「安村、雪山を登る」キービジュアル ©テレビ東京

ヤバい番組の制作秘話~誰がどうやって企画した!?~

とにかく明るい安村がパンイチで雪山へ「安村、雪山を登る」東大首席テレ東2年目・古橋Dに聞いた

観てくれた人に何かしらの後味を残したい

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ユニークなテレビ番組を企画・演出している裏方を取材する「ヤバい番組の制作秘話~誰がどうやって企画した!?~」。第1回では正月の深夜にSNSをざわつかせた「安村、雪山を登る」(テレビ東京)の古橋慧士ディレクターに話を聞いた。

取材 / 狩野有理

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「安村、雪山を登る」とは

2026年1月3日(土)に放送された「安村、雪山を登る」は、裸一貫で世界を股にかけて活躍するとにかく明るい安村を、パンツ(水着)一丁の衣装のまま山麓に放置。「お金を使ってはいけない」というルールのもと、街の人から服や登山道具などを譲ってもらい、真冬の雪山登頂を目指す“ガチ登山ドキュメント”だ。番組放送に際し、安村は「2025年一番きついヤバい仕事でした! それだけに素晴らしいものになっていると思います!」とコメント。出会った人たちの温かさや、その人たちのためにがんばりたいと奮起する安村の姿がドキュメントで届けられた。放送後、SNSには安村を心配する声や「雪山を舐めるな」と企画自体を疑問視する意見もあれば、「めちゃくちゃなことやってる」「安村の人生哲学を垣間見た」「なぜか感動した」といった肯定的な感想も。放送直後にTVer配信が開始されず、視聴者をソワソワさせたことも話題性を加速させた。

東大お笑いサークルからテレ東へ、古橋Dはどんな人?

──まず、古橋さんの経歴を聞かせてください。番組内で言われていたように「東大首席の2年目ディレクター」なんですよね。

※取材は2026年1月下旬に実施。

今24歳で、大学新卒でテレビ東京に入社しました。次の春で3年目になります。東京大学文学部出身で、大学時代はお笑いサークルに所属していました。お笑いは好きだったんですが、やってみたら人前に立つのがけっこう恥ずかしいということがわかってしまい(笑)。それでも何かしら面白いものを作ることには携わりたいと思い、就活ではテレビ局を受けました。

今回取材に応じてくれた、古橋慧士ディレクター

今回取材に応じてくれた、古橋慧士ディレクター [高画質で見る]

──お笑い好きになったきっかけは?

何か決定的なきっかけがあったわけではないのですが、子供の頃は親が「アメトーーク!」(テレビ朝日)などのバラエティ番組をよく観ていて、それでお笑いや楽しいものが好きになったんだと思います。中高は全寮制の学校に通っていて、本当に厳しくてスマホも禁止でした。パソコンは勉強のために使えるだけでYouTubeは見られないようになっていました。1つの寮に中1から高2までが全員住んでいて、テレビはそこに1台しかなかったんです。だから先輩が「月曜から夜更かし」(日本テレビ)や「水曜日のダウンタウン」(TBS)を観ているのを後ろから覗くような形で観ていました。そんな感じだったので、コアな番組をたくさん観てきた、とかではないんですが、自分はお笑い好きだと思っていて。その勢いでお笑いサークルに入ったら、みんなめっちゃお笑い好きだったんですよ(笑)。僕の比じゃないくらいお笑いが好きでびっくりしました。

──影響を受けた番組を挙げるとしたら?

お笑いとは別の軸ですが、「クレイジージャーニー」(TBS)で丸山ゴンザレスさんがギャングのところへ取材に行くとか、ああいう“ガチ”なものは好きでした。「人が本気でやっている」というものがすごくいいなと思っていて。あと、記憶に残ってるのは「リンカーン」(TBS)の「世界ウルリン滞在記」という企画で、中川家の剛さんが練マザファッカーというラッパー集団のところに修行に行く回。1週間ラップの稽古して、最後にライブがあるんですけど、剛さんは「お前まだまだだからステージには上げられない」と言われてしまう。でも、いざ始まったら「上がって来いよ」ってステージに上がらせてもらって、貧乏な家庭で育ったこととか、2分くらい本気でラップするんです。それがすごくよくて。そういう、「この人の本気が見えたな」と思えるような瞬間に昔から魅力を感じていた気がします。

「パンツのままで登れないんですかね?」安村の前向きな反応

──さて、本題に入りますが、「とにかく明るい安村さんが雪山を登る」という番組を企画した経緯を教えてください。

もともと安村さんのことが好きでよくテレビで拝見していて、安村さんをキャスティングできたとして何をしてもらいたいか考えたときに、何かに本気でチャレンジしてもらいたいと思い、「パンイチで雪山」というアイデアが浮かびました。安村さんだったら大変な企画にも真摯に取り組んでくれるイメージがありましたし、過酷な中で安村さんの本質の部分にも触れられたらいいなと考えていました。最近はちょっとメタな感じのものや、今あるものを逆手に取ったスタイルの番組が話題になる傾向にあると思うんですが、2年目の僕がそれをやるにはまだ早いと思っていて。枠からはみ出さずにインパクトを出すために、チャレンジものがいいんじゃないかなと考えました。

パンイチで雪山をさまようとにかく明るい安村 ©テレビ東京

パンイチで雪山をさまようとにかく明るい安村 ©テレビ東京 [高画質で見る]

──では安村さんありきの企画だったわけですね。

そうですね。企画書の段階から安村さんのお名前にしていましたし、安村さんが受けてくれなかったら上司にもGOをもらえなかったと思います。

──安村さんに企画内容を伝えたときはどういう反応をされていましたか?

驚きよりは、「下半身パンツのままで登れないんですかね?」みたいに、最初からすごく前向きに考えてくれていました。ザ・芸人という感じでしたね。「そんなのやりたくないよ」という反応をされてもおかしくない企画だと思うんですが、“オイシイ企画”をやれるというふうに捉えてくださったみたいで、僕もすごくうれしかったです。

──どんなビジョンを持って番組作りに取り組みましたか?

この番組に限らず僕の中で目指しているところなのですが、観終わったときに「なんとなく面白かった」という印象が残るよりも何かしらの後味が残るようなものにしたいと思っていました。「いいもの観た」でも、「なんだったんだこれは?」でも、「明日からがんばろう」でもなんでも。しかも今回は75分番組で、それだけの時間を視聴者の方からいただくからには何か心が動くようなものを残したいと思いました。

──初めて企画・演出を担当したのがこの番組なんですよね。苦労されたことは?

そうです。プロデューサーは別の方が担当してくださって、僕は演出に集中させてもらったんですが、すべてが大変でした。基本的にはADをやったり、本当に短いVTRを繋いだりしかやってきていなかったので、街に出て3日間もロケすること自体が初めてで。出会ったみなさんが思っていた以上に優しくて感動しました。東京でロケをすると、声をかけても誰も振り返ってくれないということはよくあるんですけど、今回は「じゃあ家来なよ」「泊まっていきなよ」と言ってくれるような方がいることにいい意味で驚きましたね。大変だったのは、撮った素材を3日間分全部見て編集すること。編集しながら「ここはこうすればよかった」とか反省も湧いてきますし……。編集さんにもすごく苦労をかけたと思います。ただ、大前提として、若手のこんな無謀な企画を成り立たせてくださった安村さんへの感謝が強いです。

準備をしすぎずリアルさを追求

──撮影自体はいつ行いましたか?

12月中旬です。今回登った北横岳は11月だと雪が積もらない山らしく、実は撮影日の2、3日前まで全然雪がなかったんですよ。安村さんもお忙しいので確保できるスケジュールがなく、放送日は1月3日と決まっていたので雪の心配はありました。

──準備にあたって大変だったことは?

雪山に登るにはもちろん装備が必要なので、服集めからやってもらうことにしましたが、当然、雪山登山は甘くはなく。もちろん普通のスニーカーではなく登山靴が必要ですし、アイゼン(雪や氷の上を歩く際に滑らないよう、登山靴に装着する金属製の爪が付いた道具)も必須。ただ、それを安村さん自身の力で町の人たちから借りるというルールなので、事前に登山用品のお店をセッティングしておくこともできない。何回かロケハンに行って僕の中では「こういうルートでこの場所にたどり着いてくれたらいいな」とは思い描いてはいましたが、そこまで段取りをつけてしまうとリアル感がなくなってしまいますよね。なので、どちらかというと準備をしないように我慢することを意識しました。

ダンボールをもらい、風を凌ぐことができたとにかく明るい安村 ©テレビ東京

ダンボールをもらい、風を凌ぐことができたとにかく明るい安村 ©テレビ東京 [高画質で見る]

──ぶっつけ本番だったわけですね。

実際に町の人から聞いた情報を頼りにロケを進めると、始まって30分ぐらいで想定のルートから外れちゃって。僕は逆にそうなってくれてよかったと思いましたし、事前に準備していたよりもいいものになった手応えはありました。

──でもハラハラはしたんじゃないですか?

そうですね。内心「そっち行くのかよ!?」と思う場面もありました(笑)。スタッフの事前リサーチでは出てこなかったスポットに行くことになって、「変なこと起きないでくれよ」と思ったりもしましたが、それによって安村さんの表情や言葉にもちゃんとリアルさが現れたと思います。

──リアルさで言えば、登山しながら安村さんの本音に迫ろうとしていましたね。

山登りを通じて安村さんの内面を引き出したいと思っていて、安村さんのパーソナルな部分や、どういうモチベーションでこの仕事をやってくれているのか、といったことを聞きました。普段はあまり深い話をしたがる方ではないと思うんですが、3日間一緒にロケをして、キツい状況になったら何か本音を出してくれるんじゃないかなと。山に登るだけのロケのはずだから、安村さんには「なんでこんなにしつこく聞いてくるんだ」と思われたかもしれませんが……。この3日間でどれだけ本音を引き出せるかが勝負どころだと考えていたので、しつこく聞いた分、いいものを引き出せたんじゃないかなと思っています。

放送を観てもらって完結する

──1月3日の23時半スタートという、お正月のすごくいい枠で放送されました。

これは本当にたまたま割り当ててもらうことができました。上司も「この番組はお正月にやるから余計にバカバカしさが出ていい」と言ってくれて。これが1月後半の土曜の昼間の放送だったらまた違う印象になったと思います。

──テレ東のみなさんも期待していた?

いやー、こんな2年目の若造がいきなり正月の75分番組をやるってことで、みなさん「大丈夫か?」と思っていたんじゃないでしょうか。実際、大丈夫だったかもわからないんですけど(笑)。

──私は実家のこたつに入りながら観たんですよ。時間になってチャンネルを合わせたわけではなくて、テレビをぼーっと観ていたらこの番組が流れてきて、「変な番組始まったぞ?」と思いました。

確かに、異質感みたいなものはこの枠だからこそ出ていてよかったですよね。

──放送後、視聴者からはさまざまなリアクションがありました。おっしゃっていた“後味”が残った証拠なのではないでしょうか。

いろんなご意見をいただき、反省する部分は真摯に受け止めて、結果的には何かしら伝わったのかなと思います。「心に残った」という声もありましたし、先輩から「面白かったよ」とか「古橋のやりたいことが見えた」というふうに言ってもらえたのはうれしかったです。自分の中では、手応えや達成感みたいなものって番組ができ上がった時点で感じるものだと思っていたんですが、そうじゃなくて、放送を観てもらって反応があって、それに対する自分の感想も含めて完結するものなんだっていうことがわかりました。ただ、僕が企画・演出した番組ではあるものの、ルートなど含めすべてを緻密に計算したわけではない部分が多い企画ですし、本当に安村さんに成り立たせてもらったなと感じています。

シリーズ化はあるのか?

──あと、これは不測の事態かもしれませんが、TVer配信が遅れるなど内容以外の要素も相まって話題になりましたよね。

社内事情的な部分なので詳しくはお話しできませんが、もちろん狙ったことではないです(笑)。

──安村さんと3日間過ごして、さらにお好きになったんじゃないでしょうか。

それは本当に。正直、こんな2年目のなんの実績もない若手が意味わかんない企画を出してきて、二つ返事で「いいよ」と言ってくださったことも驚きでした。一応、演出として前向きにやっていただきたいとはお話しさせていただいていたんですが、嫌なことひとつ言わずに取り組んでくれたのは、番組の中でもおっしゃっていた「受けた仕事はしっかりがんばる」という方なんだなと強く感じました。

──シリーズ化したいなど今後の展望はありますか?

かなりあります。「マグロを釣る」とか「ジャングルで虫捕まえる」とか、雪山以外でもパンイチから何かに挑戦する企画ができればいいなと思っています。

──パンイチということは、安村さんは変わらず。

僕はそうしたいですが、ご本人が「もうこりごりだよ」と思ってるかもしれないので、そればっかりは聞いてみないとわかりませんね。

とにかく明るい安村が雪山にポツン ©テレビ東京

とにかく明るい安村が雪山にポツン ©テレビ東京 [高画質で見る]

※「安村、雪山を登る」はU-NEXTで配信中。

プロフィール

古橋慧士

テレビ東京制作局所属。2026年4月で入社3年目。現在の担当番組は「ありえへん∞世界」「TXQ FICTION」など。

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読者の反応

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ばね。a.k.a.酩酊暴君 @atama_necktie

番組見ていた時を思い出しつつ、記事を読ませて頂きました。
なかなか尖った番組だなと感じつつも、バラエティとドキュメンタリーの真ん中を貫いていて、ただただすげえって茶の間でなっていた気がします。
実際に登山を成功させてしまう所まで含め、面白い人たちが集って作った番組だと感じてました。 https://t.co/7XCRI3m5MJ

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