったんですか?

飯塚 おかげさまでいろんな賞レースに審査員やスタッフとして呼んでもらっていて、まず5年目以内の大会「UNDER5 AWARD」の準決勝で伝書鳩を見て、通らなかったけど面白いなと思っていたんですよ。そのあと大学生の大会「大学芸会」で優勝したのを見届け、その次が「UNDER25」。「キングオブコント」の準決勝でも見ているから、「今日は出来があんまりだったかな、今日はウケてたな」って伝書鳩が少しずつ進化していくさまを見続けた、僕の夏(笑)。

井口 すごいですね。それだけ賞レースがギュッとあるのも大変ですけど、その全部でいいところまで行っている。

飯塚 そうそう。今大学生だから、来年から1年目になるのかなと思うんだけど。

井口 事務所には入ってないんですか?

飯塚 入ってない。今スカウトされまくってるんじゃないかな? あと「UNDER25」で初めて見た芸人で「兄弟」という漫才コンビがいて。本当の兄弟で、見たことないネタの設定で面白かったんだけど、2人ともシュッとしてるんだよ。それが逆に邪魔になってるんじゃないかなっていうくらい。

井口 ああー。冴えないことを好むからなあ、ラジオ好きの人は。

飯塚 まあ、とにかくみんな面白かったから、学生芸人はもう「大学生だから」って言うの禁止。あと、「ラヴィット!」(TBS)も「朝の番組なのに」は禁止。ハードル下げるのはもうそろそろやめてもいいんじゃないかなと思った、という話でした。

新連載「心をなくした井口が楽しめるエンタメはあるのか」

飯塚 ドラマ「VIVANT」(TBS)が流行って、レイザーラモンRGさんがいち早く(ドラマの登場人物の)チンギスのモノマネでテレビに出ていて。最近どでかエンタメヒット作があんまりなかったから、「VIVANT」特需みたいな現象が起こってた。

井口 考察もすごかったですよね。

飯塚 XXCLUB大島くんの考察動画もめちゃくちゃ再生されてた。いろんな考察動画を見てたんだけど、「こういう考察もあるけど、僕はそれは違うと思う」って考察動画の人同士でやり合ってるんだよ。本当のことは誰も知らないのに。

井口 しかも考察動画の情報源がほかの人の考察動画だったりしますよね。

飯塚 ナイツ塙さんはラジオで「VIVANT」の話をしすぎて、タイマー付けられてた。これ以上は禁止って。

──井口さんは世の中的に盛り上がっている作品にハマったりすることはあるんですか? そういう話しているところを見たことがない気がしますけど。

飯塚 確かに、井口くんからドラマや映画を観て感動したって話、聞いたことない。夢中になったりすることはないの?

井口 話題作は一応観てはいますよ。ただ映画って、意外とみんな気づいてないと思うんですけど、粗ばっかりなんですよね。

──ん?

井口 めちゃくちゃ粗しか見えなくて。僕は全然感動しなかったですよ、あの某ヒット映画とか。

──え! めっちゃ感動しましたよ。

井口 だって急に……(見つけた粗を2分ほど挙げていく)。この作品に限らずですけど、話が成立してない部分があるのをなんでみんなが許しているのか全然わかんないんですよね。本当に面白いって思ったんですか?

──面白かったですよ。だってまず監督が……。

井口 だから、そういうのじゃないですか。“側”の話。内容のことを言ってくれないと!

──確かに。あれ? じゃあ私は映画の内容を観てなかったのか……?

井口 映画ってみんな実はちゃんと観てないんですよ。僕以外の人は。観てたら絶対変なところに気づくはずですもん。それに気づかないってことはもう観てないってことですから。

──でも、ちょっと変なところがあっても一旦スルーするじゃないですか。物語は進んじゃうので。

井口 あとで解決するんだろうなと思って見逃しても、結局最後まで解決せずに終わるじゃないですか。「まあこれでいっか」ってなる精神がわからない。けっこう墓参りも行かないですしね、だいたいの映画。けっこうお世話になった人が死んだのに。

──何の映画のことを言ってるかはわかりませんけど、描かれてないところで行ってるんですって。

井口 描かないと!

──じゃあ、井口さんの好きな映画はなんですか?

井口 「ルパン三世 カリオストロの城」ですね。

──それは矛盾がなかった?

井口 ルパンだから、まあいいじゃないですか。もし変なところあっても。で、別に変なところもないし。

飯塚 あれは観てないの?「君たちはどう生きるか」。

井口 観てないです。ジブリで言うと、「天空の城ラピュタ」は好きなんですけど、「千と千尋の神隠し」から粗がどうとかじゃなくてさっぱりわからなくて。

──意味がわからない作品があるのはわかります。でも、そしたら世間が絶賛しているものに共感できないことが多いってことですよね。

井口 そういうことだと思います。みんなが絶賛しているあの空気も苦手なんですよ。エンタメに限らずなんですけど、国民がわーっとなっているのが怖いというか。

飯塚 なんて言うか……つらい人生だね。生きにくそう(笑)。人はみんな感動したいから、感動するポイントを探しながら見てる部分もあるんじゃない?

井口 そうですね。だから、つまんない人生なんですよ(笑)。

飯塚 逆佐久間さんだ(笑)。

──非エンタメ大好きおじさん。エンタメ作品で感動したことはないんですか?

飯塚 「カリオストロの城」以降で。

井口 ドラマの「未成年」は好きでしたよ。

飯塚 時が止まってるよ!(笑)

──1995年放送の作品です。

井口 難しいんだと思います、最近の話は。ケータイとかも出てきちゃったりして。LINE見れば済むみたいなことがけっこう起きるわけじゃないですか。

飯塚 よくそれでやってきてるね。

井口 まったく観ない、聴かないってことはないんですけど、基本的によく思わないから感想を話せないっていう。

飯塚 映画ナタリーで連載できそうだけどね。「心をなくした井口が楽しめるエンタメはあるのか」。

井口 怖いですよ。それを言っちゃダメなことくらいは僕もわかりますから。

飯塚 でも企画になると思う。「チャンスの時間」(ABEMA)のスタッフさんに言ってみようかな? こんなに何も面白くない人ってあんまりいないから。

井口 面白くないっていうか、成立してないところがあるのが気になるってだけですから。で、それを言えない空気が怖い。

飯塚 共感してくれる人もいると思う。SNSで、すべてのことに悪口書いてる人っているじゃん。

井口 ああ、いますね。

飯塚 それだよ。

井口 違いますよ!(笑) いいのがあれば僕だって「よかった」って言いますよ。ないんですもん!

飯塚 感動してほしいなあ。

井口 みんなが褒めてるものに限って、変なことが多いんですよね。というか、褒められてるって先入観があるから余計に細かく観ちゃってるのかもしれないですけど。

飯塚 やっぱり変な人だ(笑)。

編集部注:ちなみに映画ナタリーではミルクボーイ駒場の連載「映画超初心者・ミルクボーイ駒場孝の手探りコラム『えっ、この映画ってそんなこと言うてた?』」がスタート。映画「スタンド・バイ・ミー」に「なんか起これよ」と思ったそうなので、なんだか井口と話が合いそうな気も。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

閉鎖空間を動かしていたチャンス大城

──今の話すごくよかったです。ではほかに「今月のお笑い」ありますか?

飯塚 以前、みなみかわさんが単独ライブの前日まで「水曜日のダウンタウン」(TBS)の過酷なロケに押さえられていた話をしていたと思うんですけど、先日ついにその「金網デスマッチ」の模様が放送されて。

井口 すごいですよね。不眠で100万円を奪い合って金網登って、そのあと単独。

飯塚 僕はそのみなみかわさんの単独をお手伝いしていて。「単独の直前にロケ入ってるんですよ」って話は聞いてて、「大変っすね」みたいなことを言っていたんですよ。「水曜日のダウンタウン」にも作家として参加していますけど、どのロケをいつやってるかは知らないから、今考えるとすごい雑な返しをしてしまったなと。すごい大変だったと思うけど、マネージャーさん的には、単独前でもこの仕事は受けなきゃっていう判断だったんだろうね。

井口 「水曜日」のよさそうな企画となったら大変な状況でも引き受けたいですよね。

飯塚 チャンス大城さんが暗闇でうどんを強奪するシーン、なんか感動すらした(笑)。マンガみたいなことを起こせる人だよね。

井口 チャンスさんってマンガのキャラみたいですもんね。

飯塚 でもちゃんと見てると、要所要所できっかけを作っているのってチャンスさんなんだよ。閉鎖空間を動かしていたのは実はチャンスさんで、その存在感がすごかった。

井口 マンガキャラっぽい部分もありつつ、バランス感覚も持ってるっていう。

飯塚 そうそう。存在感とかも含めて、ムードメーカーだなと思った。で、みなみかわさんは満身創痍で単独やってた(参考記事:みなみかわ単独ライブ「ドクン」熱量高いラストネタに喝采、妻のエンドクレジットにも拍手)。

井口の謎、深まるばかり

井口 Netflix「トークサバイバー!」の出演者が発表されましたけど、意外とこういう系に僕がめっちゃ出てるっていうの、あんまり言われてませんよね。DMM TVの「大脱出」「横道ドラゴン」、FANYチャンネルの「Diego~ディエゴ~」。

──主要な配信お笑い番組全部に出てますね。

飯塚 実は井口くんって千鳥チルドレンだよね。

井口 「チャンスの時間」も初期から最近の回まで、一番長いこと出てますからね。同郷でもありますし。ただ、チルドレン感はないんですよ。

飯塚 よく大悟さんの飲み会にきしたかの高野さんが呼ばれたりしてるけど、そういうのに呼ばれたりはしないの?

井口 ないですね。何回かは飲んだことはありますけど、レギュラーメンバー的な感じではないです。

飯塚 そっか。がっつりお世話になった先輩っていない?

井口 そうですね。誰にもお世話になってないというか(笑)。もちろんお世話にはなってますけど、若手の頃からずっとかわいがってくれているみたいな人はいないです。

飯塚 孤独な生き物だね。

井口 マジでそうですよ。

飯塚 映画もつまんない、先輩もいない。すごい人間だよ。

井口 何が楽しくて生きてるかいよいよわかんないですよ(笑)。独身だし。

飯塚 でも見返してやろうとかでもないんでしょ? 学生時代の鬱憤を、みたいな。

井口 そういう感じではないですね。いじめられてはないですから。

──むしろ「ツッコミ井口」として人気者でしたよね。

飯塚 だから、原動力が謎だよね。

井口 お金が好きとかでもないし。

──確かに。ちょっと怖くなってきましたね。

飯塚 怖いですよね。

井口 なんかもうバケモンみたいになってきた……(笑)。お笑いやってるときくらいしか楽しみがないですからね。趣味もないですし。

飯塚 井口くんが一番わかんないなって昔から思ってるんですよ。太くんのほうがわかる。ダメなところも含めて人間らしいから。井口くんは何をしても不思議じゃないというか。謎だから、何か意外な事件を起こしたとしても「そんなことする人だとは思わなかった」ともならないと思う。「そんなこともするかー」ってなりそう(笑)。

「キングオブコント」ファイナリスト発表を見る

──さて! 「キングオブコント」の決勝進出者が発表になりますので、その様子をYouTubeで見届けましょう。

「キングオブコント2023」決勝進出者発表会見を観る井口と飯塚。

編集部注:2人はこの会見動画で初めて結果を知ったわけではないのであしからず。

井口 いやー。決まりましたね。準決勝を観た人の反応をSNSで見ていた限りでは、ウケた人がちゃんと受かったっていう感じですか?

飯塚 準決勝2日間観たけど、好みはあるにせよ「なんでここが?」みたいな組はいないと思う。

井口 この連載でも応援してたラブレターズとジグザグジギーが本当に行きましたね。「つぶぞろい」仲間の。

編集部注:飯塚が2011年から自主開催していたお笑いライブ。三四郎、ウエストランド、ラブレターズ、ジグザグジギーらが出演していた。今年1月に10年ぶりとなる「つぶぞろい2023」がニッポン放送主催で開催された。

飯塚 ニッポン放送の石井さんから「つぶぞろいまたやりましょう!」って連絡来てた。

井口 前回はジグザグジギーが宮澤さんのプロレス観戦で出られないっていうまさかの出来事があったので、次こそ集合しましょうよ。これでラブレターズとジグザグジギーが最終決戦に残ったら「つぶぞろい」がもっと脚光浴びるんじゃないですか? 残っている人は全員賞レースで結果出しているっていう。

飯塚 ぽ~くちょっぷがいる。

井口 ぽ~くちょっぷだけですよ、なんにもならず、やめもしないの(笑)。

──ジグザグジギーもラブレターズも7年ぶりの決勝進出です。お笑いは特に時代性が重要なジャンルですし、7年ってひと時代違うと思うんですが、そんな中、今の若手に混じって勝負できるってすごいことなのではと。

井口 僕の持論ですけど、誰からも応援されなくなってからが本番というか。もちろん今も応援してくれている人はいると思いますけど、僕らももう何もないってところから優勝できたので。しかも2組とも出世が早かったじゃないですか。「オンバト」チャンピオンやら「オールナイトニッポン0」レギュラーだった人が、第7世代ブームも経て、もう1回決勝に行っているのを見ると、続けるもんだなーと思いますね。小宮さんとかともしげさん含め、昔は上の人たちを睨みつけて「絶対この世代が面白い」って根拠もなく言い張ってましたけど、本当にそうなってきた。モグライダーが「M-1」決勝に行ったり、三四郎が「THE SECOND」でいいところまで行ったり。

飯塚 ウエストランドがそのきっかけの1つにはなってると思うけどね。

井口 そうだったらうれしいですね。

飯塚 去年の「キングオブコント」準決勝にもラブレターズは出てたんだけど、なんとなく、若干アウェーな空気があったと思うんだよ。やっぱりお笑いファンは新しいスターが見たいから、「もういいよ」みたいな雰囲気をちょっと感じたんだけど、今年はラブレターズがウエストランド絡みで「ゴッドタン」(テレビ東京)や「チャンスの時間」に出たり「ラヴィット!」の「耳心地いい-1グランプリ」で結果を残したりして、「ラブレターズ面白い」って再評価されている流れがあったから、会場が温かかった気がする。改めてネタ以外の活動も大事だなと思った。

井口 本当にそうなんですよ。1年かけての戦いでもありますから。自信とか、知名度を付ける。あと、僕らが優勝できたことで「優勝できるんだ」と思ってくれてたらいいですよね。「行けるんだ」って思うことで行けたりしますから。

──「ないことではない」と。

井口 ジグザグジギーの1本目のネタは、準々決勝の10日くらい前にヤーレンズとのツーマンライブで作ったらしいんですよ。なんとなくですけど、僕らが優勝する前だったら「過去ネタでいいか」となってたような気もする。「ないことじゃないんだ」っていう意識があったから1個クッとなったとは思うんですよね。

飯塚 会場でラブレターズのネタを見てて、1日目ウケて、2日目もウケて、なんか後半泣けてきた。「絶対これ決勝行ったわ」と思って。

「キングオブコント2023」ファイナリストとなったジグザグジギーとラブレターズ。(写真提供:ラブレターズ溜口)

「キングオブコント2023」ファイナリストとなったジグザグジギーとラブレターズ。(写真提供:ラブレターズ溜口)

井口 ラブレターズは観に行った人の反応でも行ったんじゃないかなって感じでしたね。シティホテル3号室は五分五分かなーなんて思ったり。

飯塚 シティホテルもすごいウケてた。今後、実力派なんだっていうのが認識されるともっとウケるんだろうなと思う。

井口 今回準決行って、知れ渡ったでしょうからね。

飯塚 かが屋もめちゃくちゃ面白かった。本当に身一つで、2人の掛け合いで笑いを取っているのがコント師だなあという感じで。ファイヤーサンダーはネタを作りまくっていたから、報われてよかった。

井口 ネタだけやりたいって奴らですからね。本当に変な奴らなんで。

飯塚 準決勝のインタビュー動画がYouTubeに上がってて、大体コンビで決まりの掛け合いをやっているんだけど、ファイヤーサンダーだけ本当になんか、変な感じだった(笑)。

井口 会見でもとんでもなく変な感じになってたって聞きました。ジグザグジギーの池田さんは、こういうのはもう決め決めで行かないとダメだと思って、決めまくってたらしいんですよ。

飯塚 そうだった。2人でボケるみたいな。

井口 「M-1」の会見もそうですけど、みんな浮かれていて地に足ついてないし、めちゃくちゃじゃないですか(笑)。

飯塚 確かに、司会の南海キャンディーズ山里さんがいなかったらやばい記者会見になってたと思う(笑)。どうでもいいことなんだけど、結果発表を会場のうしろで見ていたんだけど、ジグザグジギーが呼ばれて立ったときに手をつないでいて。

井口 聞きました。気がついたら手をつないでいたらしいです。恋人つなぎ。

──(映像で確認して)手を取り合ったあと、長らく下でつないでますね。

井口 行っただろうと思ってるのになかなか呼ばれないと、不安で変なことになってくるんでしょうね。池田さんに聞いたら、この感じだともう呼ばれないと思ったのか宮澤さんが隣で「ああ、そういうことか……」って言ったらしくて。で、呼ばれて気がついたら、手を握ってたそうです(笑)。

飯塚 この世代が優勝したら、また面白くなるね。

井口 どうなるかなあ。ちょっとこれはわくわくする「キングオブコント」になったなあ。

飯塚 どの映画にも感動しない男がわくわくしてる(笑)。

井口 リアルですからね、こっちは。

飯塚 リアルしか受け付けないんだね。

井口 映画って作り物なんでね(笑)。

お知らせ

今年も「ライブ!!今月のお笑い」をやります! 12月26日(火)夜を空けておいてください! 詳細は後日お笑いナタリーでアナウンスします。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

プロフィール

井口浩之(イグチヒロユキ)

1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年、2013年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。タイタン所属。

飯塚大悟(イイヅカダイゴ)

1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヤギと大悟」(テレビ東京)、「トークィーンズ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。

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